カルデラ湖のでき方を防災士が解説!仕組みや火口との違いとは

カルデラ湖を学習する中学生

カルデラ湖のでき方を防災士が解説!仕組みや火口との違いとは

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

旅行先で目にする美しいカルデラ湖。その吸い込まれるような透き通った青い水面を見ていると、心が洗われるような気持ちになりますよね。しかし、一体どのようにして山の中にこれほど巨大な湖ができたのか、不思議に思ったことはありませんか?実はその静けさとは裏腹に、カルデラ湖の誕生には、私たちの想像を絶する地球の凄まじいエネルギーと、何万年もの時をかけたドラマが隠されています。今回は、防災士としての視点も交えながら、カルデラ湖の壮大なでき方や仕組み、火口との違い、そして日本にある代表的なカルデラ湖について、中学生の皆さんにも科学的に、かつわかりやすく解説していきたいと思います。

  • カルデラ湖が「爆発」ではなく「陥没」でできる驚きの仕組みがわかります
  • 普通の火口とカルデラの違いをスッキリと区別できるようになります
  • なぜカルデラ湖の水があんなに青くて透明なのか、その科学的理由に納得できます
  • 日本にある代表的なカルデラ湖の特徴を知り、防災の教訓を学べます
陥没カルデラが形成されるまでの4つのステップを説明するイラスト。上段は左から順に「1.成長:マグマの蓄積」「2.噴火:破局的な大噴火」「3.崩落:支えを失った山体の陥没」「4.湛水:湖の誕生」が描かれており、火山が成長し、噴火によってマグマが放出され、山体が陥没して湖が形成される過程を示している。下段は「カルデラ(Caldera)」と「火口(Crater)」の比較図で、カルデラは主に大規模な陥没によって形成される直径2km以上の窪地、火口は主に爆発的な噴火で地表面に開いた直径2km未満の穴であることを示している。
目次

防災士と学ぶカルデラ湖のでき方

カルデラ湖のイメージ画像。火山活動で形成された円形の大きな湖と外輪山の景観

地球の表面には様々な地形がありますが、カルデラ湖ほど「過去の破壊」と「現在の美しさ」が同居している場所はないかもしれません。ここでは、その壮大な誕生のプロセスを、専門的な用語も噛み砕きながら一緒に見ていきましょう。

仕組みを中学生にもわかりやすく解説

陥没によって誕生するカルデラ湖の形成仕組みを説明する断面イメージ

まず結論から言うと、日本にある多くのカルデラ湖(十和田湖や洞爺湖など)は、山が吹き飛んで穴が開いたのではありません。正しくは、「山が自分の重さに耐えきれずに、地下へ沈んでできた」ものなのです。これを専門的には「陥没カルデラ」と呼びます。

少しイメージしにくいかもしれませんね。例えば、オーブンで焼いたばかりの「スフレケーキ」を想像してみてください。焼いている最中は膨らんでいますが、冷めると中身の空気が縮んで、真ん中からペシャンと凹んでしまいますよね。カルデラもこれに似ています。

火山の地下には「マグマだまり」という、マグマがたっぷり詰まった部屋があります。噴火によって、この部屋の中身(マグマ)が外に大量に出てしまうと、地下はスカスカの空洞になります。すると、それまで山を支えていたつっかえ棒がなくなり、地面が重力に負けてドスンと下に落ちてしまうのです。そこに長い長い年月をかけて雨水や湧き水が溜まることで、私たちが目にする美しい湖ができあがります。

火口との違いや言葉の意味

火口とカルデラの大きさやでき方の違いが分かる噴火地形の比較イメージ

よく観光地などで「火口(クレーター)」と「カルデラ」という言葉を聞きますが、この2つは混同されがちです。地質学的には、明確な違いがあることをご存知でしょうか。一番の大きな違いは「その規模(大きさ)」と「でき方」にあります。

【火口とカルデラの違い】

  • 火口(Crater): 直径が2km未満のもの。主に爆発的な噴火で地面に穴が開いてできます。
  • カルデラ(Caldera): 直径が2km以上のもの。主に地面の大規模な「陥没」によってできます。語源はスペイン語で「大釜」や「鍋」を意味します。

つまり、単に「大きい火口」のことをカルデラと呼ぶのではなく、地面が大規模に沈み込んでできた巨大な窪地のことをカルデラと呼ぶのです。気象庁などの定義でも、この「陥没」というプロセスが重視されています。

