全国3800箇所|アンダーパス冠水と車の水没完全ガイド

全国3800箇所|アンダーパス冠水と車の水没完全ガイド
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
大雨の日、線路の下や道路の下をくぐる、あの少し低くなった道。普段は何も感じずに通り過ぎている場所ですよね。でもあそこは、豪雨のときだけ性格が変わります。ニュースで「アンダーパスで車が水没」という言葉を聞くたびに、防災士として「これは知っていれば防げたかもしれない」と思ってしまうんです。
アンダーパスとは、道路や鉄道と交差するために、前後の区間より道路の高さが急に低くなっている区間のことです。周囲より低いという構造上、大雨のときに雨水が集まりやすい場所でもあります。
この記事の結論を先にお伝えします。アンダーパスの冠水は排水ポンプの能力を超えたときに起こるため、進入しない判断と事前の経路確認が最も確実な対策です。
この記事でわかること
- アンダーパスとは何か、オーバーパスや地下道との違い
- アンダーパスが冠水する仕組みと、排水ポンプの限界
- 車の水没が起きる水深の目安と、脱出できる・できない条件
- 今日からできる車の水没対策と、冠水しやすい場所の調べ方
アンダーパスが冠水する仕組みと危険性
アンダーパスとは何かを簡単に解説

アンダーパスは、日本語では「地下横断道路」「掘割道路」などと呼ばれることもありますが、道路行政の現場では「前後区間に比べて急激に道路の高さが低くなっている区間」として扱われています。線路をくぐる道、大きな交差点の直進レーンが沈み込んでいく道、あれが典型ですね。
信号待ちがなくなる、交通がスムーズになるという大きなメリットがあるからこそ、全国の市街地に数多くつくられています。国土交通省の資料によると、国と地方自治体が管理する道路のアンダーパス部は、全国で約3,700〜3,800箇所とされています(令和7年3月末時点。資料により約3,700箇所、都道府県別の集計では3,841箇所と表記に差があります)。
そして私が驚いたのが、都道府県別の内訳です。福島県内だけで123箇所。決して「都会の話」ではないんですね。最も多いのは埼玉県の270箇所、次いで新潟県の231箇所、東京都は153箇所。雪国や地方都市にもしっかり存在しています。
この箇所数は「国や自治体が管理する道路」が対象です。私道や施設内の通路は含まれていないため、実際に生活の中で通る低い道は、この数字よりもっと多いと考えたほうが現実的かなと思います。
オーバーパスや地下道との違い

混同されやすい言葉を整理しておきます。防災的には「自分が今いるのは水がたまる側か、たまらない側か」という区別が本質です。
| 名称 | 構造 | 大雨時の性格 |
|---|---|---|
| アンダーパス | 下をくぐる(周囲より低い) | 水が集まる側。冠水リスクあり |
| オーバーパス | 上を越える(周囲より高い) | 水は流れ落ちる側。冠水しにくい |
| 地下道・地下歩道 | 完全に地下の歩行者用通路 | 階段から水が流れ込むと危険 |
| トンネル | 山や地中を貫通 | 坑口の標高次第。低い側は要注意 |
同じ立体交差でも、オーバーパスとアンダーパスでは大雨時のリスクが正反対になります。通勤ルートに立体交差があるなら、「これは上か、下か」を一度確認しておくだけで判断が変わりますよ。
水が一気に集まる地形の仕組み

ここからが防災理科の話です。アンダーパスが冠水する理由は、単純に「低いから」だけではありません。周囲の斜面が、雨水を集める漏斗(じょうご)として働くという点が本質です。
アンダーパスの前後には必ず下り坂があります。雨が降ると、その坂の路面に落ちた雨水が重力に従って最も低い一点、つまりアンダーパスの底に向かって流れ込みます。しかも市街地の路面はアスファルトです。土なら地面に染み込む雨が、ここでは一滴も染み込みません。
以前内水氾濫と外水氾濫の違いを解説した記事でも触れましたが、降った雨が地面に浸透せず地表を流れる割合は、農地では半分程度なのに対し、アスファルトで覆われた都市部では8〜9割に達すると言われています。同じ量の雨でも、都市部では排水設備にかかる負荷が何倍にも膨らむわけですね。川があふれるのではなく、街の中の水が処理しきれずにあふれる。アンダーパスの冠水は、この内水氾濫のもっとも身近な形だと言えます。
つまりアンダーパスは、「周囲一帯に降った雨が、一点に集約されて到達する場所」。だから、その場に立っている人の感覚以上に、水位の上がり方が速いんです。
排水ポンプの能力には限界がある

