家庭の防災備蓄ガイド:水・食料・日用品の備え方解説

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家庭の防災備蓄ガイド:水・食料・日用品の備え方解説

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

「家庭の防災備蓄ガイド」と検索されたあなたは、きっと「防災備蓄をはじめたいけど、何から手を付ければいいの?」「水や食料、日用品って、具体的にどれくらいの量が必要なの?」と、漠然とした不安や疑問を抱えているかもしれませんね。

東日本大震災を福島で経験した私から見ても、災害への備えは本当に、本当に大切だと痛感しています。あの日のように、突然ライフライン(電気、水道、ガス、物流)が止まると、当たり前だった日常が一瞬で失われます。そして、公的な支援(公助)がすぐには届かない「空白の時間」が、必ず発生するんです。

その「空白の時間」を、家族が安全に、少しでも安心して過ごすために、各家庭での備え、すなわち「自助」が何よりも不可欠なんですね。

この記事では、防災士の視点から、水や食料、日用品の具体的な必要量、そして「知ってはいるけど、どうやるの?」となりがちな、無理なく続けられる「ローリングストック」という備え方まで、一歩踏み込んで徹底解説していきます。乳幼児や高齢者、ペットがいるご家庭の備えや、多くの人が見落としがちな簡易トイレの重要性など、具体的なリストも交えて紹介しますね。

この記事を読み終える頃には、あなたの家の「防災備蓄」が、具体的かつ現実的な行動計画に変わっているはずです。

  • 防災備蓄が「なぜ」「どれだけ」必要なのかが分かる
  • 水・食料の具体的な必要量(1人1日あたり)が分かる
  • 無理なく続く「ローリングストック」のやり方が分かる
  • 日用品や家族構成別の必須アイテムリストが分かる
家庭の防災備蓄ガイド

📌この動画のポイント

  • 一目でわかる!家庭の必需品チェックリスト 水や食料はもちろん、簡易トイレや救急セットなど、災害時に本当に困らないための必須アイテムを具体的に紹介します。

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4コマ漫画「そなぷーと学ぶ!『おいしい』防災備蓄」。防災リュックだけで安心していたそなぷーが、在宅避難に必要な大量の備蓄量に驚き目を回すが、普段の食品を「食べる」「買い足す」サイクルで循環させる「ローリングストック」を知り、無理なく続けられる「ちょい足し備蓄」を笑顔で推奨するストーリー。
目次

家庭の防災備蓄ガイド:水、食料、日用品の備え方解説

家庭の防災備蓄:1週間を生き抜くための基本ガイド。在宅避難に必要な水(4人家族で84L)、簡易トイレ(140回分)、食料の具体的な計算式と、ローリングストック法やカセットコンロの必要性をまとめた図解イラスト。

まずは、防災備蓄の「基本のキ」ですね。なぜ備蓄が必要なのか、そして生命維持に直結する最優先事項、「水」と「食料」について、どれくらいの量を目安にすれば良いのか。ここをしっかり押さえていきましょう。

防災備蓄の必要量、最低3日~1週間分

3日分と1週間分の防災備蓄量を比較しながら家族が必要量を話し合っている場面の写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

よく「備蓄は最低3日分」と聞くと思いますが、これはなぜだと思いますか?

これは「72時間の壁」とも関係しています。大規模な災害が起きると、人命救助が最優先される最初の72時間(3日間)は、消防や自衛隊などのリソースも救助活動に集中します。そのため、個々の世帯への物資支援(公助)が本格化しない可能性が高いからなんです。

道路が寸断され、物流が完全にストップすれば、支援物資を運びたくても運べない、という状況も十分に考えられます。

例えば、国からの支援物資(プッシュ型支援)が避難所に届き始めるのが「4日目」から、という計画を立てている自治体もあります。つまり、最低3日間は、公的支援を一切頼らず、自力で生き抜く必要がある、ということですね。

備蓄目標の目安

  • 最低3日分:公的支援が始まるまでの「生き残り(Self-Survival)」のための絶対最小ライン。
  • 推奨1週間分:ライフライン(特に水道や電気)の復旧や物流が安定するまで「生活を維持(Self-Sufficiency)」するための、より安全で合理的なライン。

