雪の結晶のでき方を防災士が解説!中学生も分かる科学と観察

雪の結晶のでき方を防災士が解説!中学生も分かる科学と観察
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
冬の空から静かに舞い降りてくる美しい雪。ふと手袋に落ちた雪を見て、その精巧な幾何学模様に見とれてしまった経験は誰にでもあるのではないでしょうか。「どうしてこんな綺麗な形になるんだろう?」「なぜみんな六角形なんだろう?」そんな素朴な疑問を持つことは、科学への入り口としてとても素晴らしいことです。
実は、雪の結晶のでき方や仕組みを深く知ることは、単なる理科の勉強になるだけではありません。「どんな雪が降っているか」を見ることで、はるか上空の気象状態を推測し、これから起こりうる気象災害を予測するための大切な手がかりにもなるのです。今回は、中学生の自由研究や家庭学習のテーマとしてもぴったりな雪の仕組みについて、防災士の視点も交えながら、できるだけ専門用語を使わずにわかりやすくお話しします。
- なぜ雪が六角形の形になるのかという科学的な理由と分子構造
- 温度や湿度が結晶の形に与える影響と中谷ダイヤグラムの法則
- 100円ショップの道具で誰でもできる観察とスマートフォン撮影のテクニック
- 雪の形から予測する気象リスク(大雪・着雪)と防災への活用法
❄️ 美しい雪の結晶は、実は小さな水分子(H₂O)が集まってできています。なぜ必ず六角形になるのか?空の上でどのように成長していくのか?その神秘的なプロセスを、アニメーションで分かりやすく解説します。冬の科学を一緒に楽しみましょう!
「雪の結晶が知らせる大雪サイン!そなぷーの冬の防災レッスン」

科学的に学ぶ雪の結晶のでき方と基本

雪の結晶は、単に「寒いから水が凍ったもの」ではありません。上空の雲の中で、目に見えない小さな水分子たちが、物理の法則に従って整然と並んだ結果、あの美しい形が生まれます。ここではまず、その神秘的な形成プロセスについて、少し科学的な視点から掘り下げて見ていきましょう。
なぜ六角形になるのか分子の秘密

雪の結晶といえば、誰もが美しい「六角形」を思い浮かべると思います。でも、なぜ五角形や四角形ではなく、決まって六角形(またはその倍数の十二角形など)になるのでしょうか。その秘密は、ミクロの世界にある「水分子(H₂O)」の形とつながり方に隠されています。
水分子の極性と水素結合
水分子は、1つの酸素原子と2つの水素原子がくっついてできています。このとき、酸素側は少しだけマイナス(−)の電気を、水素側はプラス(+)の電気を帯びています。これを「極性」といいます。
磁石のS極とN極が引き合うように、ある水分子のプラス部分(水素)と、隣の水分子のマイナス部分(酸素)は互いに引き合います。これを「水素結合」と呼びます。
氷になるときの「腕の角度」
液体の水の状態では、分子たちは熱エネルギーで激しく動き回っているため、結合したり離れたりを繰り返しています。しかし、温度が下がって氷(固体)になるとき、分子たちはガッチリと手をつないで整列します。
このとき、水分子同士が最も無理なく安定して手をつなげる角度が、幾何学的に決まっています。その結果、水分子は正四面体の形を基本として積み重なり、全体として「六角形のハニカム構造」を作ることになるのです。これが、雪の結晶が六角形を基本とする根本的な理由です。
豆知識:ダイヤモンドダストも六角形
極寒の朝に見られるダイヤモンドダスト(細氷)も、実は極小の六角柱の氷です。太陽の光を反射してキラキラ輝くのは、空中に無数の小さな六角鏡が舞っているからなんですよ。
子供にもわかりやすく仕組みを解説

では、あんなに複雑な形は、雲の中で具体的にどのようにして育つのでしょうか。空にある雲は、実は小さな水滴(過冷却水)と、微細な氷の粒(氷晶)が混ざり合った不思議な空間です。
過冷却水と氷晶のバトンタッチ
純粋な水は、静かな環境だと0℃になっても凍らず、マイナス数十度まで液体のままでいられます。これを「過冷却(かれいきゃく)」といいます。雲の中には、この過冷却の水滴がたくさん浮いています。
ここに、ちりやほこりを芯にして生まれた小さな「氷の粒(氷晶)」が現れると、面白いことが起きます。物理的な性質として、「氷の表面の方が、水滴の表面よりも、水蒸気を強く引き寄せる」のです。
氷が太り、水滴が痩せる(WBF過程)
その結果、水滴から蒸発した水分(水蒸気)が、氷の粒の方へとどんどん移動してくっついていきます。専門的には「ヴェゲナー・ベルシェロン・フィンデセン過程」と呼ばれるこの現象により、氷の粒は周囲の水蒸気を横取りして急速に大きく成長し、水滴は逆に縮んで消えていきます。
こうして重くなった氷の粒が、上昇気流に逆らえずに落下し始めたものが「雪」です。もし地上の気温が高ければ、落ちる途中で溶けて「雨」になります。
上昇気流が雲を作る仕組みについては、こちらの記事でも詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
種類が決まる温度と湿度の条件とは