「でも、そういう場所には排水設備があるんじゃないの?」という疑問はもっともです。答えは「あります。ただし能力には上限があります」。
国土交通省は、アンダーパスに排水ポンプを設置したうえで、その能力を超える大雨の際には事前通行規制と情報提供を行うという方針を明示しています。(出典:国土交通省『道路における豪雨対策』)
ここで理解しておきたいのは、排水ポンプがあること=冠水しないこと、ではないという点です。ポンプは想定された排水量までしか処理できません。想定を超えた雨は、単純に行き場を失って溜まっていきます。
その「想定」の水準も知っておくと納得できます。下水道の雨水排除計画では、採用する確率年は5〜10年を標準とするとされています。ざっくり言えば「数年に1回程度の規模の雨」を基準に設計されているということです。近年のように、これまで経験したことのない雨が毎年のように降る状況では、設計の前提そのものが追い抜かれてしまう場面が出てきます。
さらに、地味ですが見落とせないのが電気です。排水ポンプは電力で動きます。停電が同時に起きれば、ポンプは止まります。「大雨と停電と冠水は同時に来る」——これは、複数の災害が重なる現場を見てきた者として、強くお伝えしたい点です。
冠水しやすい降水量の目安

では、どのくらいの雨で危ないのか。気象庁の「雨の強さと降り方」をもとに、車を運転する立場で整理してみます。
| 1時間雨量 | 呼び方 | 車と道路の状態 |
|---|---|---|
| 20〜30mm | 強い雨 | ワイパーを速くしても前方が見づらい |
| 30〜50mm | 激しい雨 | タイヤが滑りブレーキが効きにくくなる |
| 50〜80mm | 非常に激しい雨 | 排水が追いつかず道路が川のようになる |
| 80mm以上 | 猛烈な雨 | 車の走行はきわめて危険な状態 |
覚え方としては、時間30mmが「道路管理者が動き出すライン」、時間50mmが「命に関わるライン」と押さえておくと実用的です。実際、国土交通省の道路事務所では、時間雨量30mm以上の激しい雨の場合に緊急パトロールを実施し、電光掲示板や冠水標識で注意喚起を行っています。時間30mmは、道路を管理する側が「そろそろ危ない」と判断して現場に人を出す雨量だということですね。
1時間に50mmの雨とは、降った雨がそのまま溜まった場合に水深5cmになる量です。1平方メートルあたり50リットル、重さにして約50kg。それが街全体に、1時間降り続けるとイメージすると、排水設備の苦しさが実感できるかなと思います。
アンダーパスの冠水と車の水没を防ぐ備え
車の水没はどこまでの水深で起きるか

ここからは、実際に冠水路に近づいてしまった場合の話です。JAF(日本自動車連盟)が冠水路を再現して行ったユーザーテストの結果が、非常に参考になります。
| 水深の目安 | 車に起きること | 判断 |
|---|---|---|
| 10cm前後 | マンホールの蓋の外れや側溝が見えない | 濁っていれば入らない |
| 30cm | 低速なら走行できた例もあるが、速度が上がると吸気口から水が入りエンジン停止の恐れ | 引き返す |
| 60cm | フロントガラス下端まで浸かる。セダンは低速でも走りきれなかった | 絶対に進入しない |
| 60cm超 | 車体が浮き、ハンドルもブレーキも意味をなさない | 脱出を最優先 |
JAFが公表しているこのユーザーテストで示されたエンジンが止まる仕組みも、知っておく価値があります。原因は、エアインテーク(空気の取り入れ口)を通ってエンジン内部に水が入ることだと考えられています。エンジンは空気を吸って燃焼する装置ですから、そこに水が入れば止まります。しかも速度が上がるほど水を巻き上げてしまい、浅い水深でも水を吸い込みやすくなる。「勢いよく突っ切れば抜けられる」という発想が、いちばん危ないわけですね。
車種による差もあります。エンジン位置の高いSUVは水深60cmを走りきれた一方、軽自動車は水深60cm・時速40kmでは進入直後にエンジンが止まり、浮いた状態で停止したという結果が出ています。ハイブリッド車もエンジンを搭載しているため、同じリスクがあります。「自分の車なら大丈夫」という判断は成立しません。
そして最大の問題は、実際の冠水路は濁っていて水深がわからないことです。10cmに見えて50cmかもしれない。蓋の外れたマンホールが口を開けているかもしれない。見た目で判断できない以上、「浅そうだから」は根拠になりません。
なお、これは四輪だけの話ではありません。自転車やバイク、原付はさらに条件が厳しくなります。水深が浅く見えても、流れがあれば足を取られて転倒しますし、路面の側溝や段差はまったく見えません。原付にとっては、エンジンやマフラーに水が入れば走行不能になります。そもそも安全上の理由から、原付や自転車の通行が禁止されているアンダーパスもあります。標識を見落としたまま進入しないよう、普段から通行区分を確認しておいてください。
ドアが開かない車から脱出する手順