(参考:内閣府防災情報「地区防災計画」

特に都市部では、避難所の収容能力(キャパシティ)を超える人が集まる可能性も高いです。また、避難所生活はプライバシーの確保が難しく、感染症のリスクもあります。自宅の安全が確認できれば、支援物資の列に長時間並ぶことなく、住み慣れた自宅で過ごす「在宅避難」が基本になります。

そのためにも、支援に頼らずとも「生活を維持」できる、1週間分の備えを強く推奨したいなと思います。

備蓄の基本、水1人1日3リットル

1人1日3リットルの飲料水を人数分そろえて確認する家庭の防災水備蓄のイメージ写真
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備蓄の中でも、食料よりも優先順位が高いのが「水」です。人間は食料がなくても数週間は生きられると言われますが、水がなければ数日で生命の危機に瀕しますからね。

備蓄すべき水の量の基準は、「1人1日あたり3リットル」です。

「3リットルも?」と思うかもしれませんが、これは純粋な飲み水としてだけでなく、調理(アルファ米を戻す、レトルトを湯煎するなど)に使用する水も含まれています。内訳としては、飲料水として約2リットル、調理や最低限の衛生(歯磨き、洗顔など)に1リットルと考えるのが妥当ですね。

【計算例】4人家族が7日分備蓄する場合

4人 × 3 L/日 × 7日間 = 84 L

これは、2Lのペットボトルで42本分に相当します。かなりの量ですが、これが「在宅避難」を支える命の水になります。一度に揃えるのは大変なので、少しずつ買い足していきましょう。

水の「ハイブリッド戦略」

84Lもの水を管理するのは大変ですよね。そこでおすすめなのが、複数の種類の水を組み合わせる「ハイブリッド戦略」です。

  • 長期保存水(5年~10年):賞味期限が長いので、管理の手間が少ないのがメリット。備蓄の「基盤」として、必要量の半分程度をこれで賄うと管理が楽になります。
  • ミネラルウォーター(2年~3年):普段から飲み慣れた水を多めに購入し、後述する「ローリングストック法」で常に循環させます。
  • ウォーターサーバー:日常的に水を消費し、常に一定量(ボトル数本分)のストックが家庭内にある状態を維持できるため、ローリングストックを自動化する有効な手段とも言えます。

「半分を長期保存水(基盤)+半分をミネラルウォーター(循環)」という形が、管理の手間とコストのバランスが良いかなと思います。

「生活用水」の確保も忘れずに

1人1日3 Lの飲料・調理水とは別に、トイレの排水、身体の清拭、洗濯、清掃などに使用する「生活用水」の確保も重要です。

この最も有効な備蓄源は、「お風呂の残り湯」です。災害発生直後は、自動排水機能などを停止し、浴槽の水を抜かずに溜めておく習慣が極めて重要です。いざという時のために、ご自宅の浴槽の操作方法を確認しておくと良いですね。

また、給水車から水を受け取るための清潔なポリタンクや、折りたたみ式のウォーターバッグも併せて準備しておきましょう。

防災備蓄の食料はローリングストックで

缶詰やレトルト食品を使いながら補充するローリングストックの防災食料管理イメージ写真
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次に食料です。ここで私がいちばん推奨したいのが、「ローリングストック法」という考え方です。

これは、従来の「非常食」(乾パンやアルファ米など)を物置の奥にしまい込み、賞味期限が切れてから慌てて入れ替える…というやり方ではありません。

消費者庁も推奨している方法で、「①普段食べている食材(レトルト食品、缶詰、パスタなど)を多めに買って備える」「②普段の食事で食べる」「③食べたら買い足して補充する」というサイクルを継続的に回す、とても合理的で持続可能な備蓄方法です。

ローリングストックの3大メリット

  • 賞味期限切れを防げる(無駄がない): 常に消費と補充を繰り返すため、備蓄品が「死蔵」され、いざという時に期限切れ…という悲劇を防げます。
  • 経済的(家計にやさしい): 特別な高価な非常食を大量に揃える必要がなく、普段の食費の延長線上で備蓄が可能です。
  • 精神的安定(これが一番大事かも): 災害時という非日常下でも、「普段から食べ慣れた味」を口にできることは、想像以上に大きな精神的安心感につながります。ストレス下では、食欲不振になることも多いですからね。

乾パンやアルファ米だけの7日間を想像してみてください…ちょっと辛いですよね。いつものレトルトカレーやサバ缶、パスタ、甘いお菓子が食べられると思うと、備蓄の心理的ハードルもぐっと下がるかなと思います。

