会社の防災グッズ完全ガイド|配る・置くの分け方と3つの保管法

会社の防災グッズ完全ガイド|配る・置くの分け方と3つの保管法
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
「会社の防災グッズを揃えることになったのですが、社員一人ひとりに配るべきでしょうか。それとも会社にまとめて置くべきでしょうか」——法人のお客様からいちばん多くいただくご相談が、これです。
結論から言うと、会社の防災グッズは「配る」か「置く」かの二択ではありません。用途で分けて、両方そろえるのが正解です。実はこれ、私の持論ではなく、国のガイドラインにもそう書かれています。
この記事でわかること
- 個人配布と会社共用備蓄の役割の違いと、その分け方
- それぞれに入れるべき品目(内閣府ガイドライン準拠)
- 自席保管・自宅配送・倉庫備蓄という3つの保管方式の使い分け
- 1人あたり5,000円・1万円・1万5,000円で組める中身の目安
- 備蓄が「義務」なのかどうかの正確な話

会社の防災グッズは配るか置くか

まずは、この判断の全体像から整理していきます。ここを間違えると、せっかく予算を取って買ったのに「いざというとき誰も使えなかった」という結果になりかねません。
前提として、数字をひとつだけ共有させてください。東日本大震災のとき、首都圏では約515万人の帰宅困難者が発生したと内閣府は推計しています。そして首都直下地震などの大規模地震では、1都4県で最大約840万人、うち約250万人が高齢者や障害のある方などの要配慮者になると推計されています(首都直下地震対策検討ワーキンググループ報告書・令和7年12月)。
この数字が意味するのは、「電車が止まって帰れない人が大量に出る」という状況が、決して例外的なシナリオではないということです。そしてそのとき、従業員は会社の中にいるかもしれないし、外回りの途中かもしれないし、そもそも在宅勤務中かもしれない。会社の備えを設計するというのは、この3パターンすべてに手当てをすることなんですね。
会社の防災グッズとは何を指すか

会社の防災グッズとは、災害時に従業員の命と安全を守るために企業が用意する備蓄品や保護具のことです。従業員に個別配布するものと、社内に共用備蓄として置くものの2種類に分かれます。
この「2種類ある」という前提が抜けたまま検討が始まると、たいてい話がこじれます。総務のご担当者が「200人分の水と食料を置く場所がない」と行き詰まるケース、本当に多いんですよね。でも、全部を会社に置く必要はないんです。
個人配布と共用備蓄の違い

両者は、そもそも守ろうとしているものが違います。ここを並べて比べると、一気に整理しやすくなります。
| 観点 | 個人配布 | 会社共用備蓄 |
|---|---|---|
| 守る対象 | 従業員本人と、その家族 | 事業継続と、社内にいる全員 |
| 効く場面 | 帰宅時・自宅での避難生活 | 社内待機(一斉帰宅抑制) |
| 管理主体 | 従業員本人 | 総務・防災担当者 |
| 期限管理 | 個人任せになりやすい | 一括で管理しやすい |
| 保管スペース | 社内スペースを使わない | まとまった場所が必要 |
| 予算の考え方 | 福利厚生の性格を帯びやすい | 備蓄・BCP投資の性格 |
大事なのは「効く場面」の行です。共用備蓄は、あくまで会社の中にいる間にしか効きません。そして災害は、就業時間中に起きるとは限らないんですよね。
ちなみに「なぜ3日分なのか」も、ここで整理しておきます。大規模地震の発生直後は、救命・救助活動や消火活動が最優先されます。そこへ大量の人が一斉に徒歩で帰宅を始めると、緊急車両の通行を妨げてしまう。だから原則72時間(3日間)は安全な場所にとどまり、おおむね4日目以降に順次帰宅するというのが国の基本方針です。これを一斉帰宅抑制といいます。
つまり会社の共用備蓄は「社員をもてなすため」ではなく、社員を安全に社内に足止めするための道具だと考えるとしっくりきます。目的が違えば、選ぶものも変わってきます。
個人に配る防災用品の考え方

