断水時のトイレどうする?防災士が教える対処法

断水時のトイレ問題に対して考えているファミリー

断水時のトイレどうする?防災士が教える対処法

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

地震や水道工事などで急に断水になった時、「トイレはどうしよう?」と真っ先に心配になりますよね。特にマンションにお住まいの方は、停電が重なるとどうなるのか、逆流しないかなど不安も大きいかもしれません。

私自身、福島で被災した経験からも、トイレ問題は生活の質(QOL)に直結する、本当に切実な問題だと痛感しています。

「断水中にトイレを流してしまったけど大丈夫かな?」「お風呂の残り湯は使っていいの?」など、いざという時の流し方に関する疑問は尽きないものです。

この記事では、断水時のトイレの基本的な対処法から、万が一の簡易トイレの使い方と臭い対策、そして重要な復旧後の注意点まで、防災士の視点でわかりやすく、少し踏み込んで解説していきますね。

  • 断水時にトイレを流してはいけない絶対条件
  • 安全が確認できた場合のバケツでの流し方
  • 簡易トイレの備え方と臭い対策
  • 水道復旧後に必ずやるべき「捨て水」の手順
目次

断水でトイレは危険?地震の時

地震による断水時にトイレ使用を心配している家庭の様子"
【HIH】ヒカリネット・イメージ

地震や豪雨などの「災害」が原因で断水した場合、トイレの使用には最大の警戒が必要です。「水がない」ことよりも「排水できない」リスクのほうが、実は深刻な二次災害(汚水の逆流や衛生環境の悪化)につながる可能性があるんですね。

まずは「なぜ危険なのか」その理由をしっかり理解していきましょう。

地震でトイレを流してしまったら?

地震後にトイレを流してしまい不安そうに様子を確認する人の手元
【HIH】ヒカリネット・イメージ

もし地震の後に断水していると気づかずトイレを流してしまった場合、一番心配なのは「排水管(下水管)」の損傷です。

私たちの目には見えませんが、地面の中では給水管(水を運ぶ)と排水管(汚水を運ぶ)が一緒に走っています。地震の強い揺れや地盤の液状化によって、もし地中の排水管が壊れていたり、ズレていたり、土砂で詰まったりしていたらどうなるでしょうか。

その状態で水を流してしまうと、行き場を失った汚水が破損箇所から漏れ出し、地盤を汚染したり、最悪の場合、家の中に逆流してきたりする恐れがあります。

もし流してしまったらどうする?

万が一、地震の後に一度流してしまった場合は、それ以上は絶対に使用しないでください。

一度流れたように見えても、それは「たまたま流れただけ」かもしれません。排水管の途中で止まってしまい、次の汚水で詰まる(あふれる)可能性があります。

すぐに使用を中止し、この後説明する「安全確認」を行うか、安全が確認できるまでは「簡易トイレ」に切り替える判断をしてください。

災害時の大原則

災害が原因の断水では、「排水経路(下水管)の安全が確認できるまで、絶対にトイレを流さない」ことを徹底してください。

戸建ての場合は自宅の敷地内(汚水桝)で詰まることもありますし、マンションの場合はその被害が全戸に及ぶ可能性があります。まずは「流さない」ことが、自分とご近所さんを守ることに繋がります。

道路のマンホールから汚水があふれたり、自宅の敷地内で詰まって高額な修理費用が発生したり…といったケースも考えられます。本当に注意が必要ですね。

マンション特有の逆流リスク

中高層マンションで排水管の逆流リスクをイメージした配管図と建物のイメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

特にマンション(特に中高層階)にお住まいの方は、戸建てとは違う特有の重大なリスクがあります。

それは、「停電」です。

多くの中高層マンションでは、貯水槽(受水槽)から各家庭に水を送るために電力を使った「給水ポンプ」を利用しています。そのため、停電すると、水道が止まっていなくても自動的に「断水」状態になります。

さらに重要なのが、排水の仕組みです。建物の構造によっては、地下などに一度汚水を集める「排水槽(排水ピット)」があり、そこから「排水ポンプ」を使って公共下水道へ強制的に圧送している場合があります。

