大雪で車が立ち往生したら?防災士が教える生存対策と原因

大雪で車が立ち往生したら?防災士が教える生存対策と原因
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
冬の天気予報で「最強寒波」や「大雪警報」といったニュースを見るたびに、もし運転中に猛吹雪に巻き込まれて、車が完全に動かなくなってしまったらどうしよう…と、不安になることはありませんか?
想像してみてください。視界は真っ白(ホワイトアウト)、前後の車はピクリとも動かず、ガソリンの目盛りはじわじわと減っていく。いつ助けが来るのかも分からない、トイレにも行けない、そして襲いくる強烈な寒さ。大雪による車両の立ち往生は、単なる「交通トラブル」ではなく、一歩間違えれば命に関わる「災害」そのものです。
でも、過度に怖がる必要はありません。雪道でのトラブルは誰にでも起こり得るものですが、正しい知識と「ほんの少しの具体的な準備」があるだけで、そのリスクを劇的に減らし、万が一の時も生還できる確率をぐっと高めることができます。この記事では、私が防災士として、そして雪国で暮らすドライバーの一人として、あなたと大切な家族の命を守るために必要な「生存戦略」を徹底的に解説します。
この記事で分かること
- 立ち往生が発生する原因と、雪道特有の「動けなくなる」危険なメカニズム
- 静かなる殺人者「一酸化炭素中毒」や「低体温症」から身を守るための鉄則
- 車内で長時間生き抜くために、トランクに積んでおくべき必須の防災グッズ
- 緊急時にプロの助けを呼ぶための正しい連絡先(#9910など)と手順

大雪で車が立ち往生した際のリスクと原因

まずは、なぜ車が動かなくなってしまうのか、そしてその時、密室となった車内で何が起きるのかを知っておくことが大切です。「敵」の正体を正しく知ることで、パニックにならずに冷静な判断ができるようになります。
スタックが発生するメカニズムと主な原因

雪道で車が動かなくなる現象を総称して「スタック(Stack)」と呼びますが、これには大きく分けて3つのパターンがあるのをご存知でしょうか。自分の車がどの状態にあるかを見極めることが、脱出への第一歩です。
1. スリップスタック
もっとも一般的なのがこれです。タイヤの下の雪が圧力と摩擦熱で磨かれてツルツルの氷(アイスバーン)になり、タイヤのグリップ力が完全に失われて空転してしまう状態です。アクセルを踏めば踏むほど雪が溶けて氷が厚くなり、穴が深まって状況が悪化してしまう、いわゆる「墓穴を掘る」パターンですね。
2. 亀の子スタック
これは非常に厄介です。新雪や、トラックが作った深い「わだち」の間の固い雪に、車の底(フロア部分)が乗り上げてしまい、タイヤが完全に宙に浮いてしまう現象です。こうなると、いくら高性能な4WD車であっても、タイヤが地面に力を伝えられないため、自力脱出はほぼ不可能です。ジャッキアップするか、車の下の雪をスコップで物理的にかき出すしか解決策がありません。
3. 埋没スタック
激しい降雪や吹きだまりに突っ込み、車全体が雪に埋もれて動けなくなる状態です。雪の物理的な抵抗(重さ)が車のパワーを上回ってしまうと、前にも後ろにも進めなくなります。
知っておきたい用語:JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)
冬のニュースでよく聞くこの言葉は、日本海で異なる方向の風がぶつかり合い、強力な雪雲の帯が発生する現象のことです。これが陸地にかかると、平野部であっても短期間に腰の高さまで積もるような猛烈な「ドカ雪」をもたらし、大規模な立ち往生の引き金になります。
一酸化炭素中毒が招く車内での死亡リスク

