乱層雲のでき方と特徴を防災士が解説

乱層雲のでき方と特徴を防災士が解説
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
空を見上げて、「あのどんよりした灰色の雲、なんだろう?」って思うこと、ありますよね。「乱層雲(らんそううん)」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、そのでき方や詳しい特徴って、意外と知らないかもしれません。
私たちが天気予報を見聞きするとき、この乱層雲は「雨や雪」のサインとして非常に重要なんです。特に、似ている雲として挙げられる高層雲(こうそううん)や、危険な積乱雲(せきらんうん)との違いをしっかり理解しておくことは、防災の観点からも大切なんですよ。
この記事では、乱層雲がどんな高さにあるのか、温暖前線とどういう関係があるのか、そしてこの雲がどんな天気のサインで、別名は何と呼ばれるのか…といった疑問について、防災士の視点からできるだけ分かりやすく、詳しく解説していきますね。
- 乱層雲の基本的な特徴と別名
- 乱層雲ができる主なメカニズム
- 他の似ている雲との見分け方
- 乱層雲が示す天気のサイン
乱層雲のでき方と特徴【防災士が解説】

まずは、乱層雲(らんそううん)がどんな雲なのか、その基本的なプロフィールから見ていきましょう。どうやってできて、どんな雨を降らせるのか、特徴を知るのが第一歩ですね。この雲を理解することは、近づいてくる天気の悪化を予測することに直結しますよ。
乱層雲とは?別名は雨雲

乱層雲(らんそううん)は、その名前が特徴をそのまま表している雲なんです。
その学名である「Nimbostratus(ニンボストラトゥス)」は、ラテン語で「雨」を意味する「Nimbus(ニンブス)」と、「層」を意味する「Stratus(ストラトゥス)」を組み合わせた言葉。つまり、「雨や雪を降らせる層状の雲」という意味なんですね。
その名の通り、別名は「雨層雲(うそううん)」とも呼ばれます。私たちが見上げると、空全体をどんよりと一様に覆う、暗灰色でのっぺりとした雲として認識できることが多いです。積雲(わた雲)のようにモクモクした立体的な形ではなく、どこまでも続く灰色の「層」になっているのが特徴です。
雲の分類「十種雲形」のひとつ 私たちが目にする雲は、その形や現れる高さから、国際的な基準で10種類の基本的な形(十種雲形)に分類されています。乱層雲もそのひとつで、雨や雪をもたらす代表的な雲として分類されているんですよ。(出典:気象庁「はれるんランド:雲の形と天気の移り変わりにはどんな関係があるの?」)
そして、この雲の最も重要な役割、それは「地雨(じあめ)」や「地雪(じせつ)」と呼ばれる、比較的穏やかだけど長時間にわたって降り続く雨や雪を広範囲にもたらすこと。まさに「空の梅雨前線」や「冬の雪雲」の本体といったイメージかもしれません。
乱層雲の高さと構造

乱層雲は、先ほど触れた「十種雲形」の分類上では、高層雲などと同じ「中層雲」(高度2,000〜7,000mあたりに現れる雲)のグループに入れられるのが一般的です。
ただ、これは少し注意が必要で、実際の乱層雲はそんな単純な「層」ではないんです。
物理的な実態としては、非常に「背が高い」雲、つまり垂直方向に非常に厚い雲であり、中層だけでなく下層から上層まで、複数の層にまたがっているのが普通なんですよ。
- 雲底(雲の底): 降水を伴うため、高度2,000m以下、時には地上近くまで低く垂れ下がってきます。
- 雲頂(雲のてっぺん): 高度10,000m程度の上層(ほぼ飛行機の飛ぶ高さ)にまで達することもあります。
見た目はのっぺりとした「層状」ですが、その厚さは積乱雲(入道雲)に匹敵する、数千メートルから時には1万メートル近くにもなる、巨大な雲のカタマリなんですね。
雲の中身はどうなってる? こんなに背が高いので、雲の中も場所によって状態が違います。雲底付近の比較的暖かい部分は「水滴」でできていますが、上空に行くほど気温は急激に下がります。雲の中間部は「水滴と氷晶の混合状態」、そして気温が氷点下数十度にもなる雲頂付近は「氷晶(氷の粒)」だけでできています。この氷晶が落ちてくる途中でくっつき合って雪になったり、途中で溶けて雨になったりして、地上の私たちのもとに届くわけです。
温暖前線と乱層雲のでき方

