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企業の災害備蓄完全ガイド|法的義務・必要量・賢い管理方法を徹底解説

「企業の災害備蓄完全ガイド」の解説用アイキャッチ。備蓄品が並ぶ棚を背景に、コンプライアンス、必要量の算出、デジタル管理とローリングストックの概念図が示されている。
「企業の災害備蓄完全ガイド」の解説用アイキャッチ。備蓄品が並ぶ棚を背景に、コンプライアンス、必要量の算出、デジタル管理とローリングストックの概念図が示されている。

株式会社ヒカリネット HIH 防災士 後藤秀和

いつ起きるか分からない自然災害に対して、「会社としてどこまで準備すればいいのだろう」と頭を抱えていませんか。従業員の命を守る責任と、限られた予算や保管スペースとの板挟みになり、具体的な行動に移せていない担当者の方は非常に多いです。

この記事では、企業の防災担当者が知っておくべき「災害備蓄の法的義務」から「具体的な品目リストと数量の計算方法」、さらには「賢い管理のコツ」までを網羅的に解説します。読み終わる頃には、自社に必要な備蓄が明確になり、自信を持って防災対策を進められるようになります。

目次

企業の災害備蓄は法律で義務付けられているのか?

企業の災害備蓄に関する法的義務の解説画像。東京都帰宅困難者対策条例に基づく努力義務や、防災計画・法的対応の重要性を示すビジネスシーンのアイキャッチ。

企業が災害備蓄を行うべき理由について、まずは法的な観点から整理します。「絶対にやらなければならないのか」「罰則はあるのか」という点は、予算を確保する際の重要な根拠になります。

  • 条例による努力義務と安全配慮義務の関係

企業の災害備蓄に関しては、東京都の「帰宅困難者対策条例」をはじめ、多くの自治体で条例が定められています。これらは主に、大規模災害時に一斉帰宅による混乱を防ぐため、従業員を施設内に留めることを目的としています。この条例では、従業員のために3日分の水や食料を備蓄することが「努力義務」として規定されています。

努力義務であるため、実施しなくても直ちに罰金などの刑事罰が科されるわけではありません。しかし、企業には労働契約法第5条に基づく「安全配慮義務」があります。これは、従業員が安全に働けるよう配慮する法的責任のことです。もし災害時に適切な備えがなく従業員が被害を受けた場合、この安全配慮義務違反を問われ、損害賠償請求に発展する可能性があります。つまり、条例上の罰則はなくとも、企業を守るための法的責任として備蓄は必須であると言えます。

  • 実施しない場合に想定される企業のリスク

備蓄を行わないことは、法的リスク以外にも経営上の大きなリスクを招きます。災害発生後、交通機関が麻痺し、ライフラインが停止した状況を想像してください。その中で水や食料、トイレが確保されていなければ、従業員は極度のストレスと健康被害に晒されます。

また、事業継続計画(BCP)の観点からも備蓄は重要です。従業員の安全が確保されて初めて、事業の復旧活動に着手できます。備えがない企業は復旧が遅れ、取引先からの信頼を失うことにもなりかねません。「従業員を大切にしない企業」という烙印を押されれば、採用やブランドイメージにも悪影響を及ぼします。これらを防ぐための投資として、備蓄を捉える視点が求められます。

従業員1人あたりに必要な備蓄の量は?

内閣府ガイドラインに基づく「従業員1人あたりの備蓄必要量(3日分)」の解説画像。企業の防災担当者向けに、水・食料・衛生用品の具体的な数量の目安を可視化したアイキャッチ。

次に、具体的に「どれくらいの量」を用意すればよいのかを解説します。基準となるのは、人命救助のタイムリミットやインフラ復旧の目安とされる「3日間(72時間)」です。

  • 水と食料とトイレの3日分を計算する方法

従業員1人あたりに必要な3日分の備蓄量は、以下の計算式で算出するのが一般的です。これを自社の従業員数(必要に応じて来客数も加算)に掛け合わせることで、全体の必要量が分かります。

