冬の防災グッズ完全ガイド|防災士が教える8つの備え

冬の防災グッズ完全ガイド|防災士が教える8つの備え
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
「防災リュックはもう用意してあるから大丈夫」。そう思っている方に、ひとつだけ確認してほしいことがあります。そのリュックは、真冬の停電した部屋で一晩過ごす想定になっていますか。
冬の防災グッズとは、停電や避難で暖房が使えなくなったときに、体温の低下を防いで命をつなぐための備えのことです。水や食料と並んで「保温」が最優先になる点が、ほかの季節と大きく違います。
冬の備えは、量を増やすことではなく「体温を守る道具」を足すことがすべてです。この記事では、何をどう足せばいいのかを順番に整理していきますね。
この記事でわかること
- 冬の災害でなぜ低体温症が起きるのか、その仕組み
- 夏の備えと冬の備えで「優先順位」がどう入れ替わるか
- 防災リュックに冬だけ足すべきものの具体リスト
- あまり知られていない防災頭巾の防寒効果
- 大雪で車が立ち往生したときの命を守る行動
冬の防災グッズが夏と違う理由
冬の防災グッズとは何か

防災グッズというと、水・食料・ライト・携帯トイレといった定番が思い浮かびますよね。これは季節を問わず必要な「土台」です。冬の防災グッズというのは、その土台にプラスして、寒さで体が動かなくなること・判断できなくなることを防ぐための道具を指します。
具体的には、シュラフ(寝袋)、防寒着、カイロ、頭部を覆うもの、断熱マット、温かい飲み物をつくる手段などですね。どれも「腹を満たす」ものではなく「体を冷やさない」ためのものです。
ここを見落とすと、水も食料もあるのに寒さで体力を削られていく、という一番つらい状況になってしまいます。
冬の災害で起きる低体温症

ここから少し「防災理科」の話をさせてください。寒さがなぜ命に関わるのか、仕組みを知っておくと備え方が変わります。
低体温症は、日本救急医学会の定義では深部体温が35℃以下に低下した状態とされています。重症度は一般に、軽度(35〜32℃)・中等度(32〜28℃)・高度(28℃以下)に分類されます。原因は寒冷環境そのものだけでなく、体から熱が失われる状態、熱をつくる力の低下、体温調節機能の低下などが単独あるいは複合して起こるとされています。小さな子どもや高齢の方で起こりやすいのも特徴です。
そして、ぜひ覚えて帰ってほしいのがこの点です。
震えが止まったら「回復」ではありません
軽度の段階では、体が熱をつくろうとして骨格筋が震えます(シバリング)。ところが中等度まで進むと、この震えは消失するとされています。つまり「さっきまで震えていた人が震えなくなった」のは、落ち着いたのではなく悪化のサインである可能性があるのです。高度になると筋肉が硬直していきます。
体から熱が逃げる経路は、大きく4つあります。冷たい床や地面に触れて奪われる「伝導」、空気の流れに運ばれる「対流」、体の表面から赤外線として出ていく「放射」、汗や濡れた衣類が乾くときに奪われる「蒸発」です。
冬の避難生活は、この4つが同時に襲ってきます。体育館の冷えた床、隙間から入る冷気、暖房のない空間、汗や雨雪で濡れた服。だから冬の備えは「1枚羽織る」だけでは足りず、床・風・放射・濡れのそれぞれを断つ道具が必要になるわけですね。
東日本大震災では、東北大学災害科学国際研究所の研究チームが宮城県警から提供を受けた9,000人超の犠牲者情報を分析した結果、23人の方が低体温症で亡くなったとされています。避難先で亡くなった方も複数いたとみられており、体が冷えた避難者を毛布で温めた対応例も散見されたことから、低体温症が疑われる状態だった方はさらに多かった可能性が指摘されています。
夏と冬で変わる備えの順位
同じ防災リュックでも、季節によって「何から手をつけるか」は入れ替わります。整理するとこうなります。
| 項目 | 夏の災害 | 冬の災害 |
|---|---|---|
| 最大のリスク | 熱中症・食品の傷み | 低体温症・感染症の拡大 |
| 水の役割 | 脱水を防ぐ(量が最優先) | 脱水+温かい飲み物の材料 |
| 衣類 | 汗を吸う・着替えを多めに | 重ね着で空気の層をつくる |
| 寝る備え | 薄手のシートで十分な場合も | シュラフ・断熱マットが必須級 |
| 電源の用途 | 扇風機・冷却グッズ | 暖房・照明・情報収集 |
| 見落としやすい物 | 塩分・虫よけ | 頭部の保温・手袋・靴下 |
夏と冬で共通しているのは水・食料・トイレ・ライト。変わるのは「体温をどちらに動かすか」という一点だけです。だから冬に向けてやるべきことは、リュックを全部作り替えることではなく、保温の道具を足して入れ替えることなんですね。
停電で暖房が止まる怖さ