では、この分厚い乱層雲はどのようにしてできるのでしょうか。そのメカニズムは、夏の夕立をもたらす積乱雲(入道雲)のでき方と正反対のプロセスをたどります。
積乱雲との違い:安定か不安定か
まず、積乱雲のでき方をおさらいすると、あれは地面が夏の強い日差しで熱せられたりして、大気の状態が「不安定」になることが引き金です。暖められた空気が「軽い!」となって局所的に「急上昇(対流)」することで、塔のようにモクモクと発達していきます。
一方、乱層雲は、大気の状態が「安定」している(=空気が自発的に上昇しようとしない)状況下で発生します。安定している空気を、外部からの力によって「非常に広い範囲(数百km四方)」で、「緩やかに」「強制的に」持ち上げることで発生します。この「広域的で緩やかな上昇気流」が最大のポイントですね。
典型例:温暖前線
この「広域的で緩やかな上昇気流」が起こる代表的な場所が、天気図でおなじみの「温暖前線」です。
温暖前線とは、暖かい空気(暖気)が、それよりも冷たくて重い空気(寒気)の上に、ゆっくりと「這い上がっていく」境界面のこと。この「ゆっくりとした這い上がり」こそが、まさに乱層雲を作るのに最適な、広域的・緩やか・持続的な上昇気流そのものなんです。
温暖前線が近づいてくると、まず空の高いところに巻雲(すじ雲)が現れ、次に巻層雲(うす雲)、そして高層雲(おぼろ雲)へと、だんだん雲が低く、厚くなってきます。そして、いよいよ前線本体が近づくと、空は完全に分厚い乱層雲に覆われ、地雨や地雪が降り出す…というのが典型的な流れですね。低気圧の中心付近でも、集まってきたい空気が行き場を失って上昇することで、同じようなメカニズムで乱層雲が発生します。
天気図と前線の関係 天気図でこうした前線がどこにあって、どちらへ進んでいるかを知ることは、乱層雲による雨がいつから降り出し、いつ頃まで続くかを予測する上で非常に重要です。前線の種類や天気図の基本的な見方については、こちらの記事でも詳しく解説していますよ。 → 前線の種類と天気図の見方。防災に役立つ4つの知識

継続する雨が最大の特徴

乱層雲を他の雲と決定的に区別する最大の特徴は、やはり「降水の性質」にあります。
乱層雲がもたらす雨は「地雨(じあめ)」、雪は「地雪(じせつ)」と呼ばれます。「ザーザー」「バラバラ」といった激しい雨ではなく、「しとしと」「ふわりふわり」と降る、強さの変化が比較的緩やかな雨や雪をイメージしてもらうと分かりやすいかなと思います。
しかし、決して弱いわけではなく、中程度の強さの降水が「持続的」に続くのがミソです。
乱層雲の降水の特徴
- 継続性: 数時間から、時には丸一日以上にわたって降り続く。
- 強度: 弱め~中程度の強さがメイン。強弱の変化は緩やか。
- 範囲: 雲自体が広大(数百km四方)なため、降水も非常に広範囲で同時に観測される。
これは、短時間で局所的に激しく降る積乱雲の「驟雨(しゅうう)」(いわゆる「ゲリラ豪雨」や「夕立」)とは、まったく対照的な降り方ですね。この「長時間・広範囲」という特徴が、防災上も重要なポイントになります。
特徴的なちぎれ雲とは?

乱層雲が空を覆っているとき、その本体である暗灰色の雲底よりも、さらに低い高度に、ぼろぼろとした断片状の雲が速いスピードで流れていくのをよく見かけます。
これは「ちぎれ雲」(または「片雲(へんうん)」)と呼ばれる雲です。気象用語では「パヌス(Pannus)」と言ったりもしますね。
「あれも乱層雲の一部?」と思うかもしれませんが、厳密には少し違います。この雲は、上空の乱層雲本体から降ってくる雨や雪が、地上に届く前に一部蒸発し、その水分が下層の湿った空気の中で再び凝結してできたものなんです。
乱層雲の雲底は、この降水やちぎれ雲によって、輪郭がぼやけて不明瞭に見えることが多いです。これが、乱層雲を見分ける際の外観的な特徴のひとつにもなっています。
どんな天気になるサイン?

