リチウムイオン電池の発火はなぜ起きる?前兆・消火方法・対策を防災士が解説

リチウムイオン電池の発火はなぜ起きる?前兆・消火方法・対策を防災士が解説
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
スマートフォン、モバイルバッテリー、コードレス掃除機、電動アシスト自転車……今や私たちの生活のあらゆる場面に、リチウムイオン電池が使われています。軽くて小さいのに大容量というのは本当に便利なのですが、その便利さの裏側に、じつは無視できない発火リスクが潜んでいることを、防災士として皆さんにきちんとお伝えしたいと思っています。
2011年3月11日、私は東日本大震災を福島で経験しました。あの日から防災を本業としてきた私が、いま特に気になっているのが「リチウムイオン電池の発火」という、比較的新しい火災リスクの急増です。消防庁が2026年1月に初めて全国調査を公表したのですが、その数字には正直驚きました。
この記事では、リチウムイオン電池がなぜ発火するのか、どんな前兆があるのか、そして万が一のときにどう対処するのかを、防災の視点でわかりやすく解説します。モバイルバッテリーを防災グッズとして活用している方にも、ぜひ最後まで読んでいただきたい内容です。

リチウムイオン電池の発火はなぜ起きるのか

リチウムイオン電池の仕組みと構造

まず「そもそもリチウムイオン電池って何が違うの?」というところから整理しておきましょう。
リチウムイオン電池は、充電・放電を繰り返せる「二次電池」のひとつです。正極(プラス極)と負極(マイナス極)の間を、リチウムイオンが行き来することで電気を生み出します。充電するときはリチウムイオンが正極から負極へ、使うときは負極から正極へ移動する仕組みです。
従来のニッケル水素電池やニッケルカドミウム電池と比べて、高容量・高出力・軽量という三拍子が揃っているため、スマートフォンやノートパソコン、コードレス掃除機、電動工具など、幅広い製品に採用されています。
リチウムイオン電池の電解液には、可燃性の有機溶剤が使われています。これが発火リスクの根本的な原因です。他の電池と違い、「燃えやすい液体を内蔵している」という前提で扱う必要があります。
正極と負極の間には「セパレーター」と呼ばれる薄い絶縁膜があります。これが正常に機能している限りは安全ですが、何らかの原因でセパレーターが破損すると、一気に危険な状態になります。
発火・爆発が起きるメカニズム

リチウムイオン電池の発火は、「熱暴走(サーマルランナウェイ)」と呼ばれる連鎖反応によって起きます。防災理科として、このメカニズムを理解しておくことがとても大切です。
熱暴走は以下のような段階で進みます。
【熱暴走のプロセス】
① 過充電・衝撃・製造欠陥などで内部短絡が発生
② 短絡部に大電流が流れ、局所的に急激発熱(ジュール熱)
③ 温度が上昇し、セパレーターが溶融・破壊される
④ 内部温度が約100℃を超えると、電解液が分解し可燃性ガスが大量発生
⑤ 約200℃前後で正極の金属酸化物が崩壊し、酸素が放出される
⑥ その酸素が燃料となり、さらに発熱が加速→発火・爆発
恐ろしいのは、この反応が一度始まると自己加速してしまうという点です。熱が熱を生み、酸素が酸素を生む。電池の内部で火を起こす「燃料」が自動的に供給され続ける構造になっているのです。
また、リチウムイオン電池には「デンドライト」と呼ばれる金属の結晶が経年使用で内部に成長することがあります。このデンドライトがセパレーターを突き破ると内部ショートが起き、熱暴走のきっかけになります。新品でなくても起きうるリスクです。
発火の前兆サインを見逃すな

熱暴走は突然起きているように見えますが、多くの場合は前兆があります。東京消防庁も、以下のような状態にある電池や製品は「火災の危険あり」と注意を促しています。
【発火の前兆チェックリスト】
□ 熱のこもりやすい場所で使用・保管している
□ 電池や本体が膨らんでいる・変形している
□ 過去に落下させたことがある
□ 充電中や使用中に異常に発熱することがある
□ 充電できないなどの不具合がある
□ 使用年数が3〜5年以上になっている
一つでも当てはまる場合は、使用を中止することを検討してください。
特に見落としがちなのが「過去に一度落とした製品」です。外見上は傷ひとつなくても、内部のセパレーターが損傷している可能性があります。落とした直後に異常がなくても、しばらく後から発火するケースも報告されています。
膨らんだ電池は危険信号

スマートフォンやモバイルバッテリーが「なんか少し膨らんでいる気がする……」と思ったことはないでしょうか。これは絶対に放置してはいけないサインです。
電池が膨らむのは、内部でガスが発生しているためです。電解液の分解や化学反応が進んでいることを意味し、熱暴走の手前の状態にある可能性があります。
膨らんだ電池を「元に戻そう」と押したり、力を加えたりするのは絶対にNGです。2021年に沖縄県で発生した事故では、膨張したモバイルバッテリーを使用者が押し込もうとした際に、外力でショートが起き発火しています(NITE報告)。膨らみに気づいたら触らず、すぐに使用中止・適切に廃棄することが鉄則です。
発火しやすい製品・使い方の特徴