もし水位が上がってきたら。JAF(日本自動車連盟)がセダンとミニバンを使って行った「水深何cmまでドアは開くか」という検証の結果は、直感に反する事実を示しています。
車が前傾して後輪が浮いた状態では、外からの水圧でドアは開けられませんでした。一方、車が完全に水没して車内外の水位差が小さくなった状態では、水の抵抗で重いものの、ドアは開けることができました。水深60cmのときは、外から開けるのに通常の5倍近い力が必要という計測結果も出ています。
つまり脱出の鍵は水深そのものではなく、車内外の水位差です。ここから導かれる行動手順を整理します。
- 水位が上がり始めたら、まず窓が水面より上にあるうちに窓を開ける。パワーウインドウは水没すると作動しないことがあるため、迷う時間が命取りになります
- シートベルトを外し、窓から脱出する
- 窓が開かない場合は緊急脱出用ハンマーでサイドガラスを割る
- ハンマーがない場合は、車内に水が入って外との水位差が小さくなるタイミングを待ち、その瞬間にドアを押し開ける
- 車が前傾している場合は、水圧の影響を受けにくい後席側のドアから試みる
ハンマーで割るのはサイドガラスです。フロントガラスは合わせガラスのため割れません。さらに近年は、一部車種でサイドガラスにも合わせガラスが使われており、その場合は割れないことがあります。ご自身の車がどうなっているか、取扱説明書やメーカーに事前に確認しておくと安心です。
脱出用ハンマーは「手が届く場所」に置いてこそ意味があります。トランクの奥やシート下の収納では、その瞬間に取り出せません。車に積むべき装備の選び方は、車載用防災グッズの必要最小限リストで詳しくまとめています。
車の水没対策として日ごろできること

ここまで読んでいただければ、車の水没対策のほとんどが「その場の技術」ではなく「事前の準備と判断」だとわかっていただけたと思います。
今日からできる車の水没対策
- 通勤・通学ルート上のアンダーパスの位置を把握しておく
- そのルートを避ける迂回路を、あらかじめ1本決めておく
- 緊急脱出用ハンマーを、運転席から手が届く位置に固定する
- 大雨予報の日は、車を使わない・早めに動くという選択肢を先に持つ
- 駐車場所が低い土地なら、大雨前に高い場所へ移動させる
2011年3月11日、私は福島市の事務所で被災し、家族の安否確認のために車で帰宅しました。普段10分の道が、渋滞で40分かかりました。あのとき痛感したのは、災害時の車は「速い移動手段」ではなくなるということです。動けない車の中で判断を迫られる状況は、地震でも豪雨でも同じように起こり得ます。防災士として300社以上の法人備蓄を支援してきた中でも、車での移動リスクは最も見落とされやすい領域だと感じています。
なお、水が引いた後の車も注意が必要です。浸水した車のエンジンを自分でかけてはいけません。ショートによる車両火災の恐れがあります。特にハイブリッド車・電気自動車は高電圧バッテリーを搭載しているため、この点はより慎重に。詳しくは台風通過後の車の扱いと注意点を解説した記事で触れています。必ずロードサービスや販売店に連絡してください。
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冠水情報とハザードマップの調べ方

