リアス海岸のでき方と防災のアイディア

中学生がリアス式海岸のでき方について学んでいるイメージ

リアス海岸のでき方と防災のアイディア

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

リアス海岸というと、ギザギザした海岸線を思い浮かべますよね。私も旅行で訪れると、その複雑な地形の美しさに見入ってしまいます。でも、このリアス海岸のでき方を調べてみると、私たちの暮らし、特に防災と深いつながりがあることがわかるんです。

「なぜあんなにギザギザなの?」「フィヨルドとの違いって何だろう?」と疑問に思う方も多いかもしれませんね。この特徴的な地形は、もともと陸地にあったV字谷が、地盤の沈降や海面の上昇によって沈水してできたものです。

この記事では、リアス海岸のでき方について、中学生くらいの方にもわかるように、できるだけやさしく解説します。ダルマチア式海岸との違いや、養殖が盛んな利点(メリット)、そして防災士として最もお伝えしたい津波のリスクという欠点(デメリット)まで、日本の代表的な場所を地図のイメージと共にお話ししていきますね。

  • リアス海岸がギザギザになる「でき方」の仕組み
  • フィヨルドやダルマチア式海岸との簡単な見分け方
  • 地形がもたらす「利点(メリット)」と「欠点(デメリット)」
  • 防災士が注目する「津波」と地形の危険な関係
目次

防災士が図解!リアス海岸のでき方

リアス海岸 でき方 を図解したギザギザの海岸線のイメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

さっそく、リアス海岸がどのようにしてできるのか、そのプロセスを見ていきましょう。キーワードは「V字谷(ブイじこく)」と「沈水(ちんすい)」ですね。

リアス海岸はなぜギザギザなの?

なぜリアス海岸はギザギザになるのかがわかる湾と岬の海岸写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

あのノコギリの歯のようなギザギザした海岸線は、もともと陸地だった場所の地形が、そのまま海に沈んだ結果なんです。

もともとは、海岸のすぐ近くまで山地が迫っている地形で、そこにはたくさんの川が流れて谷を削っていました。川による侵食は、谷底を深く削っていく力が強いため、谷の断面がアルファベットの「V」の字に見える「V字谷(ブイじこく)」をたくさん作ります。

このV字谷がたくさん刻まれた山地が、丸ごと海面下に沈むとどうなるでしょう?

【沈水によって地形が変わる仕組み】

  • 低かった「谷(V字谷)」の部分には海水が入り込み、陸地の奥深くまで続く、細長い「湾(わん)」「入り江(いりえ)」になります。
  • 高かった「尾根(おね)」(V字谷とV字谷の間の高い部分)は沈まずに残り、海に突き出す「岬(みさき)」になります。
  • 尾根の先端部分が陸地から切り離されて海面上に残ると、それが「島」になります。

これが山地全体で起こることで、湾と岬が交互に連続する、あの複雑なギザギザの海岸線ができあがるわけですね。たくさんの島が点在する「多島海(たとうかい)」という景観になることも多いです。

わかりやすく解説!V字谷と沈水

V字谷と沈水でリアス海岸ができる仕組みを示す地形イメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

もう少し詳しく「でき方」のプロセスを2つのステップに分けて見てみますね。

ステップ1(前提):V字谷の形成

まず、今よりも海面がずっと低かった時代、たとえば「氷河期」などを想像してもらうと分かりやすいかもしれません。この時代は、大量の水が氷河として陸上にあるため、海面が低かったんです。

この時、陸地だった場所を流れる河川が、長い長い時間をかけて山地を削り、深い「V字谷」をたくさん刻みます。これがリアス海岸の「原型」となります。

重要なのは、リアス海岸のギザギザは、海が侵食して作ったのではなく、もともと陸地にあった川の谷が原型だということですね。

ステップ2(実行):沈水(ちんすい)

