地震の縦揺れと横揺れどっちが危ない?仕組みと対策を防災士が解説

地震の縦揺れと横揺れどっちが危ない?仕組みと対策を防災士が解説
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
地震が発生した瞬間、突き上げるような「ドンッ!」という衝撃に心臓が早鐘を打ち、その直後に襲ってくる船酔いするようなゆったりとした大きな横揺れに恐怖した経験はありませんか?
特に夜中などに緊急地震速報のアラーム音で叩き起こされた時、「今の地震は縦揺れだったから、このあと大きいのが来るかも」「いや、横揺れだから建物が倒壊する心配があるんじゃないか」と、頭の中で様々な情報が錯綜してパニックになってしまう方は非常に多いです。
ニュースや防災講習でも頻繁に議論されるこの「縦揺れ」と「横揺れ」ですが、実はこの二つ、どちらがより危険かという単純な二元論では語れません。ご自身や大切な家族の命を守るためには、それぞれの揺れが持つ「役割」と「破壊の特性」を正しく理解しておくことが、初動の生死を分ける鍵になります。
この記事では、福島で震度6弱を3度経験した私が、P波やS波といった地震波の科学的性質から、マグニチュードや震源の深さが揺れ方にどう影響するのかまでを噛み砕いて解説します。敵(地震)の正体を知ることで、漠然とした恐怖を「生き残るための冷静な判断」に変えていきましょう。
- 地震の「縦揺れ」と「横揺れ」が起きる物理的な仕組みと、伝わる速さの決定的な違い
- なぜ最初の「ドン」という衝撃が、命を守るための最も重要な合図となるのか
- 建物が層状に潰れる「パンケーキ崩壊」や、家具が天井まで飛ぶ現象の本当の恐ろしさ
- 今日から自宅でできる、縦と横それぞれの揺れに特化した「最強の家具固定方法」
地震の縦揺れ・横揺れ、どっちが危険?そなぷーが教える家具転倒防止の基本


地震の縦揺れと横揺れはどっちが危ないか仕組みを解説

一般的に「縦揺れは突き上げるから怖いけど、被害範囲は狭い」「横揺れは広範囲で家が壊れる」といった話を聞くことがあります。しかし、これらはあくまで一面的な事実に過ぎません。
まずは、なぜ同じ地震なのに揺れ方に違いが出るのか。その正体である「地震波」のメカニズムから紐解いていきましょう。ここを理解すると、緊急地震速報の仕組みもスッキリと分かります。
P波とS波の違いと伝わる速さ

地震が発生すると、震源からは主に2種類の波が放出されます。これが皆さんも聞いたことがあるかもしれない「P波(縦揺れ)」と「S波(横揺れ)」です。この2つは同時にスタートを切りますが、地中を伝わる「足の速さ」と「進み方」が決定的に違います。
音速のような速さで届くP波
最初に私たちの元へ到達するのはP波(Primary Wave:第一波)です。
P波は、バネを押し縮めた時のような「疎密波(縦波)」として伝わります。進行方向に対して「押したり引いたり」しながら進むため、地表に届くと地面を上下に揺らします。その速度は岩盤の固さにもよりますが、秒速約7km(時速約25,000km)という猛スピード。これはジェット機どころか、音速をも遥かに超える速さです。
破壊力を伴って遅れてくるS波
そのP波に遅れてやってくるのがS波(Secondary Wave:第二波)です。
こちらはロープを波打たせた時のような「ねじれ波(横波)」です。進行方向に対して直角に、地面を左右に揺さぶりながら進んできます。速度は秒速約4kmほど。P波に比べると遅いですが、その分、揺れの振幅(幅)が大きく、物体を破壊するエネルギーを大量に持っているのが特徴です。
ここがポイント
この「速度の差(約1.7倍の違い)」こそが、私たちが感じる「最初にドンときて、後からグラグラくる」というタイムラグの正体です。震源が遠ければ遠いほど、P波とS波の到着時間の差(初期微動継続時間)は長くなります。
初期微動のドンという衝撃の正体

地震が起きた瞬間、下から突き上げられるような「ズドン!」という衝撃を感じて恐怖したことはありませんか?これがP波による「縦揺れ」の正体です。
P波は地面を垂直方向に振動させるため、私たちはそれを足元からの突き上げとして感知します。この揺れは地震計では「初期微動」として記録され、カタカタと小刻みに揺れたり、直下型地震のように震源が近い場合は爆発音のような鋭い衝撃を伴ったりします。
多くの人が「縦揺れ=大地震」と連想して恐怖を感じるのは、震源が近いとこのP波の衝撃が減衰せずに強烈に伝わり、かつS波との時間差がほとんどないまま激しい揺れに移行するためです。
しかし、防災士の視点から言えば、この不気味な縦揺れは「破壊神(S波)がすぐ後ろまで来ているぞ!」という最強の警報でもあります。最初のドンを感じた瞬間に「これは来る!」と身構えられるかどうかが、頭を守れるかどうかの最初の分岐点になるのです。
主要動のS波が建物に与える被害