品目1人1日あたりの目安3日分の必要量(1人あたり)
飲料水3リットル9リットル(2Lペットボトル約4.5本)
食料3食9食
簡易トイレ5回15回分

水は飲料用として1日3リットルが目安ですが、夏場の発汗なども考慮して余裕を持つと安心です。食料は、調理不要ですぐに食べられるものを中心に選びます。ここで忘れがちなのが簡易トイレです。人は食事を我慢できても排泄は我慢できません。水洗トイレが使えなくなることを想定し、必ず人数分を用意します。

  • 女性や帰宅困難者を考慮して追加すべき物資

基本的な3点セットに加え、従業員の属性や状況に合わせた配慮が必要です。特に女性従業員がいる場合は、生理用品や中身が見えない廃棄用袋の備蓄が欠かせません。ストレスのかかる災害時は予定外に生理が始まることも多いため、日常的なストックとは別に備蓄用として確保します。

また、外部からの来客がオフィスに滞在しているタイミングで被災する可能性もあります。従業員数ギリギリではなく、全従業員数の10%程度を上乗せして備蓄するか、来客用の予備セットを用意しておくと万全です。帰宅困難者がオフィスに宿泊することを想定し、床に敷くマットやプライバシーを守るためのパーティションもあると、避難生活の質が大きく向上します。

具体的に何を揃えるべきか?おすすめ品目

企業の災害対策(BCP)における衛生用品の備蓄例。簡易トイレや除菌グッズ、女性向け用品など、発災後の職場環境を維持するために必要な品目。

数量が決まったら、次は「どのような商品を選ぶべきか」を検討します。長期間保存でき、かつ災害時の過酷な状況でも使いやすいものを選ぶのがポイントです。

  • 長期保存水と調理不要な食料

水や食料は、賞味期限が5年〜7年といった「長期保存対応」のものを選ぶと、入れ替えの手間やコストを削減できます。通常の市販品は賞味期限が短く、管理がおろそかになると気づいたときには期限切れ、という事態になりがちだからです。

食料を選ぶ際は、「調理不要」または「水だけで食べられる」ものを選びます。災害時はガスや電気が止まる可能性が高く、お湯を沸かせないケースが多いからです。

カテゴリおすすめの備蓄食料例特徴
主食アルファ米、長期保存パン水で戻せる、または開封してすぐ食べられる
副菜レトルトの惣菜、缶詰野菜不足を補い、栄養バランスを保つ
菓子類羊羹、ビスケット、飴ストレス緩和や手軽なエネルギー補給に役立つ

アレルギーを持つ従業員への配慮として、アレルギー特定原材料等28品目不使用の製品を含めることも忘れてはいけません。

  • 簡易トイレと衛生用品

食事よりも切実な問題となり得るのがトイレと衛生環境です。断水時には水洗トイレが流せなくなるため、凝固剤と処理袋がセットになった「簡易トイレ(非常用トイレ)」が必須となります。既設の便器に袋を被せて使うタイプが一般的で、省スペースで保管できます。

あわせて、手洗いができない状況に備えてウェットティッシュや手指消毒液、口腔ケア用の歯磨きシートも準備します。衛生環境の悪化は感染症のリスクを高めるため、水・食料と同等の優先度でこれらを揃える必要があります。

  • 毛布や電源など滞在を支えるグッズ

オフィスで一夜を明かす場合、寒さは体力を奪う大きな敵となります。人数分の毛布またはアルミ製の防寒シート(レスキューシート)を用意します。アルミシートは薄くて場所を取らないため、保管スペースが限られるオフィスには最適です。

また、現代の災害対策において「情報の確保」と「連絡手段の維持」は生命線です。スマートフォンの充電が切れると安否確認も情報収集もできません。乾電池式のモバイルバッテリーや、多人数で使える大容量のポータブル電源を備えておきます。ラジオやランタンも、停電時の不安を和らげる重要なアイテムです。

保管場所がない・管理が大変という課題の解決策

企業のBCP対策における分散備蓄の活用例。デスク下のデッドスペースを利用した備蓄品保管と、共有部の防災ステーションを組み合わせた効率的な管理方法。

必要なものが分かっても、「置く場所がない」「賞味期限の管理が面倒」という悩みは尽きません。ここでは、限られたスペースを有効活用し、管理の手間を減らす具体的な方法を紹介します。

