帰宅困難者対策|企業が備える3日分チェックリスト付き

帰宅困難者対策|企業が備える3日分チェックリスト付き
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
「大きな地震で電車が止まったら、従業員をどうすればいいのか」。総務や防災の担当になると、一度はこの問いにぶつかるのではないでしょうか。条例やガイドラインの名前は聞いたことがあっても、自社で何をどこまで備えればよいのかは、意外と整理されていないことが多いですね。
帰宅困難者対策は、会社でとどまる備えと、帰宅後に自宅でとどまる備えの2段で考えると整理できます。
2011年3月11日、私は福島で東日本大震災を経験しました。あの日を経験したからこそ、「安全な場所にとどまれる備え」の価値を強く感じています。防災士として300社以上の法人備蓄の支援に携わってきた経験から、現場で本当に役立つ考え方をお伝えします。
この記事でわかること
- 帰宅困難者対策の基本と、企業に求められる備え
- 一斉帰宅の抑制が必要な理由(防災理科)
- 3日分の備蓄の目安と、一時滞在施設との違い
- 帰宅後に自宅でとどまる「在宅避難」の備え
帰宅困難者対策とは?企業に求められる備え

帰宅困難者対策とは、大地震などで交通機関が止まったとき、従業員が一斉に帰宅せず安全に待機できるよう、会社が備蓄や体制を整えておく取り組みのことです。
まずは「帰宅困難者とは誰のことか」「なぜ会社が備える必要があるのか」を順番に見ていきましょう。
帰宅困難者の定義と発生する理由

帰宅困難者とは、地震などで鉄道やバスといった公共交通機関が広範囲に止まり、復旧の見通しも立たないために、徒歩での帰宅が難しくなった人のことです。自治体のガイドラインでも、おおむねこのように定義されています。
規模感は数字を見るとつかみやすいかなと思います。内閣府の推計では、東日本大震災の当日に首都圏で約515万人が帰宅困難になりました。首都直下地震については、内閣府のガイドラインで、1都4県で最大約840万人の帰宅困難者が発生すると推計されています(推計の前提によって数字には幅があります)。
「それは首都圏の話でしょう」と思われるかもしれません。ただ、令和8年1月に改定された内閣府のガイドラインは、地震の被害がない場合(遠地津波など)も対象に含める内容に拡充されました。また、令和3年10月7日の千葉県北西部の地震では、終電時間が近づく中で鉄道が運転を見合わせ、駅前を中心に多くの滞留者が発生したと、防災白書に記録されています。交通が止まれば、場所や規模を問わず起こりうる課題だと言えます。
帰宅困難になる理由は、大きく3つに整理できます。
- 鉄道やバスなどの運行が止まる
- 自宅までの距離が長く、徒歩では帰れない
- 家族の安否が気になり、無理をしてでも帰ろうとする
3つ目は見落とされがちですが、家族の安否が気になって、無理をしてでも歩いて帰ろうとする人もいます。だからこそ、あとで触れる「安否確認の手段」と「自宅の備え」が、会社の備蓄と同じくらい大切になってきます。
一斉帰宅の抑制が必要な防災理科

大地震の直後は、救命・救助、消火、緊急輸送といった応急活動が最優先されます。内閣府は、人命救助にとって特に重要な72時間を踏まえ、発災後3日間は「むやみに移動を開始しない」ことを基本原則としています。これが「一斉帰宅の抑制」です。
理由はシンプルで、大勢の人が一斉に歩き出すと、道路や歩道が人であふれ、救急車や消防車などの緊急車両が通れなくなるからです。さらに、帰宅の途中には延焼火災や余震による看板の落下といった危険もあります。
ここで、防災理科の視点を一つ入れておきます。人が密集した場所で起きる事故には、「将棋倒し」と「群集雪崩」という2つのタイプがあると、都市防災が専門の廣井悠氏(東京大学)が解説しています。
廣井氏の解説によると、将棋倒しは群集事故として最も多いパターンで、1平方メートル(電話ボックスほどの広さ)あたり3〜5人くらいの密度から起こりうるとされています。さらに密度が高まると、1人が倒れただけで周りの人が次々に倒れ込む群集雪崩のような、より深刻な事故につながる危険があります。
ポイントは「人数」ではなく「密度」
危険を左右するのは、人の数そのものではなく、狭い場所にどれだけ詰まっているかです。駅や歩道に人が集中すると、全員が同じ方向へ動こうとして力の逃げ場がなくなります。そこで誰か1人がつまずくと、連鎖が止まらなくなります。
つまり一斉帰宅の抑制は、会社のためだけでなく、従業員自身を二次災害から守るための考え方なんですね。
施設内待機という基本の考え方