もちろん、この排水ポンプも電力で動いています。

停電 = 給水・排水が両方ストップ

この「給水ポンプ」と「排水ポンプ」が両方停止している(=停電を伴う断水)状況が、マンションにおいて最も危険な状態です。

マンションの排水管は縦に連結されており、全戸で共有されていますよね。

下層階での逆流被害

排水ポンプが止まっているのに、安全確認を怠って上層階の誰かが「水があるから」とバケツなどでトイレの水を流してしまうと…。

その汚水は公共下水道まで流れず、停止した排水ポンプの手前(排水槽や排水管の下部)に溜まり続けます。

そして、その容量を超えると、行き場を失った汚水は排水管を逆流し、1階や2階といった下層階のお宅のトイレ、浴室、洗濯機の排水口からあふれ出すという、本当に悲惨な事態を引き起こすんです。

実際に過去の災害でもこのトラブルは多発しています。マンションで停電が併発している場合は、「絶対に流さない」と肝に銘じてください。これは、ご近所さんへの配慮(加害者にならないため)でもあるんです。

管理組合でのルール確認を

タワーマンションなど、高層階になるほどインフラの電力依存度は高くなります。平時(今!)のうちに、ご自身のマンションの排水方式(自然流下か、ポンプ圧送か)や、災害時のトイレ使用ルールが管理規約で定められていないか、ぜひ一度確認してみてください。

流していいかの安全確認

断水時にマンホールや汚水桝を確認してトイレを流してよいか安全確認する様子
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「じゃあ、いつになったら流せるの?」と思いますよね。流しても安全かどうかは、排水管が正常に機能しているか、以下の方法で「情報収集」と「目視」を組み合わせて判断する必要があります。

情報収集による確認(パッシブ確認)

まずは、自治体からの情報を確認するのが最優先です。個人の判断で「大丈夫だろう」と流すのは絶対にNGです。

  • 自治体の広報を確認する
    防災無線、公式ウェブサイト、SNSなどで「トイレの使用を控えてください」という要請が出ていないか確認します。要請が出ている場合、地域の下水処理施設や主要な下水管に広範囲なダメージが発生している可能性が極めて高いです。
  • 管理会社・組合への確認
    (マンションの場合)敷地内の排水ポンプや排水槽の状況について、管理会社や組合からの情報を待ちましょう。

災害時の下水道の使用については、国土交通省からも注意喚起がされています。公的な情報を必ず確認するようにしてくださいね。
(参考: 国土交通省「災害時に備えて(下水道)」

目視による確認(アクティブ確認)

ご自宅の周辺を目で見て確認することも、判断材料の一つになります。

  • 道路にあるマンホールが、浮き上がったり、ズレたり、フタが開いていたりしていないか?
  • 道路の亀裂やマンホールの隙間から、水や汚水があふれ出ていないか?
  • (戸建ての場合)自宅の敷地内にある「汚水桝(おすいます)」のフタを開け、中に土砂が流入したり、汚水が通常より多く溜まっていないか?

汚水桝は、マイナスドライバーやバールのようなもので「てこの原理」を使うと開けやすいですが、無理は禁物です。また、開ける際は下水の臭いやガスに注意してください。

これらの確認で一つでも異常があるか、または安全が確信できない場合は、専門家(自治体や指定業者)による「安全宣言」が出るまで、トイレの使用は絶対に中止し、簡易トイレに切り替えてください。

簡易トイレの使い方と備え

災害用の簡易トイレやポリ袋をテーブルに並べて備える家庭の防災グッズ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「流してはいけない」と判断された場合、すぐに「簡易トイレ(携帯トイレ)」の出番です。生理現象は我慢できません。これが自宅にあるかないかで、災害時の生活の質は天と地ほどの差が出ます。

備蓄の目安は?(最低3日分、推奨1週間分)

よく言われる最低限の備蓄目安は、「(1日の平均トイレ回数:約5回)×(家族の人数)×(最低3日分)」です。

例えば4人家族なら「5回 × 4人 × 3日 = 60回分」が最低ラインですね。「3日分」というのは、一般的に人命救助やインフラ復旧の初期対応にかかる目安です。

ただし、東日本大震災などの大規模災害では、上下水道の復旧に3週間から1ヶ月以上を要した地域も少なくありません。状況が許せば、1~2週間分以上の備蓄があると、より安心かなと思います。