立ち往生した際、私たちが最も警戒しなければならないのは、寒さそのものよりも「一酸化炭素(CO)中毒」です。これは本当に恐ろしいもので、「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています。
雪が降り積もり、マフラー(排気管)の出口が塞がれてしまうと、行き場を失った排気ガスが車体の底の隙間やエアコンの外気導入口から車内(キャビン)へ逆流し、充満していきます。
なぜ気づけないのか?
一酸化炭素は「無色・無臭・無刺激」です。煙臭いわけではないので、充満していても五感では絶対に感知できません。初期症状は「軽い頭痛」や「吐き気」ですが、これらは風邪や長時間の運転疲れの症状とよく似ているため、「ちょっと疲れたから休もう」と誤解してしまいがちです。そして、そのまま意識を失い、二度と目覚めることがなくなってしまいます。
死へのタイムライン
JAF(日本自動車連盟)が実施したユーザーテストでは、驚くべきデータが出ています。車の周囲が雪で埋まった状態でエンジンをかけ続けると、マフラーが塞がってからわずか22分で、車内の一酸化炭素濃度は人体に深刻な影響を及ぼす危険レベルに達しました。
(出典:JAF『クルマの雪埋まりによるCO中毒の危険性(ユーザーテスト)』)
このデータからも分かる通り、仮眠を取るためにエンジンをかけっぱなしにする行為は、自殺行為に近い危険性を含んでいるのです。詳しくは、過去の悲惨な雪害事例から学ぶ対策記事も書いていますので、ぜひ併せて読んでみてください。
関連記事:過去の大雪災害事例から学ぶ!歴史的被害と今後の対策を解説
マフラーの閉塞を防ぐ定期的な除雪作業

では、どうすれば一酸化炭素中毒を防げるのでしょうか。その唯一にして最大の対策は、「マフラー周りの除雪」を徹底することです。排気ガスをスムーズに大気中へ逃がすための空間、いわば「煙突」のような通り道を常に確保し続ける必要があります。
激しい降雪時には、1時間もしないうちに数十センチもの雪が積もることがあります。猛吹雪の中で車外に出るのは億劫ですが、命を守るために、以下のルールを徹底してください。
- 頻度: 最低でも30分〜1時間に1回は車外に出て状況を確認する。
- 作業範囲: マフラーの出口周辺を中心に、広範囲を除雪する。
- 安全確保: 視界が悪いので、作業中は他の車や除雪車に轢かれないよう、目立つ色のウェアを着るか、ライトを持って周囲を警戒する。
- 出入り口: 車内への雪の吹き込みを防ぐため、必ず「風下側」のドアから出入りする。
換気の重要ルール
やむを得ずエンジンをかけて暖房を使う場合は、マフラーの除雪に加え、必ず「窓を少し開けて換気」をしてください。エアコンを「内気循環」にしていても、車体の隙間からガスが入り込むリスクは完全には防げません。風下側の窓を数センチ開けるだけで、生存率は大きく上がります。
車中泊で警戒すべき低体温症などの症状

もし燃料が尽きたり、安全のためにエンジンを停止したりした場合、車内は急速に冷蔵庫のような寒さになります。ここで襲ってくるのが「低体温症」です。
人間の体温(直腸温)が35℃を下回ると、初期症状として激しい震え(シバリング)が始まります。これは体が熱を作ろうとする防衛反応ですが、さらに体温が下がると震えが止まり、意識が朦朧としたり、判断力がなくなったりして、最終的には昏睡状態に陥ります。
特に注意したいのが「底冷え」です。車のシートは断熱材が入っていないため、下からの冷気をダイレクトに伝えます。お尻や背中から体温が奪われるのを防ぐため、毛布や衣類を座席に敷く工夫が必要です。
エコノミークラス症候群の恐怖
また、狭い座席で長時間同じ姿勢を続けていると、足の静脈に血の塊(血栓)ができる「エコノミークラス症候群」のリスクも高まります。この血栓が血流に乗って肺に飛び、血管を詰まらせると、呼吸困難やショック死を引き起こします。
トイレに行きたくないからといって水分を控えるのは絶対にNGです。血液がドロドロになって詰まりやすくなるため、こまめな水分補給と、足首の曲げ伸ばし運動(ふくらはぎのマッサージ)を意識的に行ってください。
大規模な渋滞と通行止めの発生プロセス

