熊本地震の災害関連死はなぜ8割?原因と今日からできる備え

熊本地震の災害関連死はなぜ8割?原因と今日からできる備え
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
2016年4月、熊本を襲った2度の大地震。この災害で亡くなった273人のうち、実に約8割にあたる218人が「災害関連死」でした。地震の揺れそのもので命を落としたのではなく、その後の避難生活の中で命を落とされた方がこれほど多いという事実は、私たちに重い問いを投げかけています。
東日本大震災を福島で経験した私にとって、「一度は助かった命が、その後の環境で失われる」という現実は他人事ではありません。あの日を経験したからこそ、この教訓の重さが分かります。
この記事では、熊本地震の災害関連死がなぜこれほど多かったのか、その原因とメカニズムを公的資料にもとづいて解説し、私たちが今日からできる具体的な備えをお伝えします。
2016年に発生した熊本地震。
この震災で亡くなられた方のうち、直接死を大幅に上回る「約8割」が、地震の揺れそのものではなく、避難生活中の体調悪化やストレスなどが原因で亡くなる「災害関連死」であったことをご存知でしょうか。
本動画では、生まれつき心臓に疾患を抱えながらも、懸命に生き、4歳という若さで空へ旅立った宮崎花梨(かりん)ちゃんの事例を通じ、災害関連死の現実と、避難環境の重要性についてお伝えします。 「命を守る」とは、揺れから逃げることだけではありません。 その後の過酷な環境下で、いかに命をつなぎ止めるか。 私たちはこの現実を教訓に、これからの備えを考え続けなければなりません。
亡くなられた全ての方々に、謹んで哀悼の意を表します。
熊本地震の災害関連死が突きつけた現実

熊本地震の概要と被害の全体像
熊本地震は、2016年4月14日夜にマグニチュード6.5の「前震」が発生し、わずか28時間後の4月16日未明にマグニチュード7.3の「本震」が襲うという、観測史上極めてまれな地震でした。前震・本震ともに最大震度7を記録しています。
熊本県のまとめによると、住家の損壊は約20万棟にのぼり、熊本城の石垣崩落をはじめ、道路・橋梁・鉄道など広範なインフラが被害を受けました。
熊本地震の大きな特徴は余震の多さです。前震・本震から半年間で約4,000回もの余震が発生しました。この繰り返される揺れが、避難生活者の心身に大きな負担を与え続けたとされています。
被災者の多くは、繰り返す余震への恐怖から自宅に戻れず、避難所や車中での生活を余儀なくされました。最大で約18万人以上が一時避難し、そのうち車中泊を選んだ方は推計8万人を超えていたとされています。
災害関連死の人数と直接死との比較
熊本県の発表(2024年3月時点)によると、熊本地震による死者は合計273人です。その内訳は以下のとおりです。
| 区分 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 直接死(建物倒壊等) | 50人 | 約18% |
| 災害関連死 | 218人 | 約80% |
| 地震関連の豪雨による死者 | 5人 | 約2% |
| 合計 | 273人 | 100% |
災害関連死とは、地震の揺れや建物倒壊といった直接的な被害ではなく、避難生活中の身体的・精神的負担によって命を落とすことを指します。熊本地震では、直接死の4倍以上の方が災害関連死として認定されました。
比較として、東日本大震災では死者・行方不明者約2万人のうち災害関連死の認定は3,794人(約19%)でした。熊本地震における災害関連死の比率約80%がいかに突出しているかが分かります。日本の地震災害の歴史全体については日本の大地震の歴史に学ぶ過去の被害年表と未来への対策もあわせてご覧ください。
「災害関連死」は、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、各自治体が審査・認定します。そのため、認定基準には自治体間で差があるという指摘もあり、実際の関連死はさらに多い可能性があります。
災害関連死の内訳と主な死因

熊本県が公表した「震災関連死の概況について」(2021年3月時点)のデータから、災害関連死218人の内訳を見ていきます。
年代別の内訳を見ると、80代が75人(34.4%)で最も多く、次いで70代が46人(21.1%)、90代が45人(20.6%)、60代が31人(14.2%)と続きます。70代以上の方が合計169人で、全体の約78%を占めていました。
また、既往症のあった方は218人中190人(約87%)にのぼり、持病を抱えた高齢者が特に影響を受けやすかったことが数字から明らかです。
死因別では、呼吸器系の疾患が63人(28.9%)、循環器系の疾患が60人(27.5%)と、この2つで半数以上を占めました。避難生活中の肺炎や心不全が主な死因です。また、自ら命を絶たれた方が19人(8.7%)いたことも見逃せない事実です。
性別では男性115人(約53%)、女性103人(約47%)とほぼ同数でした。災害関連死は性別に関わらず起こりうるということですね。
関連死がなぜ多いのかその原因
熊本地震で災害関連死がこれほど多くなった原因は、複合的な要因が重なった結果です。熊本県の調査による原因区分(複数回答)を見ると、その構造が浮かび上がります。
| 原因区分 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 地震のショック・余震への恐怖による肉体的・精神的負担 | 112件 | 40.0% |
| 避難所等生活の肉体的・精神的負担 | 81件 | 28.9% |
| 医療機関の機能停止等による初期治療の遅れ | 14件 | 5.0% |
| 社会福祉施設等の介護機能の低下 | 9件 | 3.2% |
最も多かったのが「余震への恐怖」です。半年で約4,000回という異常な頻度の余震が続いたことで、被災者の心身は限界まで追い詰められました。眠れない夜が何日も続き、常に緊張状態が継続する中で、持病の悪化や新たな疾患の発症につながったと考えられています。
また、地震発生から3ヵ月以内に亡くなられた方が177人(約81%)と集中しており、発災直後から数ヵ月間の避難環境がいかに過酷だったかを物語っています。
災害関連死は地震の直後ではなく、避難生活が長期化する中で起きます。「地震を生き延びたから安心」ではなく、その後の生活環境こそが命を左右するという認識が重要です。
避難所環境と行政対応の課題