一斉帰宅を抑えるために、企業に求められているのが「施設内待機」です。建物や周辺の被害状況を確認し、安全が確認できれば、従業員を事業所内にとどめて待機してもらう考え方です。
施設内待機を成り立たせるには、次の条件が必要になります。
- 建物が安全であること(耐震性、家具の固定、ガラスの飛散防止)
- 水・食料・毛布・簡易トイレなどの備蓄があること
- 家族との安否確認の手段があらかじめ決まっていること
- 待機と帰宅の方針をBCPなどに定め、従業員に周知していること
待機のあとの「出口」も決めておく必要があります。内閣府の「一斉帰宅抑制後の帰宅行動指針」では、応急活動が落ち着くと考えられる発災後おおむね4日目以降を目途に、順次帰宅することが想定されています。ただし、災害の規模や状況によっては3日目までに行政の帰宅支援ができる場合もあれば、4日目以降も応急活動が続く場合もあるとされており、「4日目以降でないと帰してはいけない」という意味ではありません(内閣府『一斉帰宅抑制後の帰宅行動指針』より)。
「動かない」が正解とは限りません
延焼が近くに迫っている、建物に危険があるといった場合は、職場から早めに避難する判断が必要です。むやみに移動しないとは、何があっても動かないという意味ではなく、安全が確認できる限り「待つ」ことを基本にするという意味です。
担当になったばかりで「何から手をつければいいか分からない」という方は、企業防災の進め方|担当者が最初にやる10ステップで、従業員数の確認やリスクの確認といった最初の準備から整理しています。
帰宅困難者対策ガイドラインの要点

帰宅困難者対策の考え方は、国と東京都などでつくる協議会が整理した「一斉帰宅抑制の基本方針」が土台になっています。企業等に求められる主な取り組みは、次の5つです。
| 取り組み | 内容 |
|---|---|
| 従業員の待機 | 被災状況を確認したうえで、従業員等を一定期間事業所内にとどめる |
| 3日分の備蓄 | 水・食料・毛布などの物資を、待機できるだけ備える |
| 待機環境の整備 | 建物の耐震化、家具類の転倒・落下・移動防止、ガラスの飛散防止 |
| BCP等への位置づけ | 待機と帰宅の方針をあらかじめ定め、従業員に周知する |
| 安否確認 | 家族などとの安否確認の手段を決め、従業員に伝えておく |
防災白書では、帰宅困難者等への対応は、行政の「公助」だけでは限界があるため、可能な限り「自助」を前提に、「共助」も含めた総合的な対応が不可欠とされています。会社が備えること自体が、地域全体の混乱を減らす共助の一部になるわけです。
帰宅困難者対策条例で求められる備蓄

備蓄の話でよく名前が出るのが、東京都帰宅困難者対策条例です。平成24年3月に制定され、平成25年4月に施行されました。事業者は、従業員が施設内で待機できるよう、従業者の3日分の飲料水、食料、その他災害時に必要な物資を備蓄するよう努めなければならないとされています(第7条第2項)。
ここで押さえておきたいのは、条文は「努力義務」だという点です。「義務付け」と紹介されることもありますが、正確には努力義務です。
この条例の対象は東京都内の事業者です
福島など都外の会社に、この条例がそのまま適用されるわけではありません。ただ、一斉帰宅抑制の考え方は国のガイドラインにも示されており、交通が止まる事態は地域を問わず起こりえます。都外の会社も、3日分という目安を参考に、BCPの一部として備えておくのが現実的かなと思います。
また、内閣府のガイドラインでは、外部の帰宅困難者(来客者など)に配るための備蓄として、3日分に加えて10%程度を余分に備える考え方も示されています。自社の従業員分だけでなく、来訪者や近隣の方に水を分けられる余力があると、共助の面でも心強いですね。
帰宅困難者対策の備蓄と在宅避難の備え

ここからは、より実践的な話です。会社でとどまる間の備蓄と、帰宅できたあとに自宅でとどまる「在宅避難」の備えを、つなげて考えていきます。
会社にとどまる人の備蓄品リスト

