洪水対策の完全ガイド|ハザードマップから家庭の備えまで防災士が解説

洪水対策の完全ガイド|ハザードマップから家庭の備えまで防災士が解説
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
「大雨のニュースを見るたびに、うちは大丈夫だろうかと不安になる」「川が近くにあるわけじゃないから、洪水対策なんて関係ない気がしている」——そんなふうに感じている方、実は多いんじゃないかと思います。
でも、正直に言います。この「自分には関係ない」という感覚が、水害で一番危険な状態です。2019年の令和元年東日本台風では、私が暮らす福島県を含む全国の水害被害額が約2兆1,800億円に達し、これは統計を取り始めた昭和36年以来の最大値でした(国土交通省「水害統計調査」)。しかも、堤防が決壊した71河川のうち約6割が、それまで浸水想定区域に指定されていなかった中小河川だったのです。
つまり、「ハザードマップに色がついていなかった場所」が次々と浸水したわけです。
あの日を経験してから、水害は他人事ではないと痛感しました。この記事では、洪水対策として「知っておくべき基礎知識」と「今すぐ家庭でできる具体的な行動」を、防災士の視点から丁寧にお伝えします。
洪水対策の前に知っておきたい基礎知識
洪水の仕組みと氾濫の種類

洪水対策を考えるうえで、まず「どんな水害が自分の家に起きうるのか」を理解しておくことが大切です。洪水と一口に言っても、発生のメカニズムによって2種類に分けられます。
外水氾濫は、川の水位が上がりすぎて堤防を越えるか、堤防が物理的に決壊することで起きます。土砂を含んだ大量の水が一気に住宅街に流れ込むため、被害が甚大になりやすく、復旧にも長い時間がかかります。堤防決壊は「越水→侵食→洗掘(せんくつ)」という3段階で進み、決壊が始まると住民が安全に避難できる時間はほとんどありません。
内水氾濫は、雨水が下水道や排水路の処理能力を超えることで、地上に水があふれる現象です。川から離れた場所でも発生しますし、アスファルトで覆われた都市部ほど起きやすいという特徴があります。地面が舗装されていると、自然の土であれば地面に吸い込まれるはずの雨水が全部排水口に流れ込むからです。都市部では時間雨量50mmを超えると内水氾濫のリスクが高まります。
国土交通省のデータでは、水害による浸水棟数のうち約6割が内水氾濫によるものです。川が近くにない場所でも、「強い雨が降ると道路が冠水する」という経験がある地域は要注意です。
洪水・氾濫・浸水・冠水——これらの言葉の違いは少々ややこしいかもしれません。より詳しい解説は内水氾濫と外水氾濫の違いを防災士がわかりやすく解説でまとめていますので、あわせてご確認ください。

ハザードマップで洪水リスクを確認する方法

洪水対策の出発点は、自分の家の「リスクを知ること」です。そのために使うのが洪水ハザードマップです。
洪水ハザードマップは水防法に基づき、各市町村が作成して全世帯に配布が義務付けられています。地図上に「どの区域が、どのくらいの深さで浸水する可能性があるか」が色分けで示されています。紙の地図が手元になければ、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」からも住所検索で確認できます。
確認するポイントは3つです。
まず「浸水想定区域かどうか」を確認します。区域内の場合は浸水が想定される水深も必ずチェックしてください。床上浸水(50cm以上)か、床下浸水(50cm未満)かで取るべき行動が変わります。
次に「避難場所と避難経路」を確認します。近くの指定緊急避難場所はどこか、そこまでどのルートで行くかを家族で共有しておきます。大雨の中では道路が冠水している可能性があるため、複数のルートを把握しておくのが理想的です。
最後に「自宅が浸水した場合の水深予測」を確認します。浸水深が1m以上の場合は、たとえ2階建て以上の建物でも垂直避難(上の階に移動)だけでは命が守れないケースがあります。その場合は早期の立退き避難が必要です。
「うちはハザードマップに色がついていないから安心」という油断は禁物です。前述の通り、令和元年東日本台風では指定外の中小河川の決壊が多発しました。ハザードマップは「最悪の想定」を示したものですが、想定を超えることもあります。
キキクルを使ったリアルタイム情報収集

