保存食が腐らない理由?酸化と密封の科学

保存食が腐らない理由?酸化と密封の科学
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
防災備蓄といえば、缶詰やレトルト食品、乾パンなどの「保存食」が欠かせませんよね。でも、ふと「なぜこれらの食品は長期間腐らないんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
スーパーで見る真空パックのお肉や、レトルトカレーの原理も気になります。特に「酸化」や「密封」という言葉が鍵になりそうですが、その科学的な中身は意外と知らないものです。食品が「なぜ腐る」のかを知ると、その逆の技術が見えてきます。
この記事では、防災士の視点も交えつつ、保存食が腐らないための「酸化」と「密封」の科学について、中学生にも分かるように簡単に解説していきます。缶詰の仕組みから、加熱で倒すボツリヌス菌の話まで、備蓄食品の裏側にある「守りの科学」を一緒に学んでいきましょう。
- 食品が「腐る」とはどういうことか
- 「密封」と「酸化」を防ぐ技術の基本
- 缶詰とレトルト食品が腐らない科学的な仕組み
- 乾物や酢漬けが長持ちする理由
保存食はなぜ腐らない?酸化と密封の科学を学ぼう(前編)

まずは基本の前編です。保存食のすごさを知るためには、まず「食品はなぜ腐ってしまうのか?」という、いわば「敵」を知る必要があります。そのうえで、「密封」や「酸化防止」といった第一の防衛線がどう機能しているのかを見ていきましょう。
まずは敵を知ろう!食品が「なぜ腐る」?

私たちが普段「腐る」とか「傷む」と言っている現象は、実は単純なものではありません。食品が食べられなくなる主な原因は、大きく分けて3つの「犯人」がいるんです。この3つの犯人の活動をいかに止めるかが、保存食の科学のすべて、と言ってもいいかもしれませんね。
犯人1:微生物(細菌・カビ・酵母)
これが「腐敗」の主犯です。空気中や水、土の中、そして私たちの手にも、目に見えない無数の微生物がいます。彼らにとって、食品は格好の「エサ(栄養源)」なんです。
食品に付着した細菌やカビが、食品のタンパク質や脂質を分解しながら増殖し、その過程でアンモニアや硫化水素といった嫌なニオイのガスを出したり、ネバネバした物質を作ったりします。これが「腐った」状態ですね。中には、食中毒を引き起こす危険な毒素を作るやつもいます。
豆知識:腐敗と発酵は紙一重?
実は、微生物が食品を分解するという点では、「腐敗」も「発酵」も同じ現象なんです。納豆菌が豆を分解すれば「納豆(発酵)」になり、人間に有益でおいしくなります。でも、そこに雑菌が勝ってしまうと「腐敗」になります。違いは、人間にとって有益か、有害か、という点なんですね。
犯人2:酵素(こうそ)
意外かもしれませんが、食品は「自分自身」の力でも傷んでいきます。犯人は、食品の細胞の中に元々含まれている「酵素」です。
酵素は、生物が生きるための化学反応を手伝う(触媒する)タンパク質。例えば、果物がだんだん熟して甘くなるのも、酵素の働きです。でも、収穫されたり、魚が水揚げされた後も、この酵素は活動を続けます。
その結果、熟しすぎ(過熟)てブヨブヨになったり、魚の鮮度が落ちたりします。これを「自己消化」と呼びます。微生物とは関係なく、食品が内側から勝手に品質を落としていくんですね。
犯人3:酸化(さんか)
そして第三の犯人が、今回のキーワードの一つでもある「酸化」です。これは食品の成分が、空気中の「酸素」と化学反応(結合)することですね。金属がサビるのと同じ原理です。
特に食品に含まれる脂質(油)やビタミン類は、酸素と非常に反応しやすい性質を持っています。酸化は一度始まると連鎖的に広がりやすく、食品の品質をどんどん低下させてしまいます。
保存食の技術とは、これら3つの犯人(微生物・酵素・酸化)が活動できないように、科学の力で徹底的に対策することなんです。
敵その1「酸化」とは?簡単に解説

