5月18日に起きた災害|セント・ヘレンズ山噴火から学ぶ防災カレンダー

5月18日に起きた災害|セント・ヘレンズ山噴火から学ぶ防災カレンダー
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
5月18日は、世界の火山史に刻まれた大きな出来事が起きた日です。1980年のこの日、アメリカ・ワシントン州のセント・ヘレンズ山が大噴火し、美しい円錐形の山容が一瞬で変わり果てました。
この記事では、5月18日に起きたセントへレンズ山の大噴火を振り返り、そこから私たちが今日の防災に生かせる教訓を防災士の視点でお伝えします。
過去の災害を知ることは、不安をあおるためではありません。同じ被害を繰り返さないために、今の暮らしを見直すきっかけにするためです。日本も火山大国です。海外の事例であっても、私たちが学べることはたくさんあります。

5月18日・セントへレンズ山大噴火の記録

1980年5月18日・セントヘレンズ山とは

セントヘレンズ山は、アメリカ合衆国ワシントン州に位置するカスケード山脈の活火山です。噴火前の標高は約2,950メートルで、富士山に似た美しい円錐形の成層火山でした。シアトルから南へ約154キロメートルのところにあり、周辺はリゾート地として親しまれていました。
1857年の噴火以来、長く静穏を保っていたこの山が再び動き出したのは、1980年3月のことでした。マグニチュード4の地震を皮切りに地震活動が活発化し、3月27日には水蒸気爆発が発生。連日のように小規模な噴火が続き、山の北側斜面がじわじわと膨らみ始めました。
セントヘレンズ山の名前は、18世紀にカスケード山脈を調査したイギリス海軍の航海士ジョージ・バンクーバーが、友人の外交官セント・ヘレンズ男爵にちなんで命名したものです。先住民族クリッキタットはこの山を「煙と火の山」を意味する「ロウワラ・クロウ」と呼んでいました。
アメリカ地質調査所(USGS)は1978年に刊行した政府文書の中で、「セントヘレンズ火山は1857年以降静穏であるが、過去の噴火履歴から判断すると今後数百年以内、早ければ20世紀のうちにも次の噴火が起こるとみられる」と明記し、ハザードマップとともに公表していました。科学者たちは噴火を予見していたのです。
セントヘレンズ大噴火の被害規模

1980年5月18日午前8時32分(現地時間)、マグニチュード5.1の地震が引き金となり、セントヘレンズ山は大噴火しました。
まず北側斜面が巨大な山体崩壊を起こし、体積にして約2.7立方キロメートルもの岩塊が高速の岩屑なだれとなって流れ下りました。この崩壊によって内部の圧力が一気に解放され、温度約350℃・時速約500キロメートルという猛烈な火砕流が山頂から約25キロメートルにわたって広がりました。
噴煙は高さ約26,000メートルの成層圏にまで達し、偏西風に乗って北半球を覆いました。この夏、日本では記録的な冷夏となりましたが、その一因としてセントヘレンズ山の噴火が挙げられています。
被害の規模は以下のとおりです(資料により数値に差があります)。
| 項目 | 被害の概要 |
|---|---|
| 人的被害 | 57人が犠牲(観測中の研究者・旅館経営者・報道関係者を含む) |
| 建物・インフラ | 家屋約200棟、橋約47本、道路約300km以上が破壊 |
| 森林被害 | 約500平方キロメートルの森林が焼失・壊滅 |
| 山の標高変化 | 2,950mから約2,550mへ(約400m低下) |
| 経済的損失 | 推定約10億ドル(当時) |
この噴火はアメリカ合衆国本土史上、最も多くの犠牲者と経済的損失をもたらした火山噴火として記録されています。
噴火前に起きた山体崩壊の前兆