ローリングストックの具体的なやり方

食品を循環させて入れ替えるローリングストックの手順を家庭で実践している様子の写真
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では、具体的にどんな食材をローリングストックすれば良いでしょうか。ポイントは「主食(炭水化物)」「主菜(たんぱく源)」「副菜(ビタミン・ミネラル源)」をバランスよく備えることです。

熱源の確保がカギ

まず大前提として、ローリングストックで備蓄したレトルト食品や即席麺を機能させ、災害時に「温かい食事」をとるために、カセットコンロとカセットボンベは絶対に必要です。

電気が止まれば電子レンジは使えませんし、ガスが止まればコンロは使えません。温かい食事は、体温を維持し、精神的な満足感を高める上で、本当に重要なんです。

ボンベの必要量目安

東京ガスの実証実験などによれば、4人家族が1週間に必要なカセットボンベは約5本という具体的な数値が示されています。これは、朝・昼・晩に湯沸かしや簡単な調理をした場合の目安ですね。

あくまで調理頻度によりますが、少し多めに(6〜7本)備えておくと安心かもしれません。カセットボンベにも使用期限(製造から約7年程度)があるので、こちらもローリングストック(使ったら買い足す)すると良いですね。

断水時の調理ノウハウ「ポリ袋調理」

断水時において、洗い物を最小限に抑え、カセットボンベのガスと調理水を節約する技術として、「ポリ袋調理(パッククッキング)」が非常に有効です。

これは、高密度ポリエチレン製(「湯煎対応」と書かれたもの)のポリ袋に米や食材、調味料を入れ、空気を抜いて袋の口を縛り、鍋で湯煎する調理法です。

この方法なら、同じ鍋のお湯で主食(ご飯)と複数のおかず(例:サバ缶の煮付け、蒸し野菜)を同時に調理できます。お湯は汚れないので、数回繰り返して使えますし、食器もラップを敷けば洗う必要がありません。ぜひ一度、平時に練習してみてほしい技術です。

備蓄食料の具体例リスト

ローリングストックにおすすめの食材を、栄養バランスを考慮してリストアップしてみました。ご家庭の好みやアレルギーに合わせて調整してくださいね。

分類具体例ポイント
主食 (エネルギー源)レトルトご飯、パックごはんアルファ米(水でも戻せるもの)パスタ、乾麺(うどん、そうめん)即席麺、カップ麺シリアル、乾パン、缶詰パン餅(真空パック)炭水化物は活動の源。調理不要で食べられるもの(パックごはん、シリアル)と、簡単な調理で温かく食べられるもの(パスタ、即席麺)を組み合わせる。
主菜 (たんぱく源)ツナ缶、さば缶、いわし缶(味付き)やきとり缶、コンビーフレトルト食品(カレー、牛丼、ハンバーグ)魚肉ハム・ソーセージ(常温)大豆缶、ミックスビーンズたんぱく質は体力維持に不可欠。缶詰やレトルトは、そのままおかずになる「味付き」が調理の手間が省けて便利。
副菜 (ビタミン・ミネラル源)野菜ジュース、果汁ジュース(紙パック)果物の缶詰(桃、みかん、パイン)乾燥野菜(切り干し大根、乾燥わかめ)ロングライフ豆乳トマト缶(調理用)災害時は野菜不足になりがち。ビタミン・ミネラルを補給し、体調を整えるために重要。
その他 (QOL向上・調味料)お菓子(チョコ、ビスケット、飴、羊羹)ドライフルーツ、ナッツ類インスタントスープ、フリーズドライ味噌汁調味料(塩、砂糖、醤油、めんつゆ、油)飲み物(お茶パック、インスタントコーヒー)お菓子はカロリー補給だけでなく、ストレス緩和に絶大な効果あり。調味料は「非常食」を「日常の味」に近づけるために不可欠。

在宅避難の備えと1次・2次の違い

非常持ち出し袋と在宅避難用の水・食料が家の中で分散保管されている防災備蓄の写真
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防災備蓄というと、大きなリュックサック(非常持ち出し袋)をイメージする方が多いかもしれません。しかし、備蓄にはその目的と緊急度に応じて、3つの階層があるんです。