「酸化」について、もう少し詳しく見てみましょう。酸化は、微生物による腐敗と違って、すぐに食中毒になることは少ないですが、食品の「おいしさ」や「価値」を著しく奪っていきます。
酸化が風味を損なう仕組み(油焼け)
食品、特に揚げ物やナッツ類に含まれる脂質(油)は、酸素に触れると化学変化を起こします。これが「油焼け」や「酸化した油の臭い」の正体です。
ポテトチップスの袋を開けたまま放置すると、あの独特の嫌な臭いと味になりますよね。あれこそが酸化です。せっかくの風味が台無しになってしまいます。
酸化が色を変える仕組み(酵素的褐変)
リンゴやジャガイモの皮をむいて放置すると、切り口がすぐに茶色くなりますよね。あれも実は「酸化」の一種です。
これは、食品自体が持つ「酵素(ポリフェノールオキシダーゼなど)」が、空気中の「酸素」の助けを借りて、食品内のポリフェノール類を酸化させることで起こります。これを「酵素的褐変(かっぺん)」と呼びます。見た目が悪くなってしまいますね。
酸化が栄養を奪う仕組み(ビタミン破壊)
酸化は、栄養価にも大きな影響を与えます。特にビタミンCやビタミンEといった、抗酸化作用を持つ(=自らが酸化されやすい)栄養素は、酸素に触れると非常に壊れやすいんです。
新鮮な野菜ジュースも、時間が経つにつれてビタミンCが失われていくのは、酸化が原因の一つです。また、酸化は酸素だけでなく、「光」や「熱」、「金属(鉄や銅)」によっても、そのスピードが速まってしまいます。
酸化を防ぐ3つのポイント
つまり、食品の品質を守るためには、この「酸化」をいかに防ぐかが重要です。
- 酸素から守る(例:密封する、空気を抜く)
- 光から守る(例:アルミの袋に入れる、暗所に置く)
- 熱から守る(例:涼しい場所に置く)
これらの対策が、保存食のパッケージに活かされているんですね。
防衛線その1:缶詰の仕組みと「密封」

そこで登場するのが、保存食の基本技術「密封」です。
缶詰は、まさに「密封」と「酸化防止」の代表例です。あの金属の缶は、単なる入れ物ではありません。食品科学の知恵が詰まっています。
脱気(だっき):まず酸素を追い出す
食品を缶に詰めた後、フタをする直前に、容器内部の空気をできるだけ追い出す「脱気(だっき)」という工程が入ります。これは、真空に近い状態にしたり、高温の水蒸気を吹きかけてその蒸気で空気を追い出したりします。
なぜこんなことをするか?もうお分かりですね。酸化の主原因である「酸素」を取り除くためです。これで、フタをした後に内部で酸化が進むのを防ぎ、ビタミンなどの栄養素も守ることができます。
二重巻締(にじゅうまきじめ):鉄壁のバリア
そして、缶詰の密封技術の核心が、フタと胴体のつなぎ目です。あれは「二重巻締(にじゅうまきじめ)」という、非常に強固な方法で閉じられています。
缶の胴体部分のフチと、フタのフチを、機械でお互いに折り曲げながら巻き込み、さらに強く圧力をかけて潰す(圧着する)んです。この時、フタのフチの内側にはゴム状のシーリング剤が塗られており、金属同士のわずかな隙間も完璧に埋めてくれます。
缶詰の密封(二重巻締)のすごさ
- 酸素の遮断:外部からの酸素の侵入を許さず、内部の酸化を防ぎます。
- 微生物の遮断:空気中の細菌やカビが侵入する隙間が一切ありません。
- 光の遮断:金属の缶は光を一切通さず、光による品質劣化も防ぎます。
この「二重巻締」という物理的な鉄壁のバリアこそが、缶詰の長期保存を支える第一の防衛線なんですね。
真空パックが鮮度を保つ理由