2011年3月11日、私は福島市の事務所でこの揺れを経験しました。そのあと停電が2〜3日、断水が2日続きました。暦の上では春ですが、東北の3月はまだ十分に寒い時期です。
あのとき痛感したのは、停電は「暗くなること」ではなく「暖房と情報と灯りが同時に消えること」だという事実でした。エアコンもファンヒーターも、電気がなければ動きません。当時わが家には0歳の娘と7歳の息子がいましたが、暗闇で子どもの顔がはっきり見えないだけで、心の余裕がすっと失われていくのを感じました。
暖房器具は「電気がなくても動くか」で選び分けるのが基本です。石油ストーブは電源不要のものもありますが、換気が必須で一酸化炭素のリスクを伴います。カセットガスストーブは手軽ですが燃料の備蓄量が寿命です。そして最も確実なのは、暖房に頼らず体そのものを保温する道具を持っておくことかなと思います。
令和6年能登半島地震では、1次避難所の避難者数が1月2日に最大40,688人に達しました。内閣府の資料によれば、停電や断水の日数が経過するにつれ、暖房の確保やトイレ不足を訴える声が相次いだとされています。被災者の命と健康を守るため、環境の整ったホテル・旅館等への2次避難も実施されました(出典:内閣府防災『令和6年能登半島地震による被害状況等について』)。
真冬の被災は、それだけで避難所の外へ人を動かさなければならないほどの負荷になる。ここは重く受け止めたいところです。
冬の避難所と感染症対策
冬の避難所にはもうひとつのリスクがあります。感染症です。
厚生労働省は、災害時には断水により流水での手洗いができず、避難所などの密集した環境での集団生活によって、ノロウイルス等による感染性胃腸炎やインフルエンザの感染が拡大するリスクが高まると注意を呼びかけています。ノロウイルスによる食中毒は冬期に多発し、年間の食中毒患者数の約5割を占めるとされています。感染性胃腸炎の報告数は例年10月下旬頃から増え、12月中旬頃にピークを迎える傾向があります。
能登半島地震の避難所でも、呼吸器感染症や消化器感染症の患者が発生し、集団感染が起きた避難所もあったと報告されています。
ここで効いてくるのが、寒さ対策と衛生対策が実は同じ方向を向いているという点です。体が冷えれば体力は落ちます。体力の低下は、感染症への抵抗力にも影響すると考えられます。保温は、感染症対策の入口でもあるわけですね。
冬の避難所で足しておきたい衛生用品
- アルコール手指消毒剤(流水が使えない場合に有効とされています)
- 個人用タオル(タオルの共用は避けるよう呼びかけられています)
- マスクを多めに(密集環境+乾燥対策)
- ウェットティッシュ・使い捨て手袋
- ポリ袋(汚物処理用。厚手のものを複数)
冬の防災グッズで備える防寒対策
防災リュックの中身に足す物

ここからは実際に何を足すか、という話です。すでに基本の防災リュックがある方は、次の8つを「冬だけ足す」と考えてください。
| 足すもの | 断つ熱の逃げ道 | ポイント |
|---|---|---|
| シュラフ(寝袋) | 伝導・対流・放射 | 冬用を選ぶ。圧縮できるタイプが現実的 |
| 断熱マット・段ボール | 伝導 | 床から奪われる熱は想像以上に大きい |
| フリース・ダウンなど中間着 | 対流 | 空気の層をつくる。圧縮袋でかさを減らす |
| 防災頭巾・ニット帽 | 放射・伝導 | 頭部を覆う。後述します |
| 手袋・厚手の靴下 | 伝導・対流 | 末端が冷えると体全体の動きが落ちる |
| 使い捨てカイロ | 熱の補給 | 貼るタイプと貼らないタイプを併用 |
| レインウェア上下 | 蒸発・対流 | 濡れと風を同時に止める。冬の必需品 |
| 保温ボトル | 体の内側から | 温かい飲み物は心の余裕にも直結します |
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注意したいのは、アルミブランケット(保温シート)を防寒の主役にしないことです。軽くて薄く優秀な道具ですが、水蒸気を通さないため、一晩使うと内部に結露が生じて、その水分でかえって体を冷やすリスクがあります。仕組みを詳しく知りたい方はアルミブランケットが温まる理由を熱の伝わり方から解説した記事も読んでみてください。
そしてもう一つの現実的な壁が「重さ」です。冬物はとにかくかさばります。詰め方を工夫するだけで体感はかなり変わるので、防災リュックの詰め方と重さ対策もあわせて確認しておくと安心かなと思います。
防災用シュラフが効く理由