防災備蓄の3つの階層

  1. 0次の備え(携帯用): 外出先での被災を想定し、「常に持ち歩く」最小限の備えです。モバイルバッテリー、携帯充電器、常備薬、除菌シート、ホイッスル(防犯ブザー)、少量の水や非常食などが該当します。
  2. 1次の備え(避難用): 自宅が倒壊や火災、浸水の危険にさらされ、避難所へ「避難する」際に、即座に持ち出す備えです。これが、いわゆる「非常持ち出し袋」ですね。リュックサックなどに最低限1日分の水、食料、医薬品、情報収集ツール、ヘルメット、軍手などをまとめ、玄関や寝室など、すぐに持ち出せる場所に保管します。
  3. 2次の備え(在宅避難用): 本ガイドの主眼であり、最も重要な備えです。ライフラインが停止しても、安全が確認された「自宅で生活を維持する」ための備蓄です。前述の「最低3日~1週間分」の水、食料、簡易トイレ、カセットコンロなどがこれにあたります。

多くの家庭では「1次の備え(非常持ち出し袋)」の準備に意識が向きがちですが、特に都市部では、避難所の収容能力を超える被災者の発生が予想されます。また、自宅に大きな損壊がなければ「在宅避難」が基本となります。

したがって、防災備蓄の優先順位としては、「1次の備え」以上に「2次の備え(在宅避蓄)」の充実にこそ、最大のリソース(お金、時間、スペース)を投入するべきだと、私は考えています。

「1次の備え(非常持ち出し袋)」の中身について、何が必要か具体的に知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

徹底解説!家庭の防災備蓄ガイドと水・食料・日用品

家庭の在宅避難に必要な水・食料・簡易トイレ・日用品をまとめて確認している防災備蓄の写真
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さて、ここまでは備蓄の基本原則と、生命維持の根幹である水・食料について解説しました。もし水と食料の備えが「生存(サバイバル)」のための備えだとしたら、ここから解説する「日用品」の備えは、劣悪な環境下でも人間らしい「生活(QOL=生活の質)」を維持するための、非常に重要な備えとなります。

防災備蓄の日用品リスト、必須品は?

マスクやウェットティッシュなど衛生用品をまとめて準備する家庭の防災日用品備蓄の写真
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水と食料があっても、衛生環境が悪化すると、体調を崩したり感染症が広まったりします。また、情報や電力がなければ、不安は増大しますよね。水が使えない状況、電気が使えない状況を具体的に想像しながら、必要なものをリストアップしましょう。

衛生用品(断水・感染症対策)

断水状況下では、水の消費を抑えつつ衛生を維持するために、水が不要な衛生用品が不可欠です。不衛生な環境は、食中毒や破傷風、感染症の温床となりますからね。

  • 除菌ウェットティッシュ:手指の消毒や、テーブルを拭く際などに大量に消費します。
  • アルコールスプレー(手指消毒用):水が使えない状況での手指衛生の基本です。
  • ウェットボディタオル(入浴代替):お風呂に入れないストレスは想像以上です。大判で厚手のものがおすすめ。
  • 歯磨き用ウェットティッシュ、口内洗浄液(デンタルリンス):口腔ケアを怠ると、誤嚥性肺炎などのリスクも高まります。
  • トイレットペーパー、ティッシュペーパー:これらも「消耗品」です。普段から最低1ヶ月分はストック(ローリングストック)しておきましょう。
  • マスク:防塵(ほこりよけ)だけでなく、避難所や在宅避難での感染予防、防寒にも役立ちます。
  • 常備薬、救急箱:絆創膏、消毒液、ガーゼ、包帯、解熱鎮痛剤、胃腸薬など。

情報と電力の確保(情報遮断対策)

ライフラインが停止した暗闇と情報遮断の中では、デマが拡散しやすく、不安が急激に増大します。状況を把握し、安全を確保するために、電力と情報は不可欠です。

  • 携帯ラジオ(乾電池式または手回し充電式):スマートフォンが使えなくても、広域の災害情報を得る最後の砦です。
  • モバイルバッテリー:スマートフォンやラジオの充電に。家族の人数分、または大容量のものを複数あると安心です。
  • 非常用電源(ポータブル電源):1週間にわたる在宅避難を想定する場合、乾電池やモバイルバッテリーだけでは不足します。日中であればソーラーパネルで「再生産可能」なポータブル電源は、在宅避難の質を劇的に上げるアイテムです。
  • 乾電池(各種サイズ):ラジオやライト用。長期保存可能なタイプを多めに。
  • 照明(懐中電灯、ランタン、ヘッドライト):ヘッドライトは両手が空くため、夜間の作業やトイレの際に非常に便利です。

