トイレの水はどこから?水の流れを理科で学び災害に備えよう

「トイレの水はどこから?」について学んでいる中学生

トイレの水はどこから?水の流れを理科で学び災害に備えよう

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

「トイレの水はどこから来るんだろう?」と、ふと疑問に思ったことはありませんか。毎日当たり前に使っているトイレですが、その水の流れや仕組みについて、中学生のお子さんに「理科の勉強だよ」と説明するとなると、意外と難しいかもしれませんね。

私たちが普段何気なく使っている水が、はるか遠くの水源からどうやって家に届き、そして流した後はどこへ旅していくのか。この壮大な「水の循環」を知ることは、純粋な知的好奇心を満たすだけでなく、実は私たちの命を守る、とても大切な「防災」に直結しているんです。

この記事では、防災士の視点から「トイレの水はどこから?」という素朴な疑問に答えつつ、その水の流れを理科の視点も交えて、できるだけやさしく解説します。さらに、なぜ地震などの災害時にトイレが流れないのか、特に多くの方がお住まいのマンションでの停電と断水の関係性、そして災害時に絶対にトイレを流してはいけない本当の理由まで、しっかりお伝えできればと思います。

  • トイレの水がどこから来てどこへ行くのかが分かる
  • トイレが流れる「サイフォンの原理」が理解できる
  • 災害時にトイレを流してはいけない危険性が分かる
  • 本当に必要な災害用トイレの備え方が学べる
目次

「トイレの水はどこから?」水の流れを理科で学んで災害時に備えよう(上水道編)

トイレの水はどこから来るかを学ぶ親子 上水道の仕組みと水の流れをやさしく学ぶシーン
【HIH】ヒカリネット・イメージ

まずは、私たちの生活に欠かせない水が「やってくる」までの上流の旅、「上水道」について見ていきましょう。蛇口をひねれば出てくる水も、トイレで流す水も、実はまったく同じ、厳格な基準をクリアした「水道水」なんですよね。

この水が、自然の中から取り出され、どうやって安全な飲める水に変わり、私たちの家まで届けられるのか。そのプロセスは、まさに巨大な装置を使った「理科の実験」そのもの。ちょっとワクワクしませんか?

トイレの水の仕組みを中学生向けに解説

トイレタンクの中を観察する中学生と親 レバーや浮き球の仕組みを理解する学習風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

さて、上水道の旅を見る前に、一番身近な「トイレタンク」の中身から覗いてみましょう。普段はフタが閉まっていて見えませんが、あの四角い箱の中は、とても精巧な仕組みになっています。

大きく分けると、タンクの中の部品は「水を流す」機能と「水を溜める」機能を持っています。

レバーとフロートバルブ:水を流す「フタ」

私たちが「流す」ために回すレバー。これは、タンクの底にある排水口をふさいでいるフロートバルブ(ゴムフロートとも言います)というフタに、チェーンでつながっています。

レバーを回すと、このチェーンが引っ張られてフタが開き、タンクに溜まっていた大量の水(約5~8リットル程度)が、便器の中に一気に流れ込む、という仕組みです。

浮き球とボールタップ:水の量を決めるコンビ

水が流れ出てタンクの水位が下がると、水面にプカプカ浮かんでいた浮き球(うきだま)も一緒に下がります。この浮き球は、ボールタップという給水弁に連動しています。

浮き球が下がると、ボールタップの弁が開き、水道管から新しい水がタンクに入ってきます。逆に、水が溜まってきて浮き球が元の位置まで上がると、今度は弁を閉じて給水を自動でストップさせます。これで、いつも同じ量の水がタンクに溜まるようになっているんですね。

オーバーフロー管:もしもの時の安全装置

タンクの中には、もう一つオーバーフロー管という、少し背の高い管が立っています。これは、もし浮き球やボールタップが故障して給水が止まらなくなってしまった時のための「安全装置」です。