次に、このV字谷がある土地が、相対的に海面下に沈む「沈水(ちんすい)」という現象が起こります。これが決定的なプロセスです。

沈水が起こる主な原因は、主に2つあるかなと思います。

  1. 地盤の沈降(ちんこう)
    プレートの沈み込みといった地殻変動によって、陸地そのものが海面よりも下に沈んでいくケースです。
  2. 海面の上昇(じょうしょう)
    氷河期が終わり、地球が温暖化して大陸にあった氷河が溶け出すなどして、全世界的に海水面が上昇するケースです。(これを「海進(かいしん)」とも言います)

どちらの要因であっても、結果として「相対的に海面が上昇」し、それまで陸地であったV字谷に海水が一気に侵入してきます。

この2ステップによって、谷は湾に、尾根は岬や島へと姿を変え、リアス海岸が誕生するんです。

フィヨルドとの違いは谷の形

フィヨルドとリアス海岸 でき方 の違いを比較できる谷の形の画像
【HIH】ヒカリネット・イメージ

リアス海岸とよく似た地形で「フィヨルド」がありますよね。ノルウェーなどが有名ですが、これらは「でき方」の最初のステップ、つまり谷を削った主役が違います。

どちらも「谷が沈水した」地形で、見た目も似ているので混同しやすいですが、ポイントは谷の形です。

比較項目リアス海岸 (Rias Coast)フィヨルド (Fjord)
谷を作ったもの河川 の侵食氷河 の侵食
谷の断面形V字谷(川が谷底を削る)U字谷(氷河が谷底全体を削る)
景観の特徴湾口が広く、奥ほど狭まるV字。水深も深い。両岸が切り立った崖のようになり、水深が数百mに達することも。
主な分布日本、スペイン北西部など(中〜低緯度)ノルウェー、アラスカなど(高緯度の氷河地域)

氷河は、川よりもはるかに強大な侵食力で谷底を広く深く削り取ります。そのため、両岸がほぼ垂直な崖(がけ)となり、水深もリアス海岸よりずっと深い「U字谷」ができるんです。

同じ「沈水」した地形でも、谷の原型を作ったのが「川」なのか「氷河」なのかが大きな違いですね。

ダルマチア式海岸との違いは山の向き

ダルマチア式海岸とリアス海岸の地形の向きの違いが分かる海岸イメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

もう一つ、「ダルマチア式海岸」というのもあります。これはクロアチアのアドリア海沿岸、ダルマチア地方が有名ですね。

これも山地が沈水してできるのは同じですが、「山の連なる向き(走向)」「海岸線」の関係が決定的に違います。

地形山地と海岸線の関係景観の特徴
リアス海岸山地(尾根と谷)が海岸線に垂直(直角)に交わる岬と湾がギザギザに入り組む
ダルマチア式海岸山地(尾根と谷)が海岸線に平行に連なる海岸線と平行に細長い島々が何列も並ぶ

ダルマチア式海岸は、山地が海岸線と平行に連なっていた場所が沈水したため、山の頂上部分である「尾根」が「細長い島」として、海岸線と平行にズラッと並ぶ景観になります。谷の部分は、島と陸地の間や、島と島の間の「海峡」になるわけです。

ギザギザに入り組むリアス海岸とは、見た目がかなり異なりますね。

リアス海岸の利点とは?

天然の良港になるリアス海岸の特徴を示す穏やかな湾の写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

この独特な地形は、私たちに大きな恵み、つまり「利点(メリット)」をもたらしてくれます。それが「天然の良港(てんねんのりょうこう)」と呼ばれる理由です。

大型の船が安全に停泊できる条件が、自然にそろっているんですね。

水深が深い(大型船が接岸可能)

リアス海岸の湾は、もともとが川に深く削られたV字谷です。そのため、陸地のすぐそば(岸近く)まで急激に水深が深くなっています。これにより、大型の船が座礁(ざしょう)する心配なく岸に近づき、接岸しやすいという大きな利点があります。

波が穏やか(天然の防波堤)

海に突き出した岬や、湾口に点在する島々が、外洋(外海)から押し寄せる荒い波や風を遮る「天然の防波堤」の役割を果たします。これにより、湾内は「波静かで穏やか」な状態が保たれやすく、船が安全に停泊したり、嵐の時に避難したりできるわけですね。

