河岸段丘のでき方を簡単図解!土地選びと防災の知識

中学生が河岸段丘のでき方について学んでいるところ

河岸段丘のでき方を簡単図解!土地選びと防災の知識

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

川沿いにある、あの特徴的な「階段状の地形」、河岸段丘。皆さんもテレビ番組や旅行先の景色、あるいは学校の地図帳などで一度は見かけたことがあるんじゃないでしょうか。「なぜあんな形になったの?」と不思議に思ったことはありませんか。

特に「河岸段丘のでき方」を自分で調べようとすると、いきなり「地殻変動」や「気候変動」「侵食基準面」といった専門用語が出てきて、「うーん、ちょっと難しいかも…」と感じてしまうかもしれませんね。

この記事では、防災士である私の視点も交えながら、この河岸段丘のでき方をできるだけわかりやすく、中学生の皆さんにも伝わるように、図解をイメージしながら丁寧に解説していきます。日本国内の有名な事例(群馬県の沼田市など)がなぜあんな形になったのか、そして私たちがそこで「住む」場合、防災の観点から見た洪水リスクや土地利用のメリット、デメリットは何かについても触れていきます。最後まで読めば、河岸段丘が「なぜ」できたのか、そしてそれが私たちの生活にどう関わっているのか、きっとスッキリするかなと思います。

  • 河岸段丘が「階段状」になる仕組み
  • でき方の主な要因(気候変動や地殻変動)
  • 似ている地形(海岸段丘・扇状地)との違い
  • 土地利用のメリットと防災上の注意点
HIHそなぷー 河岸段丘
目次

なぜ?河岸段丘のでき方を簡単に解説

河岸段丘 でき方 簡単解説|川と地形の関係を防災士がわかりやすく説明
【HIH】ヒカリネット・イメージ

まずは、河岸段丘がそもそも何なのか、そしてどうやってあの特徴的な「階段」ができるのか、基本的なメカニズムを見ていきましょう。難しく考えず、川と地面の追いかけっこ、あるいは「川の引越し」をイメージすると分かりやすいかもしれません。

河岸段丘とは?わかりやすく説明

河岸段丘とは 自然が作る階段状の地形|昔の川底と崖の仕組みを図解
【HIH】ヒカリネット・イメージ

河岸段丘(かがんだんきゅう)とは、その名の通り「川の岸辺にある階段状の地形」のことですね。一見すると、人が畑を作るために作った棚田のようにも見えますが、これは自然が作り出した地形です。

この「階段」は、大きく分けて2つのパーツでできています。

  • 段丘面(だんきゅうめん):階段の「足を置く平らな部分」にあたります。ここは、ただの平地ではありません。その正体は、大昔に川が流れていた「川底」や「川原(河原)」そのものなんです。
  • 段丘崖(だんきゅうがい):階段の「側面にあたる崖(がけ)」の部分です。これは、川が地面を深く削ってできた、比較的新しい「崖」ですね。

つまり河岸段丘は、「昔の川底だった平らな面」と「川が新しく削った崖」がセットになって、何段にも重なっている地形、と理解すると分かりやすいかなと思います。

ポイント:大地の「履歴書」です

河岸段丘がそこにある、ということは、それ自体が「物理的な証拠」なんです。

  1. (1)現在の川よりも高い位置に、かつて川が流れていたこと。
  2. (2)その後、川がそこからより低い位置へ移動した(=地面を深く削った)こと。

この2つを証明しています。だからこそ、河岸段丘は「大地の履歴書」とも呼ばれるんですね。

階段状の地形はなぜできる?