「自分の生活圏のどこが危ないか」は、実は無料で調べられます。ここを知らずにいるのは、本当にもったいない。
国土交通省のハザードマップポータルサイト「重ねるハザードマップ」では、洪水や土砂災害のリスクに加えて、「道路防災情報」というレイヤーを重ねて表示できます。この中に「道路冠水想定箇所」「事前通行規制区間」「予防的通行規制区間」が含まれています。
ここは誤解されやすいポイントです。洪水の色塗りだけを見ていると、アンダーパスの冠水リスクは見落とします。洪水浸水想定区域と道路冠水想定箇所は別のレイヤーだからです。両方を重ねて初めて、「浸水域を避けたつもりのルートが、実は冠水しやすい道だった」という事態を防げます。
あわせて確認しておきたいのが次の3つです。
- 各地方整備局の道路冠水注意箇所マップ……国道事務所ごとにPDFで公表されています
- 道路のライブカメラ……国土交通省が全国のライブカメラ情報をまとめています
- 現地の冠水標識・電光掲示板……冠水しやすい場所には、水位を示す標識や情報板が設置されています
大雨のときにスマホで調べようとしても、慌てているうえに通信が不安定なこともあります。晴れている日に、家族全員で一度見ておく。これが一番効きます。
まとめ アンダーパスの冠水への備え

アンダーパスの冠水について、要点を整理します。
- アンダーパスは前後より道路が急に低くなる区間で、全国に約3,700〜3,800箇所、福島県内にも123箇所ある
- 周囲の坂が漏斗のように働き、都市部では雨の8〜9割が浸透せず一点に集まる
- 排水ポンプはあるが、数年に1回程度の雨を基準に設計されており、能力を超えれば溜まる
- 時間30mmで道路管理者が動き、時間50mmで走行が危険な水準に達する
- 水深30cmでも速度が上がればエンジンが止まり、60cmではセダンが走りきれなかった。濁った水は深さがわからない
- 脱出の鍵は水位差。窓が水面より上のうちに開けることが最優先
- 重ねるハザードマップの「道路防災情報」で、事前に危険箇所を確認できる
私はいつも「道具より心の余裕」とお伝えしています。備えが心の余裕を生み、その余裕が正しい判断につながり、判断が家族を守る。アンダーパスの冠水は、まさにその連鎖が試される場面です。「引き返す」という判断は、余裕がないときほど選べなくなります。
だからこそ、先に済ませておけることを済ませておく。当日の判断は、それだけでぐっと軽くなります。
今日中に終わる3つのチェック
- □ 通勤・通学ルート上のアンダーパスの位置を確認した
- □ そのルートを避ける迂回路を1本決めた
- □ 緊急脱出用ハンマーを運転席から手が届く位置に置いた
3つとも、晴れている今日のうちなら10分で終わります。正しく恐れて、淡々と備えていきましょう。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. アンダーパスの冠水はどのくらいの雨で起こりますか?
A. 明確な基準はありませんが、1時間30mm以上の激しい雨で道路管理者が緊急パトロールを行う水準に達します。1時間50mm以上になると排水が追いつかず道路が川のようになるおそれがあります。ただし排水ポンプの能力や地形によって差があるため、雨量だけで安全とは判断できません。
Q. 車は水深何cmまで走れますか?
A. JAFの検証では水深30cmは低速なら走行できた例がある一方、速度が上がると吸気口から水が入りエンジンが停止しています。水深60cmではセダンは走りきれませんでした。実際の冠水路は濁って水深がわからないため、進入しない判断が唯一の安全策です。
Q. アンダーパスの冠水で車が水没したらどう脱出しますか?
A. 窓が水面より上にあるうちに窓を開けて脱出するのが最優先です。開かない場合は緊急脱出用ハンマーでサイドガラスを割ります。ハンマーがなければ、車内に水が入って外との水位差が小さくなるタイミングでドアを押し開けます。フロントガラスは合わせガラスのため割れません。
Q. 冠水しやすいアンダーパスはどこで調べられますか?
A. 国土交通省のハザードマップポータルサイト「重ねるハザードマップ」で、「道路防災情報」の「道路冠水想定箇所」を表示できます。各地方整備局も道路冠水注意箇所マップをPDFで公表しています。洪水のレイヤーだけでは見落とすため、両方を重ねて確認してください。
Q. アンダーパス冠水を避ける迂回路はどう決めればよいですか?
A. まず重ねるハザードマップで通勤ルート上の道路冠水想定箇所を確認し、その地点を通らない経路を1本決めておきます。迂回路は周囲より高い側を通る道、できればオーバーパスや高台を経由する道が理想です。大雨のときに探すのではなく、晴れた日に実際に一度走っておくと迷いません。
🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得し、防災ブランド HIH(エイチアイエイチ/Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。