2011年3月11日、私は福島市の事務所で被災しました。防災士として今も鮮明に覚えているのは、職場での困りごとよりも、そのあとの自宅での数日間のほうがはるかに厳しかったということです。停電と断水が続き、スーパーは1週間ほど閉まったまま。ガソリンスタンドには3日連続で6時間並びました。あのとき本当に必要だったのは、会社の倉庫にある備蓄ではなく、自分と家族の手元にある備えでした。
だから私は、個人配布の中身を考えるときは「その人が家に帰る道中と、帰ったあとの夜」を想像してください、とお伝えしています。具体的には、こういうものです。
- 照明(ヘッドライトなど両手が空くタイプ)
- 携帯トイレ(断水時に真っ先に困るのがトイレです)
- モバイルバッテリー・充電手段(家族との安否確認に直結)
- 歩きやすい靴(革靴やパンプスでの長距離徒歩は現実的ではありません)
- 保温シート・簡易レインウェア(季節を問わず体温低下は起こります)
- 飲料水・行動食(移動中に口にできる量で十分)
これは私の経験則だけではありません。内閣府のガイドラインでも、従業員自身が備えるものとして非常用食品・飲料水・運動靴・常備薬・携帯電話用電源が例示されています。国も「会社が全部やる」とは言っていないんですね。
防災理科メモ:なぜ「両手が空く」ことが重要なのか
停電した屋内や夜間の屋外では、人は視覚情報の大半を失います。このとき手持ちのライトを使うと、片手がふさがったまま段差や落下物を避けることになり、転倒時にとっさに手が出せません。ヘッドライトのように光源を頭部に固定すると、視線の向きと照射方向が一致するうえ、両手を防御と支持に使えます。避難時のけがを減らすという意味で、これは装備の差というより「体の使い方」の差なんです。
会社で共用すべき防災用品

一方、会社側に置くべきものは「量」と「共有効率」で決まります。1人分ずつ配ると膨大になるもの、個人では持てないものが該当します。
数量の基準は、内閣府が明確に示しています。3日分の目安は、水が1人1日3リットルで計9リットル、主食が1人1日3食で計9食、毛布が1人1枚です。あわせて、簡易トイレ・衛生用品、敷物、携帯ラジオ・懐中電灯・乾電池、救急医療薬品類が「特に必要性が高いもの」として挙げられています(出典:内閣府『災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン』)。
算定するときに見落とされやすいポイントが2つあります。
人数算定の落とし穴
① 対象は雇用形態を問わず、事業所内で勤務する全従業員です。正社員だけで数えると足りません。
② 来客者などのために、10%程度を余分に備蓄することがガイドラインで例示されています。
さらに、事業継続の観点から非常用発電機、工具類、携帯用ガスコンロ、ヘルメット、軍手、地図なども検討品目として示されています。このあたりは業種によって優先度が大きく変わる部分ですね。自社の人数と日数から必要量を出したい場合は、防災備蓄かんたん計算ツールで水・食料・簡易トイレの数量を自動計算できます。まずはここで現状とのギャップを可視化するのが早いです。
会社防災グッズは義務なのか

「会社の防災グッズって、法律で義務なんですか」というご質問もよくいただきます。ここは正確にお伝えします。
東京都帰宅困難者対策条例(平成24年3月制定・平成25年4月施行)の第7条第2項は、事業者に対し、従業者の3日分の飲料水・食糧その他必要な物資を「備蓄するよう努めなければならない」と定めています。つまり努力義務であり、罰則規定は設けられていません。ネット上には「義務化された」と書かれた情報も見かけますが、条文上はそうではないんですね。
ただし、これで「やらなくていい」とはならないのが実務です。労働契約法第5条は、使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう必要な配慮をするものと定めています。いわゆる安全配慮義務です。努力義務だが、安全配慮の観点からは実質的に取り組みが求められる——この二段構えで理解しておくのが正確だと思います。法的義務の範囲や自治体ごとの条例については、企業の災害備蓄完全ガイドで詳しく整理していますので、そちらもあわせてご覧ください。
会社の防災グッズ導入の進め方
配るものと置くものが決まったら、次は「どこに置き、いくらで、どう調達するか」です。ここでつまずく会社が本当に多いので、実務ベースでお話しします。
自席保管と自宅配送と倉庫備蓄