大雨が降っているとき、「いまどのくらい危険なのか」をリアルタイムで確認できるのが、気象庁が提供する「洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)」です。
スマートフォンやパソコンから気象庁のウェブサイトにアクセスすると、日本全国の河川の洪水危険度が地図上に5段階の色で表示されます。
| 色 | 危険度 | 警戒レベル相当 | とるべき行動 |
|---|---|---|---|
| 水色 | 今後の情報等に留意 | — | 周囲の状況や雨の降り方を確認する |
| 黄 | 注意 | レベル2相当 | ハザードマップで避難場所・経路を確認する |
| 赤 | 警戒 | レベル3相当 | 高齢者等は避難を開始する |
| 紫 | 危険 | レベル4相当 | 速やかに避難行動をとる |
| 黒 | 災害切迫 | レベル5相当 | 命を守る最善の行動を直ちにとる |
キキクルの情報は10分ごとに更新され、最大3時間先までの予測も確認できます。2023年2月からは国土交通省の「水害リスクライン」と一体表示されるようになり、大小河川を問わず洪水危険度をワンストップで確認できるようになりました。
重要なのは、自分がいる場所だけでなく上流地点の危険度も確認することです。上流で「紫(非常に危険)」が出ている場合、数時間後に下流に到達します。下流の地点で色がついていなくても、油断は禁物です。
(出典:気象庁「キキクル(危険度分布)」)
洪水警報の意味と避難のタイミング

洪水対策で多くの方が迷うのが「いつ避難すればいいのか」という点です。避難のタイミングを判断するために、気象情報と自治体の避難情報を正しく理解しておく必要があります。
洪水注意報は「洪水による災害が発生するおそれがある」状態です。この段階でハザードマップを確認し、避難の準備を始めておきましょう。
洪水警報は「重大な洪水災害が発生するおそれがある」状態です。川の近くにお住まいの方、浸水想定区域内にお住まいの方は、自治体からの避難情報を待たずに自主的な避難を検討してください。
自治体から発令される避難情報は警戒レベルで示されます。「高齢者等避難(レベル3)」が出たら高齢者・障がいのある方は避難開始、「避難指示(レベル4)」が出たら全員が避難するのが基本です。
「避難指示が出てから動こう」は危険です。警報や避難指示は気象庁や自治体が発令しますが、実際に水位が上がるのはその後です。大雨の中での移動は転倒・転落リスクが高く、夜間や暗闇での移動はさらに危険です。「早すぎた避難」は取り返しがつきますが、「遅すぎた避難」は命にかかわります。
洪水が起きたときの正しい避難行動

洪水発生時・発生直前の避難行動には、知っておくべき鉄則があります。
まず水が出始めてから逃げるのは遅いと覚えておいてください。膝の高さ(約50cm)まで浸水すると歩行が困難になります。さらに深くなると浮力で足を取られやすくなり、下水道のマンホールが外れていれば転落する危険もあります。水が出てからの避難は非常に危険です。
垂直避難(建物内の上階への移動)は、立退き避難が難しい状況での緊急手段です。ただし、外水氾濫による浸水が想定以上に深くなる場合や、最上階まで浸水する可能性がある区域では、垂直避難だけでは不十分なこともあります。ハザードマップで自宅の浸水想定深さを確認したうえで、事前に「立退き避難」か「垂直避難」かを判断しておきましょう。
また、避難路となる道路の状況も事前に把握しておくことが大切です。大雨時に冠水しやすい道路、水はけが悪い低地、アンダーパス(立体交差の低いところ)は浸水しやすく危険です。平常時に複数のルートを歩いておくと、いざというときに判断が速くなります。
今すぐできる洪水対策と家庭の備え
洪水被害を最小限にする住まいの工夫

