フィヨルドのでき方を解説!氷河が削った壮大な地形

中学生がフィヨルドのでき方について学んでいる様子

フィヨルドのでき方を解説!氷河が削った壮大な地形

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

テレビなどでノルウェーの壮大な景色を見ると、「フィヨルド」ってすごい地形だな、と思いますよね。あの息をのむような断崖絶壁は、一体どうやってできたんだろう?「フィヨルドのでき方」をできるだけ簡単に知りたい、とか。

それに、よく日本で聞く「リアス式海岸との違い」って何? なぜあんなに海が深いのか、そもそも日本にフィヨルドはあるの?とか、次々と疑問が湧いてくるかも。

防災士の視点から見ても、こうした地形のでき方(成り立ち)を知ることは、その土地が持つ特徴や潜在的なリスクを理解することに直結します。この記事では、フィヨルドのでき方を、その主役である「氷河」や地形の「U字谷」、そして「海面上昇」といったキーワードを使いながら、中学生にもわかるように、少し詳しく解説しますね。

  • フィヨルドが完成するまでの壮大な3ステップ
  • よく似た「リアス式海岸」との決定的な違い
  • なぜ日本には地質学的なフィヨルドが見られないのか
  • 世界の代表的なフィヨルドとその特徴
目次

防災士と学ぶフィヨルドのでき方

防災士と一緒にフィヨルドのでき方を学ぶ風景。U字谷の海岸を観察する日本人の後ろ姿の写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

まずは、フィヨルドという地形の基本的な定義と、その壮大な「でき方」のプロセスを、順番に見ていきましょう。この地形が作られるには、地球規模の気候変動と、とてつもない物理的な力が必要でした。キーワードは「氷河」「海面上昇」ですね。

フィヨルドとは?簡単に解説

フィヨルドとは何かが分かる、深く入り込んだ湾と断崖絶壁の実写風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「フィヨルド(Fjord)」という言葉は、もともとはノルウェーの言葉で、「内陸部へ深く入り込んだ湾」といった意味があるそうです。日本語だと「峡湾(きょうわん)」または「峡江(きょうこう)」と訳されることもありますね。

地質学的には、もう少し厳密な定義があります。それは、「氷河の浸食(しんしょく)作用によってできた谷に、氷河期が終わった後に海水が入り込んでできた地形」というものです。

つまり、フィヨルドがそこにあるということは、大昔、その場所がとてつもなく巨大な氷河に覆われていたという動かぬ証拠なんです。

フィヨルドの独特な景観は、主に次の3つの特徴によって構成されています。

特徴1:U字谷(ユーじこく)

フィヨルドを横から見た断面は、アルファベットの「U」のように、谷底が丸く、側面が急峻な形をしています。これは、後で説明する「氷河」という巨大な氷の塊が、谷全体を覆い尽くすようにして削り取った結果、生まれる独特の形状です。

特徴2:断崖絶壁(だんがいぜっぺき)

U字谷の側面が氷河によって垂直に近い角度で強烈に削られるため、フィヨルドの両岸はしばしば壮大な「断崖絶壁」となります。ノルウェーのガイランゲル・フィヨルドでは、標高1,500m級の山々がそびえ立ち、水面から見上げる景観は圧巻の一言です。

特徴3:深い水深(ふかいすいしん)

氷河の削る力は陸上だけにとどまりません。そのため、フィヨルドは湾でありながら、しばしば驚異的な水深を持ちます。これも、氷河の強大なパワーを物語る特徴ですね。

でき方の主役は巨大な氷河

氷河がフィヨルドのでき方の主役であることを示す、谷を流れる巨大な氷河の写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

さて、フィヨルドのでき方を語る上で、絶対に欠かせない主役が「氷河」です。

今から数万年前から数百万年前にかけて、地球は「氷河時代(氷期)」と呼ばれる寒い時期を何度も経験しました。ノルウェーやグリーンランドといった高緯度地域や、標高の高い山岳地帯では、冬に降った雪が夏になっても溶けきらず、毎年どんどん積み重なっていきました。

この雪が、やがて自らの重みで押し固められていきます。

  1. 新雪が積もる
  2. 下の雪が圧縮され、氷の粒(粒状雪)になる
  3. さらに圧縮され、氷の塊(氷河氷)になる

こうして誕生したのが「氷河」です。この氷河、ただの分厚い氷の塊じゃありません。重力によって、まるで水飴のように、ゆっくりと低い方へ流れていく「氷の川」としての性質を持っていたんです。