冬の備えでいちばん効果が大きいのに、いちばん抜けているのがシュラフ(寝袋)です。
理由はシンプルで、シュラフは熱の逃げ道を3つ同時に塞げるからです。中綿が空気の層をつくって対流を抑え、体を包み込むことで放射を減らし、床との間に厚みができることで伝導も弱まる。毛布1枚では、このうち対流と放射に部分的にしか効きません。
これは実験でも裏づけられています。JAFが冬の夜間にエンジンを切った車内で防寒対策の違いを検証したテストでは、モニターが朝まで寒さに耐えられたかどうかに、はっきりと差が出ました。
| 防寒対策 | 結果 |
|---|---|
| 対策なし | 2時間45分でギブアップ |
| エマージェンシーシート | 5時間27分でギブアップ |
| 毛布+使い捨てカイロ | 8時間後まで耐えられた |
| 寝袋(冬山用) | 8時間後まで耐えられた |
注目してほしいのは、アルミのエマージェンシーシートだけでは5時間半で限界がきたという点です。持っていれば何もないよりはるかにマシですが、一晩を越すには足りない。寝袋、あるいは毛布とカイロの組み合わせまで用意しておくことの意味が、数字で見えてくると思います。
私が販売の現場で見ていて感じるのは、市販の防災セットは内容が横並びになりやすく、シュラフのような「かさばるけれど効く物」が最初から外されている構成が多いということです。軽くコンパクトに見せたほうが売りやすいという事情もあるのだと思います。
シュラフ選びで見るところ
アウトドア用の本格的なものは高性能ですが、価格も収納サイズも大きくなります。防災用途では「非常時に一晩をしのげる保温力」と「リュックに収まるかさ」のバランスが実用的です。避難所だけでなく、在宅避難で暖房が止まった部屋、車中での仮眠にも使えるので、1人に1つあるのが理想かなと思います。
防災頭巾は冬の防寒に使える

ここが今回いちばんお伝えしたい部分です。
防災頭巾というと、学校の避難訓練で頭を守るもの、というイメージが強いと思います。実際その用途が第一なのですが、中綿の入った布で頭全体を覆うという構造は、冬の防寒具としてかなり優秀なんです。
頭部の保温については、寒冷環境下で帽子を着用した場合の影響を調べた実験報告があります。日本家政学会誌(1994年)に掲載された研究では、寒冷で風のある環境において、無帽の場合は直腸温が有意に下降したのに対し、着帽した場合は変化が認められなかったと報告されています。耳は着帽時も露出していたにもかかわらず、鼓膜温は着帽時のほうが有意に高く保たれたとされ、その理由として、帽子の保温効果で頭頂部や前額部の温度が下がらず、組織伝導による熱放散が減ったことなどが考察されています。
つまり、頭を覆うという行為は、体感的な「寒くない」だけでなく、深部体温の維持そのものに関わってくるということですね。
なお、ネット上には「体温の7割は頭から逃げる」といった説明を見かけることがありますが、これは科学的な裏づけのある数字ではありません。頭部の体表面積は全身の1割程度です。数字を誇張しなくても、頭部の保温には十分な意味がある——それが上の実験が示していることかなと思います。
HIHの防災セットのうち36点入りのハザードリュックのセット内容にも、防災頭巾が入っています。落下物から頭を守る目的で入れているものですが、冬に停電した部屋や避難所で使うと、そのまま防寒具として働きます。ニット帽と違って首の後ろまで覆えるので、首元から入る冷気も抑えられます。すでにお持ちの方は、冬は「防寒具」として数えていただいて大丈夫です。
冬の車の立ち往生への備え