洪水対策は「避難すること」だけではありません。自宅への浸水を少しでも防いだり、被害を小さくする「住まいの工夫」も大切な対策です。
最も手軽に始められるのが水のう(水嚢)を使った対策です。ゴミ袋を二重・三重にして水を入れ、口をしっかり縛るだけで完成します。玄関前や窓の前に並べることで簡易的な防水壁になります。また、大雨時には下水道が満水になってトイレや洗濯機の排水口から汚水が逆流してくることがあります。排水口に水のうを置くだけで逆流防止に効果があります。
より本格的な対策として吸水土のうがあります。水に触れると数分で膨張する吸水ポリマー入りの袋で、土を用意する必要がなく、高齢者でも比較的扱いやすい製品です。ホームセンターで1袋300円〜1,500円程度で購入できます。浸水リスクが高い地域の方は、数袋を事前に備えておくと安心です。
自治体によっては、土のうを無料配布している場合があります。また、簡易止水板の購入に補助制度を設けている自治体も増えています。お住まいの市区町村のウェブサイトで確認してみてください。
床下換気口や通気口など、比較的低い位置にある開口部は浸水の侵入口になりやすいです。大雨が予想されるときは、防水テープで塞いでおくことで床下浸水を防げる場合があります。また、家の周りの側溝・雨水ますを定期的に掃除して落ち葉やゴミを除去することも、内水氾濫リスクの軽減につながる地味ですが大切な対策です。
浸水想定区域に住む人が取るべき対策

ハザードマップで浸水想定区域内に自宅が含まれている場合、より積極的な備えが求められます。
まず取り組んでほしいのが「マイタイムライン」の作成です。マイタイムラインとは、台風・大雨が近づいたときに自分や家族がいつ何をするかを時系列でまとめた個人の行動計画です。国土交通省が作成支援ツールを提供しており、「台風が○時間後に接近」「川の水位が△に達したら」など、具体的な条件に応じた行動をあらかじめ決めておきます。
「いざとなれば逃げればいい」と思っていても、実際に大雨・夜間・複数の避難ルートが冠水している状況では、一から判断するのは非常に難しいものです。マイタイムラインがあれば「このタイミングになったらこう動く」と事前に決めてあるので、パニックにならずに行動できます。
次に、日用品・重要書類・家電製品の保管場所を見直すことも大切です。貴重品(通帳・印鑑・保険証・薬・スマートフォン充電器)は、浸水を想定して高い場所に置いておく習慣をつけましょう。床に置いている家電製品(空気清浄機・ヒーター等)は、大雨が予想される前に台の上や棚の上に移しておくだけで被害を減らせます。
浸水深50cm(膝下)で床上浸水となり、冷蔵庫・洗濯機・エアコン室外機などの大型家電がすべて使えなくなります。浸水深1m(腰上)では、ほとんどの家財が全損になります。「どうせ保険がある」という考えもありますが、被害を受けてからの精神的・経済的負担は想像以上です。事前の一手間が大切です。
非常持ち出し袋に加えたい洪水対策グッズ

地震の場合と水害の場合では、避難の際に必要なものが少し変わってきます。通常の非常持ち出し袋に加えて、洪水・水害を想定した場合に加えておきたいアイテムがあります。
最優先で追加したいのが防水バッグ・防水袋です。水害時の避難では荷物が濡れるリスクが高く、スマートフォンや重要書類が水濡れすると取り返しがつきません。防水リュックカバー(1,000〜3,000円程度)を普段の防災リュックに取り付けておくか、リュックの中にジップロックなどの防水袋を用意しておきましょう。
ビニール袋(大・小)を多めに用意しておくことも有効です。避難時の荷物の防水、水のう作成(玄関浸水防止)、濡れた衣類の収納、避難所でのゴミ袋など、大雨・水害時には思いのほか多用します。
また、水害時は下水道から汚水が混じった水があふれることがあります。感染症予防の観点から、防水手袋・長靴・消毒液を持ち出し袋に加えておくと安心です。スリッパや普通の運動靴で浸水した道を歩くと、靴に水が入って非常に歩きにくくなります。
非常持ち出し袋の基本的な中身については、非常用持ち出し袋の中身最低限リストを解説!をご参照ください。