万が一水が溢れそうになっても、この管を通って水が便器の中に安全に排出されるため、トイレの床が水浸しになるのを防いでくれる、大切な役割を持っています。

水道水はどこから?浄水場の役割

"浄水場で水をきれいにする工程を見学する技術者 ろ過や消毒の仕組みを学ぶ実写風イメージ"
【HIH】ヒカリネット・イメージ

では、そのタンクに溜まる「水道水」は、もともとどこから来ているのでしょうか。福島市の場合は阿武隈川や摺上川が身近ですが、多くの場合、川の水(ダムに溜めた水)地下水が「水源」となっています。

でも、ご存知の通り、川の水をそのまま飲むことはできませんよね。泥や砂、小さなゴミ、それに目に見えない細菌などが含まれているからです。

そこで大活躍するのが浄水場(じょうすいじょう)です。ここは、水源から取り入れた「原水」を、私たちが安全に飲める「水道水」に変える、まさに巨大な「理科の実験室」なんです。

浄水場の主なプロセス(急速ろ過法の場合)

  1. 凝集・沈殿(ちんでん):まず、原水に「凝集剤」という薬品を入れます。すると、水の中の小さなゴミや泥がくっつき合って、「フロック」と呼ばれる大きなカタマリになります。これを「沈殿池」でゆっくり流し、重力で底に沈めます。
  2. ろ過:沈殿池で取り除けなかった、さらに小さなゴミを「ろ過池」で取り除きます。砂や砂利の層を水が通過することで、目に見えない微細な粒子が物理的にこし取られます。
  3. 消毒:最後に、ろ過された水に塩素(えんそ)を加え、病原菌などを殺菌します。これで、各家庭の蛇口に届くまで水の安全性が保たれるわけです。

こうして作られたキレイな水は「浄水池」に貯められ、地下に網の目のように張り巡らされた「水道管」を通って、私たちの街へと送られていきます。

水圧のヒミツ:「重力」と「電力」

浄水場から家の蛇口まで水を届けるには「水圧」が必要です。その力は、主に2つの方法で生み出されています。

  • 位置エネルギー(重力):浄水場から送られた水は、まず高台にある「配水池」に貯められます。その「高さ」を利用して、自然に低い場所(家庭など)へ水を流します。
  • ポンプ(電力):さらに、蛇口をひねった時に勢いよく水が出るよう、配水池や給水所では「ポンプ」を使って水圧を高め、強制的に水を送り出しています。

私たちの水道は、「自然の力(重力)」と「人工の力(電力)」の両方に支えられているんですね。

トイレが流れる仕組み、サイフォンの原理

便器内で水が流れるサイフォンの原理をイメージした写真 水圧と大気圧の働きを示す抽象的構図
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さて、タンクから水が流れ込んだ後、便器の中の水や汚物はどうやって一瞬で消え去るのでしょうか。あの強力な洗浄力の秘密は、「サイフォンの原理」という理科の力が働いているからです。

「封水(ふうすい)」の大切な役割

まず、トイレの便器の中にいつも水が溜まっていますよね。これは、便器の奥にある排水路がS字型にカーブしているためです。この溜まった水を封水(ふうすい)と呼びます。

この封水の最も重要な役割は、下水管から上がってくるイヤな臭いや、害虫が室内に侵入するのを防ぐ「フタ」です。もしこの水がなくなると、途端に下水の臭いがしてくるはずです。

サイフォン作用の発生

「サイフォンの原理」とは、すごく簡単に言うと、管の中を液体で満たすことで、大気圧と重力の力を使って、液体を低い場所へ吸い出す現象のことです。

レバーをひねってタンクから「一気に」大量の水が流れ込むと、便器の中の水位が急上昇し、S字トラップの一番高い部分(堰)を水が乗り越えます。これで、排水路が水で満たされます。

排水路が水で満たされると、管の中の水が下水管(低い位置)へ向かって重力で落下し始めます。すると、管の中が真空に近い状態(低圧)になり、便器内に溜まっていた水(封水と汚物)が、外の大気圧に押されて強力に「吸い込まれ」ていきます。これがサイフォン作用です。

ここで一番のポイントは、この作用を引き起こすためには、「大量の水を一気に流し込み、排水路を満たす」ことが不可欠だということです。

少量の水をチョロチョロとかけるだけでは、この強力な吸引力は発生しません。この科学的な原理が、後でお話しする災害時の対処法において、決定的な意味を持ってきます。

流した水と下水はどこへ行くの?