(出典:気象庁『火山用語解説

陥没カルデラが形成される流れ

火山噴火から地盤沈下、湖の形成までのカルデラ湖誕生の流れを示した図

では、実際にどのようなステップでカルデラ湖ができるのでしょうか。アメリカにある有名な「クレーターレイク」の形成を説明する際によく使われる「4つのステップ」が、非常にわかりやすいのでご紹介します。このプロセスは、数千年、時には数万年という途方もない時間をかけて進行します。

1. 成長(GREW):マグマの蓄積

地下深くでマグマが作られ、上昇してきます。地表では火山活動が繰り返され、富士山のような立派な成層火山が成長していきます。この時、地下数キロメートルから十数キロメートルの深さでは、巨大な「マグマだまり」にエネルギーがパンパンに溜まっていきます。

2. 噴火(BLEW):クライマックスの大噴火

マグマだまりの圧力が限界に達し、破局的な大噴火が起きます。これを「カルデラ形成噴火」と呼びます。通常の噴火とは桁違いで、数百立方キロメートルものマグマや火山灰が一気に放出されます。

3. 崩落(FELL):支えを失った山の沈下

ここが最も重要なポイントです。大量のマグマが出たことで、地下のマグマだまりは空っぽになります。すると、天井の岩盤は自分自身の重さを支えきれなくなり、リング状の亀裂(リング状断層)に沿って、ズドンと地下へ崩落します。

4. 満水(FILL):湖の誕生

崩落によってできた巨大な窪地に、雨水や雪解け水が溜まっていきます。こうして、ようやくカルデラ湖が誕生します。

巨大なマグマだまりと噴火

地下に広がるマグマだまりと噴火の様子を表現した実写風断面イメージ

カルデラを作るような噴火は、私たちが暮らす日本列島が、いかに活発な火山活動の上に成り立っているかがわかります。「ウルトラ・プリニー式噴火」と呼ぶこともあります。

例えば、北海道の洞爺湖ができた約11万年前の噴火では、約354立方キロメートルものマグマが放出されたと言われています。これは東京ドームで換算すると、数億杯分にもなる想像を絶する量です。これだけの物質が地下から地上へ移動すれば、当然地下には巨大な「空隙(すきま)」ができますよね。この物理的な空白を埋めるために、地盤沈下が起こるわけです。

豆知識:陥没のパターン
陥没の仕方にも種類があります。シリンダーの中のピストンのようにスポッと垂直に落ちる「ピストン型」や、ドアが開くように片側だけ深く落ちる「トラップドア型」などがあり、これが今の湖の形や深さを決める要因になっています。

水が溜まって青くなる理由

カルデラ湖の水が青く見える光の散乱と透明度の高さを表すイメージ

「摩周ブルー」や「クレーターレイクブルー」に代表されるように、カルデラ湖の水はなぜあんなに青く、吸い込まれるように美しいのでしょうか。これには大きく2つの科学的な理由があります。

理由1:栄養が極端に少ない(貧栄養湖)

カルデラ湖は、高い断崖絶壁(カルデラ壁)に囲まれていることが多く、外から大きな川が流れ込んでいないケースがほとんどです。通常、川は山からの土砂や、プランクトンの餌になる栄養分を運び込みますが、この供給ルートがないため、水中のプランクトンが増えません。不純物が極限まで少ないため、驚異的な透明度が保たれるのです。

理由2:光の散乱(レイリー散乱)

水が非常にきれいだと、太陽の光が入った時に物理現象が起きます。波長の短い「青い光」は水分子にぶつかって四方八方に散らばり(散乱)、私たちの目に届きます。一方で、波長の長い「赤い光」は水に吸収されて深部へ消えてしまいます。湖底の泥などの色が混ざることなく、散乱した鮮やかな青色だけが見えるため、あの神秘的な色が生まれるのです。

日本にあるカルデラ湖のでき方と実例

カルデラ湖と火山の過去の巨大噴火を意識した防災啓発イメージ

日本は4つのプレートがひしめき合う世界有数の火山大国であり、美しいカルデラ湖が各地に点在しています。それぞれの湖には、独自の形成ストーリーと特徴があります。

日本のカルデラ湖ランキング

屈斜路湖・摩周湖・田沢湖など日本の代表カルデラ湖の比較イメージ

まずは、日本を代表するカルデラ湖の特徴をざっくりと表で見てみましょう。どれも一度は訪れてみたい、地球の息吹を感じる場所ばかりです。

湖名場所最大水深形成時期特徴
屈斜路湖北海道117m12万~3万年前日本最大のカルデラ湖。中央に中島が浮かぶ。
摩周湖北海道211m約7,000年前世界トップクラスの透明度。流入河川がない閉鎖系。
洞爺湖北海道180m約11万年前巨大火砕流を伴う噴火で形成。世界ジオパーク。
十和田湖青森/秋田327m6.1万~1.5万年前複雑な二重カルデラ構造を持つ美しい湖。
田沢湖秋田423m約180万年前日本一深い湖。冬でも凍らない不凍湖。