氷河が大地を削った「U字谷」

氷河の浸食でできた丸い谷底と切り立った側面が特徴のU字谷の実写写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

氷河がゆっくりと流れていくとき、その底や側面には、地面から剥ぎ取ったたくさんの岩石や砂利が取り込まれます。これがまるで「強力な紙ヤスリ」のようになって、谷底や谷の側面をものすごい力で削りながら(浸食しながら)進んでいきました。

氷河による浸食には、大きく2つの作用があったとされています。

  • 削り取る作用(プラッキング): 氷河が岩盤の割れ目に入り込み、凍結・融解を繰り返して岩を剥ぎ取る力。
  • 磨き上げる作用(アブレーション): 氷河の底に取り込んだ岩石や砂が、ヤスリのように岩盤を削り磨く力。

ここで一番のポイントは、雨や川が「線」や「点」で地面を削って「V字谷」を作るのとは根本的に違う、ということです。氷河は「面」で谷全体を覆い尽くし、谷底も側面も同時に削り取ります。

谷全体が均等にヤスリで削られるので、谷底は丸く、側面は切り立った独特の形状、いわゆる「U字谷」が彫刻されていったんですね。

U字谷とV字谷の違い(おさらい)

この2つの谷の形は、削った「主役」が違うことで生まれます。

V字谷 (V-shaped valley)U字谷 (U-shaped valley)
削る主役河川(水)氷河(氷)
削り方谷底を「線」で深く削る(下方浸食)谷全体を「面」で削る(側方・下方浸食)
断面の形谷底が狭く尖った「V字型」谷底が丸く広い「U字型」

氷河が去り「海面上昇」で完成

「氷河が溶け、海面上昇で海水がU字谷へ入り込みフィヨルドができる様子
【HIH】ヒカリネット・イメージ

やがて長い氷河時代が終わり、地球の気候が暖かくなってくると(この暖かい時期を「間氷期(かんぴょうき)」と言います)、だいたい1万5千年前くらいから、あれほど巨大だった氷河も溶け始め、内陸部へと後退していきます。

そして、もう一つ、地球規模の非常に重要なことが起こります。大陸の上に乗っていた分厚い氷床(氷河の集合体)が溶けた水が、大量に海に流れ込んだことなどで、全世界的に「海面が上昇」しました。

豆知識:氷河時代の海水準

最も寒かった「最終氷期最盛期」(約2万年前)には、海水が大量に氷河として陸上に固定されていたため、世界の海水準は今より100メートル以上も低かったとされています。日本列島も、当時はまだ大陸と陸続きだった部分があったくらいです。

その結果、どうなったか。

ステップ2で、氷河がヤスリのように深く深く削って作った、あの巨大な「U字谷」に、上昇した海の水が谷の入り口から逆流するようにドバっと流れ込んだわけです。

こうして、陸上で彫刻された雄大なU字谷が海水で満たされ、私たちが今目にする、あの深くて、長くて、切り立った湾、すなわち「フィヨルド」が完成しました。

フィヨルド完成の2大要素(3ステップ)

  1. 【準備】(氷河時代): 氷河が誕生し、流動し始める。
  2. 【彫刻】(氷河時代): 氷河がその重みとヤスリ効果で「U字谷」を深く削る。
  3. 【完成】(氷河時代の終わり): 氷河が後退し、海面上昇でそのU字谷に海水が浸入する。

この2つの異なる地質学的なイベントが、正しい順番で発生することが不可欠だったんですね。

なぜあんなに水深が深いのか

フィヨルドがとても水深が深い理由を示す、急深な断崖と深い海の景色
【HIH】ヒカリネット・イメージ

フィヨルドが、ただの湾と比べて驚くほど深い理由。これも、でき方を考えると簡単です。

それは、ひとえに主役である「氷河の浸食パワーが強すぎたから」ですね。

氷河は、厚さが数百メートル、場所によっては数千メートルにも達しました。そのとてつもない重さ(圧力)と、底に抱え込んだ岩石によるヤスリ効果で、当時の海面がどこにあろうと関係なく、はるか下まで地面をゴリゴリと削り取ることができたんです。