車と地下空間での水害時の行動ルール

水害時に特に注意が必要な場所が「車の中」と「地下空間」です。毎年、この2カ所で亡くなる方が出ています。
車での避難・移動中に浸水した場合のルールは明確です。水深30cmでドアに強い水圧がかかり始め、50cm前後でエンジンが停止する可能性があります。水位がドアの下端を超えると、内外の水圧差でドアは外から開けられなくなります。
もし車内に水が入ってきた場合は、水位が均衡した段階でドアを押し開けるか、脱出用ハンマーで窓を割って脱出します。脱出ハンマーは1,000円程度で購入できます。シートベルトカッターと一体型の製品も多く、ダッシュボードや運転席脇に常備しておくことを強くすすめます。
浸水した道路を車で走ることは極めて危険です。水深が見た目より深い場合が多く、排水ます・側溝の蓋が外れていることもあります。大雨時に車で移動せざるを得ない場合は、冠水している道路には絶対に進入しないでください。「この程度なら大丈夫」という判断が命取りになります。
地下空間(地下街・地下駐車場・アンダーパス・地下鉄ホーム)への注意も必要です。地下は周囲より低い構造のため、大雨時には短時間で急激に浸水します。地上では穏やかに見える大雨でも、地下では猛烈な勢いで水が流れ込んでくることがあります。浸水深10cmでも強い水流の中では立っていられなくなります。大雨・洪水警報発令時は、地下空間への立ち入りをできる限り避けてください。
子供や高齢者がいる家庭の洪水対策

洪水対策は、家族構成によって特に注意すべき点が変わります。
子供がいる家庭では、学校・保育園にいるときに水害が起きた場合の対応を事前に確認しておくことが重要です。「引き渡し訓練」がある学校でも、具体的な引き渡しのルールを担任の先生に聞いておきましょう。また、子供だけで帰宅する時間帯に大雨になった場合、どこに避難するか(学校に留まる、近くの建物に避難する等)を親子で話し合っておくと安心です。
高齢者がいる家庭では、避難に時間がかかることを前提に動かなければなりません。高齢者は「高齢者等避難(警戒レベル3)」の発令と同時に避難開始です。「様子を見てから」では手遅れになる可能性があります。
足腰が弱く歩行が難しい場合、浸水した道を歩くのはさらに危険です。車での移動が可能なうちに避難できるよう、「警報が出たらすぐ動く」という家族のルールを決めておくことが大切かなと思います。かかりつけの薬・入れ歯・眼鏡・補聴器など日常生活に欠かせないものを素早く持ち出せるよう、非常用袋にまとめておくことも忘れずに。
ペットを飼っているご家庭は、同行避難(ペットと一緒に避難所に行くこと)ができる避難所を事前に確認しておきましょう。水害の場合、避難が長期化することもあり、ペットの食料・水・ケージも事前に準備しておくと安心です。
まとめ 洪水対策で家族の命を守るために

ここまで洪水対策として「知識・情報収集・住まいの工夫・避難行動」の4つの柱をお伝えしてきました。最後に、今日から始めてほしいことを整理します。
今すぐできる洪水対策チェックリスト
・洪水ハザードマップで自宅の浸水リスクを確認した
・気象庁「洪水キキクル」をスマートフォンのブックマークに登録した
・避難場所・避難ルートを家族で共有した
・マイタイムラインを作成した(または作成を計画している)
・水のう用のゴミ袋を自宅に常備している
・防水バッグカバーまたは防水袋を非常持ち出し袋に加えた
・車に脱出ハンマーを備えた
・高齢者・子供がいる場合の避難ルールを決めた
「全部やらなきゃ」と思うと気が重くなる方も多いと思いますが、一つずつ始めれば大丈夫です。まず今日は洪水ハザードマップを開いてみることから始めてみてください。
気候変動の影響で、1時間50mm以上の短時間強雨の発生回数はここ40年で約1.4倍に増加しています。かつては水害がなかった地域でも、突発的な浸水が起きる時代になっています。洪水対策は「備えすぎ」ということはありません。今日の一歩が、いつか家族の命を守る一手になることを願っています。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得しHIH(Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。