スーパーでよく見る「真空パック」のお肉やチーズ、お惣菜なども、この「密封」と「酸化防止」の応用技術です。
真空パックは、袋の中の空気を機械で強力に吸い出し(脱気)、酸素がほとんどない状態にしてから、袋の口を熱で溶かしてピタッと閉じます(これを「ヒートシール」と言います)。
酸素がなくなることで、
- 脂質の「酸化」が抑えられる
- 酸素を必要とする「好気性菌」の増殖が抑えられる
という2つの大きな効果が得られます。だから、普通にラップして保存するよりも、ずっと鮮度や色合いが長持ちするわけです。
真空パックの限界と「要冷蔵」の理由
ただし、ここで絶対に勘違いしてはいけない点があります。それは、真空パックは「殺菌」をしているわけではない、ということです。
あくまで「空気を抜いただけ」なので、食品に元々付いていた微生物は生きています。酸素が好きな菌は活動できませんが、酸素がなくても平気な「嫌気性菌」や「通性嫌気性菌」(乳酸菌など)は、むしろライバルがいなくなって元気に増殖することさえあります。
また、食品が元々持っている「酵素」の働きも、真空にしただけでは止まりません。自己消化はゆっくりと進んでいきます。
「真空パック=常温保存OK」ではありません!
真空パックの食品に「要冷蔵」や「要冷凍」と書かれているのは、これらの「嫌気性菌」の増殖や「酵素」の働きを、低温で抑える必要があるからです。
「真空だから大丈夫」と勘違いして常温で放置すると、中で菌が増殖してしまい、食中毒の原因となる可能性があり非常に危険です。防災備蓄として考える場合も、この点は厳重に注意が必要ですね。
防衛線その2:レトルトの原理と「加熱」

さて、「密封(二重巻締)」や「脱気(真空パック)」で、外部からの敵(酸素・微生物)の侵入と、酸化の心配はかなり防げました。一件落着……とはいきません。
まだ、食品の中や、詰める作業中に入り込んだ「内部の敵(微生物)」が生き残っています。
もし、缶詰やレトルト食品を、密封しただけで常温に置いておいたらどうなるでしょう?
内部に残った微生物(特に酸素が嫌いな嫌気性菌)が、栄養豊富でライバルもいない「天国」のような環境で増殖を始めます。その結果、ガスを発生させて缶や袋がパンパンに膨れ上がり(膨張缶・膨張袋)、内側から強烈に腐敗してしまいます。
だから、「密封」の後には、必ず「加熱」による「殺菌」という第二の防衛線が不可欠なんです。
しかし、ただの煮沸(100℃)では倒せない、食品保存の世界における「最強の敵」が存在します。この「加熱」こそが、保存食の科学の核心とも言える部分ですね。

保存食はなぜ腐らない?酸化と密封の科学を学ぼう(後編)

後編では、いよいよ保存食の科学の核心、「加熱殺菌」の秘密に迫ります。なぜただのお湯(100℃)ではなく、もっと高温で処理する必要があるのか。そこには「最強の敵」の存在がありました。また、加熱しない保存食の知恵もご紹介します。
加熱で倒す最強の敵「ボツリヌス菌」