この「水深が深い」ことと「波が穏やか」という2つの条件がそろうことで、リアス海岸の多くは古くから漁港や貿易港として発展してきました。

リアス海岸のでき方と暮らしの知識

リアス海岸の でき方 と暮らしの関係を表す入り江と集落の風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

リアス海岸のでき方は、港としてだけでなく、私たちの食生活にも深く関わっています。その一方で、防災士として見過ごせない大きなリスクも、その地形自体が抱えているんです。

養殖が盛んになる地形のヒミツ

養殖が盛んなリアス海岸の湾内に並ぶ養殖施設の様子
【HIH】ヒカリネット・イメージ

三陸海岸のカキやワカメ、三重県志摩半島の真珠や青ノリなど、リアス海岸で養殖業が盛んなのには、地形的な理由があります。

1. 穏やかな生育環境

まず、先ほどの「利点」でもお話ししたように、湾内は「波が穏やか」です。これは、波の影響を受けやすい養殖イカダなどを設置する養殖業にとって、まさに最適な立地条件となります。

2. 豊富な栄養分(エサ)

さらに重要なのが、「栄養が豊富」という点です。

リアス海岸は「山が海に迫る」地形で、山地と湾がとても近接しています。山地の森林に蓄えられた豊かな栄養分(ミネラルなど)が、川を通じて絶えず湾内に流れ込みます。

この栄養分をエサにして、カキ(牡蠣)や真珠貝(アコヤガイ)などが食べる植物プランクトンが大量に発生します。また、湾の奥には干潟(ひがた)などができることもあり、それらが水質を浄化する役割も担っています。

つまり、リアス海岸は、(1)穏やかな環境、(2)豊富なエサ、(3)清浄な水質、という養殖業に必要な要素を自然に提供してくれる、理想的なシステムを持っているんですね。

リアス海岸の欠点と交通問題

リアス海岸の欠点である陸路の迂回がわかる道路と海岸の写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

一方で、この地形には日常生活における「欠点(デメリット)」もあります。それは「陸上の交通が不便」なことです。

平地が極端に少ない

海から見れば良港でも、陸から見ると大変です。V字谷が沈水した地形なので、山地がそのまま海に落ち込むような急峻(きゅうしゅん)な場所がほとんどです。

このため、人々が居住したり、農地や工業地帯として利用したりできる広大な「平地」が極端に不足します。集落は、湾の奥のわずかな平地や、山の斜面に張り付くように作られることが多くなります。

陸路の分断と迂回(うかい)

また、湾(入り江)が陸地の奥深くまで複雑に入り込んでいるため、海岸線に沿って道路や鉄道を建設しようとすると、湾を一つひとつ大きく迂回(うかい)しなければなりません。

地図上の直線距離ではすぐ近くに見える隣町へ行くにも、湾の奥深くまでグルっと回り道を強いられるため、移動に多大な時間とコストがかかります。この迂回を避けるためには、長大な橋やトンネルの建設が必要となり、インフラ整備が大変なんですね。

津波が危険になる地形的な理由

津波のエネルギーが集中しやすいリアス海岸の湾形状のイメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

そして、防災士として最も強くお伝えしたい欠点が、「津波」の危険性です。

リアス海岸のでき方そのものが、地震発生時に津波の被害を著しく増大させる、極めて深刻な防災上のリスクを抱えています。普段は穏やかな湾が、ひとたび津波が来ると、そのエネルギーを集中させる装置のように働いてしまうことがあるんです。

【危険】津波のエネルギーが集中する「V字湾」

リアス海岸の湾は、もともとが川のV字谷のため、「湾口(わんこう:入り口)は広く、湾奥(わんおく:突き当り)ほど狭まる」という、漏斗(じょうご)のような形状をしています。

沖合からやってきた津波がこのV字湾に侵入すると、行き場を失ったエネルギーが圧縮・集中されます。

津波増幅のメカニズム

  • 1. 水平方向の圧縮(漏斗効果)
    湾が奥に進むにつれて狭まるため、波のエネルギーが両側からギュッと圧縮され、中央に集中します。
  • 2. 垂直方向の増幅(浅水効果)
    湾奥に向かって水深も浅くなるため、行き場を失った津波のエネルギーは上方向、つまり「波高(はこう)」へと変換されます。

