通電火災とは?原因と対策を防災士が解説【基本のキ】

通電火災とは?原因と対策を防災士が解説【基本のキ】
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
地震や台風などの災害時、私たちはまず揺れから身を守ることに必死になります。しかし、揺れが収まった後や、あるいは避難所に移動してほっと一息ついた後に、誰もいない自宅から火の手が上がる「通電火災」という恐ろしい現象があることをご存じでしょうか。停電が復旧したその瞬間に発生するこの火災は、発見が遅れ、周囲を巻き込む大規模な延焼火災につながりやすいという特徴があります。大切な我が家や思い出の品々、そして地域の安全を守るためには、この通電火災の原因と対策を正しく理解しておくことが不可欠です。この記事では、なぜ通電火災が起きるのかという科学的な仕組みから、私たちが日頃からできる具体的な備えまで、わかりやすく解説していきます。
- 通電火災が発生する具体的なメカニズムと時間差発火の危険性がわかる
- 過去の大震災でどのくらい通電火災が起きたかの実態が数値で学べる
- 感震ブレーカーの種類や選び方などハード面の対策を比較検討できる
- 避難時のブレーカー操作や保険の知識などソフト面の対策が身につく
通電火災を防ぐために|地震後はブレーカーを切る重要性を解説

通電火災とは?原因と対策を防災士が解説

通電火災は、災害そのものの物理的な破壊による被害に加え、復旧の過程で発生する「二次災害」の代表格です。ここでは、なぜ待望の電気が戻ることで火災という最悪の事態が起きてしまうのか、そのメカニズムと具体的なリスクについて、地震や水害といった災害の種類別に詳しく掘り下げて解説していきます。
通電火災のメカニズムと発生の仕組み

通電火災とは、地震や風水害などの影響で広域停電が発生した後、電力会社による送電が再開(復電)された際に発生する火災のことを指します。その発生プロセスは非常に厄介で、あたかも「時限爆弾」のような性質を持っています。
まず、災害の衝撃で家具が倒れたり、壁の中の電気配線が傷ついたりします。この時点では停電しているため、当然ながら火花が出ることはありません。しかし、その状態で住民が避難所に移動し、家が無人になった後で電力が復旧するとどうなるでしょうか。
損傷してショート状態にある配線にいきなり電気が流れたり、倒れてカーペットに埋もれた電気ストーブが最大出力で加熱を始めたりします。その結果、誰もいない密室で出火に至るのです。「人がいない時に、勝手に火が出る」という点が、この災害の最大の特徴であり、初期消火を困難にさせている最大の要因です。
地震が引き起こす通電火災のリスク

地震発生時に最も多い原因の一つが、電気ストーブ、白熱灯スタンド、観賞魚用ヒーターなどの「熱源機器」です。大きな揺れでこれらが転倒し、可燃物であるカーテンや衣服、散乱した書類などが覆いかぶさります。
最近の機器には転倒OFFスイッチが付いていますが、倒れた拍子にスイッチ部分が物に挟まれて機能しなかったり、古い機器ではそもそも安全装置がなかったりします。停電中は冷えていますが、復電と同時にスイッチが入り、接触している可燃物を加熱し始め、数分から数十分で発火点に達してしまいます。
隠れた火種「壁内配線の損傷」に注意
目に見える家電製品だけではありません。壁の中を通るVVFケーブルなどの配線が、家の激しい揺れや歪みによって強く引っ張られ、被覆が破れて芯線が露出してしまうケースもあります。
復電時に壁の中でショート(短絡)し、周囲の断熱材や木材に着火すると、壁の中で燻るように燃え広がります。発見された時にはすでに天井裏全体に火が回っていることが多く、非常に危険です。
水害や台風による通電火災の危険性

近年、日本各地で頻発している集中豪雨や台風による水害でも、通電火災のリスクは高まります。水は、不純物を含むと電気を非常によく通す性質があるため、家電製品やコンセントが水没すると、内部に泥や水分が侵入します。
水が引いた後、外側は乾いているように見えても、内部の基板や回路には水分や泥汚れが残っていることがよくあります。この状態で通電されると、本来電気が流れてはいけない回路間で電気がリークし、異常発熱を起こして発火します。
塩害によるリスクの増大
特に海水を含んだ津波や高潮の被害では、塩分が乾燥後も残留し、空気中の湿気を吸うことで強力な電気の通り道を作ります。これにより、通常の水濡れよりも低い電圧で激しいスパークが発生し、火災のリスクはさらに跳ね上がります。
阪神淡路大震災など過去の事例と統計