もうお分かりかと思いますが、空に乱層雲が広がってきたら、それは「これから天気が悪化し、その状態がしばらく続きますよ」という明確なサインです。
特に、それまで高層雲(おぼろ雲)でぼんやり見えていた太陽の位置がだんだん分からなくなり、空全体が暗い灰色に覆われ、そして「しとしと」とした雨が降り出したら…それはほぼ間違いなく温暖前線や低気圧が接近・通過中である証拠です。
防災士の視点から特に強調したいのは、この「継続する雨」への備えですね。
継続する雨(地雨)への注意 一発の降水強度は積乱雲ほどではなくても、「長時間降り続くこと」でじわじわと危険度が高まるのが乱層雲の雨の特徴です。
- 河川の増水: 弱い雨でも数時間〜半日以上続けば、川の水位は確実に上昇します。
- 土砂災害: 雨が地中に浸透し続けることで、地盤が緩み、土砂災害(がけ崩れなど)の危険性が高まります。
特に福島県は阿武隈川や阿賀川(大川)など大きな川もありますし、山間部も多いので油断はできません。「まだ弱い雨だから大丈夫」と決して思わず、雨が降り出したら、こまめに気象情報や河川の水位情報、土砂災害警戒情報(キキクルなど)をチェックする習慣が大切ですね。
そして、危険を感じる前に、お住まいの地域のハザードマップを確認し、避難場所や避難経路を再確認しておきましょう。
最新の気象情報や警報・注意報は、必ず気象庁のウェブサイトなどで直接確認するようにしてください。

乱層雲と他の雲の特徴。でき方も比較

乱層雲をより深く理解する上で、よく似た雲や、同じように雨を降らせる雲との「違い」を知っておくことはとても大事です。「あの雲はどっちだろう?」と迷いやすい雲たちと、でき方や特徴を比較しながら、見分けるポイントを整理してみましょう。なぜ見分ける必要があるかというと、それぞれが示す「今後の天気の変化」や「危険性」が全く異なるからなんです。
乱層雲と高層雲の見分け方

乱層雲と一番見分けがつきにくく、また関係が非常に深いのが「高層雲(こうそううん)」です。別名「おぼろ雲」とも呼ばれますね。
この2つは「親子の関係」とも言えて、温暖前線が近づくときなど、もともとは中層にあった「高層雲」が、だんだん厚く、低くなって「乱層雲」へと発達・変化していくケースが非常に多いんです。
ですから、「ここからが高層雲で、ここからが乱層雲」と明確に線を引くのが難しい場合もあります。大切なのは「今、どちらの状態に近いか」「どちらへ向かっているか」を判断すること。その最大のポイントが、次に説明する「太陽の見え方」なんです。
太陽が透けるかで判断しよう

高層雲と乱層雲を見分ける最大のポイント、それは「太陽や月が透けて見えるかどうか」という光学的特徴です。
高層雲(おぼろ雲)の特徴
高層雲は、雲が比較的薄い場合、「すりガラス越し」のように太陽や月がぼんやりと透けて見えます。太陽や月が空の「どの位置にあるか」が、ぼんやりとでも分かる状態ですね。
乱層雲(雨層雲)の特徴
一方、乱層雲は前述の通り、上層から下層まで達する非常に分厚い雲です。そのため、太陽や月を完全に覆い隠してしまいます。太陽が空のどこにあるかさえ全く分からなくなるのが特徴です。
見分け方のまとめ(重要!)
- 高層雲 (As): 太陽の位置がわかる(半透明)。
- 乱層雲 (Ns): 太陽の位置がわからない(不透明)。
また、地上で「継続的な雨や雪」が降っていれば、それはもう乱層雲と判断して間違いありません。高層雲も厚くなると雨や雪を降らせることがありますが、その降水は弱いか、地上に届く前に蒸発してしまう「尾流雲(びりゅううん)」と呼ばれる、すだれ状の雲であることが多いですね。
乱層雲と積乱雲の決定的な違い

