台風が近づくと天気はどうなる?空の予兆と頭痛の原因を防災士が解説

台風が近づくと天気はどうなる?空の予兆と頭痛の原因を防災士が解説
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
ニュースで台風の予報円を見るたびに、「今回の台風が近づくと天気はどうなるんだろう?」「いつから雨や風が強くなるの?」「なんだか頭が重くて痛い気がする…」そんな不安や疑問を感じて、検索されたのではないでしょうか。
実は、台風による天気の変化には、自然界の物理法則に基づいた「明確なサイン」と「決まった順番」があります。単に雨が降るだけでなく、数百キロ離れた場所からの空からのメッセージや、気圧の変化が私たちの体に与える影響など、その現象はとても奥深いものです。
この記事では、空の色や雲の形から分かる視覚的な予兆や、気圧の低下が体に与える生理的な影響、そして今すぐ実践できる具体的な対策について、防災士の視点から物理や医学の知識も交えてわかりやすくお話しします。
この記事でわかること
- 台風が来る前の「赤い空」や「雲」のサインと天気が崩れる順番
- 気圧が下がると頭痛やだるさが起きる「気象病」のメカニズムと対処法
- 窓ガラスの補強やトイレの逆流防止など、科学的に正しい家の守り方
- 学校や仕事の判断基準となる「警報」の意味と身を守る行動
台風前のサイン、知ってる?そなぷーの“空と体の変化”防災4コマ

台風が近づくと天気はどうなるか知るための予兆と仕組み


台風が近づくと、天気はいきなり悪くなるわけではありません。台風は巨大なエネルギーの塊ですが、その中心からの距離に応じて、空の様子はまるでシナリオがあるかのように順番に変化していきます。この「天気の変化のサイン」を知っておけば、恐怖を感じる前に冷静に備えることができますよ。
空が赤く染まるのは嵐が来る前の危険なサイン

「台風が来る前は夕焼けや朝焼けが不気味なほど赤くなる」という話を聞いたことはありませんか? これは単なる迷信ではなく、「レイリー散乱」という光の物理法則で説明できる科学的な現象です。
通常、昼間の空が青いのは、太陽光に含まれる波長の短い「青い光」が空気中の分子にぶつかって散乱しやすいからです。しかし、夕方になると太陽が沈んで光が通る距離が長くなるため、青い光は途中で散らばって消えてしまい、波長の長い「赤い光」だけが私たちの目に届きます。
台風が近づくと、空気中には目に見えない大量の水蒸気や微粒子(エアロゾル)が含まれるようになります。すると、普段よりも光の選別が厳しくなり、青い光は完全にカットされ、純度の高い「赤色」だけが強調されて地上に届くのです。その結果、空が毒々しいほど鮮やかな赤色に染まります。
つまり、この真っ赤な空を見たときは、「空気中に水分がたっぷりある=激しい雨雲がすぐそこまで迫っている」という自然からの警告サインだと思ってください。
飛行機雲やハロが見えたら天気が崩れる合図

まだ地上では雨が降っておらず、風も穏やかな段階でも、空高いところ(高度5km〜13km)ではすでに変化が始まっています。台風の中心から500km〜1000kmも離れていても、台風の上部から吹き出す強い風によって、湿った空気が送り込まれているからです。
見逃してはいけない空のチェックポイント
ふと空を見上げたとき、以下のような現象が見られたら、天気は確実に下り坂に向かっています。
要チェックな2つの現象
- 飛行機雲が長く残る: 通常、飛行機雲はすぐに消えてしまうものですが、上空の湿度が高くなっていると、なかなか消えずに長い筋として残ります。これは水蒸気が飽和状態に近づいている証拠です。
- ハロ(日暈・ひがさ): 太陽や月の周りに、虹のような光の輪っかが見える現象です。これは「巻層雲(けんそううん)」という氷の粒でできた薄い雲が広がっているサインで、低気圧や前線が近づいているときによく現れます。
天気が悪くなるのはいつからか距離で判断する

では、具体的に「いつから」雨や風が強くなるのでしょうか。台風の中心までの距離と、そこで起きる現象の関係を知っておくと、「まだ大丈夫」なのか「もう避難すべきか」の判断がしやすくなります。
| 距離 | 空と雲の様子 | 天気の変化と体感 |
|---|---|---|
| 500km以遠 | 薄い雲(巻雲・すじ雲) | 飛行機雲が長く残るようになります。風はまだ弱く、嵐の気配は薄いですが、気圧の変化は始まっています。 |
| 300km圏内 | 空全体が白っぽくなる | ハロ(光の輪)が見えやすくなります。湿った空気が入り込むため、ジメジメとした不快な暑さを感じ始めます。 |
| 200km圏内 | 低く分厚い雲(乱層雲) | 太陽が隠れ、断続的な雨(シュウ雨)が始まります。気圧計の数値が急激に下がり始め、風速も明らかに強まります。 |
台風の右側と左側で風の強さが変わる理由