過去の大震災のデータを紐解くと、通電火災がいかに高い頻度で発生しているかが分かります。内閣府や消防庁の資料によれば、1995年の阪神・淡路大震災では、原因が特定された建物火災のうち、約6割が電気に関係する火災であったと報告されています。(出典:内閣府 防災情報『大規模地震時の電気火災の発生抑制に関する検討会』)
当時は1月の寒い時期で、早朝だったこともあり、多くの家庭で電気ストーブやこたつを使用している状態で被災しました。その後、停電が復旧した際にこれらが一斉に出火したことが、神戸の街を焼き尽くす大規模な火災旋風の一因になったと言われています。
また、東日本大震災でも過半数が電気火災であり、津波で浸水した自動車のバッテリーショートや、塩水を被った配電盤からの出火が相次ぎました。これらは決して「運が悪かった」わけではなく、災害と電気が結びついた必然的な結果なのです。
停電復旧後の通電火災のタイミング

通電火災は、電気が復旧した「直後」に起きるとは限りません。場合によっては、復電から数時間、あるいは数日経過してから発火することもあります。これを「再通電火災」と呼ぶこともあります。
例えば、水に濡れたコンセントが時間をかけてじわじわと炭化し、ある日突然ショートして発火するケースや、壁内の断線箇所が接触不良(アーク放電)を繰り返しながら徐々に熱を持つケースなどです。避難所から自宅に戻り、片付けをしている最中や、あるいは夜寝静まった後に火災が発生することもあるため、復旧後も当面の間は警戒レベルを下げてはいけません。
通電火災とは?原因を知り行うべき対策

ここまで通電火災の恐ろしさを見てきましたが、一方でこれはメカニズムがはっきりしているため、「防ぎようがある災害」でもあります。物理的に電気を遮断するハード面の対策と、私たちの行動によるソフト面の対策を組み合わせることで、リスクを劇的に減らすことができます。ここからは、今日からできる具体的な対策手法について見ていきましょう。
感震ブレーカーの種類と設置のメリット

通電火災対策の決定打であり、最強の切り札と言えるのが「感震ブレーカー」です。これは震度5強などの強い地震の揺れを感知すると、自動的に電気を遮断してくれる装置です。
災害発生時、私たちはパニックになって逃げるのが精一杯です。ブレーカーを切る余裕などないかもしれません。また、外出中に被災した場合、家に戻ってブレーカーを切ることは不可能です。そんな時でも、感震ブレーカーがあれば機械が確実に電気を止めてくれるため、通電火災を根源から断つことができます。
| タイプ | 仕組み・特徴 | 設置難易度 | 費用目安 |
|---|---|---|---|
| 分電盤タイプ | 家全体の電気を根元から遮断。最も信頼性が高いが、電気工事士による設置が必要。 | 高(要工事) | 5〜8万円 |
| コンセントタイプ | 個別のコンセントに差し込んで使用。電気ストーブや水槽など、特定の危険機器に絞って対策。 | 低(誰でも可) | 5千円〜2万円 |
| 簡易タイプ | 揺れで重りが落下し、物理的にスイッチを下げるアダプター。安価だが誤作動のリスクも。 | 低(誰でも可) | 3千円〜4千円 |
持ち家の方は、信頼性の高い「分電盤タイプ」への交換が理想です。一方、賃貸住宅にお住まいの方や、すぐに工事ができない方は、ホームセンターなどで購入できる「簡易タイプ」や「コンセントタイプ」でも十分な効果が期待できます。まずは「何も対策していない状態」を脱することが重要です。
地震への備えについては、地震に備えて今やるべきこと:大震災の教訓とあなたの命を守るの記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
避難時に行うブレーカー遮断の手順