災害関連死の背景には、当時の避難所環境の問題がありました。体育館の床に雑魚寝という状態が続き、プライバシーの確保が難しく、トイレの衛生状態も深刻だったと報告されています。
特にトイレ問題が引き起こす「負の連鎖」は、災害関連死のメカニズムを理解するうえで非常に重要です。断水によってトイレが不衛生になると、排泄を我慢する人が増えます。すると水分や食事の摂取量が減り、脱水症状や栄養状態の悪化が進みます。これがエコノミークラス症候群や心筋梗塞、脳梗塞などの重篤な疾患につながっていくのです。
この課題を受けて、現在では避難所運営において「TKB」(トイレ・キッチン・ベッド)の早期整備が重要視されるようになりました。国際的な人道支援基準である「スフィア基準」を参考に、避難所の質を向上させる取り組みが進められています。
熊本県はこれらの結果をふまえ、災害関連死の主な原因を「高齢者等の要配慮者の方が、避難所など慣れない環境の中で長期間の避難生活を強いられたことによる肉体的・精神的負担」としています。この分析が、その後の防災対策の見直しにつながりました。
熊本地震の災害関連死から学ぶ備え
車中泊避難に潜むリスクと対策

熊本地震で特に注目されたのが、車中泊避難によるエコノミークラス症候群の問題です。推計8万人以上が車中泊避難を選んだとされ、関連死のうち数十人が車中泊をしていたことが報告されています。
エコノミークラス症候群とは、長時間同じ姿勢で座り続けることで足の深部静脈に血栓(血のかたまり)ができ、それが肺の血管を詰まらせる病気です。本震からわずか2日後までに18人が肺塞栓症を発症し、全員が車中泊者でした。
新潟大学の榛沢和彦教授の調査では、新潟県中越地震で車中泊をしていた方の約3割に血栓が見つかったという衝撃的な結果が報告されています。車中泊は決して特殊な避難方法ではなく、誰もが選びうる選択肢だからこそ、リスクを知っておく必要があります。
車中泊避難でエコノミークラス症候群を防ぐ3つの鉄則
①こまめに水分を補給する(トイレを我慢するために水を控えない)
②1時間に1回は足を動かす・外に出て歩く
③座ったまま寝ない(シートを倒して足を伸ばせる環境を作る)
2025年には、熊本市が全国に先駆けて「車中泊避難者支援ガイドライン」を策定しました。震度6弱以上の地震発生時に自動開放される車中泊専用の避難場所を設定し、保健師が巡回して健康観察を行う体制を整えています。これは熊本地震の教訓が具体的な制度として形になった好例です。
高齢者と持病のある方を守るには
熊本地震の災害関連死では、70代以上が約78%、既往症のあった方が約87%を占めていました。高齢者や持病のある方が、避難生活の中で特に大きなリスクにさらされることは明らかです。
最も大切な備えの一つが「処方薬の備蓄」です。災害救助法には「災害処方箋」制度があり、かかりつけ医に行けない状況でも救護所の医師から処方箋を発行してもらえます。しかし、発災直後は医療機関自体が機能停止することもあります。平時からかかりつけ医と相談して、処方薬を1〜2週間分多めに備蓄しておくことが命を守る行動になります。
また、呼吸器系疾患が死因の約29%を占めていたことから、口腔ケアの重要性も指摘されています。避難所生活では歯磨きがおろそかになりがちですが、口腔内の細菌が肺に入り込む誤嚥性肺炎は、高齢者にとって命にかかわります。口腔ケア用ウェットティッシュを非常持ち出し袋に入れておくことをおすすめします。
熊本地震の災害関連死のうち、30代・40代の方も亡くなられています。「若いから大丈夫」ではなく、避難生活の負担は年齢に関わらず命に影響するということを忘れないでください。
在宅避難という選択肢を考える