多目的アイテム(知恵で乗り切る)

限られた物資で乗り切るため、複数の用途に使えるアイテムは非常に価値が高くなります。

  • 食品用ラップ:警視庁災害対策課X(旧Twitter)でも推奨されていますが、食器に巻いて使用すれば、洗い物をなくし、貴重な水を節約できます。さらに、腕の骨折時には芯を添え木代わりにし、ラップ本体で巻いて固定すれば、三角巾の代わりにもなります。
  • ポリ袋(ゴミ袋):前述のポリ袋調理だけでなく、防寒着(体に巻き付ける)、水の運搬、簡易トイレの汚物入れ、ゴミの分別など、非常に多用途に活用できます。大・中・小、各サイズあると便利です。

最重要!簡易トイレの必要数は140回

家庭で備蓄する簡易トイレ用品を大量に並べて必要数を確認している在宅避難対策の写真
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日用品の中で、私が「食料と同じか、それ以上に重要」だと断言したいのが、「簡易トイレ(携帯トイレ)」です。

想像してみてください。断水で水洗トイレが使えなくなった状況を。水が流れない便器に、排泄物がどんどん溜まっていく…。衛生的な問題はもちろん、その悪臭による精神的ストレスは計り知れません。

ある調査では、在宅避難時の不安として、1位は「トイレが使えないこと」であり、「ライフラインの停止」や「食料不足」を上回っています。東京都も「食事は我慢できますが、生理現象は我慢できません」と断言しているほど、トイレ対策は防災備蓄における最優先事項なんです。

トイレを我慢すると、水分や食事を控えるようになり、体調を崩す(特に高齢者は膀胱炎や、血流が悪化しエコノミークラス症候群のリスク増)という深刻な二次被害につながります。

【衝撃の必要量】4人家族が7日分備蓄する場合

成人の1日の平均排泄回数は「1人5回」とされています。(神奈川県の基準より)

5回/日 × 4人 × 7日間 = 140回分

この「140回分」という物量を、あなたは備蓄できていますか?

多くの家庭で最も見落とされがちなポイントです。在宅避難の成否は、「水」と「トイレ」で決まると言っても過言ではありません。必ず十分な量を備蓄してください。

簡易トイレの具体的な選び方や、もしもの時の代用方法については、こちらの記事で詳しく解説しています。

参考記事:防災トイレの選び方と必要数 携帯トイレ・凝固剤・災害時の使い方を防災士が詳しく解説

乳幼児の防災備蓄、ミルクとオムツ

赤ちゃん用のミルクやおむつを災害備蓄として準備する家庭の防災対策イメージ写真
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ここからは、ご家族の構成に合わせた「追加備蓄」です。標準的な備蓄品(水、食料など)は、時間が経てば公的支援(公助)で配給される可能性があります。しかし、「要配慮者」向けの特殊な物資は、支援物資に含まれていないか、含まれていても絶対数が不足する可能性が極めて高く、「自助」でしか対応できない領域です。

0〜1歳の赤ちゃんがいるご家庭は、ミルクと衛生用品が文字通り死活問題になります。栄養摂取の代替手段がありませんからね。

  • 液体ミルク:調乳不要(水も熱源も不要)で衛生的なため、災害時に最強の備えです。粉ミルクの場合は、調乳用の清潔な水(備蓄水)と、消毒が困難な状況を想定した「使い捨て哺乳瓶」もセットで備えましょう。
  • おむつ、おしりふき:これらも支援物資ではサイズが合わなかったり、届くのが遅れたりしがちです。普段から最低でも1〜2パックは多めにストック(ローリングストック)しておきましょう。
  • 離乳食(レトルトパウチ):月齢に合わせたもの。これも食べ慣れたものが一番です。
  • 衛生・器具:消毒が困難な状況を想定し、紙コップでミルクを飲ませる方法を習得しておくことも推奨されます。また、おくるみや掛布団の代用になるバスタオルも多めに。