もし感震ブレーカーがまだ設置できていない場合、私たちの行動そのものが生死を分けます。避難指示が出たり、安全のために自宅を離れる際は、必ずブレーカーを落としてから避難することを徹底してください。
ブレーカー操作の重要ポイント
キッチンやリビングなどの個別の小さなスイッチ(安全ブレーカー)を一つ一つ切るのではなく、一番大きな「アンペアブレーカー(主幹ブレーカー)」を落としてください。これで家中の電気が一括で遮断され、どこで配線が傷ついていても火災を防ぐことができます。
災害時は気が動転してしまいがちですが、「火事を防ぐためにブレーカーを切る!」という行動を、避難訓練のつもりで家族でシミュレーションしておきましょう。玄関ドアに「避難時はブレーカーOFF」とメモを貼っておくのも有効なアナログ対策です。
また、その他にも避難時のNG行動については、地震発生時やってはいけないこと10選!命を守るNG行動とはで詳しく紹介しています。
トラッキング現象の防止と掃除の習慣

災害時でなくても日常的に起こりうるのが、コンセントとプラグの間にホコリが溜まり、そこに湿気が加わって放電・発火する「トラッキング現象」です。災害時は家屋の損傷で大量の粉塵が舞い、雨漏りなどで室内の湿度が上がるため、この現象が起きるリスクが急激に高まります。
冷蔵庫、テレビ、洗濯機の裏など、普段目の届かない場所のコンセントは特に要注意です。年に一度の大掃除だけでなく、定期的にプラグを抜いて乾いた布でホコリを取り除いておくことは、日常の火災予防だけでなく、災害時の通電火災対策にも直結します。100円ショップなどで売っている「コンセント安全カバー」を活用し、ホコリの侵入を物理的にシャットアウトするのも非常に有効な手段です。
地震保険の必要性と免責条項の確認

万が一、通電火災で家が燃えてしまった場合、生活を再建するための金銭的な備えも重要になります。ここで多くの人が誤解している落とし穴があります。それは、一般的な「火災保険」では、地震を原因とする火災は補償されないケースがほとんどであるという点です。
地震免責条項とは?
多くの火災保険契約には「地震・噴火・津波を原因とする火災については、火災保険金を支払わない」という免責条項が含まれています。通電火災は、その発生原因が「地震」にあるため、法的には地震災害として扱われ、通常の火災保険だけでは保険金が下りない可能性が高いのです。
通電火災による損害を確実にカバーするためには、火災保険に上乗せする形で「地震保険」に加入していなければなりません。「自分は火災保険に入っているから大丈夫」と思い込まず、今一度、保険証券や契約内容を確認し、不明な点は保険代理店などの専門家に相談することをお勧めします。
補助金を活用したブレーカーの導入

「感震ブレーカーを付けたいけれど、費用が…」と悩んでいる方に朗報です。現在、多くの自治体が感震ブレーカーの普及を促進するため、設置費用の補助金制度や、器具の無料配布・あっせん事業を展開しています。
特に、木造住宅が密集している地域(不燃化特区など)にお住まいの方や、高齢者・障害者世帯などを対象に、費用の大部分、あるいは全額を補助してもらえるケースもあります。
- お住まいの地域の役所ホームページで「〇〇市 感震ブレーカー 補助金」と検索してみる。
- 防災課の窓口へ電話して相談してみる。
- 工事が必要な分電盤タイプだけでなく、簡易タイプの配布を行っている場合もあるので確認する。
安全をお得に手に入れるチャンスです。申請には期限がある場合も多いので、ぜひ早めにチェックしてみてください。
通電火災とは?原因と対策の重要ポイント

ここまで、通電火災のメカニズムから具体的な対策までを見てきました。最後に、この記事の要点をまとめます。
- 通電火災は、停電復旧後に無人の家で発生するため発見が遅れ、被害が拡大しやすい。
- 地震時の電気ストーブ転倒や、水害時の配線・基板の汚損が主な発火原因となる。
- 阪神淡路大震災など、過去の大災害でも火災原因の過半数が電気に起因している。
- 「感震ブレーカー」の設置は、不在時でも自動で電気を遮断できる最も有効なハード対策である。
- 避難時は必ず「主幹ブレーカーを落とす」ことを徹底し、日頃からコンセント掃除を心がける。
- 通常の火災保険だけでは補償されない可能性があるため、地震保険への加入状況を確認する。
通電火災は、自然災害そのものとは異なり、「人災」に近い側面があります。つまり、私たちの事前の備えとちょっとした行動で、防ぐことができる災害なのです。あなたと大切な家族、そして地域を守るために、今日からできる対策を一つずつ始めていきましょう。