セントヘレンズ山の噴火が「防災の教科書」として語られる理由のひとつは、噴火前に非常に明確な前兆が続いていたことです。
1980年3月から5月にかけて、山の北側斜面は1日あたり最大2.5メートルという驚異的なスピードで膨張を続けていました。これは地下から上昇してきた溶岩ドームが山体を内側から押し上げていたためです。4月末には、北側斜面の一部が1979年と比べて水平方向に約120メートル、垂直方向に約90メートルも移動していたことが記録されています。
噴火前日の5月17日には、一時帰宅が認められた住民や伐採業者がいました。大噴火は翌朝起きました。前兆があっても、「まだ大丈夫だろう」という判断がどれほど危険かを、この事例は示しています。
科学者たちは複数の観測地点を設けて山を監視していました。しかし、大噴火当日の朝は前日と変わらない状況に見え、壊滅的な噴火を示す変化は観測されていませんでした。それでも数十年間蓄積されていたエネルギーは、M5.1の地震をきっかけに一気に解放されたのです。
火山観測中に命を落とした地質学者デイヴィッド・ジョンストンが最後に残した言葉は「バンクーバー!バンクーバー!いよいよだ!」でした。彼は横方向の噴火(ブラスト)を予測していた数少ない研究者のひとりでした。現在、彼が観測を続けた丘はジョンストン・リッジと名付けられ、ビジターセンターが設けられています。
なぜセントへレンズ山は大噴火したのか

セントヘレンズ山の大噴火のメカニズムを、防災理科の視点から整理します。
カスケード山脈の火山は、太平洋プレートが北米プレートの下に沈み込む「沈み込み帯」に位置しています。この構造はちょうど日本列島と同じ仕組みです。地下深くでプレートが溶けてマグマが生まれ、それが地表に向かって上昇してきます。
セントヘレンズ山の場合、マグマが山体内部に蓄積されることで北側斜面を外側に押し出し続けていました。そこに地震が起きたことで、膨らんだ北側斜面が一気に崩壊。内部の圧力が突然解放されたことで、横方向への爆発(ブラスト)が発生しました。この爆風は時速320キロメートル以上で周囲の森林をなぎ倒しました。
成層火山(富士山型の火山)は、溶岩と火砕物が交互に積み重なって形成されています。この構造は非常に不安定で、山体崩壊が起きやすい特徴があります。防災科学技術研究所の資料によると、日本の成層火山の約4割に岩屑なだれの堆積物が確認されています。
また、カスケード山脈の火山の溶岩は粘性が高く、ハワイの火山のように溶岩が穏やかに流れ出すのではなく、内部に圧力が蓄積されて爆発的な噴火になりやすい性質があります。日本の多くの火山も同様の特性を持っています。
ハザードマップが被害を最小化した理由

セントヘレンズ山の噴火は、防災の観点からひとつの希望も示しています。それは「ハザードマップと立入規制が、被害を大幅に抑えた」という事実です。
USGSは1978年の時点でハザードマップを公表し、噴火前から道路封鎖・立入規制・住民への避難勧告を実施していました。噴火当日が日曜日だったこともあり、通常ならその地域で作業していたはずの300人以上の伐採業者が現場を離れていました。
もし平日で規制もなければ、犠牲者はさらに多くなっていたとされています。57名という数は決して小さくありませんが、ハザードマップと事前の対策が機能した例として、世界の火山防災の教科書に記載されています。
この噴火をきっかけに、ワシントン州では毎年5月を「火山防災月間(Volcano Awareness Month)」と定めました。地域住民が火山リスクを知り、備えるきっかけをつくる取り組みが今も続いています。
5月18日の教訓を今日の備えに生かす