「殺菌なら、100℃のお湯でグラグラ煮ればいいんじゃない?」と、私も昔は思っていました。実際に、ほとんどの細菌やカビは100℃の煮沸で数分もあれば死滅します。しかし、食品保存の世界には、とんでもなくタフな「最強の敵」がいるんです。
その名は「ボツリヌス菌」。
この菌がなぜ「最強」で、食品業界で最も恐れられているのか。それには3つの理由があります。
特徴1:酸素が嫌い(嫌気性)
ボツリヌス菌は「嫌気性菌」です。つまり、酸素があると増殖できず、逆に酸素のない状態(=密封された缶やレトルトパウチの中、真空パックの中)が大好きなんです。私たちが酸化を防ぐために行った「脱気」や「密封」が、皮肉なことに、彼らにとって理想的な住環境を提供してしまう可能性があるんですね。
特徴2:最強の“よろい”(芽胞)
これが最も厄介な性質です。ボツリヌス菌は、自分にとって都合の悪い環境(高温や乾燥など)になると、「芽胞(がほう)」という形態に変身します。これは、菌が自身の周囲に「超カタい“よろい”」をまとったような耐久性の高いカプセル状態です。
この「芽胞」という“よろい”が本当に厄介で、100℃の煮沸程度では、なんと数時間にわたって耐えるほどの耐久性を持っています。並大抵の加熱では死なないんです。
特徴3:命に関わる毒素
もし、この芽胞が生き残ったまま、食品が常温に置かれるとどうなるか。酸素のない環境で「安全になった」と判断した芽胞は、再び活動的な菌の姿に戻り、増殖を始めます。そして、増殖の過程で、人類が知る中でも最強クラスの「ボツリヌス毒素」(神経毒)を産生するんです。
ボツリヌス症の危険性(防災士として警告)
このボツリヌス毒素による食中毒(ボツリヌス症)は、重篤な場合、呼吸困難などを引き起こし、命に関わることがあります。特に、土壌中にはボツリヌス菌の芽胞が広く存在するため、土付きの野菜を使った自家製の瓶詰や「いずし」などで、加熱殺菌が不十分な場合に食中毒が発生するケースが報告されています。
もし、購入した缶詰が膨らんでいたり、レトルトパウチが不自然に膨張している場合は、内部で菌が増殖している可能性が非常に高いです。もったいないと思っても、中身の確認などもせず、絶対に食べずにそのまま廃棄してください。
不安な場合は、すぐに消費をやめ、地域の保健所や医療機関にご相談ください。
100℃の壁を超える「加圧加熱殺菌」
この「100℃では死なない芽胞」という難問を解決するため、科学者たちは「中心部の温度を120℃で4分間(またはそれと同等の)加熱」すれば、ボツリヌス菌の芽胞を確実に破壊(殺菌)できることを突き止めました(この殺菌基準をF値で管理します)。
でも、地上(1気圧)では、水は100℃で沸騰して水蒸気になってしまい、それ以上温度は上がりません。どうやって120℃を実現するのか?
答えは「圧力をかける」ことです。家庭用の圧力鍋とまったく同じ原理ですね。
水面には常に「大気圧(空気の重さ)」というフタが乗っかっています。100℃になると、水は「このフタを押し返す力」を得て沸騰(蒸発)します。ならば、もっと強い力でフタ(=圧力)を上から押さえつけてやれば、水は100℃になっても沸騰できず、さらにエネルギーを溜め込み、ついに120℃という高温に達するのです。
この原理を使った「レトルト釜」という巨大な圧力釜に、密封した缶詰やレトルトパウチを入れ、高温高圧で殺菌する。これが「加圧加熱殺菌」です。
レトルトパウチの工学的課題(パンク防止)
ただ、レトルトパウチ(袋)の場合、金属の缶と違って、120℃で加熱すると内部の水蒸気や空気の膨張でパンパンに膨らみ、破裂(パンク)してしまいます。
そこでレトルト釜は、「攻撃(120℃の高温化)」のために圧力をかけると同時に、袋が破裂しないよう、釜の内部、つまり袋の「外側」からも、ギューッと強い圧力(内側の膨張圧と釣り合う圧力)をかけます。これにより、袋はパンクすることなく、安全に殺菌を終えることができるのです。これは非常に高度な工学技術なんですよ。
加熱しない守り方:乾物の科学

