中小企業でもできる!会社で揃える防災グッズとは

震災経験者としての危機感と中小企業の特性
- 株式会社ヒカリネット 防災士 後藤秀和

東日本大震災を経験した者として、「まさか」は必ず起こるという危機感を強く持っています。発災直後、ライフラインの途絶は想定以上で、特に中小企業では、事業継続の備え(BCP)の有無が明暗を分けました。 中小企業は、大企業のような潤沢な資金やリソースがないため、一度の被災で倒産に追い込まれるリスクが高いのが実情です。だからこそ、従業員7日分の水・食料・簡易トイレなどの備蓄は、コストではなく「事業を守る保険」として最優先で確保してください。備蓄は、社員の命を守り、早期の事業再開を可能にする企業のレジリエンスそのものです。
会社に備えておきたい防災グッズリスト

2011年3月11日、私は福島県内のオフィスで激しい揺れに見舞われました。書類は散乱し、停電で一瞬にして視界が奪われ、その夜は氷点下に近い寒さの中で過ごすことになりました。あの時、多くの人が「家に帰れない」「連絡が取れない」「寒くて眠れない」という現実に直面しました。
災害は勤務時間中にも容赦なくやってきます。会社に備蓄があるからと安心せず、「自分自身を守り、生き延びるための個人用備え」をデスクの足元やロッカーに用意しておくことが、命を繋ぐ分かれ道となります。
- 命を守る、帰宅を支援する基本セット
まず、会社から自宅まで歩いて帰る、あるいは一時的に会社に留まるために不可欠なアイテムです。
スニーカー(歩きやすい靴):
震災直後の路面は、割れたガラス、倒壊した塀のコンクリート、剥がれたタイルなどで想像以上に過酷です。薄いソールの靴では釘を貫通させてしまう恐れがあるため、できるだけ底が厚く、足をしっかりホールドするものを選んでください。デスクの下に置く際は、埃を被らないよう袋に入れておきましょう。
モバイルバッテリー(大容量+予備ケーブル):
災害時は情報の検索やGPSの使用で、通常時の数倍の速さでバッテリーを消耗します。10,000mAh以上(スマホ約2回分)を目安にし、さらに重要なのが「充電ケーブル」を忘れないことです。また、自然放電を防ぐため、半年に一度は残量を確認するルーチンを作りましょう。
ホイッスル:
瓦礫に閉じ込められた際、人間の声は壁を通り抜けにくく、すぐに枯れてしまいます。笛の音は高周波で遠くまで届き、少ない呼気でも鳴る「防災専用」のものが推奨されます。IDカードホルダーや鍵に付けて、常に身に付けられる状態にするのが防災士の鉄則です。
- 「トイレ」と「衛生」の備え
避難生活で最も困るのがトイレです。水が止まればオフィスのトイレは使えません。
携帯トイレ(5回分以上):
断水したビルのトイレは、一度誰かが流さずに使うと一気に不衛生になり、使えなくなります。選ぶ際は、「素早く固まり、消臭力が高いもの」を選んでください。避難生活でトイレを我慢すると水分摂取を控えがちになり、エコノミークラス症候群のリスクが高まるため、ケチらず使えるよう多めに備えます。
ウェットティッシュ・除菌ジェル:
断水時は手が洗えません。感染症予防のためにも、アルコールを含むものを。
口腔ケア用品:
意外かもしれませんが、震災後に肺炎で亡くなる高齢者が増える要因の一つが、口内細菌の繁殖です。水が使えない状況でも使える指サック型の歯磨きシートは、口内をリフレッシュさせ、精神的な不快感も大きく軽減してくれます。
- 「食」と「温」の備え
福島での経験から断言できるのは、「寒さは気力を奪う」ということです。
アルミブランケット:
福島の3月は夜間の冷え込みが厳しく、暖房のないオフィスでの待機は体力を激しく消耗させます。一般的なアルミシートはカサカサと音がうるさく、静かな避難場所では周囲に気を遣って使いにくいことがあります。「静音タイプ」を選ぶことで、自分も周りもストレスなく休むことができます。
使い捨てカイロ:
冬場はもちろん、夏場でも夜間の冷え込み対策に有効です。
高エネルギーの行動食:
極限状態では、喉を通りにくいパサついたものは避けた方が無難です。羊羹(ようかん)やゼリー飲料は、水分と糖分を同時に補給でき、保存期間も長いため非常に優秀です。
震災時、私は真っ暗なオフィスで「もっと準備しておけばよかった」と後悔する同僚をたくさん見てきました。備えがあるという安心感は、パニックを防ぎ、冷静な判断を助けてくれます。
会社の備蓄品は全社員に行き渡るとは限りません。まずは自分の身の安全と、最低限の生活環境を自ら確保するという意識を持ってください。デスク周りの整理整頓を兼ねて、今日から備えを始めましょう。
いつ来るかわからない「その時」のために、これらを一つにまとめた防災リュックも用意しておく。
会社の備蓄に潜む「盲点」