避難所の過密状態や車中泊のリスクを考えると、自宅が安全であれば「在宅避難」を選ぶことが災害関連死を防ぐ有効な手段になります。
在宅避難を可能にするためには、まず自宅の耐震性を確認することが前提です。そのうえで、最低3日分、できれば1週間分の水・食料・生活用品を備蓄しておきましょう。非常持ち出し袋の中身について詳しくは防災リュックの中身リストと選び方の完全ガイドでも解説しています。
特に重要なのが簡易トイレの備蓄です。断水時にトイレが使えなくなることは、避難所でも在宅でも深刻な問題です。先ほどお伝えした「トイレの負の連鎖」を断ち切るには、水を使わずに処理できる非常用トイレが不可欠です。1人1日あたり5〜7回のトイレ使用を想定すると、家族の人数×7回×最低3日分の簡易トイレを用意しておくと安心です。
福島で被災した私が今伝えたいのは、避難所に行くことだけが避難ではないということです。自宅の安全を確保して在宅避難できる準備をしておくことが、結果的に災害関連死のリスクを下げることにつながります。
家族の避難計画を今すぐ見直す

熊本地震の教訓から、家族で話し合っておくべきことは明確です。
まず確認してほしいのが「避難先の選択肢」です。指定避難所だけでなく、親戚や知人の家、自宅での在宅避難、車中泊を選ぶ場合の場所など、複数の選択肢を持っておきましょう。特に高齢の家族がいる場合は、福祉避難所の場所と開設条件を事前に確認しておくことが大切です。
次に、家族の健康情報をまとめておくことです。持病の内容、服用中の薬の名前と量、かかりつけ医の連絡先、アレルギー情報などを一枚の紙にまとめ、非常持ち出し袋に入れておきましょう。お薬手帳のコピーでも構いません。熊本地震では医療機関の機能停止による初期治療の遅れが関連死の一因でしたが、こうした情報があれば別の医師にかかる際にも迅速な対応が可能になります。
避難計画で決めておくべき5つのこと
①避難先の選択肢(避難所・在宅・親族宅・車中泊場所)
②家族の集合場所と連絡方法
③健康情報と処方薬の備え
④ペットがいる場合の避難方法
⑤要配慮者(高齢者・乳幼児)の移動手段
災害関連死は「防げる死」です。熊本地震の教訓を生かして、今日できることから始めていただければと思います。
まとめ 熊本地震の災害関連死の教訓

熊本地震では、273人の死者のうち約8割にあたる218人が災害関連死でした。地震そのものを生き延びた後の避難生活で、これほど多くの命が失われたという事実は、私たちの防災意識に根本的な変革を求めています。
この記事でお伝えした主なポイントをまとめます。
災害関連死の約78%が70代以上の高齢者で、約87%に既往症がありました。主な死因は呼吸器系・循環器系の疾患で、余震への恐怖や避難生活の負担が最大の原因です。車中泊によるエコノミークラス症候群も大きなリスク要因でした。
私たちが今できる備えは、処方薬の備蓄、簡易トイレの準備、家族の避難計画の見直し、そして在宅避難を可能にするための自宅の耐震確認と備蓄です。備蓄品を見直す際は防災グッズでいらなかったものを防災士が解説も参考にしてみてください。
あの日を経験したからこそ言えることがあります。「地震から生き延びること」と「地震の後を生き延びること」は、まったく別の備えが必要だということです。熊本地震の災害関連死の教訓は、この事実を私たちに教えてくれています。
数値データはあくまで一般的な目安です。正確な情報は公式サイトでご確認ください。最終的な判断は専門家にご相談ください。
本記事は公的資料をもとに作成していますが、災害の記録は調査の進展により数値が変わることがあります。最新の正確な情報は各省庁・自治体の公式情報をご確認ください。また、掲載内容は特定の個人・団体を批判するものではなく、防災の教訓を共有することを目的としています。
(出典:熊本県『平成28(2016)年熊本地震等に係る被害状況について』)
災害関連死が教えてくれた備え
熊本地震の災害関連死から私たちが学べることは、「知識と行動」が命を左右するという事実です。
あなたの備えを今すぐ確認してください。
あなたの防災度チェック
- ☐ 処方薬を1〜2週間分多めに備蓄している
- ☐ 簡易トイレを家族人数×7回×3日分以上用意している
- ☐ 車中泊時のエコノミークラス症候群の予防法を知っている
- ☐ 持ち出し袋が玄関にすぐ持って出られる状態にある
- ☐ 家族全員で避難場所・連絡方法を確認している
熊本地震の教訓は「逃げる準備は、逃げる前に整える」ことを示しています。HIHの防災リュックは、その「準備」をすぐ始められるように設計されています。
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🛡️ 防災士監修記事
後藤 秀和(ごとう ひでかず)
防災士/株式会社ヒカリネット 代表取締役
2011年3月11日、東日本大震災を福島で経験。「あのとき備えていたら」という後悔をなくすため、防災士資格を取得しHIH(Hope is Here)を設立。防災セット累計出荷20万個超、法人導入実績300社以上。