地面の下を通る下水道管のイメージ 家庭のトイレの水が下水処理場へ流れていく様子
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便器からサイフォンの力で吸い出された水(汚水)は、私たちの目から消えた後、地下の「下水道」という、もう一つの壮大なインフラの旅を始めます。

まず、家の中の排水管を通り、敷地と公道の境界あたりにある「公共汚水マス」を経由して、道路の地下深くに埋設された下水道管へと合流します。私たちが道路でよく見かける「マンホール」は、この地下の下水道管を点検・清掃するために設けられた出入り口なんですね。

重力と電力に支えられる下水道

下水道管は、汚水が自然に低い方へと流れるように、計算された緩やかな「傾斜」がつけられています。これを自然流下式と呼びます。

しかし、都市は平坦ではありません。地形によっては低い土地から高い土地へ汚水を送る必要があったり、長距離を流れて勢いがなくなったりすることがあります。その場合はどうすると思いますか?

その答えが中継ポンプ場です。途中にポンプ場を設け、汚水を地上の施設まで一度汲み上げてから、再び自然流下で下水処理場へと送ります。

ここでお気づきでしょうか。上水道と全く同じで、下水道システムもまた、「自然の力(重力=傾斜)」と「人工の力(電力=ポンプ)」の両方に依存しているのです。

この事実は、地震による地盤沈下や液状化で「傾斜」が壊れたり、あるいは「停電」で中継ポンプが停止したりすることが、下水道システムの即時停止、すなわち都市機能の麻痺に直結することを意味しています。

下水処理場で水がきれいになる仕組み

下水処理場の円形タンクで浄化される水の流れ 微生物による処理をイメージした風景
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下水道管を流れてきた地域全体の汚水が、最終的に辿り着く場所が下水処理場(げすいしょりじょう)です。ここで汚水は、川や海に戻しても安全な水へと浄化されます。

上水道の「浄水場」が水を「きれいにする(飲むため)」場所だとすれば、下水処理場は水を「きれいに戻す(自然に返すため)」場所と言えますね。そして、その主役は「微生物」です。

物理処理・生物処理・化学処理

下水処理場のプロセスは、大きく3段階に分けられます。

  1. 物理処理(沈殿):まず「沈砂池(ちんさち)」で、下水に含まれる大きなゴミや石、砂などを沈殿させて取り除きます。次に「最初沈殿池(さいしょちんでんち)」で、さらに小さな汚れを時間をかけてゆっくり沈めます。
  2. 生物処理(反応タンク):ここが下水処理の「心臓部」です。物理処理では取り除けない、水に溶け込んだ目に見えない汚れ(有機物)を処理します。この「反応タンク」で、汚水に活性汚泥(かっせいおでい)と呼ばれる微生物の集合体を混ぜ、さらに底から空気を激しく送り込みます。
  3. 化学処理(消毒):最後に、浄水場と同様に塩素などで上澄みの水を消毒し、大腸菌などの病原菌を殺菌します。

微生物が汚れを「食べる」

このプロセスで一番面白いのが、やはり「生物処理」ですね。酸素を得て活性化した無数の微生物が、汚水の中の汚れ(有機物)を「栄養分」としてパクパクと食べて、分解してくれるんです。

浄水場が主に「ろ過」で水とゴミを物理的に分離するのに対し、下水処理場は微生物に汚れを「食べさせて」水と二酸化炭素などに変えてもらう、という生物学的なアプローチが中心なんですね。

汚れを食べ終えて重くなった微生物(活性汚泥)は、「最終沈殿池」で沈殿させられ、上澄みのきれいな水と分離されます。こうしてきれいになった「処理水」は、川や海へと放流され、再び「自然界の水の循環」へと合流し、長い旅を終えるのです。