P波の警報の後にやってくる「主要動」、つまりS波による横揺れこそが、実は建物や構造物にとっての最大の脅威です。
なぜ横揺れが建物を壊すのか。それは、建物の構造特性に関係しています。
基本的に建物というのは、地球の重力に逆らって立っているため、上からの重さ(縦の力)には非常に強く頑丈に作られています。しかし、横から揺さぶられる「水平方向の力(せん断力)」に対しては、縦方向ほど強くはありません。
S波はエネルギーが非常に大きく、建物を左右に激しく揺さぶり続けます。これにより、柱や壁が菱形に変形しようとする力が働き、耐えきれなくなると柱の接合部が破断したり、壁にX字状の亀裂が入ったり、最悪の場合は1階部分が押し潰されて倒壊に至ります。「横揺れは船みたいで怖くない」などと油断してはいけません。物理的に破壊力と倒壊リスクは、横揺れの方が圧倒的に大きいと覚えておいてください。

震源の深さとマグニチュードの関係

「今回は縦揺れだったから、震源が近かったのかな?」と直感的に思うことがありますが、この感覚は科学的にも概ね正解です。
震源の深さが揺れを変える
震源が浅い(ごく浅い〜深さ数十km)場合、震源から地表までの距離が短いため、P波の突き上げ(縦揺れ)をより鮮明に、鋭く感じやすくなります。直下型地震と呼ばれるものがこれにあたります。
逆に震源が深い場合や距離が遠い場合は、P波が伝わる過程で減衰したり、地盤の影響でゆっくりとした周期の長い横揺れ(長周期地震動など)ばかりが目立つようになったりします。
マグニチュードとの関係
また、マグニチュード(地震そのものの規模)が大きければ大きいほど、発生する波のエネルギーも巨大になります。東日本大震災のような巨大地震では、最初の縦揺れで家具が浮き上がった直後に、数分間にわたる強烈な横揺れが続き、建物全体がねじ切られるような複合的な被害が発生することもあります。
緊急地震速報が間に合うメカニズム

私たちが普段頼りにしている、あの不協和音のような「緊急地震速報」のアラーム。実はこのシステムも、ここまで解説したP波とS波の「速度差」を巧みに利用しています。
気象庁の地震観測システムは、震源近くの観測点で最初に到達したP波を検知します。そして、その揺れ方から瞬時に地震の規模(マグニチュード)と位置を計算し、「これから大きなS波(主要動)が到達して震度が大きくなる」と予測した場合に、S波が届く前の数秒〜数十秒の間に警報を発信しているのです。
(出典:気象庁『緊急地震速報のしくみ』)
数秒の猶予が生死を分ける
P波(秒速7km)とS波(秒速4km)の速度差を利用して、「破壊の波」が来る前に知らせてくれるのが緊急地震速報です。つまり、あのアラームが鳴った瞬間に身を守る行動をとることは、これから来るS波の直撃を防御姿勢で迎えるための、唯一の対抗策なのです。
地震発生時に絶対にやってはいけない行動については、以下の記事でも詳しく解説しています。「火を消しに行く」のが正解だと思っている方は、ぜひ一度確認してみてください。
地震の縦揺れと横揺れはどっちが危ない?対策の正解

ここまでは敵(地震波)の正体について解説してきました。
仕組みがわかったところで、次は「じゃあどうやって家や家族を守ればいいの?」という実践的な対策の話をしましょう。結論から言うと、縦揺れと横揺れ、それぞれの弱点をカバーする「二段構え」の対策が必要です。
直下型の突き上げとパンケーキ崩壊

縦揺れ(P波)がもたらす建物被害の中で、最も恐ろしい現象の一つに「パンケーキ崩壊」があります。
これは、直下型地震の強烈な縦揺れによって、建物を支える柱に限界を超える圧縮力(上から押さえつける力)がかかり、柱が一瞬で圧壊してしまう現象です。支えを失った床は、重力に従ってそのまま下の階へ落下します。これが連鎖的に起こると、まるでパンケーキが重なるように建物全体が層状にペシャンコに潰れてしまいます。
生存空間(隙間)がほとんど残らない非常に危険な崩壊の仕方ですが、これは1981年以前の古い耐震基準で建てられた鉄筋コンクリート造の建物や、1階が駐車場になっているピロティ構造などでリスクが高いとされています。
もしご自宅が旧耐震基準(1981年5月以前確認申請)の場合は、耐震診断を受けることが、この恐ろしい縦揺れの崩壊から命を守る第一歩となります。
木造住宅の倒壊を防ぐ耐震基準

