家族の命を守る:東日本大震災を経験した防災士が教える「手作りできる子ども用防災グッズ おすすめ」徹底解説

株式会社ヒカリネット HIH 防災士 後藤秀和

あの日、2011年3月11日、私は東日本大震災を経験しました。目の前の変わり果てた街の様子、そして避難所での厳しい生活を、今でも鮮明に覚えています。

特に、幼い子どもを抱えて避難生活を送ることの困難さは、経験した者にしか分からない重みがあります。物資不足、プライバシーの欠如、そして何よりも子どもたちの精神的なケア。これらは、日々の備えの重要性を痛感させられる出来事でした。

本稿では、私自身の経験と、プロの防災士としての知識に基づき、「手作りできる子ども用防災グッズ」に焦点を当て、その具体的な作り方、必要性、そして防災対策全体の考え方を、詳細かつ実践的に解説していきます。

なぜ、子ども用は「手作り」がおすすめなのか?

市販の防災セットは便利ですが、子ども用に関しては「手作り」の意義が非常に大きいと私は考えます。それは、単に経済的な理由だけではありません。

  1. 子どものサイズ・ニーズに完全一致させるため: 市販品は汎用性が高い反面、特定のお子さんの年齢、体格、アレルギー、嗜好などに完璧に対応するのは難しいです。
  2. 子どもの精神的な安心感のため: 普段使い慣れた素材や、親子で一緒に作った思い出のあるグッズは、極限状態での「心の安全基地」になります。
  3. 防災意識を育む教育のため: 親子で一緒にグッズを選ぶ、作るプロセス自体が、子どもに「自分の命は自分で守る」という意識を自然と植え付けます。

「手作り」と「備え」を共有しながら、具体的なグッズを見ていきましょう。

目次

震災経験者が語る、子どもの水分不足、停電の恐怖から守るためのグッズ

私の経験から、大人が持っているものとは別に、子ども専用の防災リュックに必ず入れておきたい手作りグッズをご紹介します。

誤飲を防ぐ「簡易給水パック&ストロー」

給水所からの水や、支援物資のペットボトルを子どもが飲む際、こぼしたり、一気に飲みすぎてしまうことがあります。

  • 手作りポイント:
    • 密閉ジップバッグ+穴あきキャップ: 小さめの厚手のジップバッグ(食品用)を用意します。ペットボトルのキャップの真ん中に小さな穴を開け、その穴に市販の曲がるストローを通し、内側をセロテープなどで固定します。このキャップをジップバッグに装着し、さらにテープ補強すると、倒れてもこぼれにくい、ストロー付きの簡易給水パックが完成します。子どもの力でも握りやすく、誤飲を防げます。

遊び心で安心に繋がる「手作りミニランタン」

停電時の暗闇は、大人でも不安になるものですが、子どもにとっては恐怖そのものです。

  • 手作りポイント:
    • ヘッドライト+ペットボトル: 小型のLEDヘッドライトを用意します。水を満たした半透明のペットボトルに、ヘッドライトの光を内向き(逆向き)に当てて固定します。すると、光が乱反射し、広い範囲を照らす優しい光のランタンになります。ペットボトルに好きなシールを貼ったり、マジックで絵を描かせたりすることで、「怖くないランタン」に変わります。

子どもの心を守るための「心の防災グッズ」

東日本大震災の避難所で感じたのは、子どもたちの精神的なケアの難しさです。不安、ストレス、退屈。これらに対応するグッズは、命の次に大切です。

「家族のアルバム」

避難生活では、家族が離れ離れになることもありますし、見知らぬ大人に囲まれて不安になります。

  • 手作りポイント:
    • ラミネート加工した家族の写真: 家族やペット、住み慣れた家の写真など、日常を思い出せる写真を数枚選び、厚紙に貼ってラミネート加工します(ラミネーターがなければ、透明テープでも代用可)。
    • 裏面には連絡先と情報: 裏面には、子どもの名前(ひらがな)、血液型、アレルギー情報、親の携帯電話番号を大きく記載します。
    • 用途: 不安な時に見る心の支えになります。また、万が一、親と離れてしまった時に、自分の情報や家族を説明するツールにもなります。

避難所での退屈対策「ポータブルお絵かきセット」

避難所では遊ぶスペースや物がないため、子どもはすぐに退屈し、それがストレスになります。

  • 手作りポイント:
    • コンパクトなロールペンケース: 古い布やフェルトを使い、色鉛筆やクレヨンが数本入るロール状のペンケースを手作りします。筒状に丸めてコンパクトに収納できます。
    • 再生紙ミニスケッチブック: A6程度の小さなスケッチブックを、使わなくなったカレンダーの裏紙などで自作します。子どもに表紙をデコレーションさせると、愛着が湧き、特別な道具になります。

馴染みの香りのお守り「安心マスコット」

子どもにとって、香りは非常に重要な記憶と安心の要素です。

  • 手作りポイント:
    • パッチワークマスコット: 普段使っている子どものパジャマや肌着の切れ端(洗濯済みのもの)を使って、小さな動物やキャラクターの形に縫い合わせ、中に手芸綿を詰めてマスコットを作ります。
    • 意義: 慣れ親しんだ素材と匂い(洗剤や柔軟剤の香り)が、極度のストレス下で精神的な安定をもたらします。寝る時や不安になった時に握らせてあげましょう。