河岸段丘 階段状 地形 理由|川の堆積と侵食がつくる段差のしくみ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

では、なぜあんな風にわざわざ「階段状」になるんでしょうか? 一気に削れば、ただの深い谷(V字谷)になりそうですし、ずっと積もるなら谷が埋まって平ら(氾濫原)になるはずですよね。

すごくシンプルに言うと、川の活動に「おとなしい時期」と「元気な時期」が交互に、それも何万年というスケールでやってきたから、なんですね。

  1. おとなしい時期(堆積フェーズ):川の流れがゆるやかで、運んできた土砂(石や砂)を川底にどんどん積もらせる力が強い時期です。洪水などを繰り返しながら、谷幅いっぱいに土砂を積もらせて、広くて平らな「川原(谷底平野)」を作ります。これが将来の「段丘面(平らな部分)」の原型になります。
  2. 元気な時期(侵食フェーズ):何らかの理由で川の流れが速くなって、パワーアップする時期です。流れが速くなった川は、それまで自分でおとなしく積もらせてきた平らな川原を、今度はものすごい力で深く削り始めます。(これを専門用語で「下方侵食(かほうしんしょく)」と呼びます)

この「平らな面を作る(堆積)」→「その面を深く削る(侵食)」というサイクルが、地質学的な長い時間をかけて何度も繰り返されることで、削り残された「平らな面(段丘面)」と、新しく削られてできた「崖(段丘崖)」が組み合わさり、あの見事な階段状の地形ができあがっていくんです。

このプロセスから、河岸段丘には絶対的な原則があります。それは、「より高い位置にある段丘面ほど古く、より低い位置(現在の川に近い)にある段丘面ほど新しい」ということです。一番上の段が一番お兄さん(お姉さん)で、下に行くほど若い、と覚えるといいですね。

河岸段丘のでき方を4ステップで図解

河岸段丘 でき方 図解|川が作る段丘の形成過程を4段階で解説
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もう少し具体的に、河岸段丘のでき方を4つのステップでイメージしてみましょう。ここでは「図解」の代わりに、流れを追ってみますね。「ビルの床」に例えると分かりやすいかもしれません。

【ステップ1】平らな谷底(川原)ができる(=1階の床づくり)

まず、川が「おとなしい時期」。川は土砂を積もらせる力が強く、谷いっぱいに土砂をためて、広くて平らな「谷底平野(氾濫原)」を作ります。これが、今いる場所の「1階の床」だと思ってください。川はこの床の上を自由に蛇行しています。

【ステップ2】川が地面を削り始める(=1階の床を壊して地下へ!)

次に、何らかの理由(次の項目で詳しく解説します)で、川が「元気な時期」に入ります。川の削る力がパワーアップ!川の流れが速くなり、自分が作ったはずの「1階の床」を、ドリルで穴を開けるように深く削り始めます。

【ステップ3】1段目の「階段」が完成(=地下1階が完成)

川が自分の谷底を深く削り込むと、「1階の床」だった場所は、現在の川の流れより一段高い場所に取り残されることになります。 この時、削り残された「1階の床」が、1段目の「段丘面(平らな部分)」となり、川が削り込んだ際に新しくできた崖が「段丘崖(崖の部分)」となります。 こうして、1段目の「階段」が完成です。川は新しく削った「地下1階」の高さで流れているイメージですね。

【ステップ4】プロセスの繰り返し(=地下2階、地下3階へ…)

侵食が進んで川の勾配が落ち着くと、川は再び「おとなしい時期」に入ります。すると、今度は「地下1階」の谷底で、再び土砂を積もらせて新しい平らな面(地下1階の床)を作ります(ステップ1’)。 …そして、また未来に何らかの理由で「元気な時期」が来ると(ステップ2’)、川はその「地下1階の床」をさらに削り込み、「地下2階」へと潜っていきます。

この「床(平らな面)を作る」→「床を削って下に潜る」の繰り返しこそが、河岸段丘のでき方の正体なんですね。何万年もかけて、川が自ら「引越し」を繰り返した跡、とも言えるかもしれません。

でき方の要因:気候変動と地殻変動

河岸段丘 でき方 図解|川が作る段丘の形成過程を4段階で解説
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さて、ステップ2で出てきた「何らかの理由」とは何でしょうか? なぜ川は急に元気になって(侵食)地面を削り出したり、逆におとなしくなって(堆積)土砂を積もらせたりするんでしょうか。