冬の災害は地震だけではありません。大雪による立ち往生も、毎年どこかで起きています。
このとき最も警戒すべきは一酸化炭素中毒です。仕組みはこうです。排気口(マフラー)が雪で埋まると排気ガスが車体の床下にたまり、ボディの隙間やワイパー下の外気導入口を伝って車室内に吸い込まれていきます。一酸化炭素は無色・無臭・無刺激なので、発生に気づくのが非常に難しいのが怖いところです。
JAFのユーザーテストでは、ボンネットの上まで雪を被せた状態でエンジンをかけたところ、車内の一酸化炭素濃度は16分後に400ppm、その後6分で1,000ppmに達したと報告されています。1,000ppmは「3時間ほどで致死」に相当する非常に危険な水準とされています。エアコンを内気循環にしても、車体の隙間などから排ガスが入る危険性があるとのことです。
一方で、同じ条件でもマフラー周辺を除雪しておいた場合は、車内の濃度はほとんど上がらなかったという結果も出ています。つまり、除雪が命を守る作業そのものだということですね。
大雪で立ち往生したときの行動
- マフラー周辺を中心に、車の周囲をこまめに除雪する
- 少なくとも1つのドアが開閉できるよう周辺を除雪する
- 車全体が埋もれた場合はエンジンを切る
- 窓を少し開けても安全とは限らない。除雪が追いつかないときはエンジンを切る
- 除雪作業でも体温と体力を奪われるので、上着と手袋を着けて行う
- 改善しない場合は道路緊急ダイヤル(♯9910)やロードサービスへ連絡する
裏を返せば、車に積んでおくべきものも決まります。スコップ、防寒着、シュラフか毛布、カイロ、携帯トイレ、水と行動食。そして出発前に燃料を満タンにしておくこと。車載の備えを一通り確認したい方は車載用防災グッズの必要最小限リストと選び方で詳しく整理しています。
一人暮らしの方や、まず自分の分から冬対応にしておきたいという方は、シュラフや頭部保護まで含めた構成を最初から組んである1人用防災セットのラインナップと中身を見ていただくと、足りないものが逆算しやすいと思います。
まとめ|冬の防災グッズ総点検

最後に、冬の防災グッズの要点を整理します。
- 冬のリスクの中心は低体温症。深部体温が35℃以下になった状態を指します
- 震えが止まったら悪化のサイン。中等度では震えが消失するとされています
- 熱が逃げる経路は伝導・対流・放射・蒸発の4つ。それぞれを断つ道具が必要です
- 足すべきものはシュラフ、断熱マット、中間着、頭部の保温、手袋・靴下、カイロ、レインウェア、保温ボトル
- アルミブランケットは結露のリスクがあるため主役にしない
- 防災頭巾は冬の防寒具として使える。頭部の保温は深部体温の維持に関わると報告されています
- 冬は感染症の季節でもある。保温と衛生用品はセットで考える
- 車では一酸化炭素中毒を最優先で警戒し、マフラー周辺を除雪する
今日のうちに、防災リュックを開けて「これで真冬の一晩を越せるか」だけ確かめてみてください。足りないものが見つかれば、それはもう備えが一歩進んだということです。
2011年のあの日、私は停電した部屋で、暗さと寒さがこんなに心をすり減らすものかと思い知りました。防災グッズが直接命を救う場面は、正直そう多くありません。でも備えがあることが心の余裕になり、その余裕が、いざというときの正しい判断につながります。冬の防災グッズを整えるというのは、つまりその余裕を用意しておくことなのだと思います。
大切な人を守るために、できるところから始めていきましょう。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. 冬の防災グッズは夏用と別に用意すべきですか?
A. 別に用意する必要はありません。水・食料・トイレ・ライトといった土台は共通なので、冬はそこに保温の道具を足し、季節が変わったら入れ替えるのが現実的です。入れ替えの手間が点検の機会にもなります。
Q. 冬の防災グッズで最初に買うべきものは何ですか?
A. シュラフ(寝袋)をおすすめします。熱が逃げる経路のうち伝導・対流・放射の3つに同時に効くためです。次に優先度が高いのは、床からの冷えを断つ断熱マットと、頭部を覆う防災頭巾やニット帽です。
Q. 防災頭巾は冬の防寒対策として本当に役立ちますか?
A. 役立ちます。中綿入りの布で頭と首の後ろまで覆う構造は、防寒具として機能します。寒冷環境での帽子着用に関する研究では、無帽だと深部体温が下がったのに対し着帽では変化がなかったと報告されています。
Q. 冬に大雪で車が立ち往生したら何に気をつけますか?
A. 一酸化炭素中毒を最優先で警戒してください。マフラーが雪で埋まると排気ガスが車内に侵入します。周囲をこまめに除雪し、車全体が埋もれた場合はエンジンを切ります。車内には毛布やシュラフ、スコップを積んでおきましょう。
Q. 電気が止まったとき暖房はどうすればよいですか?
A. 電源が不要な暖房器具は選択肢になりますが、石油ストーブは換気が必須で、カセットガス式は燃料の備蓄量に限りがあります。最も確実なのは暖房に頼らず、シュラフや重ね着で体そのものを保温する方法です。