ここまで「密封+加熱」という、いわば「敵を倒す(殺菌)」アプローチを見てきました。しかし、世の中にはスルメや干しシイタケ、高野豆腐のような「乾物」もあります。これらは密封も加熱もされていませんが、腐りませんよね。
これは、「殺菌」とは違うアプローチ、「静菌(菌が活動できないようにする)」という考え方です。敵はいるかもしれないけど、活動させなければいいじゃないか、というわけです。
乾物の秘密は「水分活性(Aw)」という指標にあります。
自由水と結合水の違い
食品の中の水分には、2種類あります。
- 結合水:タンパク質やデンプンとガッチリ結びついている水。微生物は利用できません。
- 自由水:食品内を自由に動き回り、微生物が生命活動のために利用できる水。
「水分活性(Aw)」とは、この「微生物が利用できる自由水が、どれくらいの割合で存在するか」を示す指標(0〜1.0)です。水が100%自由水の状態が1.0ですね。
水分活性(Aw)を下げる=兵糧攻め
食品を乾燥させる(干物にする)と、この「自由水」が奪われて水分活性(Aw)がグッと下がります。微生物は、栄養があっても自由水が一定以下になると、活動(増殖)できなくなってしまうんです。
これは、菌を「兵糧攻め(水不足)」にしておとなしくさせる作戦ですね。
ちなみに、塩漬け(塩)や砂糖漬け(砂糖)が腐りにくいのも、塩や砂糖が「浸透圧」という力で食品の水分を吸い出すと同時に、残った自由水ともガッチリと結びついて奪い去り、結果として水分活性を下げているからです。
| 水分活性(Aw) | 増殖できる主な微生物 | 代表的な食品 |
|---|---|---|
| 0.98以上 | ほとんどの細菌、酵母、カビ | 生肉、生魚、野菜、果物 |
| 0.93~0.98 | 一部の細菌、多くの酵母、カビ | パン、ハム、チーズ |
| 0.85~0.93 | 多くの酵母、カビ(食中毒菌はほぼ増殖不可) | ジャム(低糖度)、サラミ |
| 0.80~0.85 | 耐乾燥性のカビ、耐浸透圧性の酵母 | ジャム(高糖度)、はちみつ |
| 0.75以下 | ごく一部の耐乾燥性カビ | 乾物、海苔、ビスケット |
※上記はあくまで目安です。温度やpHなど他の要因も影響します。
酸っぱさで守る!酢漬けの科学

ピクルスや梅干し、酢漬けはどうでしょうか。これらも「静菌」のアプローチです。
これは「pH(ペーハー)」を利用した保存法です。pHは、その液体が「酸性」か「アルカリ性」かを示す指標ですね。
微生物とpHの関係
ほとんどの腐敗菌や食中毒菌は、pH7あたりの中性を好み、pHが4.6以下の強い酸性環境では、増殖することができません。
お酢(主成分:酢酸)や梅干し(主成分:クエン酸)は、pHが3程度の強い「酸性」です。この酸が、微生物の細胞膜を壊したり、酵素の働きを止めたりして、微生物にとって非常に住みにくい(というか生きていけない)環境を作り出します。
酸性にして「微生物が住めない環境に変えてしまう」ことで、増殖を抑える。これも古くから伝わる、非常に優れた保存の知恵ですね。
なぜ保存料がいらないの?

