長周期地震動とは?高層ビルへの影響と備えを防災士が解説

長周期地震動とは?高層ビルへの影響と備えを防災士が解説
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
「テレビでは震度3とか4なのに、高層階にいたらすごく長く揺れた」「ゆらーっ、ゆらーっと、船に乗っているみたいな揺れだった」——そんな経験をしたことはありませんか。それはおそらく、長周期地震動と呼ばれる揺れです。
長周期地震動とは、規模の大きな地震が発生したときに生じる、周期(揺れが1往復する時間)の長いゆっくりとした大きな揺れのことです。震源から数百km離れた場所でも、高層ビルを長時間大きく揺らすことがあります。
この記事では、長周期地震動の仕組みや「長周期地震動階級」という指標の意味、東日本大震災での実例、高層ビル・タワーマンションへの影響、そして今日からできる備えまでを、防災士の視点でまとめて解説します。
この記事でわかること
・長周期地震動の仕組みと、震度との違い
・長周期地震動階級(1〜4)が示す揺れの目安
・東日本大震災での実例と高層ビルへの影響
・免震構造の限界と、今日からできる備え
長周期地震動とは何かと起きる仕組み

まず、長周期地震動がどのようなものなのか、基本から確認していきましょう。
長周期地震動とは、規模の大きな地震が発生したときに生じる、周期(揺れが1往復するのにかかる時間)の長いゆっくりとした大きな揺れのことです。
地震が起きると、さまざまな周期を持つ揺れが同時に発生します。私たちが地表で感じる「ガタガタ」「ドンドン」という小刻みな揺れは、周期の短い「短周期地震動」によるものです。一方、周期1.6秒から7.8秒程度の、ゆっくりと大きな成分を「長周期地震動」と呼びます。
2011年3月11日、私は福島でこの地震を経験しました。あのとき、私がいた場所はそれほど高い建物ではありませんでしたが、震源から770km以上離れた大阪府の高層ビルで、長時間にわたる大きな揺れが観測されたと後で知り、地震の揺れというものが「震源の近さ」だけで決まるわけではないことを痛感しました。揺れの強さと、揺れの「種類」は別物なのだと、防災士として今、強くお伝えしたいポイントです。
長周期地震動の仕組みとメカニズム

長周期地震動が大きな被害につながる仕組みの核心は、「共振」という現象です。
建物にはそれぞれ、固有の揺れやすい周期である「固有周期」があります。低い建物の固有周期は短く、高い建物ほど固有周期は長くなる傾向があります。地震波の周期と、建物の固有周期がたまたま近い値になると、両者が共振し、建物が大きく揺れてしまうのです。
共振は、ブランコを思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。ブランコが揺れるタイミングに合わせて押すと、小さな力でもどんどん大きく揺れていきますよね。長周期地震動と高層ビルの関係も、これと同じ理屈で揺れが増幅されていくイメージです。
さらに、長周期地震動には「遠くまで伝わりやすく、減衰しにくい」という性質があります。関東平野や大阪平野のような厚い堆積層を持つ地盤では、地震波の長周期成分が増幅されやすいことも知られており、震源から離れた都市部の高層ビルが大きく揺れる一因になっています(出典:気象庁『長周期地震動について』)。
長周期地震動と震度の違い

「震度が低かったのに、高層階ではすごく揺れた」という体感のズレは、なぜ起こるのでしょうか。
気象庁が発表する震度は、原則として地表や低層建物の1階に設置された震度計の観測データに基づいています。つまり、震度は「地表付近の比較的短い周期の揺れ」を表す指標であり、高層ビルの上層階で生じる長くゆっくりとした揺れの大きさを、十分には表現できません。
そこで気象庁は、震度とは別に「長周期地震動階級」という独立した指標を設けています。震度と長周期地震動階級は、似ているようで測っている対象が異なる、まったく別のスケールだと理解しておくとよいでしょう。震度と揺れ方の違いについては、地震の震度と感じ方の違いを解説した記事でも詳しく触れていますので、合わせてご覧ください。
長周期地震動階級とは何か
長周期地震動階級とは、高層ビル内における人の行動の困難さや、家具・什器の移動・転倒などの被害の程度をもとに、揺れの大きさを4段階に区分した気象庁の指標です。対象は、概ね14〜15階建て以上の高層ビルとされています。
気象庁は、地震計の観測データから算出する「絶対速度応答スペクトル」という値の、周期1.6秒から7.8秒までの範囲における最大値をもとに、その地点の長周期地震動階級を決定しています。やや専門的な話になりますが、簡単に言えば「高層ビルが受ける揺れのエネルギーの大きさ」を数値化したものです。
階級1から4までの揺れの目安