これには、私たちの想像を超える、地球規模の大きな3つの力が関係していると言われています。

1. 地殻変動(地面の隆起)

日本列島のように、プレートがぶつかり合っている場所(変動帯)では、土地そのものが少しずつ持ち上がる(隆起する)ことがあります。皆さんが立っている地面が、年間1mmとか、本当にわずかずつですが、持ち上がっている場所があるんですね。

土地が隆起すると、川の「坂道」の角度が急になりますよね。坂が急になれば、当然、川の流れは速くなります。流れが速くなった川は、地面を削る力(侵食力)が強くなります。これが「元気な時期(侵食フェーズ)」の大きな原因の一つです。

2. 海面変動(海の高さの変化)

川の侵食力は、最終的なゴールである「海面の高さ」にも大きく影響されます。この海面の高さを「侵食基準面(しんしょくきじゅんめん)」と呼んだりします。

  • 氷河期(海面が下がる):地球全体が寒くなる氷河期には、大量の海水が「氷河(氷の大陸)」として陸上に固定されるため、海面が今より100m以上も下がったと言われています。川のゴール(河口)の位置が100mも下がると、川はそこに向かって「なんとか高さを合わせよう」と、河口から上流に向かって猛烈に谷を深く削り始めます。これが「侵食フェーズ」の強力な引き金になります。
  • 間氷期(海面が上がる):逆に暖かくなって氷河が溶けると海面が上がります(今もそうですね)。すると川の勾配はゆるやかになり、特に下流部では流れが遅くなって土砂が積もりやすくなります。これが「堆積フェーズ」につながります。

3. 気候変動(水量と土砂の量の変化)

これが、実は日本の河岸段丘のでき方を考える上で、とても重要だと考えられています。気候変動は、上記の海面の高さ(要因2)を直接引き起こすだけでなく、川に流れる「土砂の量」そのものを劇的に変えてしまうんです。

氷河期(寒い時期)の川の様子

寒さで森林などの植物が減り、山肌がむき出しになります。すると岩石が凍結などで砕けやすくなり(霜の作用など)、大量の土砂(特に「礫」と呼ばれるゴロゴロした石ころ)が生産されます。 川は、この運びきれないほどの大量の土砂を、谷底にどんどん積もらせてしまいます。これが、広大な「平らな面(段丘面)」の“材料”を作ったと考えられています。(ステップ1:堆積フェーズ)

間氷期(暖かい時期)の川の様子

逆に暖かくなると、植物が山肌をしっかり覆い、土砂崩れなどが減って安定します。すると、川に供給される土砂の量は一気に減少します。 「荷物(土砂)」が減って“身軽”になった川は、相対的に削る力がアップします。そして、氷河期に自分(の祖先)が積もらせた分厚い土砂(礫層)を、深く深く削り始めるんです。(ステップ2:侵食フェーズ)

実際には、これら3つの要因は独立しているのではなく、複雑に連動しています。

特に日本の河岸段丘の多くは、「(1) 地殻変動による長期的な土地の隆起」という大きなトレンドの上で、「(2) 気候変動(氷期・間氷期サイクル)に伴う海面変動と土砂量変動」という数万年スケールの波が重なることで、侵食と堆積のフェーズがリズミカルに切り替わり、あの見事な「階段」が刻まれてきたと考えられています。

河岸段丘の分類(でき方による違い)

堆積段丘と侵食段丘の違い|河岸段丘の種類と特徴を写真で理解
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河岸段丘は、その「平らな面(段丘面)」がどうやってできたかによって、専門的にはいくつかの種類に分類されることがあります。ここでは代表的な2つのタイプを紹介しますね。ちょっと専門的になりますが、知っておくと地形の見方が変わるかもしれません。

堆積段丘(たいせいだんきゅう)

これは、前の項目(要因3:気候変動)で説明したプロセスと深く関係しています。氷河期などに川が運びきれなかった大量の土砂(特に「礫(れき)」と呼ばれる川原の石ころの層)が谷を厚く埋め、まずそれによって平らな面ができます。その後に、川がその「自分たちが積もらせた土砂の層」自体を削り込んで階段状になったものです。