個人配布と決めた場合でも、その先に3つの選択肢があります。実はここが、防災グッズ導入でいちばん差が出るところです。
| 方式 | 発災時に手が届くか | 総務の手間 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| 自席・ロッカー保管 | 就業中は◎/不在時は× | 中(配布時のみ) | オフィス勤務が中心 |
| 自宅への個別配送 | 夜間・休日・在宅時に◎ | 低(住所リストで一括手配) | テレワーク併用・多拠点 |
| 倉庫・バックヤード備蓄 | 社内滞在時のみ◎ | 高(棚卸し・期限管理) | 大量の水・食料・共用資機材 |
意外に思われるかもしれませんが、従業員の自宅へ直接届ける方式は、総務のご担当者の負担がいちばん軽いことが多いです。社内での配布作業も、保管スペースの確保も発生しないためですね。HIHでも、住所リスト(CSV・Excel)をご提供いただければ、支店・営業所・従業員宅への個別配送や個別梱包に対応しています。テレワークが定着した会社ほど、この方式が現実的だと感じています。
逆に注意したいのが、自席保管を選んだのに「机の引き出しの奥にしまい込まれる」パターンです。配って終わりにせず、置き場所まで指定しておくと定着率が変わります。
一人あたり予算の決め方

予算は「総額いくら」から考えると、たいてい途中で行き詰まります。おすすめは逆算です。
- 対象人数を確定する(雇用形態を問わず全員+来客分10%程度)
- 配る/置くの比率を決める(例:個人配布は1日分、共用備蓄で残り2日分)
- 1人あたり単価の上限を決める
- 単価×人数で総額を出し、稟議に載せる
この順番だと、「なぜこの金額なのか」を数字で説明できるようになります。稟議は金額の大きさより、根拠の有無で通りやすさが変わりますからね。
ここまでは防災グッズという「モノ」に絞ってお話ししてきましたが、実際の担当業務は安否確認の手段づくりや訓練の実施までを含みます。全体の設計から組み立てたい方は、企業防災の進め方10ステップで担当者が最初にやることを順番に整理していますので、そちらから着手するとスムーズです。
価格帯別に入る中身を比較

「1人あたりいくらで、何が入るのか」の相場感です。あくまで構成の目安ですが、判断の物差しにはなると思います。
| 1人あたり | 組み込める中身の目安 | 想定シーン |
|---|---|---|
| 5,000円前後 | ライト・携帯トイレ・保存水・保温シート・ホイッスル・軍手 | まず全員に行き渡らせる |
| 1万円前後 | 上記+非常食・モバイルバッテリー・簡易ヘルメット・衛生用品 | 帰宅困難+自宅1日分 |
| 1万5,000円前後 | 上記+リュック本体・寝袋または保温具・ラジオライト・3日分構成 | 家族分まで想定した備え |
選定内容や数量によって変わりますが、この3段階で組めることが多いです。全員に厚い装備を配るより、まず全員に5,000円クラスを行き渡らせるほうが、組織全体としての備えの底上げにつながります。20万個以上の防災セットをお届けしてきて、これは確信を持って言えます。備えは、いちばん備えていない人のところから崩れるんですよね。
なお、配布した防災用品の会計処理については、福利厚生費・消耗品費などで処理されるとされていますが、金額や配布方法によって取り扱いが変わる場合があります。最終的な判断は顧問税理士にご確認ください。
導入までの納期と必要書類