簡易トイレの使い方

市販品(凝固剤タイプ)が最も衛生的で便利ですが、もしない場合でも、自宅にあるもので代用できます。

【代用品での作り方】

  1. 便座を上げ、便器全体を大きめのポリ袋(ゴミ袋など)で1枚目をかぶせます。(便器保護用)
  2. さらにもう1枚、ポリ袋をかぶせます。(こちらが排泄物を受ける袋です)
  3. 便座を下げて、ポリ袋を固定します。
  4. 袋の底に、細かくちぎった新聞紙や、吸水力の高いペットシーツ、赤ちゃん用おむつなどを敷き詰めます。
  5. 用を足したら、排泄物を受けた2枚目の袋だけを取り外し、空気を抜いて口をしっかり縛って密閉します。

【市販品(凝固剤タイプ)の使い方】

市販品は便器に専用の汚物袋をセットし、用を足した後に「凝固剤」を振りかけるだけ。排泄物がすぐに固まり臭いも立ちにくく、処理が非常に楽です。

簡易トイレは、一度使ってみないと分からないことも多いです。防災訓練のつもりで、ご家族で一度、市販の簡易トイレを試してみることをお勧めします。使い方が分かっているだけで、いざという時の安心感が違いますよ。

気になる臭い対策はどうする?

携帯トイレ用防臭袋や猫砂を使って臭い対策をしている清潔な収納イメージ
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簡易トイレで一番の課題は、やはり「臭い」です。特に夏場や、避難生活が長引いた場合は深刻な衛生問題になります。

凝固剤と防臭袋はセットで

市販の携帯トイレを選ぶ際は、排泄物を固める「凝固剤」と、臭いを強力に抑え込む「防臭袋(BOSなど)」がセットになっている製品を選ぶのがベストです。

もし凝固剤が尽きてしまった場合の防災の知恵として、「ペット用トイレ砂(猫砂)」があります。吸水性ポリマーや消臭成分が人間の排泄物にも有効で、被災地でも高く評価されています。ペットを飼っているご家庭は、少し多めにストックしておくのも良い防災になります。

ゴミの一時保管と廃棄ルール

使用済みの汚物袋は、フタ付きバケツや密閉できる大きなゴミ箱などに入れ、一時的に保管します。災害直後はゴミ収集が停止することが多いためです。

保管場所は、ベランダや軒下など、雨風が当たらず動物に荒らされにくい場所を選びましょう。ゴミ収集が再開されたら、各自治体のルールに従って廃棄してください。

断水時のトイレの流し方と備え

断水時にバケツの水でトイレを流す正しい方法を実践している様子
【HIH】ヒカリネット・イメージ

ここからは、「災害が原因ではない断水(例:水道工事)」や、「安全確認が完了し、自治体から使用許可が出た場合」に限定して、手動でトイレを洗浄する方法について解説します。

しつこいようですが、安全が確認できていない場合は、絶対にこの操作を行わないでくださいね。

お風呂の残り湯は使える?

浴槽の残り湯をバケツに汲みトイレ用として再利用しようとする場面
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「お風呂の残り湯を流せばいい」と考える方も多いと思います。これは、条件付きでOKです。そして、絶対に守るべきルールがあります。

タンクには絶対に入れないで!

お風呂の残り湯には、髪の毛や石鹸カス、小さなゴミなどが含まれています。

これをトイレの「タンク」に入れてしまうと、内部部品に詰まり、故障の直接的な原因になります。断水後に「水が止まらない」「水が出ない」といったトラブルにつながります。

残り湯を使う場合は、必ず「便器に直接」流し込む方法で使ってください。

日頃からの「ため置き」の習慣

お風呂の残り湯をすぐに捨てず、翌日の洗濯やトイレ用水として「ためておく」習慣は、とても効果的な防災対策です。浴槽一杯(約180〜200L)があれば、トイレ約20回分近い水を確保できます。

バケツでの正しい流し方

トイレの便器に向けてバケツの水を一気に流し込む瞬間を捉えたイメージ
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タンクではなく、便器に直接水を流し込むのが基本です。この作業は「排出」と「補充」の2段階に分かれています。

手順1:排出作業(一気に流す)

バケツ1杯分(約6〜8L)の水を用意し、便器の排水口めがけて水ハネに注意しながら一気に流し込みます。

勢い(水圧)を使って汚物を押し流すのがポイントです。少量を何度も流すと、途中で詰まりの原因になります。

手順2:補充作業(ゆっくり注ぐ)