長周期地震動階級は、数字が大きくなるほど危険度が増していきます。それぞれの段階で、高層ビル内ではどのような状況が想定されるのか、目安を整理しました。
| 階級 | 揺れの目安 | 室内で想定される状況 |
|---|---|---|
| 階級1 | やや大きな揺れ | ほとんどの人が揺れを感じる。ブラインドや吊り下げ物が大きく揺れる |
| 階級2 | 大きな揺れ | 物につかまりたいと感じる。歩行に支障が出始め、キャスター付きの機器がわずかに動く |
| 階級3 | 非常に大きな揺れ | 立っていることが困難。固定していない家具が移動し、間仕切壁にひびが入るおそれがある |
| 階級4 | 極めて大きな揺れ | 揺れに翻弄されて動けなくなる。固定していない家具のほとんどが移動・転倒する危険な状態 |
この目安はあくまで一般的な傾向であり、すべての高層ビルで同じ現象が発生するとは限りません。建物の構造や階数、置かれている家具の状態によって被害の程度は変わってきます。
東日本大震災で観測された長周期地震動

長周期地震動の脅威が広く知られるきっかけとなったのが、2011年の東日本大震災です。
気象庁の検討会資料によると、震源から約770km離れた大阪府の咲洲庁舎(55階建て、高さ256メートル)では、長周期地震動によって約10分間にわたり揺れが続き、最上階付近の揺れ幅は最大約2.7メートルに達したと報告されています。震源からこれだけ離れた場所であっても、高層ビルの上層階ではこれほど大きな揺れが生じる、ということです。
また、新潟東港では長周期地震動によって石油タンク内の油が波立つ「スロッシング現象」が発生し、波高は最大約2メートルに達したとされています。東京都内の高層ビルでも、家具の転倒やエレベーターの停止による閉じ込めなどの被害が報告されました。
福島でこの震災を経験した私としても、揺れの種類や建物の特性によって、同じ地震でもまったく異なる被害が生じることを、この長周期地震動の事例から強く実感させられます。震度だけでは測れない揺れがあるということを、ぜひ多くの方に知っておいていただきたいです。
長周期地震動の影響と備えておきたい対策
ここからは、長周期地震動が実生活にどう影響するのか、そして私たちがどう備えればよいのかを見ていきます。
高層ビルやタワマンで揺れが増す理由

すでに触れたとおり、高層ビルやタワーマンションは固有周期が長く、長周期地震動と共振しやすい性質を持っています。そのため、地表付近では大きな揺れを感じなかったとしても、上層階では「ユラ〜、ユラ〜」とした大きく長い揺れを感じることがあります。
この揺れは数分から、時には十数分にわたって続くこともあり、横揺れによって家具やOA機器が部屋の中を大きく移動する「家具の暴走」が起こりやすくなる点も特徴です。横揺れと縦揺れの違いについては、地震の縦揺れと横揺れの仕組みを解説した記事もぜひ参考にしてください。
免震構造の建物への影響と限界

「免震構造のマンションだから地震は安心」と考えている方も多いかもしれません。ただ、長周期地震動に関しては、少し注意が必要です。
免震構造は、建物に伝わる地震の揺れを吸収・減衰させる仕組みです。短い周期の揺れを吸収する結果として、建物全体の固有周期は長くなる傾向があります。そのため、長周期地震動に対しては、免震の効果が小さくなってしまう可能性があると指摘されています。
これは「免震構造が無意味」ということではなく、「免震構造であっても長周期地震動への対策(家具の固定など)は別途必要」ということです。免震・耐震といった建物の構造にかかわらず、室内の対策は欠かせないと考えておくのが安全です。
緊急地震速報と長周期地震動の関係