「積乱雲(せきらんうん)」、いわゆる「入道雲」や「雷雲」ですね。これも乱層雲と同じく垂直方向に非常に背が高く、大雨をもたらす雲ですが、その性質は正反対、まったくの別物です。
でき方の根本的な違い(安定層での広域上昇 vs 不安定層での局所対流)が、その特徴のすべてに現れています。
一番の違いは、やはり「降水の質」と、そして何よりも「雷の有無」でしょう。
| 比較項目 | 乱層雲 (Nimbostratus, Ns) | 積乱雲 (Cumulonimbus, Cb) |
|---|---|---|
| でき方 | 安定層、広域的な緩やかな上昇気流 | 不安定層、局所的な急上昇(対流) |
| 外観 | 空全体を覆う「層状」、輪郭不明瞭 | モクモク発達する「塊状・塔状」 |
| 降水の種類 | 地雨・地雪(しとしと、長時間) | 驟雨(ザーザー、短時間、局所的) |
| 伴う現象 | なし | 雷、雹(ひょう)、突風を必須 |
防災の観点からも、この2つを混同するのは非常に危険です。乱層雲は決して雷を伴いません。もしゴロゴロと音が聞こえたり、雨が急に強弱をつけ始めたら、それは乱層雲ではなく積乱雲です。
積乱雲は、短時間での急激な河川増水(鉄砲水)、突風(竜巻含む)、落雷、雹(ひょう)など、非常に激しく局所的な災害を引き起こす可能性があり、直ちに安全確保の行動(建物内への避難など)が必要になります。
乱層雲と層雲の違いとは?

最後は「層雲(そううん)」です。これは「きり雲」とも呼ばれますね。名前に「層」とつくので乱層雲と似ていますが、これも性質はまったく異なります。
一番の違いは「雲の厚さと高さ」です。
層雲は、十種雲形の中で最も低いところにできる雲です。まさに地上スレスレにできることもあり、山の中腹にかかっている「霧」も、それを地上から見上げれば層雲(層状の雲)の一種です。非常に薄いのが特徴ですね。
一方、乱層雲は、雲底こそ低く垂れ下がりますが、本体の大部分は中層にあり、上層にまで達する非常に分厚い雲です。
降水にも明確な違いがあります。層雲が降水をもたらす場合、それは非常に弱い「霧雨(きりさめ)」や「細氷(ダイヤモンドダスト)」です。顔がうっすら湿る程度ですね。それに対して、乱層雲は、それよりもしっかりとした強さの「地雨(じあめ)」や「地雪(じせつ)」を降らせます。
まとめ:乱層雲のでき方と特徴

今回は、しとしとと降る雨の主役、「乱層雲」について、そのでき方と特徴を、他の雲と比較しながら詳しく解説してきました。
防災士の視点から見た、乱層雲の重要なポイントを最後にもう一度まとめますね。
乱層雲のまとめ
- でき方: 温暖前線や低気圧に伴う、「安定した大気」の「広域的で緩やかな上昇気流」によって形成される。
- 特徴 (外観): 空全体を覆う暗灰色でのっぺりした層状の雲。太陽や月を完全に隠す(不透明)。
- 特徴 (降水): 「地雨」や「地雪」と呼ばれる、穏やかだが「継続的(長時間)」な降水を「広範囲」にもたらす。
- 見分け方: 太陽が透ける「高層雲」とは異なり、雷を伴う「積乱雲」とは危険性が全く違うことを理解することが重要。
乱層雲が空を覆い始めたら、それは「これからしばらく雨や雪が続く」という、比較的予測しやすい空からのサインです。すぐに積乱雲のような激しい災害に結びつくわけではなくても、継続する雨はじわじわと河川の増水や土砂災害のリスクを高めます。
空の様子を見て「あ、高層雲が厚くなってきたな」「これは乱層雲だから、雨は長引きそうだな」と分かると、天気の変化を予測し、早めに防災情報を確認したり、外出の予定を調整したりと、次の「備え」の行動に移しやすくなるかなと思います。
ぜひ、日々の空の観察に、今日の知識を役立ててみてくださいね。