まずは会社に置く備蓄です。1人あたり3日分の目安は、次のとおりです。水と主食の量は、内閣府のガイドライン(令和8年1月改定)にも示されており(出典:内閣府『災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン』)、簡易トイレの回数は東京都の事業所向けマニュアルの例によるものです。
| 品目 | 1人あたり3日分の目安 | 例 |
|---|---|---|
| 水 | 1日3リットル、計9リットル | ペットボトル入り飲料水 |
| 主食 | 1日3食、計9食 | アルファ化米、クラッカー、乾パン、カップ麺 |
| 毛布 | 1枚 | 毛布、保温シート |
| 簡易トイレ | 1日5回、計15回 | 凝固剤タイプなど |
このほか、懐中電灯、携帯ラジオ、乾電池、救急用品、衛生用品、スマホの充電手段なども必要性が高い品目です。寒い時期は使い捨てカイロなどの防寒用品もあると安心です。乳幼児や高齢者、持病のある方など、配慮が必要な人がいる職場は、その分も見込んでおきましょう。
品目ごとの数量や保管の考え方は、オフィスの防災備蓄リスト|1人3日分の内訳と数量に詳しくまとめています。

帰宅困難者一時滞在施設との違い

名前が似ていて混同されやすいのが、「施設内待機」と「帰宅困難者一時滞在施設」です。役割がまったく違うので、ここで整理しておきます。
| 比較項目 | 施設内待機(自社) | 一時滞在施設 |
|---|---|---|
| 対象 | 自社の従業員等 | 帰宅できるまで待機する場所がない帰宅困難者 |
| 目的 | 従業員を安全にとどめ、一斉帰宅を防ぐ | 行き場のない人を一時的に受け入れる |
| 運営 | 事業者が自社で行う | 自治体と連携し、施設管理者が運営する |
| 期間の目安 | おおむね3日間(72時間) | 自治体により異なる(少なくとも一晩、開設は最長3日とする例もある) |
自社が一時滞在施設になる場合は、自治体との協定など、別の準備が必要です。まず目指すのは、自社の従業員が待機できる状態をつくることです。そのうえで、余力があれば外部の方への対応を検討する、という順番がよいと思います。
帰宅後は在宅避難へ切り替える

会社での待機を終えて無事に帰宅できたら、次は自宅での生活です。在宅避難とは、自宅の安全が確認できたときに、避難所へ行かず自宅で避難生活を送ることです。
避難とは「難を避ける」ことで、避難所へ行くことだけが避難ではありません。自宅に倒壊や火災などの危険がなければ、住み慣れた自宅にとどまるほうが、環境が整っていることも多いです。
実際、東日本大震災の宮城県石巻市では、発災から3週間ほどたった3月下旬時点で、在宅等で避難生活を送る人が約6.1万人にのぼり、避難所の避難者の2倍以上だったと、内閣府の検討会資料で紹介されています。内閣府も、在宅や車中泊で避難生活を送る人への支援を進めており、在宅避難は特別なケースではなく、備えておくべき現実の選択肢です。
在宅避難に切り替える判断は、次の点で行います。
- 自宅の建物に倒壊や傾きの危険がない
- 火災や浸水、土砂災害のリスクをハザードマップで確認済みである
- 水・食料・トイレなどの備蓄が自宅にある
会社の待機と在宅避難は、よく似ているようで考え方が違います。違いを表にまとめました。
| 比較項目 | 会社でとどまる(施設内待機) | 自宅でとどまる(在宅避難) |
|---|---|---|
| 目的 | 一斉帰宅を防ぎ、二次災害を避ける | 避難所に頼らず、自宅で生活を維持する |
| 備蓄の目安 | 最低3日分 | 最低3日分、できれば1週間分 |
| 備える主体 | 会社 | 従業員の各家庭 |
| 判断のポイント | 建物の安全と周辺の被害状況 | 自宅の安全とハザードマップ |
内閣府は、家庭備蓄を最低3日分、できれば1週間分と呼びかけています。ライフラインの復旧に時間がかかる場合に備えるためです。会社の3日分と比べて長くなる点は、ぜひ覚えておいてください。
従業員の自宅用に必要なもの