高齢者向けの防災備蓄と介護食

高齢者のための介護食や医療用品を防災備蓄として家族がそろえている様子の写真
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高齢者がいるご家庭では、「食事形態」と「持病」、「排泄」に特別な配慮が必要です。体力の低下が、災害時には命取りになりかねません。

  • 食事(介護食):通常の備蓄(米、乾麺)を応用しつつも、塩分の多い缶詰や乾麺は「うす味」にするなどの注意が必要です。さつまいも粥のように、通常食をアレンジした「やわらか食」や、市販の介護食(おかゆ、とろみ食、とろみ剤)を備蓄します。誤嚥のリスクにも配慮が必要ですね。
  • 衛生:大人用紙パンツ(おむつ)、尿取りパッド、おしりふき。これらは簡易トイレ以上にパーソナライズされた必需品です。
  • 医療・その他:持病の薬(最低1週間分)と、その内容がわかる「お薬手帳のコピー」。このコピーが非常に重要で、これが無いと、支援の薬ももらえないことがあります。補聴器(予備電池も)、入れ歯、入れ歯用洗浄液、杖など、日常の必需品も忘れずに。

ペットやアレルギー対応の備蓄リスト

ペットフードやアレルギー対応食品を災害に備えてストックする家庭の防災備蓄イメージ写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

食物アレルギーへの対応や、ペットの備えも、「公助」に依存することはできません。100%「自助」および「共助」が基本です。

食物アレルギー

アレルギー対応食品(特定原材料等28品目不使用のアルファ米や缶詰など)を、ローリングストック法で備蓄します。

最重要原則は、「普段から食べ慣れておく」ことです。災害時という特殊なストレス環境下で初めて口にするものを食べ、万が一アレルゲンでなくても体調不良を引き起こすリスクを避けるためです。

ペット

ペットも家族の一員として、その命を守るための備蓄は飼い主の責任です。「同行避難」が原則となりつつある今、ペット用の備蓄も必須です。

  • 必需品:ペットフードとおやつ(最低7日分)、清潔な水、トイレ用品(ペットシーツ、猫砂など)、常用薬。
  • その他:キャリーケースやケージ(避難所で必要)、環境省のガイドラインでも示されているような、鑑札や予防接種の証明書のコピー。

少量で高カロリー・高タンパクなパピー用フードや、栄養補給用のドリンクは、非常時の効率的なエネルギー補給に役立つかもしれません。

よくある質問(防災士が回答)

Q1:家庭で備蓄を始めるなら、まず何をどれだけ準備すればいいですか?

A:まずは「水・食料・情報(照明/通信)」の3分野を押さえることが基本です。例えば、水は「1人1日3L」、食料は「1人1日3食分」を目安に、まず 3日分 を最低限として備えましょう。大規模災害時には支援物資の到着がさらに遅れる想定があるため、できれば 1週間分以上 を持っておくと安心です。

Q2:「ローリングストック法」って何?備蓄とどう違いますか?

A:「ローリングストック法」とは、普段から使っている食品を少し多めに購入し、消費した分を随時買い足して備える方法です。これにより、賞味期限切れを防ぎながら無理なく備蓄できます。災害用備蓄を始めるハードルも下がります。

Q3:家族構成(子ども・高齢者・ペット)によって備蓄はどう変えるべきですか?

A:家族構成に応じて「必要なモノ・量・配慮点」が変わります。例えば、子どもや乳幼児がいるならミルク・離乳食、おむつが、 高齢者なら常備薬・食べやすい食料が、ペットがいるならペットフード・キャリーなどが必要です。まず自宅の“要配慮者”をリストアップして備蓄品のチェックを行いましょう。

Q4:備蓄品をどのように保管・管理すればいいですか?置き場所・見直し頻度・賞味期限など。

A:保管・管理のポイントは以下のとおりです。

  • 置き場:玄関近く・キッチン・備蓄庫など「すぐ取り出せる場所」が理想です。
  • 見直し頻度:年2回(例:3月・9月)に数・期限・家族構成の変更をチェック。
  • 賞味期限・消費期限:特に食品・水・燃料類は「古いものから使う」ローリングストックが有効です。
    この管理により、災害時に「備えたつもりが使えない」状況を防げます。

Q5:備蓄だけで安心?「防災グッズ」や「リュック」との関係は?