一方で、日本の多くの一般家庭である「木造住宅」にとって怖いのは、やはりS波による横揺れです。
特に昔ながらの日本家屋は、立派な瓦屋根など重い屋根を持つことが多く、重心が高いため横揺れに対して頭でっかちになりがちです。地震の揺れの周期(キラーパルスなど)と、その家が持つ揺れやすさが一致してしまうと「共振現象」が起き、ブランコを押すように揺れがどんどん増幅され、一気に倒壊するリスクがあります。
しかし、過度に恐れる必要はありません。現在の建築基準法では、水平方向の力(横揺れ)だけでなく、鉛直方向の力(縦揺れ)の影響も一定程度考慮した設計が求められています。
新しい基準(特に2000年基準以降)で建てられた家や、適切に壁の補強・金具の取り付けが行われた家は、どちらの揺れに対しても一定の強さを持っています。「我が家は大丈夫か?」と不安な方は、壁の配置バランス(剛比)や柱と土台をつなぐ耐震金具の状況を、一度専門家に見てもらうことをお勧めします。
家具転倒防止に最強なL字金具

建物が無事でも、家の中の家具が凶器になってしまっては意味がありません。ここからは、今日からできる家具固定の話です。
まず、横揺れに対して最も効果を発揮するのは、壁と家具をネジで直接固定する「L字金具」です。
横揺れで家具が倒れるのは、揺れによって家具の重心が支持面(底面)の外側にズレてバランスを崩すからです。しかし、L字金具で壁と一体化させてしまえば、壁そのものが崩壊しない限り、家具は物理的に倒れることができません。
注意点:下地を探そう
L字金具を取り付ける際は、必ず壁の裏にある「下地(間柱などの硬い木材部分)」にネジを打ち込んでください。石膏ボードだけの空洞部分に打っても、大きな揺れの力がかかればスポッと抜けてしまい、効果がありません。
家具固定を含む、家庭で最低限備えるべきリストについてはこちらで詳しく紹介しています。買い物に行く前のチェックリストとしてご活用ください。
突っ張り棒で縦揺れの浮きを防ぐ

「L字金具が最強なのはわかるけど、賃貸だから壁に穴を開けられない…」という方も多いでしょう。また、縦揺れ特有の動きには別の対策も必要です。そこで活躍するのが「突っ張り棒」です。
縦揺れで家具がジャンプする?
震度6を超えるような直下型地震の強烈な縦揺れでは、下からの突き上げによって家具が一瞬「ジャンプ」して浮き上がることがあります。一度浮いてしまうと、着地した瞬間に位置が大きくズレたり、そのままバランスを崩して自分の方へ倒れてきたりします。
突っ張り棒で天井と家具の間をガッチリ埋めておくことは、この「浮き上がり」を物理的に抑え込み、家具が暴れ出すのを防ぐのに非常に有効です。
| 対策グッズ | 得意な揺れ | 効果的な理由と特徴 |
|---|---|---|
| L字金具 | 横揺れ | 壁と一体化し、重心のズレによる転倒を根本から防ぐ。壁に穴を開ける必要があるが効果は最大。 |
| 突っ張り棒 | 縦揺れ | 天井で押さえつけ、縦揺れによる家具の「ジャンプ(浮き上がり)」を防ぐ。横揺れだけだと外れることもある。 |
| 粘着マット | 横揺れ | 足元を固定し、横滑りを防ぐ。突っ張り棒と併用することで効果が倍増する。 |
私が最も推奨するのは、「足元に粘着マット(横滑り防止)+天井に突っ張り棒(縦揺れ防止)」の合わせ技です。これなら、壁に穴を開けずに、縦と横両方の揺れに対して高い防御力を発揮できます。
地震の縦揺れと横揺れどっちが危ないかの結論と備え

結局のところ、「地震 縦揺れ 横揺れ どっちが危ない」という問いへの答えは、「建物や家具を物理的に破壊するのは主にエネルギーの大きな『横揺れ』だが、その引き金を引き、逃げる時間を奪うのは突然の『縦揺れ』である」と言えます。
最初の縦揺れの「ドンッ!」を感じたら、それは数秒後に破壊的な横揺れが到達する合図です。「どっちが危ないか」を感じ分けて分析している余裕はありません。「揺れたら(音が鳴ったら)反射的に頭を守る」。このシンプルな行動こそが正解です。
そして、揺れていない今の平時のうちに、横揺れにも縦揺れにも負けない家具固定をしておくこと。これが、福島で震度6弱を3度経験し、その恐ろしさを肌で知る私がお伝えできる、命を守るための確実な備えです。