生活を支えるための「サバイバル手作りアイテム」

避難生活が長期化した場合、大人が手一杯になり、子ども自身が自分の身の回りのことを行えるようにするための手作りグッズも有効です。

衛生的な「ポータブル食器セット」

支援物資の紙皿や割り箸だけでは、食事のしづらさや衛生面の問題があります。

  • 手作りポイント:
    • 折りたたみ式食器ケース: 古いタオルやランチョンマットを使い、箸、スプーン、フォーク(プラスチック製推奨)を一つずつ分けて収納できる仕切り付きのロール状のケースを縫い付けます。
    • 簡易コップ: 折りたためるシリコン製のコップを準備するのが理想ですが、もし手作りするなら、厚手のビニールシートやクリアファイルを円錐状に丸め、底をテープでしっかり固定した使い捨て簡易コップを数個作っておくと、歯磨きやうがいにも使えます。

自分でできる「ミニ衛生キット」

災害時、大人は自分のことで手一杯になることがあります。簡単な衛生管理を、子ども自身ができるように促します。

  • 手作りポイント:
    • 小さなポーチとイラスト: 100円ショップの小さなポーチに、絆創膏(子どもが好きなキャラクター柄)、消毒ウェットティッシュ、小さなビニール袋(ゴミ入れ)を入れます。
    • イラスト付きの説明書: ポーチの中に、「手を洗う」「傷に絆創膏を貼る」などの手順をイラストで描いた小さなカードを入れます。文字が読めない子でも、自分のことは自分でやる、という意識を育みます。

緊急時の「簡易目隠し・パーテーション」

避難所での着替えや排泄の際は、プライバシーの確保が非常に重要です。特に思春期に差し掛かる子どもには、必須の備えです。

  • 手作りポイント:
    • 目隠しポンチョ: 黒い大きめのゴミ袋(90Lなど)の底の中央に、子どもの頭が通るくらいの穴を開けます。これを数枚重ねておくと、緊急時の簡易的な着替え用ポンチョになります。さらに、可愛い布やビニールテープでデコレーションすることで、抵抗なく使ってもらえるように工夫します。
    • 使用済みの布やタオルを再利用: 丈夫な布や大きなタオルに、ハトメ(穴を開けて補強する金具)をつけ、紐を通しておけば、柱などに引っ掛けて簡易的なパーテーションとして活用できます。

防災士が教える「子ども用リュック」の考え方と総括

手作りグッズの準備と並行して、最も重要となるのが、「子ども用防災リュック」の設計思想です。東日本大震災の経験から、私は以下のように強く推奨します。

1. 子ども用リュックの「3つの鉄則」

鉄則詳細理由
軽量・コンパクト体重の1/10以内を目安。中身は必要最低限に絞り込む。重すぎると、子どもが自力で持ち運べない。「自分の荷物は自分で運ぶ」ことが重要。
子どもの愛用品を核にする馴染みのあるぬいぐるみ、手作りしたグッズなど、「心の支え」になるものを必ず入れる。極度の不安とストレスを軽減し、精神的な安定を保つことが、生き抜く力につながる。
年に2回の見直しを親子で最低でも半年に一度(衣替えや誕生日の時期など)、中身を確認し、入れ替える。子どもの成長に伴い、衣類サイズや必要なものが変わる。防災意識の継続的な醸成にも役立つ。

2. 手作りグッズのパッキングと配置の工夫

手作りグッズは、リュックの中で迷子にならないよう、そして子ども自身がすぐに取り出せるように工夫しましょう。

  • 色分けしたポーチの活用: 100円ショップのメッシュポーチや巾着袋を使い、中身に合わせて色分けします。
    • 例: 🔴 赤のポーチ:衛生用品(絆創膏、歯ブラシなど)、🔵 青のポーチ:食料、🟢 緑のポーチ:心のグッズ(お絵かきセット、家族写真)
  • リュックの底には「寝袋・防寒」: 重くてかさばる防寒着やアルミ寝袋等を底に入れ、重心を安定させます。
  • リュックの上部ポケットには「心のグッズ」: 不安になった時にすぐに取り出せるよう、お守りマスコットや家族写真を一番上のポケットに入れます。

真に子どもを守るための「理想の備え」

東日本大震災で私は、多くの家族が重すぎる避難グッズを諦めたり、必要なものが無いために困窮する姿を見てきました。

大人用は買って子供用は子供のもの専用のリュックにする

1. 🎒 大人用防災グッズは「プロが選んだ市販品」を購入する

  • 理由: 大人のリュックには、寝袋、非常用トイレ、多機能ラジオ、救急セット、水と食料など、家族全体の「生命維持」に関わる、重く、専門的なグッズが必要です。これらは、品質、耐久性、機能性が担保された市販品を購入し、すぐに持ち出せる状態にしておくことが、最も確実で迅速な防災対策となります。

2. 👶 子ども用リュックは「手作りの心の支え」を詰めた専用リュックにする

  • 理由: 子ども用のリュックの役割は、「自分の命を守る」ための最低限のグッズと、「精神的な安定を保つ」ためのグッズに特化させるべきです。
    • 中身の優先度:
      1. 水: 500mlペットボトル 1本(親と分散)
      2. 防寒: 着替え、アルミシート
      3. 食料: アレルギー対応お菓子、カロリーメイトなど1食分
      4. 心のグッズ: 家族写真、安心マスコット、お絵かきセット(全て手作り品)
      5. 衛生: 手作りミニ衛生キット、ホイッスル
  • これにより、子どもは自分の荷物を「重い義務」ではなく、「自分だけの大切な宝箱」として認識でき、いざという時にも自ら進んで持ち出すことができます。

防災とは、「命を守り抜くこと」であり、子どもにとってそれは「身体の安全」と「心の安全」の両方を意味します。

市販品で「身体の生命線」を。手作り品で「心の生命線」を。

この組み合わせこそが、東日本大震災を経験した防災士がたどり着いた、子どもを持つ家族にとって最も強く、現実的な備え方なのです。あなたの家族の安全を心からお祈りしています。

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