意外な盲点が、スケジュールです。防災週間(9月)や年度末は需要が集中し、希望数量がすぐに確保できないことがあります。数量が大きいほど、早めのご相談が結果的に安く早く済みます。
社内稟議には、一般的に次の3点があると話が進みやすいです。
- 商品リーフレット(中身が一目でわかる資料)
- 御見積書(人数・単価・総額の根拠)
- 会社概要(発注先の信頼性の説明)
HIHではこの3点をPDFでお届けしていますので、そのまま稟議・予算申請の資料としてお使いいただけます。大口の在庫確保や、予算年度をまたぐ分納スケジュールもご相談可能です。
数量が数百セット規模になる場合、内容のカスタマイズを希望されることもよくあります。たとえば約300セットを安全衛生の記念品として全従業員に配布されたケースでは、標準構成のミニライトを手回し充電式のラジオライトに差し替えたご要望をいただきました。用途が「日常の安心」なのか「発災時の生存」なのかで、最適な中身は変わってきます。ここは遠慮なくご相談いただきたい部分です。
また、内閣府のガイドラインでは年1回以上の実動訓練や図上訓練による手順確認が求められています。配って終わり、置いて終わりにせず、年1回は開けてみる機会をつくってください。中身を一度も見たことがない備蓄は、実質的に無いのと同じですから。
稟議前に確認したい5つのチェック
- 対象人数を雇用形態を問わず数えたか(来客分10%程度を含むか)
- 個人配布と共用備蓄の役割を分けたか
- 配布分の保管場所(自席/自宅/倉庫)を決めたか
- 1人あたり単価の上限を決めたか
- 年1回、中身を開けて確認する運用を決めたか
まとめ 会社の防災グッズ選び

会社の防災グッズは、配るか置くかで悩む必要はありません。社内にいる間を守るのが共用備蓄、社外や自宅を守るのが個人配布。この役割分担さえ押さえれば、あとは人数と予算に落とし込むだけです。
最後にもう一度だけ、福島で被災した人間としてお伝えします。あのとき私が一番怖かったのは、停電した部屋で子どもの顔が見えなかったことでした。道具そのものが人を助ける場面は、実は限られています。でも、備えがあるという事実は心の余裕を生みます。そして心の余裕が、正しい判断と、大切な人を助ける行動につながる。会社の備えも、まったく同じだと思っています。
従業員一人ひとりへの配布を含めた法人向けの構成をご検討中でしたら、法人向け防災セット・従業員配布のご提案で用途別のプランを整理しています。人数・予算・拠点数に応じたお見積りも無料で承っています。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. 会社の防災グッズは何日分用意すればよいですか?
A. 内閣府のガイドラインでは3日分が目安とされ、水は1人1日3リットルで計9リットル、主食は1日3食で計9食が示されています。これは発災後72時間が人命救助を優先する期間にあたるためです。3日分以上の備蓄を検討することも推奨されています。
Q. 会社の防災グッズは個人に配るべきですか、会社に置くべきですか?
A. 両方必要です。社内待機に必要な水・食料・毛布などは共用備蓄、照明・携帯トイレ・充電手段・歩きやすい靴などは個人配布が適しています。内閣府のガイドラインでも、備蓄品の保管場所の分散や従業員への配布を検討するよう示されています。
Q. 会社の防災グッズの備蓄は法律上の義務ですか?
A. 東京都帰宅困難者対策条例では努力義務とされており、罰則規定はありません。ただし労働契約法第5条の安全配慮義務があるため、実質的に取り組みが求められる位置づけです。自治体によって条例の内容は異なるため、所在地の規定をご確認ください。
Q. 会社の防災グッズの人数は正社員だけで数えてよいですか?
A. 雇用形態を問わず、事業所内で勤務する全従業員が対象とされています。さらに来客者などのために10%程度を余分に備蓄することが例示されています。派遣社員やアルバイトを除外して算定すると、実際の必要量に届きません。
🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得し、防災ブランド HIH(エイチアイエイチ/Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。