天気予報で「台風の東側(進行方向の右側)は危険」と聞いたことがあるかもしれません。これには「ベクトルの合成」という物理的な理由があります。
台風は巨大な渦巻きであり、北半球では反時計回りに回転しています。
このとき、台風の進行方向の右側(東側)では、「台風自身が回転する風の速さ」に、「台風が移動するスピード」がプラス(合算)されるため、猛烈な風が吹き荒れます。専門用語ではこの領域を「危険半円」と呼びます。
逆に左側(西側)は「可航半円」とも呼ばれ、風向きと移動方向が逆になるため風速が少し引き算(相殺)されます。しかし、「安全」なわけではありません。あくまで右側に比べればマシというだけで、強風であることに変わりはないので油断は禁物です。
(出典:気象庁『台風の構造と特徴』)
離れた場所でも気温が上がるフェーン現象の秘密

台風がまだ遠くにあるのに、なぜか猛烈に暑くなることがあります。これは「フェーン現象」と呼ばれる熱力学的な現象です。
台風が運んでくる「暖かく湿った南風」が山脈にぶつかると、雨を降らせながら山を登ります。このとき空気は湿った状態で冷やされます。しかし、山頂を越えて反対側に吹き下りるときは、雨を落として「乾燥した空気」になっています。
乾燥した空気は温度が上がりやすい性質があるため、山を駆け下りる勢いで圧縮され、一気に高温の熱風となります。過去には、台風接近時に夜間にもかかわらず35℃を超えたり、40℃近い気温になったりした事例もあります。
台風の時は雨風だけでなく、この「熱中症」のリスクにも十分注意してください。特に停電でエアコンが使えなくなるリスクも重なると、命に関わる暑さになります。
地球温暖化の影響で、こうした猛暑や気象災害のリスクは年々高まっています。その背景については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
雨や風が急に強くなる中心付近の危険な変化

台風の中心まで200kmを切ると、いよいよ本格的な暴風雨の領域に入ります。気圧計の数値は急降下し、低い雲が空を覆い尽くして昼間でも薄暗くなります。
この段階では、台風本体である巨大な「積乱雲」の集合体が押し寄せている状態です。積乱雲は「入道雲」とも呼ばれますが、台風のそれは規模が違います。雷や突風、時には竜巻を伴う激しい現象を引き起こします。
積乱雲がどのように発生し、どんな危険をもたらすのかについては、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
台風が近づくと天気はどうなるか学んで備える防災対策

天気がどうなるか分かったところで、次は「どう備えるか」が重要です。ここからは、防災士の視点で、物理的・医学的な根拠に基づいた具体的な対策をお伝えします。
気圧が下がると頭痛が起きる原因

「台風が近づくと頭痛がする」「めまいがする」「古傷が痛む」というのは、決して気のせいではありません。これは「気象病」や「天気痛」として医学的に説明できる体の反応です。
私たちの耳の奥にある「内耳(ないじ)」という器官には、気圧の変化を感じ取るセンサーのような機能があります。台風の接近で急激に気圧が下がると、このセンサーが過敏に反応しすぎて脳に過剰な情報を送ってしまいます。その結果、自律神経のバランスが崩れ、血管が収縮・拡張の異常を起こして頭痛を引き起こすのです。
今すぐできる!くるくる耳マッサージ
内耳の血行を良くすることで、センサーの過敏な反応を和らげる効果が期待できます。
予防のための「くるくる耳マッサージ」手順
- つまむ: 両耳を軽くつまみ、上・下・横にそれぞれ5秒ずつ気持ちいい強さで引っ張ります。
- 回す: 耳を横に引っ張ったまま、後ろに向かってゆっくり5回回します。
- 包む: 耳全体を手のひらで覆い、円を描くようにマッサージして温めます。
これを朝・昼・晩の1日3回行うと、自律神経が整いやすくなります。痛くなってからではなく、予兆を感じた段階で始めるのがポイントです。
窓ガラスに養生テープを貼る本当の効果と注意点