日本の活火山と噴火警戒レベルを知る

「火山はアメリカの話」と思ってしまいそうですが、日本は世界でも有数の火山大国です。国内には過去約1万年以内に噴火した火山や現在活発な噴気活動のある「活火山」が111あり、そのうち50火山が気象庁によって24時間体制で常時観測・監視されています(2025年8月時点)。
蔵王山、富士山、箱根山、御嶽山、桜島など、観光地や登山の対象として身近な山が含まれています。福島県にも蔵王山があります。火山は決して遠い存在ではありません。
気象庁は火山活動の状況に応じて「噴火警戒レベル」を5段階で発表しています。レベル1(平常)からレベル5(避難)まで、各レベルで住民や登山者がとるべき行動が定められています。お住まいの地域や、これから登山を計画している山のレベルを事前に確認する習慣をつけましょう。
2014年9月の御嶽山噴火では、突然の水蒸気爆発により多くの登山者が被害を受けました。この教訓を踏まえ、活動火山対策特別措置法が改正され、登山者の情報収集や連絡手段確保が努力義務として定められました。さらに2023年の法改正では登山届提出の努力義務規定が強化されています。
火山防災マップ(火山ハザードマップ)は各市町村が作成しています。登山前や、火山近くへの旅行前には必ず確認するようにしてください。
富士山と成層火山のリスクを考える

セントヘレンズ山の噴火前の姿は、よく「富士山に似た均整な円錐形」と表現されます。それもそのはず、両方とも「成層火山」という同じ種類の火山です。
防災科学技術研究所の資料によると、富士山でも過去に大規模な山体崩壊が起きており、約2,900〜3,000年前(資料により差があります)の「御殿場岩屑なだれ」では岩屑なだれが相模湾・駿河湾まで達した記録があります。成層火山の崩壊による岩屑なだれは、比高(山頂と麓の高さの差)の約10倍の距離に達するとされており、富士山の場合、理論上は35キロメートル先まで到達する可能性があるとされています。
富士山は現在も「常時観測火山」のひとつです。2000年代には小規模な地震活動も記録されています。「江戸時代以降噴火していない=安全」ではなく、噴火履歴がある活火山として備えておくことが大切です。
また、大規模な岩屑なだれが海に流れ込むと津波を引き起こす可能性があります。1792年の雲仙・眉山の崩壊では、有明海に大規模な津波が発生し、甚大な被害をもたらしました。火山災害は噴火だけでなく、土砂・泥流・津波と連鎖することを覚えておきましょう。
火山に関するリスクや過去の噴火記録については、こちらの記事も参考にしてください。
→ 南海トラフ地震への備えを今すぐ確認する
火山灰が降ったらやるべき行動

セントヘレンズ山の噴火では、火山灰が偏西風に乗って数百キロ先まで到達し、約400キロ北東のスポーケン市は白昼にもかかわらず暗闇に包まれたとされています。日本でも、遠方の火山の噴火による降灰は十分に起こりうる現象です。
火山灰が降った場合の行動ポイントを整理します。
- 外出を控える:火山灰は非常に細かく、肺に入ると健康被害を起こします。マスク(できればN95)・ゴーグル・長袖着用が基本です
- 窓・換気口を閉める:室内への侵入を防ぎます。隙間にタオルを詰めることも有効です
- 屋根の灰を早めに除去:湿った火山灰は非常に重くなります。1平方メートルに数センチ積もると屋根への負荷が大きくなります
- 車の運転は慎重に:火山灰でエンジンフィルターが詰まる・視界不良になる危険があります
- 水道水・農作物への注意:自治体の情報に従って判断してください
火山灰は粒子が非常に細かく、普通のマスクでは防げないことがあります。防災リュックにN95マスクやゴーグルを1枚入れておくと、噴火だけでなく粉塵・花粉・感染症対策にも役立ちます。
停電・断水への備えについても、こちらで詳しく解説しています。
→ 停電・断水に備える防災グッズの選び方
今日から見直す防災リュックの中身