汚物が流れ切ったのを確認したら、便器内の水位が通常の高さに戻るよう、3〜4Lの水をゆっくり注ぎます。

これは、排水トラップ部分の封水(ふうすい)を回復させる重要な工程です。封水がないと、下水の臭いや害虫が室内に上がってきてしまいます。

最重要:トイレットペーパーは流さない

バケツ洗浄の水流は通常より弱いため、トイレットペーパーを一緒に流すと途中で引っかかり、詰まりのリスクが非常に高くなります。

断水中に手動で流す場合は、使用済みペーパーは別袋で可燃ごみとして処理することを強くおすすめします。

水道が復旧後にやるべきこと

水道復旧後に屋外の蛇口から濁り水を捨てて配管内を洗浄する様子
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「断水が終わった!すぐにトイレもお湯もOK!」と使い始めるのは、実はとても危険な落とし穴です。

復旧直後の水には、「サビ・ゴミ」と「空気」が多く含まれ、トイレや給湯器などの精密機器を故障させる原因になります。

復旧直後の水に含まれるもの

  1. 濁り水(ゴミ・サビ)
    断水で水圧が変動し、管内のサビや泥などが剥がれ落ちて流れ出ます。
  2. 空気(エア噛み)
    管内に入り込んだ空気が、水の再開とともに押し出されます。

二次被害を防ぐ!「捨て水(洗管)」の正しい手順

  1. 断水中または復旧前に、トイレ・給湯器・洗濯機など守りたい機器の「止水栓」を閉めておく。
  2. 復旧後、水道の元栓をゆっくり開ける。
  3. まず屋外の蛇口(散水栓など)を開け、濁り水と空気を外で排出する。
  4. 屋外蛇口がなければ、室内蛇口の先端フィルター(泡沫金具)を外し、「水側」で水を出す。
  5. 数分間、水を流し続ける。(これが「捨て水」「洗管」です)
  6. 「ゴボゴボ音」がなくなり、水の濁りや臭いが消え、透明な水が安定して出るまで続ける。
  7. 水がきれいになってから、止水栓をゆっくり開けてトイレ・給湯器・洗濯機の使用を再開する。

特にエコキュート等のお湯側は、「水側の捨て水完了前」に絶対に動かさないでください。空気混入によるエラーや故障の原因になります。

災害時の水の備蓄や飲料水の確保については、 「防災士解説!水の備蓄、一人当たり必要な量」の記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

水の大切さを学ぶ「水のう」実験

子どもが水のうを持ち上げて水の重さを体感しながら防災を学ぶ場面
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断水対策として知られる「水のう」は、浸水対策だけでなく、防災教育にも活用できます。

「10Lの水がどれだけ重いか」を実際に体感してみると、トイレ1回分の水の重みがよく分かります。10L=約10kgです。

水の重さを体感する防災教育

小学生のお子さんがいるご家庭なら、10kgのお米や2Lペットボトル5本入りの箱を持たせてみてください。

「これを何往復も運ぶの?」という実感を通して、レバーひとつで水が流れる日常がどれほど恵まれているかに気づくきっかけになります。

断水を「不便なだけ」で終わらせず、「水のありがたみ」を家族で共有する機会にできると良いですね。

防災士が教える断水とトイレの備え【まとめ】

防災士が簡易トイレと備蓄水を前に断水時のトイレ対策を解説している様子
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最後に、防災士として特にお伝えしたいポイントを整理します。

【断水時トイレ対応】4つの鉄則

状況鉄則理由
① 災害時(地震・停電)絶対に流さない排水管破損やマンションでの逆流リスクが非常に高いため。
② 安全確認後バケツで正しく流す「一気に流す」「ゆっくり足す」。トイレットペーパーは流さない。
③ 復旧直後必ず「捨て水」をするサビ・ゴミ・空気による機器故障を防ぐため。
④ 平常時「簡易トイレ」を備える最終的な安心につながる最強の備え。

トイレ問題は、命に直結する衛生問題であると同時に、人間の「尊厳」にも関わる大切なテーマです。

いざという時に「どうしよう…」とパニックにならないよう、ご家庭に1〜2週間分の簡易トイレを備蓄し、「断水したら、うちはどうする?」と家族で話し合っておくことを強くおすすめします。

(例えば、「うちの汚水桝の場所、知ってる?」と確認し合うだけでも立派な防災会議ですよ。)

この記事が、皆さんの「いざ」という時の助けになれば幸いです。

※本記事の内容は一般的な目安です。実際の災害時は、お住まいの自治体や上下水道事業者、マンション管理会社からの公式情報・指示を必ず優先し、安全が確認できない場合は使用を控えてください。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

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