例えば、世界最長・最深級として知られるノルウェーの「ソグネ・フィヨルド」は、その最深部でなんと水深1,308メートルにも達するそうです。東京スカイツリー(634m)が2本あっても足りないくらいの深さですね…。それだけ強大な氷河が、かつてそこを流れていたということの証です。

フィヨルドのでき方と他の地形

フィヨルドと他の地形との違いが分かる、切り立った断崖と湾の写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

フィヨルドのでき方がわかると、他の似た地形で「なぜ違うのか」がクリアになります。特に、私たち日本人にも馴染み深い「リアス式海岸」との違いを見てみましょう。この違い、防災の観点からもとても興味深いんですよ。

リアス式海岸との決定的な違い

リアス式海岸との違いが分かる、入り組んだ海岸線の海と陸の風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

フィヨルドとリアス式海岸(リアス海岸とも言いますね)。どちらも海岸線がギザギザしていて、湾が内陸に入り込んでいる点では似ているかも知れません。

それもそのはずで、どちらも地質学的には「沈水海岸(ちんすいかいがん)」というカテゴリーに分類されます。つまり、もともと陸地だった谷地形が、地盤沈降や海面上昇によって海に沈んでできたという点では、仲間なんです。

では、両者を分ける決定的な違いは何か?

それは、海に沈む前に、その谷を「誰が(何が)彫刻したか」という、谷の「でき方」そのものにあります。

谷を彫った「犯人」の違い

  • フィヨルド: 谷を彫ったのは → 氷河 (Glacier)
  • リアス式海岸: 谷を彫ったのは → 河川 (River)

これが全て、と言ってもいいくらい、本質的で大きな違いです。

谷を削った「犯人」が違う

フィヨルドは氷河、リアス式海岸は川が作った違いを示す谷の実写風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「犯人」が違うと、彫刻される地形(谷の形)がまったく変わってきます。その結果、海に沈んだ後の海岸線の形も大きく異なります。

フィヨルドの場合(犯人:氷河)

犯人は「氷河」でしたね。氷河は巨大な一本の流れとして谷を「面」で削るので、U字谷ができます。その結果、海に沈むと、湾の幅が比較的均一で、奥深くまでズドーンと直線的に入り込む、雄大でスケールの大きな地形になります。

リアス式海岸の場合(犯人:河川)

一方、こちらの犯人は「河川(川)」です。川って、山の上から海に向かって、木の枝のように無数に枝分かれしながら「水系(すいけい)」を作りますよね。そして、川は「線」で谷底を深く削るので、谷はV字谷になります。

この無数に枝分かれしたV字谷の地形が、まるごと海に沈んだのがリアス式海岸です。だから、あれほどギザギザと複雑で、入り組んだ海岸線になるわけです。

比較項目フィヨルド (Fjord)リアS式海岸 (Ria Coast)
谷を削った主役氷河(氷の塊)河川(水の流れ)
元の谷の形状U字谷(谷底が丸く広い)V字谷(谷底が狭く尖る)
海岸線の特徴幅が比較的均一。直線的に内陸深くまで湾が入り込む。樹枝状(木の枝)に枝分かれし、非常に複雑な海岸線を持つ。
水深非常に深い(1,000mを超えることも)比較的浅い(元の川の谷の深さによる)
主な分布高緯度地域(ノルウェー、NZ、アラスカなど)中緯度地域(日本、スペインなど)

防災士メモ:リアス式海岸と津波

このリアス式海岸の「V字谷」が海に沈んだ地形は、防災上、特に津波に対して注意が必要です。

湾の入り口は広いのに、奥に行くほど急に狭く、水深も浅くなるV字の地形は、湾の外から押し寄せてきた津波のエネルギーを湾の奥に集中させ、波を急激に高くしてしまう「地形的効果(収束効果)」を受けやすいとされています。(出典:気象庁『津波のしくみと特徴』

2011年の東日本大震災でも、三陸海岸のリアス式海岸沿いの町々で、津波が非常に高くなったことが知られています。地形の成り立ちが、そのまま防災上のリスクにも直結している典型的な例かなと思います。

津波からの避難については、こちらの記事も参考にしてみてください。


日本にフィヨルドはあるの?