雪の結晶には、星のような形もあれば、シンプルな板のような形、あるいは針のような形、鼓(つづみ)のような形もあります。実は、この形のバリエーションを決めているのは、上空の「気温」と「水蒸気の量(湿度)」のたった2つの条件なのです。
以下の表は、気温によってどのような形の結晶ができやすいかをまとめたものです。
| 上空の気温 | 主な結晶の形 | 成長の特徴(ハビット) |
|---|---|---|
| 0℃ 〜 -3℃ | 薄い板(六角板) | 平べったい皿のように広がる |
| -3℃ 〜 -10℃ | 針・角柱 | 縦に長く伸びる(針状、柱状) |
| -10℃ 〜 -22℃ | 樹枝状・六角板 | 横に大きく広がる(最も美しい形) |
| -22℃ 以下 | 角柱・厚い板 | 再び縦長の柱状や厚みのある板になる |
特に、私たちが「雪の結晶マーク」としてよく目にする、枝分かれした華麗な樹枝状結晶(六花)は、「マイナス15℃前後」で、かつ「水蒸気がたっぷりとある(過飽和度が高い)」という限られた条件のときにしか作られません。条件が少しでもずれると、シンプルな六角板や柱状になってしまうのです。
中谷宇吉郎博士の研究とダイヤグラム

この「温度と水蒸気量で雪の形が決まる」という法則を世界で初めて実験で証明したのが、北海道大学の中谷宇吉郎(なかや うきちろう)博士です。博士は1930年代、ウサギの毛を使った人工雪の製作に成功し、実験室で様々な温度と湿度条件を再現して、雪の結晶を作り分けました。
中谷ダイヤグラム(Ta-s図)
博士の研究成果は、横軸に「温度」、縦軸に「水蒸気の過飽和度(湿度のようなもの)」をとったグラフ上に、結晶の形をマッピングした図としてまとめられました。これを「中谷ダイヤグラム」と呼びます。
博士は「雪は天から送られた手紙である」という名言を残しました。これは、地上に届いた雪の結晶の形(手紙)を読み解けば、その雪が育ってきた上空の気象条件(差出人の様子)を知ることができる、という意味です。まさに科学的なロマンですね。
簡単な言葉で学ぶ成長のプロセス

では、なぜマイナス15℃付近で湿気が多いと、あのような複雑な枝分かれができるのでしょうか。最後にその成長の仕組み「拡散律速凝集」について、簡単にイメージしてみましょう。
角(かど)への集中攻撃
空気中を漂う水蒸気の分子が、六角形の氷の赤ちゃんにくっつこうとするとき、平らな「面」よりも、突き出ている「角(かど)」の方が、広い範囲から水蒸気をキャッチしやすいという性質があります。
これを「角の成長優位性」といいます。水蒸気が少ないときはゆっくり全体が育つので六角形を保ちますが、水蒸気が多すぎて成長スピードが速くなると、角ばかりに水蒸気がくっついて、角が外へ外へと鋭く伸びていきます。
成長の連鎖が模様を作る
伸びた角の先がさらに小さな角になり、そこからまた枝が伸びる…という繰り返し(フラクタル成長)によって、あのシダの葉のような精巧な樹枝状結晶が出来上がるのです。

自由研究で調べる雪の結晶のでき方

ここまでは理論的なお話でしたが、ここからは実践編です。雪の結晶の観察は、高価な顕微鏡がなくても、身近な道具を使うだけで驚くほど鮮明に行うことができます。冬の自由研究のテーマとして、ぜひチャレンジしてみてください。
100均グッズで観察や撮影をする方法

近年のスマートフォンのカメラ性能は驚くべきもので、100円ショップで手に入るグッズと組み合わせるだけで、プロ顔負けのマクロ撮影が可能です。
準備するもの
- スマートフォン:高画質なメインカメラを使用します。
- スマホ用マクロレンズ:100円ショップ等で売っているクリップ式の拡大レンズ(倍率10倍〜20倍程度)。
- 黒いフェルト生地:背景用。雪の白さを際立たせ、繊維が雪を点で支えるため溶けにくいのが特徴です。
- 厚紙や断熱シート:フェルトの下に敷き、手の熱が伝わるのを防ぎます。
撮影の絶対ルール「予冷(よれい)」
撮影における最大の失敗原因は「雪が溶けること」です。これを防ぐためのテクニックが「機材を外気で冷やしておくこと(予冷)」です。
撮影を始める10分〜15分前には、マクロレンズとフェルト生地を屋外の日陰に出し、外気温と同じ冷たさにしておきましょう。暖かい部屋から持ち出したばかりの布に雪が乗ると、一瞬で水滴になってしまいます。
注意点
撮影中は自分の鼻息で雪を溶かさないように、マスクをするか息を止めましょう。また、ピント合わせはスマホの画面をタップするのではなく、スマホ自体を数ミリ単位で前後に動かして合わせるのがコツです。
珍しい形も見つかる分類表の使い方