2023年2月1日からは、長周期地震動階級も緊急地震速報の発表基準に加わりました。地震波が2点以上の観測点で観測され、最大震度5弱以上、または最大長周期地震動階級3以上と予想された場合に、緊急地震速報(警報)が発表される仕組みです。
さらに、震度6弱以上、または長周期地震動階級4が予想される場合は「特別警報」という、より強い警戒を呼びかける位置づけになります。2024年の能登半島地震では、緊急地震速報が発表された約40秒後に「長周期地震動階級3」の情報が発表された例もあり、長周期地震動の情報は震度の情報より少し遅れて出てくることがある、という点も知っておくとよいでしょう。緊急地震速報の仕組みについては、緊急地震速報の仕組みとスマホ設定を解説した記事で詳しくまとめています。
揺れを感じたときにとるべき行動

長周期地震動による揺れを感じたとき、あるいは緊急地震速報を見聞きしたときの基本行動は、通常の地震対応と大きく変わりません。
- 丈夫な机やテーブルの下に身を低くして入る
- 頭を守り、家具から離れる
- エレベーター内にいる場合は、すぐに最寄り階で停止させて降りる
- 高層階で揺れが収まった後も、しばらく余震に注意する
長く揺れが続くと「いつまで続くのか」という不安に襲われやすいですが、揺れている間に慌てて動き回ることのほうが危険です。落ち着いて、まずは身を守る姿勢を保つことを優先してください。
長周期地震動への備えと教訓のまとめ

長周期地震動は、震度だけでは測れない「もう一つの揺れの顔」です。震源から遠く離れていても、高層ビルやタワーマンションでは大きな揺れが長く続くことがある、という事実をまず知っておくことが、備えの第一歩になります。
長周期地震動への備えのポイントは、次の3つに整理できます。
1つ目は、家具・什器の固定です。免震構造であっても効果が薄れる可能性があるため、転倒・移動防止の対策は欠かせません。2つ目は、緊急地震速報が出たときの行動をあらかじめ家族で確認しておくことです。3つ目は、停電・断水・エレベーター停止など、揺れが収まった後の生活への備えです。
東日本大震災で、私自身も停電や物資不足の不安を経験しました。長周期地震動による高層ビルでの被害は、揺れそのものだけでなく、その後の生活にも長く影響することを、当時の経験からも実感しています。長周期地震動という言葉を知ることが、ご家族の備えを見直すきっかけになれば幸いです。
家具の固定や、停電・断水が続いた場合の備えを見直す際は、防災リュックや備蓄品の中身も一度確認しておくと安心です。気になる方は、HIHの防災リュック・セット一覧もぜひ参考にしてみてください。
よくある質問
Q. 長周期地震動とはどのような揺れですか?
A. 規模の大きな地震で発生する、周期の長いゆっくりとした大きな揺れのことです。高層ビルなどの固有周期と共振しやすく、震源から数百km離れた場所でも長時間大きく揺れることがあります。一般的な地震の小刻みな揺れとは異なる種類の揺れとされています。
Q. 長周期地震動階級と震度はどう違いますか?
A. 震度は地表付近の揺れの強さを表す指標で、長周期地震動階級は高層ビル上層階での揺れの大きさを表す別の指標です。震度が低くても長周期地震動階級が高くなることがあり、両者は必ずしも一致しません。
Q. 長周期地震動階級4とはどのくらい危険ですか?
A. 長周期地震動階級4は4段階のうち最も大きい揺れで、立っていることが難しく、固定していない家具のほとんどが移動・転倒するおそれがある状態とされています。緊急地震速報では特別警報の対象にもなる強い揺れです。
Q. 免震構造のマンションでも長周期地震動の対策は必要ですか?
A. はい、必要です。免震構造は短い周期の揺れを吸収する一方、建物全体の固有周期が長くなる傾向があり、長周期地震動に対しては効果が小さくなる可能性があるとされています。家具の固定などの室内対策は別途行っておくことをおすすめします。
Q. 長周期地震動は何階くらいから影響が出ますか?
A. 気象庁の長周期地震動階級は、概ね14〜15階建て以上の高層ビルを対象としています。ただし建物の構造や固有周期によって感じ方は異なるため、あくまで目安としてとらえてください。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得しHIH(Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。