ここで、缶詰やレトルト食品について、防災備蓄を選ぶ上でも非常に大事な、根本的な事実をお伝えします。
日本の食品衛生法では、缶詰やレトルト食品(法律上は「容器包装詰加圧加熱殺菌食品」と呼ばれます)には、原則として「保存料」の使用が禁止されています。
「え、長持ちする食品なのに、保存料が入ってないの?」と驚くかもしれませんが、その通りです。(出典:厚生労働省「容器包装詰加あつ加熱殺菌食品」規格基準)
なぜなら、これまで説明してきたプロセスで、もうお分かりですよね。
保存料が不要な科学的根拠
- 「密封」と「脱気」で、腐敗と酸化の原因である「外部の微生物」と「酸素」をシャットアウトし、
- 「加圧加熱殺菌(120℃)」で、最強の敵である「ボツリヌス菌の芽胞」を含む「内部の微生物」を完全に殺菌し、
- ついでに食品の品質を落とす「酵素」も、高温で完全に働きを止めている(失活)。
つまり、腐敗や変質の原因(微生物・酵素・酸素)を、科学的・物理的なプロセスによって、製造段階で「すべて排除」しているため、後から化学的な「保存料」を足す必要がまったくないんです。
缶詰やレトルト食品が長持ちするのは、保存料のおかげでは決してなく、物理学(圧力と沸点)と工学(密封技術)、微生物学(殺菌条件)の知見を結集した「科学技術の結晶」だからなんですね。これは、私たちが防災備蓄を選ぶ上で、大きな安心材料になるかなと思います。

防災食にも役立つ保存の知恵

防災士の視点から見ても、この「常温で長期保存できる科学」は、そのまま防災備蓄(非常食)の根幹を支える技術です。
災害時は、電気が止まり、冷蔵庫が使えなくなる可能性が非常に高いです。そんな「日常が壊れた」状況下でも、火を使わず、水がなくても、開封するだけで安全に食べられること。それが缶詰やレトルト食品の最大の強みです。
乾物(アルファ米、乾燥パスタ、乾燥野菜、乾パン)も、軽くてかさばらず、長期保存が可能です。これらは「水分活性」の知恵の結晶ですね。これらを水やお湯で「戻す」ことで、食べられる状態にします。最近は水だけで戻せるものも増えていて、本当にありがたいです。
私たちが「なぜ腐らないか」の仕組みを知っておくことは、備蓄食品を正しく管理する上でとても役立つと思います。
「ローリングストック」にも活かそう
例えば、「真空パックだけど要冷蔵」の食品は、停電したら真っ先に食べきるべき食品であり、災害時用の常温備蓄にはできない、といった判断がつくようになります。
当サイト「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」でも、防災備蓄や、普段の生活で消費しながら備える「ローリングストック」の方法について詳しく解説しています。保存食の科学を知った上で、ぜひご家庭の備蓄も見直してみてくださいね。
総まとめ:保存食はなぜ腐らない?酸化と密封の科学を学ぼう

最後に、今回の内容を総まとめします。
保存食がなぜ腐らないのか? その答えは、それが単一の技術ではなく、腐敗のあらゆる原因を潰すための「多層的な防衛システム」によって守られているからです。
保存食の多層防衛システム(缶詰・レトルト)
- 第1層(物理工学): 「密封(二重巻締、ヒートシール)」と「脱気」が、外部の敵(酸素、微生物)の侵入を「遮断」する。
- 第2層(熱物理学): 「加圧加熱殺菌(120℃)」が、内部の最強の敵(ボツリヌス菌芽胞)を「殲滅(せんめつ)」する。
- 第3層(化学): 「脱気(酸化防止)」と「加熱(酵素失活)」が、食品の化学的劣化(酸化や自己消化)を「抑制」する。
その他の保存法(乾物・酢漬け)
- 環境制御(静菌): 「Awの低下(乾燥・塩蔵)」や「pHの低下(酸性化)」が、微生物が活動できない環境(=活動停止)を作り出す。
私たちが普段、何気なく開けている缶詰やレトルト食品。その一つ一つに、腐敗という自然現象に立ち向かってきた人類の知恵と、高度な科学技術が詰まっていると思うと、ちょっと見え方が変わってくるかもしれません。
この知識が、「保存料が入ってそうで心配…」といった漠然とした不安を解消し、皆さんが安心して防災備蓄に取り組むための一助となれば幸いです。