「水や食料は準備しているから大丈夫」と安心していませんか? 会社の備蓄には、命取りになりかねない「盲点」が潜んでいます。
最も見落とされがちなのが、「トイレ問題」です。災害で断水すれば、洋式トイレはすぐに使えなくなります。水や食料を3日分備えていても、トイレが使えなければ不衛生な環境で健康を害し、社員は職場に留まることすら困難になります。
また、「在庫」と「備蓄」の混同も危険です。「倉庫にあるカップ麺」はあくまで在庫であり、誰でも取り出せる「手の届く場所」に「明確なルール」とともに備蓄されなければ意味がありません。
備蓄品リストに、簡易トイレと生理用品といった衛生用品が組み込まれているか、そして、それらが緊急時にすぐ使える状態にあるか、今すぐ確認しましょう。盲点をなくすことが、社員の安全と事業継続の第一歩です。
備蓄の基本:「3日分」から「7日分以上」へ
かつて、災害備蓄は「最低3日分」が基本とされていました。しかし、東日本大震災や近年の大規模災害の教訓から、この考え方は大きく見直されています。
広域かつ甚大な被害が発生した場合、国や自治体からの支援物資の到着には3日以上、場合によっては1週間程度かかることが想定されています。特に、交通網が寸断される中小企業においては、従業員が自力で乗り切るための備えが不可欠です。
企業の備蓄は、水・食料・トイレといった生命維持に必要なものを、最低でも「7日分以上」に増強してください。これは、事業を早期に再開し、地域社会の復興に貢献するための「時間稼ぎ」です。7日間の自給自足体制こそが、現代の防災対策の新しいスタンダードです。
会社備蓄の問題点(賞味期限切れ、持ち出しの困難さ、公平性の問題)
多くの会社備蓄には、見過ごせない3つの問題点があります。
第一に「賞味期限切れ」です。非常食は高価な“死蔵在庫”になりがちで、チェックや更新を怠ると、いざという時、食べられない備蓄が残ります。対策は、ローリングストックの導入と年2回の確実な点検です。
第二に「持ち出しの困難さ」。備蓄が倉庫の奥や高所に置かれていると、地震で通路が塞がれたり、物が散乱したりした際に取り出せません。「手の届く場所」への分散配置が重要です。
第三に「公平性の問題」。備蓄量が不透明だと、「自分に回ってくるか不安」という従業員の不公平感が生まれます。備蓄量と保管場所を全社員に公開し、安心と信頼を確保してください。備蓄は、ただモノを用意するだけでなく、管理体制の確立こそが鍵です。
「帰宅困難者」ではなく「事業継続者」としての視点
大震災後の企業防災において、多くの経営者が陥りがちなのが、従業員を単なる「帰宅困難者」として捉えてしまうことです。しかし、中小企業にとって、発災後の社員はすぐに「事業継続者」へと役割が変わります。
社員を単に帰宅させることだけを考え、3日分の水や食料だけを備蓄していると、交通機関の麻痺や二次災害で社員が社内に留まらざるを得なくなったとき、数日後には事業再開どころか、社員の生命維持が困難になります。
私たちは、社員を「被災者」としてではなく、「この会社を、事業を、そして地域を守るために現場にいる人間」として捉え直すべきです。そのためには、7日分以上の備蓄に加え、簡易トイレや救護用品、そして事業継続に必要な最低限のツールを揃えることが、企業の社会的責任であり、未来への投資となります。
「社内の備蓄」ではなく「社員に防災リュックを配る」のが最適

企業が災害に備える上で、大規模な「社内備蓄」の設置は、賞味期限管理や公平性、そして地震時の「持ち出し困難」という根本的な課題を抱えます。そこで、中小企業にこそ推奨したいのが、社員一人ひとりに防災リュックを配備する手法です。
社内に集中備蓄するのではなく、最低限の必需品(水、食料、簡易トイレ、防寒具など)を入れたリュックを各自のデスクやロッカーに置いてもらう。これは、備蓄を分散させることで、地震による倉庫の倒壊や通路の閉塞といったリスクを回避します。
また、「自分の命は自分で守る」という意識を社員に持たせ、帰宅時や避難時に即座に持ち出せる機動性を高めます。管理の手間も減り、全社員が等しく備えを持てる公平性も担保できます。これは、社員の安全と事業継続への最も現実的な投資です。
「社員配布用防災リュック」に必須のアイテムリスト

生命維持に最低限必要なもの
- 年保存水(500ml 3本)
- 食料(カンパン・アルファ米)
- 衛生用品(救急セット・簡易トイレ・マスク・歯ブラシ・ウエットティッシュ)
- 照明(スマホ充電可能なラジオライト・ランタン)
福島での経験から強く推奨する追加アイテム
- 透明ではない黒ゴミ袋
(汚物処理、目隠し、加工してポンチョ等多用途。透明ゴミ袋は特に使い道は無し。)
- レインコート・レインポンチョ
(雨天避難時は傘で片手が塞がるのは想像以上に不利になる。)
- 防災用アルミシート・アルミ寝袋
(アルミの保温力は絶大。寝袋はタバコの箱サイズまで小さくたたまれている。)
- 防災頭巾・簡易ヘルメット
(大きな落下物には対応できないが、避難時の心理面で非常に楽になる。)
まとめ

大震災を経験した防災士として、中小企業にお伝えしたい最も現実的な対策は「全社員への防災リュック配備」です。
高額で管理が大変な集中備蓄に頼るのではなく、一人ひとりに最低限の水、食料、簡易トイレ、防寒具を入れた個人用防災リュックを備えてください。
これは、備蓄を全社で分散させ、地震で倉庫が使えなくなっても各自の備えを確保する、最も確実な手法です。「自分の命は自分で守る」という意識を高め、緊急時の公平性と機動性を担保します。
防災はコストではなく、事業を守る「保険」です。 まずは、この「個人配備」から始めることで、社員の命と事業継続の基盤を、今すぐ、そして確実に築いてください。





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