そもそも、なぜ何キロにもわたる大渋滞が起きるのでしょうか。その発端の多くは、一台の大型トラックやトレーラーが、わずかな上り坂でスタックすることから始まります。
一台が道を塞ぐと、後続車が停止し、その停止した車も雪に埋もれて発進できなくなる…という「負の連鎖」が瞬く間に広がります。こうなると、除雪車やレッカー車も現場に物理的に到達できなくなり、解消までに数日を要する事態に発展します。
予防的通行止めの副作用
高速道路では、こうした本線上での「立ち往生」を未然に防ぐために、早めに区間を閉鎖する「予防的通行止め」が行われることがあります。これ自体は正しい措置なのですが、問題はその副作用です。
高速を降ろされた大量の車が、除雪能力の低い並行する国道や県道に一気に流れ込み、キャパシティオーバーを起こして、今度は一般道で大規模な立ち往生が発生するケース(溢水効果)が後を絶ちません。「高速がダメなら下道で」と考えがちですが、大雪の時は「下道こそ地獄」になる可能性があることを覚えておいてください。
大雪で車が立ち往生した時の対策と生存戦略

では、実際に自分が立ち往生の当事者になってしまったら、どう行動すれば良いのでしょうか。ここからは、具体的なアクションプランと、車に積んでおくべき「命を守るアイテム」についてお話しします。
エンジンを停止して燃料と電力を温存する

救援が来るまでの時間が数時間なのか、それとも数日なのか、最初は誰にも分かりません。そのため、ガソリンとバッテリー(電力)の残量は、まさにあなたの生命線となります。
基本戦略は「可能な限りエンジンを切って待機する」ことです。これは燃料の浪費を防ぐだけでなく、先述した一酸化炭素中毒のリスクをゼロにするためでもあります。防寒着や毛布を活用して、体温だけで耐えられる時間はエンジンを切りましょう。
どうしても寒さに耐えられない時だけエンジンをかけますが、その際も「1時間に10分だけ」といったルールを決めたり、アイドリング状態でどれくらい燃料を消費するか(一般的な乗用車で1時間あたり0.8〜1リットル程度)を意識したりすることが大切です。EV車の場合は、暖房(ヒーター)がバッテリーを激しく消費するため、シートヒーターなどの省エネ暖房を活用するのが賢い方法です。
自力での脱出やスコップを用いた排雪作業

もしスタックした場所が平坦で、周囲に人がいて手助けを頼めそうな場合、あるいは単独でも軽度のスタックなら、自力脱出を試みる価値があります。
基本の手順
- 足場の確保: まずはスコップで、タイヤの前後と腹下(フロア下)の雪を丁寧に取り除きます。
- グリップの回復: 駆動輪の下に「スノーヘルパー(脱出用マット)」やフロアマット、あるいは緊急時には毛布や土砂、木の枝などを敷き込みます。
- もみ出し(ロッキング): 車を「ドライブ(前進)」と「バック(後退)」に交互に入れ、ブランコのように車体を前後に揺らします。振れ幅が大きくなったタイミングで勢いよく脱出します。
注意点として、アクセルをベタ踏みしてタイヤを空転させるのは逆効果です。摩擦熱で雪が溶けて再凍結し、路面がさらにツルツルになってしまいます。「アクセルは優しく、じわじわと」が雪道脱出の鉄則です。
スコップは金属製が最強
ホームセンターで売っているプラスチック製のスコップは軽くて便利ですが、圧雪や氷混じりの硬い雪には歯が立たず、簡単に割れてしまいます。命に関わる場面では役に立ちません。車載用には、アルミやスチールなどの金属製で、コンパクトに折りたためるタイプを選んでおくと安心です。
深刻なトイレ問題を解決する携帯トイレ

立ち往生中に最も深刻で、かつ精神的に追い詰められるのが「トイレの問題」です。吹雪の中で車外に出て用を足すのは、低体温症や滑落のリスクがあり非常に危険です。何より、周囲の目がある中で尊厳を守るのは難しいでしょう。
しかし、トイレを我慢することは、エコノミークラス症候群や膀胱炎など、健康被害に直結します。ここで絶対に役立つ、というより「ないと詰む」のが「携帯トイレ(簡易トイレ)」です。
ペットボトルや空き缶で代用しようとする人がいますが、量や臭いの観点から現実的ではありません。高分子ポリマー(吸水性樹脂)で水分を瞬時にゼリー状に固め、臭いを封じ込める専用品を準備してください。
目安は「1人1日5回分 × 家族の人数 × 3日分」です。さらに、排泄物を入れた袋を車内で保管するための、医療用レベルの高機能な「防臭袋(BOSなど)」もセットで用意しておくと、密室である車内の臭いストレスを劇的に減らすことができます。
目隠しの工夫
車内でトイレを使う時は、ポンチョや大きめのバスタオル、アルミブランケットなどで体をすっぽり覆うと目隠しになります。女性の場合は特に、こうしたプライバシー対策グッズもセットで用意しておくと安心です。
生存率を高める防災グッズと食料の備蓄