この「エネルギーの集中」の結果、津波は湾の奥に進むにつれて急激に波高を増し、陸地へ到達する際の破壊力と速度(流速)が強まります。

東日本大震災でも、三陸海岸のリアス海岸の湾奥部で、津波が信じられないような高さまで遡上(そじょう)したのは、この地形的な要因が大きく関係していると言われています。(出典:気象庁「津波から身を守るために」

「湾の中はいつも穏やかだから」という油断は、津波に関しては絶対にしてはいけません。正確なハザードマップを確認し、津波が到達する範囲や、安全な高台にある避難場所を日頃から把握しておくことが本当に重要です。

日本のリアス海岸を地図で紹介

日本のリアス海岸 分布 が分かる地図風の地形イラスト
【HIH】ヒカリネット・イメージ

日本は、その地殻変動の活発さから、リアス海岸がとても多い国です。代表的な場所をいくつか紹介しますね。

三陸海岸(岩手県・宮城県)

日本におけるリアス海岸の代名詞ともいえる地域です。その深く穏やかな湾は、カキやワカメの養殖を支える豊かな漁場となっています。一方で、その地形は津波の被害を増大させるリスクを常に抱えており、防災が地域の大きな課題となっていますね。

(補足:専門的に見ると、宮古市よりも南側が典型的なリアス海岸(沈水海岸)で、北側は逆に地盤が隆起してできた「海岸段丘」が特徴的だったりします)

志摩半島(三重県)

紀伊半島東部に位置し、英虞湾(あごわん)や的矢湾(まとやわん)など、非常に典型的なリアス海岸が見られます。波が極めて穏やかな内湾は、前述の通り「真珠」や「青ノリ」の養殖の一大産地となっています。

若狭湾(福井県)

日本海側におけるリアス海岸の代表例です。その複雑な地形を活かし、「若狭トラフグ」やマダイ、カキなどの養殖業が盛んに行われています。

その他のリアス海岸

上記以外にも、九州と四国を隔てる「豊後水道(ぶんごすいどう)」沿岸、愛媛県の「宇和海(うわかい)」、長崎県の「対馬(つしま)・浅茅湾(あそうわん)」や「九十九島(くじゅうくしま)」なども、美しいリアス海岸として知られています。

地図帳などでこれらの地域を見ると、海岸線がいかに複雑に入り組んでいるかがよくわかるかなと思います。

まとめ:リアス海岸のでき方と備え

リアス海岸 でき方 の要点をまとめた海と岬を望む展望風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

今回は、リアス海岸のでき方についてお話ししました。

要点をまとめると、

  1. 陸地時代、河川の侵食によって「V字谷」が刻まれた山地があり、
  2. 地盤の沈降、あるいは海面の上昇によって「沈水」が発生し、
  3. V字谷は「湾」、尾根は「岬」や「島」になった

これが、リアス海岸のでき方のプロセスですね。

この「リアス海岸のでき方」は、私たちに「天然の良港」や「養殖の最適地」という恵み(利点)をもたらす一方で、「交通の不便」や、何よりも「津波のエネルギーを集中させ、被害を甚大にする」という深刻なリスク(欠点)をもたらします。

地形の特性を知ることは、その土地の恵みとリスクの両方を理解することであり、防災の第一歩です。

もしリアス海岸の近くにお住まいだったり、旅行やレジャーで訪れたりする際は、その美しい景観だけでなく、「津波が来たら波が高くなりやすい地形なんだ」ということを、ぜひ心の片隅に留めておいてほしいなと思います。

その上で、ご自身の地域のハザードマップを今一度確認し、万が一の際の避難経路や備蓄品についてご家族で話し合ってみてくださいね。

日頃の備えについては、当サイトの備蓄・防災グッズに関する記事なども参考にしていただけると嬉しいです。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

目次