ちなみに、処理水の一部は、工業用水や公園の噴水、私たちも利用するビルや大型施設のトイレ洗浄水(中水道)など、「下水再生水」として有効に再利用されるケースも増えていますよ。

「トイレの水はどこから?」水の流れを理科で学んで災害時に備えよう(防災編)

防災の勉強をする家族 トイレの水の流れと災害時の備えを話し合う防災学習シーン
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さて、第1部から第3部まで、私たちは「理科」の知識として、トイレをめぐる水の流れがいかに精巧で、そして「上水道」「電力」「下水道」という3つの巨大なインフラに支えられているかを学んできました。

ここからは、本題である「防災」の領域です。もし地震や豪雨によってこれらのインフラが一つでも停止した時、何が起こるのか。そして、その「理科」の知識をどう「防災」の行動に移し、自分と家族の命と生活を守るのか。防災士として最も重要なポイントを、私と一緒に考えていきましょう。

災害時トイレを流してはいけない理由

地震で壊れた下水管をイメージした室内 トイレを流す危険を示す防災イメージ写真
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大地震が発生した直後。もし幸いにも自宅の電気がついたり、タンクに水が残っていたり、あるいは断水していなかったりしても、絶対に、絶対にトイレを流さないでください。

「え、流せるなら流した方が衛生的じゃない?」と思うかもしれません。ですが、その行動が、自宅や地域社会全体を汚染する、最悪の「二次災害」を引き起こす極めて危険な行為になる可能性があるんです。

なぜか? 答えはシンプルです。あなたの目に見えない「地下の排水管(下水道管)」が、破損・閉塞しているかもしれないからです。

汚水が「逆流」する恐怖

もし、自宅の敷地内や、その先の公共下水道管が、地震の揺れや液状化現象で破損したり、ズレたり、詰まったりしていたら…。その状態で水を流すと、行き場を失った汚水はどうなるでしょうか。

  • 戸建ての場合:流した汚水が破損箇所から溢れ出し、自宅の床下や敷地内を汚染します。最悪の場合、便器や風呂場の排水口からそのまま溢れ返ってきます。
  • マンション(特に低層階)の場合:これが最も深刻です。自宅の配管は無事でも、共用の排水管や公共下水道が詰まっていると、マンションの他の住民が「流せる」と思って流した汚水が全てそこに溜まっていきます。そして、その溜まった汚水は、構造上、最も低い位置にある排水口(=マンションの1階や2階、あるいは周辺の戸建て住宅)から逆流し、室内が汚水まみれになるという、想像を絶する大惨事を引き起こします。

トイレを流して良いのは、自治体やマンションの管理組合、専門業者によって「公共下水道および敷地内の排水管に異常がない」ことが公式に確認された後だけです。その「許可」が出るまでは、何があっても「流さない」勇気を持ってください。

地震でトイレが流れないのはなぜ?

停電でトイレが使えないマンションの夜 懐中電灯で確認する家族のシルエット
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災害時にトイレが使えなくなる原因は、先ほど見た「下水道の破損」だけではありません。私たちが学んだ「水の旅」を思い出してみてください。あの流れが止まる原因は、大きく分けて3つあります。

  1. 【上水道】の停止(断水):地震の揺れによって、地下に埋設された水道管(上水道)が破損し、広範囲で断水が発生します。浄水場や配水池が被災することもあります。
  2. 【電力】の停止(停電):停電は、一見関係ないようで、上下水道の両方に致命的な影響を与えます。「上水道編」で学んだ、浄水場や配水池の「ポンプ」が停止すれば、水は送られません。また、「下水道編」で学んだ「中継ポンプ場」が停止すれば、下水を処理・排水する能力が失われ、都市部で下水が溢れる原因となります。
  3. 【下水道】の停止(排水管の破損):地下の排水管(下水道管)の破損や閉塞は、「逆流」の直接的な原因となります。