法人の担当者に、ぜひ視点を一つ足してほしいことがあります。それは、「会社に置く備蓄」と「従業員の自宅用の備え」を分けて考えることです。
家族の安否が気になって帰ろうとする人もいると先ほど触れました。家族が自宅で安心してとどまれる備えがあることは、従業員が会社で待機するときの安心材料にもなると、私は考えています。
在宅避難で必要になる主なものは、次のとおりです。
- 飲料水:1人1日3リットルが目安
- 食料:最低3日分、できれば1週間分(ローリングストックが続けやすい)
- 携帯トイレ:1人1日5回分程度が目安
- 照明・電源:ランタン、懐中電灯、モバイルバッテリー
- 熱源:カセットコンロとボンベ
- 衛生用品・常備薬など、その人に必要なもの
ここで、1人分の構成の例として、HIHの「ハザードBOX stay」(会社や自宅にとどまる方向けの、ボックスファイル型の防災セット)の内容を、3日分の目安と並べてみます。
| 項目 | 3日分の目安 | ハザードBOX stayの内容 | 見方 |
|---|---|---|---|
| トイレ | 15回 | トイレの凝固剤・トイレ用ポリ袋が各20回分 | 目安を上回る |
| 防寒 | 毛布1枚 | アルミ寝袋 | 代わりになる |
| 照明・電源 | 必要 | COBミニランタン、ミニライト付きモバイルバッテリー(電池付き) | 対応できる |
| 水 | 9リットル | 保存水2本、給水バッグ | 追加が必要 |
| 主食 | 9食 | 携帯おにぎり3種 | 追加が必要 |
1つで3日分がそろうわけではありません
トイレ、防寒、灯り、電源といった「待機の初動に欠かせないもの」をまとめて確保できる一方、水と食料は人数分を追加で用意する前提です。足りない部分を整理してから備蓄を組み立てるのが、無駄のない進め方です。
従業員数や拠点数が多い会社では、水・食料を含めた数量の組み立てが必要になります。人数や保管場所、想定する災害に合わせて整理したい場合は、従業員数・拠点数に合わせた法人向け備蓄の相談についても参考にしてみてください。
まとめ|帰宅困難者対策の次の一歩

帰宅困難者対策は、3つの要点で整理できます。1つ目は、発災後の3日間は「むやみに移動しない」ことが、救命活動と従業員自身の安全につながること。2つ目は、会社に最低3日分の備蓄を用意し、施設内待機の方針を決めておくこと。3つ目は、帰宅後に自宅でとどまれるよう、従業員の自宅の備えにも目を向けることです。
すべてを一度に整える必要はありません。まずは、次のチェックリストで現状を確認してみてください。
- □ 従業員等の在席人数(来客分も含む)を把握している
- □ 3日分の水・食料・毛布・簡易トイレが人数分そろっている(防災備蓄計算ツールで必要数を確認できます)
- □ 施設内待機の方針をBCP等に定め、従業員に周知している
- □ 家具の固定やガラスの飛散防止など、安全に待機できる環境がある
- □ 家族との安否確認の手段を、従業員が決めている
- □ 従業員の自宅での備え(在宅避難用)を呼びかけている
待機の初動に必要なトイレ・防寒・灯り・電源を1つにまとめた、会社や自宅にとどまる方向けの防災セットとして、HIHの「ハザードBOX stay」があります。水と食料は人数分を別に確保する前提でご覧ください。
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よくある質問

Q. 帰宅困難者対策とは何ですか?
A. 大地震などで交通機関が止まったときに、従業員が一斉に帰宅せず安全に待機できるよう、会社が備蓄や体制を整える取り組みです。内閣府は、救命・救助が優先される発災後3日間は「むやみに移動を開始しない」ことを基本原則としています。
Q. 帰宅困難者対策で、企業は何日分の備蓄が必要ですか?
A. 3日分が目安で、1人あたり水9リットル、主食9食、毛布1枚、簡易トイレ15回分が例示されています(トイレの回数は東京都の例)。外部の帰宅困難者向けに、10%程度の余分を備える考え方もあります。
Q. 帰宅困難者対策条例は、東京都以外の会社にも関係しますか?
A. 東京都の条例は都内の事業者が対象で、3日分の備蓄は努力義務とされています。ただし、一斉帰宅抑制の考え方は内閣府のガイドラインにも示されており、交通が止まる事態は地域を問わず起こりうるため、都外の会社も参考にして備えることをおすすめします。
Q. 一時滞在施設と施設内待機は、何が違いますか?
A. 施設内待機は自社の従業員を会社にとどめることで、一時滞在施設は帰宅できるまで待機する場所がない人を、自治体と連携して一時的に受け入れる施設です。自社の備蓄は、まず従業員の待機を目的に考えます。
Q. 帰宅できたあとの在宅避難には、どんな備えが必要ですか?
A. 家庭備蓄は最低3日分、できれば1週間分が目安で、水は1人1日3リットル、携帯トイレは1人1日5回分程度が目安とされています。自宅の安全をハザードマップで確認し、避難所へ行くか自宅にとどまるかを判断できるようにしておきましょう。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得しHIH(Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。