日本では本来のフィヨルドが見られないことを説明する穏やかな湾の写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

この質問、本当によく聞かれますが、結論から言うと「地質学的な定義(氷河が削ったU字谷が沈水したもの)にあてはまるフィヨルドは、日本には存在しない」とされています。

なぜなら、フィヨルドのでき方に不可欠な「沿岸部の谷をU字型に削り取るほどの巨大な大陸氷河や山岳氷河」が、氷河時代の日本列島(特に本州など)の大部分には存在しなかったからですね。

(※ちなみに、北アルプスや日高山脈などの高い山には、小規模な「山岳氷河」はあったとされています。その証拠として、お椀型に削られた「カール(圏谷)」と呼ばれる氷河地形は今も残っています。ただ、それらが海に達してフィヨルドを作るほど大規模ではなかった、ということです)

富山湾はフィヨルドではない理由

富山湾がフィヨルドに似ているが違う理由を示す、急峻な山と海の風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「じゃあ、富山湾はどうなの? テレビでフィヨルドみたいって聞いたことあるよ?」と思うかも知れません。

確かに富山湾は、北アルプスの3,000m級の立山連峰から、一気に水深1,000mを超える海底まで落ち込む、世界でも有数の急峻な地形を持っています。この「山が海に迫る」景観が、フィヨルドに似ているため「フィヨルド状」と呼ばれることもあります。

でも、あの深い谷(「海底谷」と呼ばれます)は、氷河が削った「U字谷」ではありません。

あれは、「大昔、今より海面がずっと低かった時代(氷河時代)に、川が削ったV字谷の跡」だと考えられています。それが、氷河時代の終わりと共に海面が上昇して、海に沈んだものです。

…あれ? この「でき方」、どこかで聞きましたよね。

そうです。富山湾の海底谷のでき方は、本質的にはリアス式海岸と同じカテゴリーなんですね。だから、景観は似ていても、地質学的にはフィヨルドとは明確に区別されます。

ノルウェーの地形が有名なワケ

ノルウェーでフィヨルドが有名な理由を示す、断崖と滝の景観写真
【HIH】ヒカリネット・イメージ

やっぱり「フィヨルドといえばノルウェー」というイメージが強いですよね。ノルウェーはまさに「フィヨルドの王国」です。

それもそのはずで、ノルウェーには世界的に有名なフィヨルドが集中しています。

  • ソグネ・フィヨルド (Sognefjord): ヨーロッパ本土で最長(全長約204km)、最深(最深部1,308m)を誇る「フィヨルドの王様」。そのスケール感は圧巻です。
  • ガイランゲル・フィヨルド (Geirangerfjord): ソグネ・フィヨルドの支流であるネーロイフィヨルドと共に、ユネスコ世界自然遺産に登録されています。「フィヨルドの真珠」とも称され、急峻な崖、流れ落ちる滝が織りなす景観は、まさにU字谷の典型的な美しさを示しています。

観光地としても非常に人気で、クルーズ船で水面から断崖絶壁を見上げたり、フロム鉄道のような山岳鉄道や展望台から、壮大なU字谷の全景を見下したりと、様々な角度からその地形を体験できるのが魅力ですね。

まとめ:フィヨルドのでき方を理解

フィヨルドのでき方を振り返りながら眺める家族の学びの風景
【HIH】ヒカリネット・イメージ

今回は、「フィヨルドのでき方」について、その壮大なプロセスを防災士の視点も交えつつ、少し詳しく解説してみました。

ポイントを最後にもう一度まとめると、フィヨルドとは、

  1. 氷河時代に雪が積もって「氷河」が誕生し、
  2. その氷河が「氷の川」として流れて大地を「U字谷」に深く削り、
  3. 氷河時代が終わって氷河が溶け、「海面上昇」によってそのU字谷に海水が浸入して完成した地形

ということでしたね。

そして、リアス式海岸との決定的な違いは「谷を削ったのが氷河(氷)か、川(水)か」の違いであること、そしてその違いが津波のリスクなど防災にも関わってくる、という点も重要です。

地形の成り立ちを知ることは、その土地が持つ魅力や、時には私たちが備えるべき災害リスクを理解する第一歩になるかなと、改めて思います。

地形の理解と合わせて、日頃の防災備蓄の確認もぜひ行ってみてくださいね。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

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