福島で東日本大震災を経験した防災士として、「いざというときに動けること」の大切さを痛感しています。セントヘレンズ山の事例でも、ハザードマップを活用した事前の立入規制が命を守りました。日頃の備えが、判断の速さを生みます。
火山噴火・地震・大規模災害に備えた防災リュックの基本を確認しましょう。
- 【情報収集】携帯ラジオ・モバイルバッテリー・充電ケーブル
停電時でも噴火警戒レベルや避難情報を受け取れる手段を確保します - 【水・食料】飲料水(1人1日3リットル×3日分目安)・保存食
噴火・地震後は物流が止まります。最低3日分、できれば1週間分 - 【呼吸・目の保護】N95マスク・ゴーグル
火山灰・粉塵対策。普通のマスクでは不十分な場合があります - 【明かり】ヘッドライト・予備電池
両手が使えるヘッドライトは避難時に特に有効です - 【衛生】携帯トイレ・除菌グッズ
断水時には特に重要です - 【救急・薬】常備薬・救急セット
持病がある方は特に、数日分の薬を入れておきましょう
防災リュックは「作って終わり」ではありません。年に一度は中身の賞味期限・電池の残量・家族の成長(サイズ・必要品の変化)を確認する日を決めておきましょう。5月18日を「防災リュックを見直す日」にするのも一つの方法です。
防災リュックに入れるべきものについて、詳しくはこちらをご覧ください。
→ 防災リュックの中身チェックリスト|必要なものを防災士が解説
まとめ:5月18日セントへレンズ噴火の教訓

1980年5月18日のセントへレンズ山大噴火から、私たちが受け取れる教訓をまとめます。
- 前兆を知ることが、逃げる判断を早める:数ヶ月にわたる地震・山体膨張という明確な前兆があったにもかかわらず、被害はゼロにはなりませんでした。「いつもと違う」を感じたら、早めに行動することが大切です
- ハザードマップは命を守るための地図:事前に作成・公表されたハザードマップと立入規制が、多くの命を守りました。日本の火山ハザードマップも、ぜひ今日確認してみてください
- 火山の被害は噴火だけではない:火砕流・岩屑なだれ・火山灰・火山泥流・津波と、多様な形で被害が広がります。自分の地域のリスクを複合的に理解しておきましょう
- 日本も火山大国であることを忘れない:セントヘレンズ山と同じ成層火山が日本各地にあります。富士山・蔵王山・御嶽山など、身近な山の噴火警戒レベルを日頃から確認する習慣を
過去の災害は、遠い昔の話ではありません。5月18日という日付を、防災を見直すきっかけにしていただければ幸いです。大切な人を守るために、まずはできることから始めていきましょう。
あなたの今日の防災チェックリスト
- ☐ 気象庁の噴火警戒レベルを確認した
- ☐ 地域の火山ハザードマップを調べた
- ☐ 防災リュックの中身を見直した
- ☐ N95マスク・ゴーグルが入っているか確認した
- ☐ 家族と避難場所・連絡方法を話し合った
セントへレンズ山の噴火が教えてくれた備え
1980年5月18日の大噴火から私たちが学べることは、「知識と行動」が命を左右するという事実です。
あなたの備えを今すぐ確認してください。
あなたの防災度チェック
- ☐ 地域の火山・地震ハザードマップを確認している
- ☐ 噴火警戒レベルをスマートフォンで確認できる状態にある
- ☐ N95マスク・ゴーグルを防災リュックに入れている
- ☐ 持ち出し袋が玄関にすぐ持って出られる状態にある
- ☐ 家族全員で避難場所・連絡方法を確認している
セントへレンズ山の教訓は「逃げる準備は、逃げる前に整える」ことを示しています。HIHの防災リュックは、その「準備」をすぐ始められるように設計されています。
👉 HIH防災リュック・セットを見る
→ https://bosai-hih.jp/product/
参考情報について
本記事は公的資料をもとに、過去の災害や防災に関する出来事を紹介しています。災害の記録は調査の進展や資料によって数値・表記が異なる場合があります。最新の正確な情報は、各省庁・自治体・関係機関の公式情報をご確認ください。
本記事は、特定の個人・地域・団体を批判するものではなく、過去の出来事から防災の教訓を学び、今日の備えにつなげることを目的としています。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得しHIH(Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。