大災害時には、これらの原因が単独ではなく「複合的」に発生するからこそ、深刻な事態に陥りやすいのです。

マンションの停電と断水の仕組み

高層マンションの内部構造イメージ 受水槽やポンプ停止による断水の仕組みを可視化した図
【HIH】ヒカリネット・イメージ

特にマンションにお住まいの方に、もう一度強く認識しておいてほしいのが、「停電」と「断水」の密接な関係です。

戸建て住宅の多くは、水道局からの水圧(直圧式)で直接蛇口まで給水しているため、停電だけでは断水しにくい構造です(もちろん、地域のポンプが止まれば別ですが)。

しかし、多くのマンション、特に高層の建物では、水道管から来た水を一度受水槽という建物内の大きなタンクに溜め、そこから電動ポンプ(加圧方式)を使って各戸に水を送っています。

もうお分かりですね。この方式の場合、たとえ地域の水道管や受水槽が無事でも、停電してこの「電動ポンプ」が停止した瞬間、建物全体が「断水」状態になってしまうのです。

ご自身のマンションが、受水槽方式(ポンプ加圧)なのか、あるいは比較的新しい建物で採用されている直圧式(増圧ポンプ方式など)なのかを、管理組合や賃貸の管理会社に一度確認しておくことを強くお勧めします。

断水時の具体的な対処法については、 断水時のトイレどうする?防災士が教える対処法 の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

災害用トイレの備え、必要回数は?

防災グッズと一緒に携帯トイレを備蓄する日本人家族 在宅避難への備えを確認する様子
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では、流せないとなると、どうすればいいのでしょうか。「我慢する」…わけにはいきませんよね。その唯一の答えが「携帯トイレ(簡易トイレ)」の備蓄です。

「自宅がダメなら避難所に行けばよい」と考えるかもしれませんが、それもまた深刻な現実があります。1995年の阪神・淡路大震災、そして2024年の能登半島地震に至るまで、発災直後の避難所のトイレは、断水やインフラの停止により、用を足せない人々が殺到し、「てんこ盛り」と呼ばれる劣悪な衛生状態(トイレパニック)に陥りました。

この劣悪なトイレ環境は、単に「不快」なだけでは済みません。被災者はトイレに行く回数を減らそうと、無意識に水分や食事の摂取を控えるようになります。その結果、脱水症、栄養失調、感染症、そして血栓ができるエコノミークラス症候群などを発症します。

このように、「避難生活の肉体的・精神的疲労」が原因で亡くなることを、「災害関連死」と呼びます。トイレ問題は、不快な生活問題ではなく、命に直結する「医療・公衆衛生」の問題なのです。

備蓄の目安は「1人1日5回×7日分」

携帯トイレを準備する手元の写真 便座にセットして使い方を学ぶ実写風イメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

この最悪の事態(災害関連死)を防ぎ、在宅避難を可能にするために、防災士として推奨している備蓄の目安は、以下の通りです。

災害用トイレ 備蓄ガイドライン

項目目安根拠・理由
1人あたりの必要回数1日 5回成人の平均的なトイレ回数。食事(3回)より多い。
最低備蓄日数最低 3日分大規模災害時のインフラ復旧待機(一時待機)の目安。
推奨備蓄日数推奨 7日分在宅避難を継続し、「災害関連死」リスクを避けるため。

計算例(4人家族・7日分の場合)
5回 × 4人 × 7日 = 140回分
これが、在宅避難を続けるための「安心」の量になります。

「140回分!?」と驚かれるかもしれませんが、水や食料と同じくらい、いえ、衛生面と健康維持を考えると、もしかしたらそれ以上にトイレの備えは重要だと、私は本気で考えています。防災備蓄全体については、 防災備蓄、何をどれだけ?防災士が教える本当に必要なものリスト も参考にしてみてください。