撮影した写真は、ぜひ「図鑑」と見比べてみてください。雪の結晶は、1966年に発表された「Magono-Lee分類」という世界的な基準で、なんと80種類(細分化すると100種類以上)にも分けられています。
一般的な「樹枝状結晶」以外にも、以下のようなユニークな形が見つかるかもしれません。
- つづみ型:鼓(つづみ)のように、六角柱の両端に六角板がついた形。
- 砲弾型:先端が尖った弾丸のような形が束になったもの。
- 雲粒付結晶:細かい氷の粒(雲粒)がびっしり付着して、砂糖菓子のように白くなったもの。
これらの分類については、気象庁気象研究所が行っている市民参加型のプロジェクトなども参考になります。非常に詳細な分類表が公開されていますので、自由研究の資料として活用しましょう。
樹枝状などの形から上空の天気を知る

先ほど解説した「中谷ダイヤグラム」を思い出しながら、観察した雪の形から上空の様子を推理してみましょう。これは「観天望気(かんてんぼうき)」という、空を見て天気を予測する技術の一つです。
ケーススタディ:樹枝状結晶がたくさん降るとき
もし、目の前に降ってくる雪が、枝分かれの立派な大きな樹枝状結晶だとしたら、上空はどんな状態でしょうか?
答えは「気温がマイナス15℃前後で、水蒸気が非常に多い」状態です。水蒸気が多いということは、雪を作る材料が豊富にあるということ。つまり、「短時間で雪が積もりやすい(大雪になる可能性がある)」というサインです。
ケーススタディ:針状や柱状の雪が降るとき
逆に、チクチクした針状や、細長い柱状の雪が降っているときは、上空の気温が少し高め(マイナス5℃〜10℃付近)である可能性があります。また、これらが崩れずに降ってくるということは、風が比較的穏やかであることも推測できます。
防災士が教える大雪のサインと対策

私たち防災士も、空から降ってくるものの変化には常に注意を払っています。雪の形や質は、これから起こりうる災害のリスクを教えてくれるからです。
「湿った雪(ぼたん雪)」のリスク
結晶同士がくっついて大きな塊(雪片)になった「ぼたん雪」は、気温が0℃付近と比較的高く、水分を多く含んでいます。この雪は重く、電線や樹木にくっつきやすい性質があります。
リスク:電線の断線による停電、倒木、ビニールハウスやカーポートの倒壊、着雪による視界不良。
「乾いた雪(粉雪)」のリスク
気温が非常に低く、サラサラした粉雪が降るときは、風に舞いやすいのが特徴です。
リスク:強風によるホワイトアウト(視界が真っ白になる現象)、吹き溜まりの発生、路面の凍結。
「たかが雪の形」と思わず、「空がエネルギーを溜め込んでいるサイン」と捉えてください。特に美しい樹枝状結晶が次々と降り積もるときは、除雪道具の確認や、不要不急の外出を控えるなど、早めの防災行動につなげることが命を守る鍵となります。
大雪への備え
風が強まると体感温度も下がり、リスクが高まります。風の強さや危険度については、以下の記事で詳しく解説しています。
自由研究のまとめ方とレポートのコツ

最後に、このテーマを自由研究としてまとめる際のポイントをご紹介します。単に写真を撮って「きれいでした」で終わらせず、以下のデータをセットで記録することで、科学的な価値が高いレポートになります。
| 記録項目 | ポイント |
|---|---|
| 日時と場所 | いつ、どこで撮ったか。天気予報データとの照合に必須です。 |
| 地上の気温・湿度 | 簡易的な温度計・湿度計があればベスト。なければ気象庁のHPで最寄りの観測所のデータをメモします。 |
| 大きさのスケール | 写真の中に、定規の目盛りや、繊維の太さが分かっている布を写り込ませると、実際のサイズを計算できます。 |
| 考察(重要!) | 中谷ダイヤグラムと照らし合わせ、「なぜ今日はこの形が降ったのか」「上空はどんな温度だったのか」を自分なりに推理して書きます。 |
また、他の気象現象(地震や台風など)についても興味があれば、理科の授業と関連付けて調べてみると、より深い学びにつながります。こちらの記事も参考にしてみてください。
雪の結晶のでき方を理解し防災へ繋ぐ

雪の結晶は、水分子の持つ物理的な性質と、その時々の上空の気象条件が奇跡的なバランスで融合して生まれる、二度と同じ形にはならない芸術作品です。しかし、それは同時に、私たちに空の様子を伝えてくれる貴重な「気象情報」でもあります。
その仕組みやでき方を知ることで、ただ寒くて厄介だと思っていた冬の雪景色が、少し違って見えてくるはずです。美しい雪の形を楽しみながらも、その背景にある自然のエネルギーを正しく恐れ、備える。そんな「科学的な目」を、ぜひこれからの生活や防災に活かしてみてください。