消防庁の調査(令和4〜6年)によると、リチウムイオン電池が原因の火災件数は令和4年601件→令和5年739件→令和6年982件と、急激に増加しています。令和7年は1〜6月の上半期だけですでに550件に達しており、このペースでいくと年間1,000件を超える勢いです。
製品別で最も多いのはモバイルバッテリー、次いでスマートフォン、電動アシスト自転車、コードレス掃除機と続きます。
出火原因として多いのは以下のパターンです。
| 製品 | 主な発火原因 |
|---|---|
| モバイルバッテリー | 外部衝撃・高温下での使用 |
| 電動工具 | 非純正バッテリーの使用 |
| 携帯電話機 | 外部衝撃・分解 |
| 共通 | 充電方法の誤り(非純正充電器・ケーブル) |
また、充電中の発火が全体の約6割を占めています(東京消防庁・令和6年調査)。特に就寝中や外出中に充電したままにしている場合、異常に気づくのが遅れて被害が拡大しやすくなります。
リチウムイオン電池の発火対策と正しい備え

充電中の発火を防ぐ正しい使い方
リチウムイオン電池の発火の約6割は充電中に起きています。まず充電まわりの習慣を見直すことが、もっとも効果的な対策になります。
【充電時の安全ルール】
✅ 純正または製品推奨の充電器・ケーブルを使う
✅ 布団・カーペット・ソファの上では充電しない(熱がこもる)
✅ 就寝中・外出中の充電はなるべく避ける
✅ 充電完了後はすぐコンセントから抜く(過充電防止)
✅ 充電中は目の届く場所に置く
✅ 燃えやすい物のそばで充電しない
「安くて便利だから」という理由で非純正の充電器やケーブルを使っている方、ちょっと待ってください。非純正品の中には、過充電を制御する安全回路が不十分なものも少なくありません。防災士として、ここは特に注意していただきたいポイントです。
また、過放電(電池を使いきりすぎること)も劣化を早める原因になります。残量がゼロになるまで使い続けるのも避けた方が安心です。
保管場所と温度管理の基本

リチウムイオン電池は温度に非常に敏感です。高温になると化学反応が加速し、熱暴走のリスクが一気に高まります。
特に要注意なのが夏場の車内です。閉め切った車内の温度は、真夏には60〜80℃を超えることもあります。モバイルバッテリーやスマートフォンを車内に放置するのは、発火の原因になりえます。NITEの事故報告でも、夏場に高温の車内に放置したモバイルバッテリーが発火した事例が記録されています(2023年8月・熊本県)。
【保管・温度管理の基本】
✅ 直射日光・高温の場所に置かない
✅ 車内・窓際・コンロそばに放置しない
✅ 使用しない期間が長い場合は、残量50〜80%程度で保管
✅ 完全放電した状態での長期保管は劣化を早める
✅ 落とした・強い衝撃を与えた製品は念のため点検・交換を検討する
防災グッズとしてモバイルバッテリーや充電式ラジオを備蓄している方は、保管場所の温度管理も意識してみてください。押し入れや倉庫が高温になりやすい環境にある場合は、置き場所を見直す価値があります。
発火したときの消火方法と初期対応

万が一、自宅でリチウムイオン電池が発火した場合、「どうすればいいか」を事前に知っておくことが命を守ります。リチウムイオン電池の火災は、通常の火災とは異なる対応が必要です。
【発火時の対応手順(東京消防庁・NITE準拠)】
① 煙・火花が激しく噴き出しているときは絶対に近づかない
② 火勢が落ち着いたら、大量の水または消火器で消火する
③ 消火後も大量の水で水没させ、完全に冷却する(再発火防止)
④ 119番通報と並行して冷却を継続する
⑤ 素手で触れたり、窓から投げ捨てたりしない
ここで重要なポイントが「水の量」です。少量の水では表面を冷やせても内部の熱暴走を止められず、かえって水蒸気が発生して状況が悪化する場合があります。バケツ一杯程度の大量の水で、完全に冷却・水没させることが必要です。
また、粉末消火器(ABC消火器)は一時的に鎮火できても、内部の化学反応は止まらないため再発火するリスクが残ります。消火器での初期消火に成功しても、必ず大量の水で冷却する作業をセットで行ってください。
「水をかけてはいけない」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。これはリチウム金属(一次電池)の話であることが多く、リチウムイオン電池(スマホやモバイルバッテリーに使われている二次電池)には大量の水が有効です。ただし「少量」は逆効果になりうるため、必ず大量が鉄則です。
モバイルバッテリーを防災グッズに使うときの注意点