携帯トイレの使い方と選び方

携帯トイレの備蓄を決めたら、次に気になるのは「どう使うか」と「何を選ぶか」ですよね。

携帯トイレの基本的な使い方

使い方はとても簡単です。メーカーによって多少の違いはありますが、基本は同じです。

  1. 洋式トイレの便座を上げ、便器(あるいはバケツ)に「排泄袋(汚物袋)」をすっぽりとかぶせます。
  2. 便座を下ろして、袋を固定します。
  3. そのまま用を足します。
  4. 用を足した後、付属の「凝固剤(ぎょうこざい)」を振りかけます。(すぐにゼリー状に固まります)
  5. 排泄袋を取り外し、袋の上部を空気を抜きながらしっかりと縛ります。
  6. 可能であれば、さらに「処理袋(防臭袋)」に入れて二重に縛り、可燃ごみとして処理します。(※自治体のルールを必ず確認してください)

携帯トイレを選ぶときのポイント

今はいろいろな種類の商品が販売されていますが、防災士の視点から選ぶときのポイントをお伝えしますね。

  • 凝固剤の性能:排泄物を素早く(数十秒〜数分で)確実に固められるか。また、「消臭・抗菌効果」が高いものが重要です。長期間保管することになるので、性能は妥協しない方が良いですね。
  • 袋の丈夫さとサイズ:排泄物を受け止める「排泄袋(汚物袋)」が、破れにくい厚手の素材(例:高密度ポリエチレン)でできているか。また、便器全体をしっかりカバーできる十分な大きさがあるかも確認しましょう。
  • 処理袋(防臭袋)の有無:使用後の汚物袋を入れるための、中身が見えず臭いも漏れにくい「処理袋」がセットになっていると、ゴミ出しの日まで自宅保管する際のストレスが全く違います。
  • 備蓄のしやすさ:100回分、140回分となると結構な量になります。箱などがコンパクトに設計されていて、押し入れやベッドの下などに省スペースで保管できるものがおすすめです。

いきなり100回分買うのが不安な方は、まず10回分くらいの少量パックを購入し、家族の誰かが試しに一度使ってみるのも、いざという時のためにおすすめですよ。凝固剤がどれくらいで固まるか、袋はセットしやすいかなど、使い勝手を知っておくだけで安心感が違います。

トイレの水はどこから?水の流れを理科で学んで災害時に備えよう(まとめ)

山から川、浄水場、家庭、下水処理場まで続く水の循環を一枚に表現した防災教育イメージ
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今回は、「トイレの水はどこから?」という素朴な疑問をスタートに、上水道から下水道までの壮大な「水の旅」を追い、そしてそれが停止した時の「防災対策」について詳しくお話ししてきました。

私たちが毎日当たり前に使っているトイレは、「上水道(流入)」と「下水道(流出)」という、自然の力(重力)と人工の力(電力・ポンプ)に複雑に依存する、2つの巨大なインフラの上に成り立っていることが、お分かりいただけたかなと思います。

そして、防災士として一番伝えたい「防災の核心」は、これです。

この「当たり前」の循環が停止する災害時に、最も警戒すべきリスクは、水が出ないこと(上水道の停止)以上に、流した汚水が戻ってくること(下水道の破損・詰まりによる逆流)です。この見えないリスクへの無理解が、自宅を汚染する最悪の二次災害につながってしまいます。

この理科の知識と防災の知識を得た私たちが、「今すぐすべき行動」は、以下の3点に集約されます。

今すぐ家族で確認・行動すべき3つのこと

  1. 知る(自宅の確認):自宅の給水方式を確認してください。特にマンション居住者は、停電時に給水ポンプが停止するタイプか、管理組合や賃貸の管理会社に確認しておくことが重要です。
  2. 備える(備蓄):家族全員が最低3日間、推奨7日間(1人1日5回目安)をしのげる十分な量の「携帯トイレ」と「凝固剤」を、今すぐ備蓄してください。これは「災害関連死」を防ぐための、命への投資です。
  3. 共有する(家族防災会議):本記事で学んだ「理科」の知識を、ぜひご家族全員で共有してください。特に、「地震の直後は絶対に流さない」こと、この災害時の絶対ルールを徹底することが、家族の安全と財産を守る最大の力となります。

知識は、あなたとあなたの大切な人を守る「最強の防災」になります。この記事が、その一助となれば幸いです。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

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