車を単なる移動手段ではなく、「一時的な避難シェルター」に変えるための準備が必要です。トランクの荷物の下ではなく、いざという時に車内(後部座席など)からすぐに手が届く場所に、以下のアイテムを備えておきましょう。
| カテゴリー | おすすめアイテム | ポイント・解説 |
|---|---|---|
| 防寒・保温 | 毛布、寝袋、使い捨てカイロ、アルミシート | カイロは貼るタイプを選び、太い血管がある「首の後ろ」や「背中」に貼ると効率よく全身が温まります。 |
| 食料・水 | チョコレート、羊羹、カロリーメイト、水 | 高カロリーで凍りにくく、調理不要なものを。水は凍結膨張による破損を防ぐため、少し量を減らしておくと良いです。 |
| 作業・脱出 | 金属製スコップ、防寒ゴム手袋、長靴、牽引ロープ | 軍手は濡れると凍って逆に体温を奪う凶器になります。必ず防水性のあるゴム手袋を使いましょう。 |
| 情報・電源 | 携帯ラジオ、モバイルバッテリー、シガーソケット充電器 | スマホは命綱です。電池切れを防ぐため、大容量バッテリーは必須。乾電池式の充電器もあると安心です。 |
特に使い捨てカイロは、電気も火も使わずに暖を取れる、非常に優秀な熱源です。多めに積んでおいて損はありません。また、非常用持ち出し袋の中身については、こちらの記事でも詳しくリストアップしていますので、車載グッズ選びの参考にしてみてください。
JAFや道路緊急ダイヤルへの電話と救援

自力での脱出が難しく、一酸化炭素中毒や燃料切れの危険が迫っている場合は、迷わず外部に救援を要請しましょう。「迷惑かな?」などと躊躇している場合ではありません。
主な連絡先リスト
- #8139(JAFロードサービス): バッテリー上がりやスタックの救援要請です。会員でなくても利用可能ですが、大雪時は電話が殺到して繋がりにくいことがあります。公式アプリを入れておくとGPSで位置を送信できるので便利です。
- #9910(道路緊急ダイヤル): 国土交通省が管轄する窓口で、道路の異状(立ち往生含む)を通報できます。24時間無料で、現在はLINEアプリから写真や位置情報を送って通報する機能も運用されています。
- 110番・119番: 事故が起きている、怪我人がいる、体調が悪化したなど、生命の危険がある緊急性が高い場合は、迷わず警察や消防へ連絡してください。
通報する際は、スマホのGPS機能を使って現在地を正確に伝えることが重要です。また、高速道路や主要国道なら、路肩に設置されている「キロポスト(距離標)」の数字を伝えると、場所の特定が非常にスムーズになります。
大雪による車の立ち往生についてのまとめ

大雪による立ち往生は、現代の交通社会において誰にでも起こり得る「自然災害」です。しかし、金属製のスコップや毛布、そして携帯トイレといった基本的なグッズを車に積んでおくだけで、最悪の事態を回避し、生き延びる確率は格段に上がります。
「自分は大丈夫」「雪国じゃないから関係ない」という正常性バイアスを捨てて、天気予報に雪だるまマークがついた時は、トランクの中身を一度チェックしてみてください。その小さな準備と行動変容こそが、あなたと大切な家族の命を守る最強の盾になります。無理な外出は控えつつ、万全の備えで冬のドライブを安全に乗り切ってくださいね。
免責事項
本記事の情報は一般的な防災知識および公的機関の指針に基づくものですが、実際の気象状況や車両の状態、現場の環境により適切な対応は異なります。最終的な判断は、気象庁や国土交通省の最新情報を確認し、警察やロードサービス等の専門家の指示に従ってください。