A:備蓄は「在宅避難(家で数日過ごす)」を前提としていますが、リュックや防災グッズは「一次持ち出し(避難時に持ち出す)」に備えるためのものです。つまり、

  • 備蓄 → 家に置いておく長期&大量の備え
  • 防災リュック/グッズ → 非常時に持ち出せる形で用意
    この両者を合わせて運用することで、家にいる時も避難する時も“抜け漏れなく備える”ことができます。

Q6:備蓄を始めてから増やした方がいいアイテムはありますか?優先度順に教えてください。

A:はい。次の順で備えると効率的です。

  1. 飲料水(1人1日3L以上)・食料(保存食3日分以上)
  2. 情報確保アイテム(携帯充電器・ラジオ・懐中電灯)・衛生用品(トイレ・ラップ・消毒)
  3. 加熱・調理用品(カセットコンロ・ボンベ)・寝具・衣類(毛布・レインウェア)
  4. 家族構成別のアイテム(子ども・高齢者・ペット対応)・自宅・避難所別の用品
  5. 備蓄の拡張(1週間以上・ローリングストック実践)
    このように段階的に備えることで、無理なく備蓄を強化できます。

総括:家庭の防災備蓄ガイドと水・食料・日用品の備え方

備蓄を家庭で確認している家族
【HIH】ヒカリネット・イメージ

最後に、家庭の防災備蓄ガイドとして、水・食料・日用品の備え方を総括します。

本ガイドで何度もお伝えしてきましたが、備蓄は「準備したら終わり」ではありません。災害時に確実に機能させるため、継続的な管理(メンテナンス)こそが、その実効性を担保します。

備蓄管理の2つの原則

  1. 分散備蓄(リスク管理): 備蓄品すべてを一つの物置に集中保管していた場合、地震による家具の転倒や家屋の損壊でその場所がアクセス不能になった瞬間、備蓄は「ゼロ」になります。この全滅リスクを回避するため、玄関まわり(1次備蓄)、寝室、リビング(ローリングストック品)、床下・クローゼット(長期保存水)など、用途と緊急度に応じて保管場所を「分散」させることが重要です。
  2. 定期点検(メンテナンス): 最低でも「半年に一度」は中身をチェックする習慣をつけましょう。「防災の日(9月1日)」や、東日本大震災のあった「3月11日」など、特定の日を「家庭の防災点検日」と定めると忘れにくいですね。
    • 賞味期限の確認:期限が近いものから消費し、新しいものを買い足します(ローリングストックの実践)。
    • 家族構成の変化の反映:乳幼児の成長(ミルクから離乳食へ)、家族の増減、持病の変化(新しい常備薬)、アレルギーの発症・治癒など、現在の家族のニーズに備蓄内容が合致しているかを見直します。
    • 家族内での情報共有:備蓄品の保管場所や使い方(簡易トイレの組み立て方、カセットコンロの使用法など)を、家族全員で共有しておくことが重要です。

まずは、【1人・1週間分】の在宅避難の最低限の目標として、

  • 水: 21 リットル (3 L/日 $\times$ 7日)
  • 食料: 21 食分 (3 食/日 $\times$ 7日)
  • 簡易トイレ: 35 回分 (5 回/日 $\times$ 7日)

という数字を覚えてください。

ご家庭の人数をかければ、それがあなたの家の「備蓄目標」になります。

備蓄品目算定基準(1人/日)【A】単身成人(7日分)【B】成人2名(7日分)【C】4人家族(大人2+学童2)(7日分)
水(飲料・調理用)3 リットル21 リットル42 リットル84 リットル (2Lペットボトル42本)
食料(主食・主菜・副菜)3 食21 食42 食84 食 (ローリングストックで管理)
トイレ(簡易・携帯)5 回35 回分70 回分140 回分 (最重要項目の一つ)
熱源(カセットボンベ)3~4 本4~5 本5~6 本 (調理頻度による目安)

(※上記はあくまで一般的な目安です。ご家庭の状況や地域特性に合わせて調整してください。)

この数字を見て、「こんなにたくさん無理…」と思ったかもしれません。大丈夫です、一度にすべてを揃える必要はありません。

「今度の買い物で、水を1ケースだけ多く買ってみる」「今週末、家族で簡易トイレの使い方を練習してみる」そんな小さな一歩からで構いません。

この記事が、あなたの家庭の防災備蓄を「不安」から「具体的な行動」へ変える、そのきっかけになれば、防災士としてとても嬉しいです。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

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