日本の河岸段丘の多くは、このタイプだと言われています。段丘面を掘ってみると、その下には分厚い「川原の石ころ層」が出てくるのが特徴ですね。

侵食段丘(しんしょくだんきゅう)

こちらは、川の流れが土砂ではなく、その下にある固い岩盤そのものを平らに削り(侵食平坦面)、その平らになった「岩盤の面」が、地殻変動(隆起)などによって持ち上がって段丘になったものです。段丘面を構成しているのが「積もった土砂」なのか、「削られた岩盤」なのか、という「平らな面」の成り立ちそのものの違いですね。

河岸段丘のでき方と防災・土地利用

河岸段丘 土地利用と防災|高台の安全性と地形を活かしたまちづくり
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さて、ここまで河岸段丘のでき方を詳しく見てきました。地形の成り立ちが分かってくると、今度は「それって私たちの生活とどう関係あるの?」という点が気になってきますよね。特に防災士としては、その地形のでき方が、その土地の「安全性」や「住みやすさ」にどう影響しているのか、見逃せないポイントです。似ている地形との違いや、具体的な土地利用について見ていきましょう。

河岸段丘と海岸段丘の違いとは?

河岸段丘 海岸段丘 違い|川と海がつくる階段状地形の比較図解
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河岸段丘とよく似た地形で、名前もそっくりな「海岸段丘(かいがんだんきゅう)」というものがあります。どちらも「階段状」ですが、でき方はちょっと違います。

項目河岸段丘海岸段丘
できる場所川沿い(主に中・上流域)海沿い(海岸線)
平らな面の正体昔の「川底」や「川原」昔の「海底」や「波打ち際」(波の力で平らに削られた面=波食棚)
平らな面を作った主役川の流れ(堆積と侵食)海の波(主に侵食)

一番の違いは、ご覧の通り、平らな面を作った主役が「川」なのか「海(波)」なのか、という点ですね。

海岸段丘の平らな面は、主に波の力で海岸の岩盤が削られてできた平らな海底(波食棚)や、波打ち際に土砂がたまった海岸平野が原型です。

ただし、共通点もあります。どちらも、「地殻変動(土地の隆起)」や「海面の高さの変化」が原因で、かつての平らな面(川底や海底)が陸上に取り残されて「階段状」になった、という点では、でき方の根本的なメカニズムは非常によく似ていると言えますね。

河岸段丘と扇状地の違いも解説

河岸段丘 扇状地 違い|山から平野へ続く地形のつながりをわかりやすく説明
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もう一つ、地形の話でよく混同しやすいのが「扇状地(せんじょうち)」です。これは河岸段丘と非常に関係が深い地形で、違いを知っておくことが重要です。

扇状地とは?

扇状地は、川が山地から平野部にパッと出るところ(「谷口(たにぐち)」と呼ばれます)で、山の急な流れから解放されて、流れが急に遅くなる(&川幅が広がる)ために、運んできた土砂(特に大きな石や砂)を「扇形(おうぎがた)」に積もらせてできた地形です。でき方の主役は、ひたすら「積もること(堆積)」です。

河岸段丘との決定的な違い

河岸段丘は、「積もる時期(堆積)」と、その後に「削る時期(侵食)」が繰り返されることで階段状になります。一方、扇状地は基本的に「積もる」ことで形成される、という違いがあります。

ポイント:ただし、関係は非常に深い!