  • デスク下や共有部を活用する分散備蓄の導入

すべての備蓄品を倉庫一箇所にまとめる必要はありません。むしろ、倉庫が被災して入れなくなったり、エレベーターが止まって高層階へ運べなくなったりするリスクを考えると、「分散備蓄」が推奨されます。

例えば、各自のデスクの下やキャビネットに「個人用備蓄セット(1日分の水・食料・トイレ・ヘルメット)」を配布して管理してもらいます。残りの2日分や大型資機材のみを倉庫や共有スペース(会議室の空き棚、給湯室、コピー機横のデッドスペースなど)に保管します。これにより、倉庫スペースを節約できるだけでなく、発災直後に自分の身を自分で守る「自助」の体制が整います。

  • ローリングストックで期限切れを防ぐ運用

備蓄品を一度に大量購入して5年間放置するのではなく、日常的に消費しながら買い足していく「ローリングストック法」も有効です。これは家庭だけでなく企業でも導入が進んでいます。

具体的には、来客用のミネラルウォーターや残業用の軽食、カップ麺などを少し多めに在庫しておき、古いものから順に日常業務で消費します。消費した分だけ新しく補充することで、常に賞味期限が新しい状態が保たれます。専用の長期保存食よりも単価が安く抑えられるメリットもあります。ただし、在庫管理のルールを明確にし、担当者が定期的にチェックする仕組み作りは必要です。

導入事例から学ぶ失敗しない備蓄のポイント

金融機関のBCP対策事例イメージ。職員一人ひとりに配布される個人用防災セットと、支店バックヤードでの集中備蓄を表現したイラスト。

最後に、他社の成功事例を参考に、自社に合った運用イメージを具体化しましょう。ここでは、スペースの制約をクリアした事例を紹介します。

関西の金融機関では、災害時の事業継続(BCP)と従業員の安全確保を重視し、各支店に常備できる省スペースで機能的な備蓄を検討しました。多拠点運用のため、人数に応じて配備しやすく、配布や管理を迅速に行える構成が求められた点がポイントです。こうした背景では、書類棚やデスク周りにも置けるA4サイズのBOX形状のように、保管場所を取りにくい支店でも運用しやすい形が選定軸になります

導入は「HIHハザードBOX」を全社合計200セットとし、関西エリア内の各支店バックヤードへ設置、職員用に1人1セットで常備する形で進められました。備蓄を失敗させないためには、配備数の考え方(人員単位)と保管場所(バックヤードなど管理しやすい場所)を先に決め、持ち出しを想定してBOXに一式がまとまる構成にすることが有効です。

棚に収まる“省スペース防災セット” HIHハザードBOX! A4サイズのコンパクトなBOXに、災害時に必要なアイテムをぎっしり詰め込んだ1セット。 備蓄場所に悩む企業や小規模オフィスにもぴったりで、帰宅支援対策にも最適です。

導入実績・メディア掲載 – ふくしまの防災 HIH ヒカリネット|個人・法人向け防災セット

まとめ

企業の災害備蓄・BCP対策の完全ガイド。東京都条例や内閣府ガイドライン、従業員1人あたり3日分の必要量(水9L・食料9食)、衛生対策、ローリングストックによる分散備蓄の重要ポイント解説図。

企業の災害備蓄に関する重要ポイント

  • 3日分の確保: 従業員1人あたり「水9L・食料9食・トイレ15回分」が基本の目安。
  • 義務の理解: 条例は努力義務だが、安全配慮義務の観点から企業の実施は実質必須である。
  • 分散と循環: 保管場所不足は「個人配布(分散備蓄)」で、期限管理は「ローリングストック」で解決する。

企業の災害備蓄は、単なるモノの準備ではなく、従業員とその家族、そして会社の未来を守るための投資です。まずは「従業員数 × 3日分」のシミュレーションを行い、できるところから少しずつ揃えていきましょう。今日から始める小さな備えが、万が一の時に大きな安心へと変わります。

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