台風対策として「窓ガラスに養生テープを米印(✕印)に貼る」という光景をよく見かけますが、実はこれ、窓ガラスの強度を上げる効果はほとんどありません。
物理的なエネルギーの計算上、薄いテープを貼ったところで、飛んでくる瓦や看板の衝撃(運動エネルギー)に耐えることは不可能です。テープの唯一の効果は、万が一ガラスが割れたときに「破片が飛び散るのを少し防ぐ(飛散防止)」ことだけです。もちろんやらないよりはマシですが、「テープを貼ったから割れない」と過信するのは非常に危険です。
本当に有効な「窓」を守る対策
- 外側を守る(ベスト): 最も確実なのは、飛来物がガラスに当たる前に止めることです。雨戸やシャッターを閉めましょう。もし無い場合は、窓枠の外側に「プラベニヤ」や合板を取り付けるのが効果的です。
- 内側を守る(ベター): 室内側から対策する場合は、段ボールを使います。窓枠のサイズに合わせて段ボールを切り、ガムテープで隙間なく密着させて貼り付けます。これならテープよりも広い面積で破片を受け止めることができ、カーテンも閉めれば飛散リスクを大幅に減らせます。
トイレの逆流を防ぐ水のうを使った簡単な裏技

大雨で下水道管がいっぱいになると、行き場を失った水や空気が逆流し、家庭の排水口から「ボコボコ」という音がしたり、最悪の場合は汚水が噴き出したりする現象が起きます。これは「パスカルの原理」などで説明される圧力の作用です。
これを防ぐには、物理的に蓋をする「水のう」が有効です。専用の道具は必要ありません。
水のうの作り方と使い方
- 45リットルくらいの大きめのゴミ袋を二重にします。
- その中に水を半分程度(約20リットル)入れ、空気を抜いて口を固く縛ります。
- これをトイレの便器の中、洗濯機の排水パン、お風呂の排水口の上に「重し」として置きます。
これだけで、逆流してくる圧力に対抗し、室内への汚水侵入を防ぐことができます。トイレが使えなくなることを想定して、携帯トイレ(凝固剤)も必ず備蓄しておきましょう。
停電しても冷蔵庫の中身を守る賢い保存方法

台風で電線が切れると、長時間の停電が発生するリスクがあります。冷蔵庫が止まってしまったら、中の食材はどうなるでしょうか。
まず、鉄則として「絶対にドアを開けない」でください。冷蔵庫は断熱材で覆われた箱なので、開閉さえしなければ、2〜3時間は冷たさをキープできます。
そして事前の準備として、ペットボトルの水を何本か凍らせておきましょう。停電になったら、この凍らせたペットボトルを冷蔵室の一番上の棚に移します。冷たい空気は重いため上から下へ流れる性質があります。氷を上に置くことで、庫内全体を冷やす保冷剤の役割を果たし、保存時間を大幅に延ばすことができます。
日頃から備えておくべき防災グッズについては、100均で揃う便利なものも含めて、こちらの記事で詳しく紹介しています。
学校や仕事が休みになる基準を正しく理解する

「明日は学校休みかな?」「会社に行かなければならないのかな?」と不安になる方も多いでしょう。
学校の場合は、一般的に「暴風警報」が発令されているかどうかが休校の基準になることが多いですが、自治体によってルールが異なります。
会社の場合、法的には企業に「安全配慮義務(労働契約法第5条)」があり、従業員の生命や身体の安全を守る義務があります。台風の直撃が予想される中で無理に出勤を命じ、従業員が事故に巻き込まれた場合、企業は責任を問われる可能性があります。
また、公共交通機関が「計画運休」を発表した場合は、物理的に通勤が不可能になります。無理に出勤しようとせず、テレワークへの切り替えや休暇の取得を検討してください。「これくらいの風なら大丈夫」という過信が、飛来物によるケガや事故の元です。
まとめ:台風が近づくと天気はどうなるか正しく恐れる

台風が近づくと天気はどうなるのか、その予兆や仕組みを知ることは、単なる知識ではなく、自分や家族の命を守るための強力な武器になります。
今回の重要ポイント
- 空が赤くなったり、飛行機雲が長く残ったりするのは、湿度が上がり危険が迫っている証拠。
- 気圧が下がると頭痛がするのは体のセンサーの反応。耳マッサージで早めのケアを。
- 窓ガラスはテープだけでは不十分。段ボールや雨戸で物理的に防御する。
- 停電や下水の逆流に備えて、水のうや保冷剤(氷)の準備をしておく。
「天気はどうなる?」と検索してこの記事にたどり着いたその好奇心と危機感を、ぜひ具体的な「備え」の行動に変えてみてくださいね。正しい知識があれば、台風は必要以上に怖いものではありません。