「じゃあ全く別の地形なんだね」と思うかもしれませんが、実は、この二つは無関係ではありません。むしろ、「かつての扇状地」が、後の時代に川によって削られて「河岸段丘」になる、というケースは日本に非常に多いんです。

これは「でき方」を理解する上で重要なプロセスです。

  1. まず、気候変動(氷河期など)の影響で大量の土砂が供給され、谷口に巨大な「扇状地」が形成されます。
  2. その後、地殻変動(土地の隆起)や気候の変化で、川が「削る(侵食)」モードに切り替わります。
  3. すると川は、自らが作った(あるいは祖先が作った)扇状地を「侵食」し、削り込み始めます。
  4. 結果として、元の扇状地の平らな面は削り残されて高い位置の「段丘面」となり、全体として階段状の「河岸段丘」へと姿を変えるわけです。

北海道の十勝平野の広大な段丘などは、この「扇状地が段丘化した」典型的な例と言われていますね。

日本の河岸段丘(沼田市・津南町)

日本の代表的な河岸段丘|群馬県沼田市と新潟県津南町の美しい段丘地形イメージ
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日本は地殻変動が活発で、気候変動の影響もはっきりしているため、全国各地で見事な河岸段丘を見ることができます。教科書にも載っているような、特に有名な2つの例を紹介しますね。

群馬県・沼田市(利根川・片品川)

ここは「日本で最も美しい河岸段丘」とも言われる場所で、私も一度は自分の目で見てみたいと思っています。利根川と片品川の合流点に、何段もの見事な段丘が発達しています。

最大の特徴は、沼田市の中心市街地(お城があった場所)が、川から最も高い位置にある、最も古い「段丘面」の上にあることです。

普通、川から遠く離れた高い場所は「水が得にくい」という決定的なデメリットがあるため、昔は町が作られにくいのが一般的でした。それでも沼田がその高い段丘面上に作られたのは、段丘崖(だんきゅうがい)という天然の「崖」を、お城の「堀」や「防御壁」として利用した、という軍事的な理由が大きかったと言われています。地形の「でき方」が、その土地の歴史、つまり人間の土地利用に直結している、非常に面白い例ですね。

新潟県・津南町(信濃川)

信濃川の中流域に広がる津南町の河岸段丘も、日本有数の規模と典型的な形で知られています。展望台から見ると、古い段丘(高位段丘)から新しい段丘(低位段丘)まで、何段もの「階段」が連なっている様子が本当によく分かるそうです。

ここの段丘は、約40数万年前からという非常に長い時間をかけた「土地の隆起」と、その上で何度も繰り返された「氷河期・間氷期のサイクル(気候変動)」によって刻まれた、まさに「大地の履歴書」そのもの。段丘の堆積物が「ほとんど川原の礫と考えられる礫層」であることからも、気候変動(要因3)によって大量の土砂が運ばれた「堆積段丘」であることが分かります。

(ちなみに、私が住む福島県の阿武隈川沿い、特に郡山盆地などにも河岸段丘は分布しています。この地域の段丘は、長期的な隆起だけでなく、地震に伴う複雑な地殻変動の影響も受けている可能性が指摘されています。)

住むメリットとデメリット(洪水は?)

河岸段丘 住む メリット デメリット|洪水に強い高台の特徴と注意点
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さて、いよいよ本題です。河岸段丘の「でき方」を知ると、その土地が持つ「メリット」と「デメリット(注意点)」が、防災の観点からハッキリと見えてきます。

これは、私たちがどこに住むかを考える上で、とても大切な視点かなと思います。

メリット(主に段丘面=高い平らな場所)

河岸段丘の「平らな面(段丘面)」は、居住地として多くの利点を持っています。

  • 洪水リスクが低い(最大のメリット) なんといってもこれですね。段丘面は、でき方を見ても分かる通り、現在の川が流れている平野(谷底平野・氾濫原)よりも一段以上高い場所にあります。そのため、大雨などで川の水位が上がって氾濫(洪水)しても、その水が段丘面の上まで上がってくる可能性は極めて低いんです。これは防災上、非常に大きなアドバンテージです。
  • 地盤が比較的良好 段丘面は、何万年も前に土砂が積もって(あるいは岩盤が削られて)できた古い土地です。そのため、地盤がよく締まっていて、一般的に「固い」ことが多いとされています。現在の川のすぐそばにある軟弱な「氾濫原」と比べると、地震の際に揺れにくい、あるいは液状化しにくい傾向があるのは、安心材料の一つですね。
  • 水はけが良い 川よりも高い位置にあり、古い(水を通しやすい)砂礫層でできていることが多いため、水はけが良い傾向もあります。