防災の観点から、モバイルバッテリーは非常に有用なアイテムです。停電時のスマートフォン充電、情報収集、家族との連絡……被災時の通信手段を確保するうえで欠かせません。ただし、防災グッズとして準備・保管する場合には、発火リスクを踏まえた注意が必要です。
【防災用モバイルバッテリーの選び方・管理ポイント】
✅ PSEマーク付きの国内安全基準適合品を選ぶ
✅ 信頼できるメーカー・販売元の製品を選ぶ(格安品は要注意)
✅ 年に1〜2回は充電し直す(完全放電での長期保管を避ける)
✅ 保管場所は直射日光・高温を避ける
✅ 膨らみ・変形がないか定期的に確認する
✅ 購入から3〜5年経過したものは交換を検討する
また、飛行機での移動を伴う避難(広域避難など)を想定している方は、2026年4月24日から施行された新ルールも把握しておきましょう。国土交通省の指針改正により、モバイルバッテリーの機内持ち込みは160Wh以下・1人2個までと法律で義務化され、違反には罰則が設けられました。機内での充電行為も原則禁止になっています。預け入れ荷物への収納は引き続き禁止です。
一般的な10,000mAh〜20,000mAhのモバイルバッテリーは37〜74Wh程度のため、通常は持ち込み可能ですが、大容量タイプをお持ちの方は事前に確認してください(計算式:mAh × 3.7V ÷ 1,000 = Wh)。
廃棄・処分のルールと火災リスク

リチウムイオン電池の発火は、使用中だけではありません。廃棄時の取り扱いミスによる火災も深刻な問題になっています。
政府広報オンラインによると、リチウムイオン電池が混入した一般ごみから出火した件数は、令和4年度4,260件から令和5年度8,543件へとほぼ倍増しています。ごみ収集車の中で圧縮された際に衝撃が加わって発火するケースが多く、収集車の火災や処理施設の損傷が各地で発生しています。
リチウムイオン電池を「燃えないゴミ」「粗大ゴミ」として捨てることは絶対にNGです。必ず以下の方法で処分してください。
・家電量販店(ヤマダ電機・エディオン等)の回収ボックスへ
・自治体の指定する回収場所へ(JBRCの回収拠点を利用)
・膨張・変形している電池は回収ボックスでは受け付けられない場合があります。その場合は自治体へ相談を。
2025年12月には、関係省庁が連携して「リチウムイオン電池総合対策パッケージ」を策定。「賢く選ぶ(Cool choice)」「丁寧に使う(Careful use)」「正しく捨てる(Correct disposal)」という「3つのC」を国民・事業者に呼びかけています。
まとめ:リチウムイオン電池の発火リスクと備え方
リチウムイオン電池は現代生活に欠かせないものですが、その便利さと引き換えに、適切な知識と扱い方が求められます。
消防庁の統計が示すように、リチウムイオン電池の発火による火災は急増しており、今や誰もが直面しうるリスクです。「自分はスマホしか使っていないから関係ない」とは言えません。スマートフォンそのものが、毎日充電するリチウムイオン電池搭載製品なのです。
防災士として、私が特に強調したいことをまとめます。
【リチウムイオン電池発火リスクへの備え・まとめ】
1. 充電は就寝中・外出中を避け、目の届く場所で行う
2. 純正充電器・ケーブルを使い、非純正品は避ける
3. 膨らみ・変形・異常発熱はすぐ使用中止
4. 高温環境(車内・直射日光)への放置は絶対禁止
5. 発火したら「大量の水で冷却・水没」が基本対応
6. 廃棄は回収ボックスへ。燃えないゴミには出さない
7. 防災用モバイルバッテリーはPSEマーク品を選び、定期点検する
あの日、震災を経験したからこそ、日常の中に潜む危険を軽視してはいけないと強く思っています。リチウムイオン電池の発火リスクも、「知っているかどうか」が大きな差を生みます。この記事が、あなたと家族の安全につながれば幸いです。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
リチウムイオン電池の発火が教えてくれた備え

リチウムイオン電池の発火から私たちが学べることは、「知識と行動」が命を左右するという事実です。
あなたの備えを今すぐ確認してください。
あなたの防災度チェック
- [ ] 充電器・ケーブルは純正品を使っている
- [ ] 就寝中・外出中の充電をしない習慣がある
- [ ] モバイルバッテリーを定期的に点検している
- [ ] 持ち出し袋が玄関にすぐ持って出られる状態にある
- [ ] 家族全員で避難場所・連絡方法を確認している
リチウムイオン電池の教訓は「逃げる準備は、逃げる前に整える」ことを示しています。HIHの防災リュックは、その「準備」をすぐ始められるように設計されています。
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🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得しHIH(Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。