屈斜路湖の巨大噴火と中島

屈斜路湖と中央に浮かぶ火山島「中島」の地形を示す実写風イメージ

北海道にある日本最大のカルデラ湖、屈斜路湖(くっしゃろこ)。この巨大な湖は、たった一度の噴火でできたのではありません。約12万年前から3万年前にかけて発生した、複数の巨大噴火によって段階的に形作られた「複合カルデラ」です。

湖の真ん中にポツンと浮かぶ「中島」をご存知でしょうか?実はあれ、カルデラができて水が溜まった「後」に、再びマグマが活動して盛り上がった火山(溶岩ドーム)なんです。このように、カルデラ形成後も活動が続くことを「再活動(リサージェンス)」と呼びます。湖畔の砂湯を掘ると温泉が出るのも、地下の浅い場所にまだマグマの熱源がある証拠ですね。

十和田湖の複雑な二重カルデラ

二重カルデラ構造が特徴の十和田湖を上空から見たイメージ

東北の十和田湖は、上空から見ると四角い形の中に、さらに丸い入江があるような不思議な形をしています。これは「二重カルデラ」という、世界的にも興味深い構造です。

まず、約数万年前に大噴火で大きなカルデラができ、そこに水が溜まりました。その後、さらに新しい噴火が起きて、湖の中にもう一つの小さなカルデラ(現在の中湖と呼ばれる、水深326.8mの深い部分)ができたのです。破壊と再生が同じ場所で繰り返された結果が、今の複雑で美しい地形を作り出しています。

田沢湖が日本一深い形成理由

秋田県にある田沢湖は、水深423.4メートルという日本一の深さを誇ります。あまりに水深が深いため、真冬の厳寒期でも湖面が凍らない「不凍湖」としても知られています。

田沢湖の成因については長い間議論がありましたが、現在では約180万年前からの火山活動による陥没カルデラ説が有力です。他のカルデラ湖のように、周囲を囲む高い壁(外輪山)があまり目立たないため、かつては「隕石が落ちたクレーターではないか?」という説もあったほどです。しかし調査の結果、やはり火山性の陥没であることがわかりました。この圧倒的な深さが、あの吸い込まれるような深い「瑠璃色」を生み出しているんですね。

カルデラ湖のでき方から学ぶ防災

日本一深い田沢湖の美しい青と深さを強調した湖のイメージ

こうしてカルデラ湖のでき方を詳しく見ていくと、私たちが暮らす日本列島が、いかに活発な火山活動の上に成り立っているかがわかります。「綺麗な湖だな、癒やされるな」で終わらせるのではなく、そこにかつてあった巨大なエネルギーに思いを馳せることが、防災意識を高める第一歩になります。

カルデラを作るような巨大噴火(破局噴火)は、発生頻度こそ低いものの、ひとたび起きれば日本全土に甚大な影響を及ぼします。また、カルデラ湖周辺は現在も活火山であるケースが多く、噴気や温泉活動も活発です。

私たちにできる事前の備え

  • 旅行に行く際は、その地域の「火山ハザードマップ」を必ず確認しておく
  • 万が一の噴火や地震に備え、宿泊先や自宅での避難経路を確認する
  • 「非常持ち出し袋」の中身を定期的にチェックし、すぐに持ち出せるようにする

特に、どのような災害であっても、発生直後の「最初の72時間」を自力で生き抜くための準備が重要だと言われています。いつ、どこで何が起きても慌てないよう、日頃からの備えを今一度見直してみてくださいね。

非常持ち出し袋 経験者が考える本当に必要なもの

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自然の仕組みを正しく知ることは、自然を正しく恐れ、そして賢く付き合うための最強の武器になります。この記事が、皆さんの知的好奇心を満たすだけでなく、自分や大切な人の命を守る「防災」について考えるきっかけになれば嬉しいです。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

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