これらの理由から、段丘面は古くから市街地(例:沼田市)や工業団地、農業地として利用されてきました。

デメリットと注意点(防災の観点から)

一方で、メリットばかりではありません。「でき方」に由来するデメリットや、注意すべき点もあります。

  • 水利が不便(昔からの課題) これはメリットの裏返しですが、川面からの標高差が大きいため、生活用水や農業用水を川から直接引いてくるのが困難です。昔の人は、この「(洪水の)安全性」と「(水の)利便性」のトレードオフの中で、井戸を深く掘ったり、遠くから用水路を引いたりして生活してきました。(福島県の「安積疎水」なども、まさに水利の悪い段丘面に水を引くための先人たちの知恵と技術の結晶ですね)
  • 「段丘崖」の近くは注意(崖崩れ) これが防災上、最も注意すべき点です。 段丘面(平らな場所)自体は洪水や液状化に強くても、そのフチにある「崖(段丘崖)」のすぐ下や、崖のすぐ上は、別のリスクを抱えています。段丘崖は、もともと川が削ってできた崖です。大雨や大きな地震によって、その崖が崩れる(がけ崩れ・土砂災害)リスクがないとは言えません。

土地選びの注意点(ハザードマップの確認を!)

もし河岸段丘のある地域に住むことを検討する場合は、地形図やハザードマップを必ず確認してください。

自分が検討している場所が、

  • 安全な「段丘面の中心部」なのか?
  • 土砂災害のリスクがある「段丘崖のそば」なのか?
  • それとも洪水リスクの高い「谷底平野(川に近い低い場所)」なのか?

これらを、自治体が公開しているハザードマップで必ず確認することが大切です。(出典:国土交通省ハザードマップポータルサイト

「段丘面の上だから絶対安全」と思い込まず、地盤の種類や崖からの距離など、個別の状況をしっかり調べることが防災の第一歩ですね。

まとめ:河岸段丘のでき方と防災

河岸段丘 まとめ 防災知識|地形の成り立ちから学ぶ安全な土地選び
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今回は、ちょっと地理的なお話になりましたが、「河岸段丘のでき方」について、防災士の視点も交えて解説してみました。なんだか大地の壮大なドラマを感じますよね。

最後に、防災の観点からポイントをまとめると、

  • 河岸段丘は、川の「土砂を積もらせる力」と「地面を削る力」が、地殻変動や気候変動(氷期・間氷期サイクル)をきっかけに何度も繰り返されたことでできた「階段状」の地形である。
  • その「でき方」の結果として、高い位置にある段丘面(平らな場所)ほど古く、地盤が比較的安定していて洪水リスクが低いという大きなメリットがある。
  • 一方で、階段の側面である「崖(段丘崖)」の近くでは、土砂災害(がけ崩れ)のリスクも考慮する必要がある。

河岸段丘のでき方を知るということは、単なる雑学ではなく、その土地が持つ「安全性」や「弱点」の“成り立ち”を理解することにも直結します。

皆さんも、ご自分の住んでいる場所や、これから住むかもしれない場所が、どのような地形で、どのような歴史を持っているのか、一度ハザードマップなどで確認してみてはいかがでしょうか。それが、いざという時に自分や家族を守る「防災」の、とても大切な第一歩になるかなと思います。

免責事項

本記事で紹介した内容は、一般的な地形の特性や防災上の傾向について解説したものです。実際の土地の安全性(地盤の強さ、洪水・土砂災害のリスク、地震による揺れやすさ)は、場所によって大きく異なります。

土地の購入や家を建てる際、あるいは避難計画を立てる際など、具体的な判断が必要な場合は、必ず自治体が発行する最新のハザードマップや地盤図、地域の防災計画などを詳細に確認し、必要に応じて宅地建物取引士や建築士などの専門家にご相談ください。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

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