なぜ防災ラジオが必要?電磁波と情報伝達の理科を解説

中学生が防災ラジオについて必要性を学んでいる様子

なぜ防災ラジオが必要?電磁波と情報伝達の理科を解説

こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。

「災害時、スマホが使えなかったらどうしよう?」「防災ラジオって本当に必要なの?」そんな疑問を持ったことはありませんか。特に最近は、スマホでラジオが聴けるradiko(ラジコ)もありますし、テレビが見られるワンセグ機能もあります。「わざわざ古いラジオなんていらないんじゃない?」と思うのも、無理はないかもしれませんね。

また、「電磁波」と聞くと、なんだか体に悪い影響がないか、漠然とした心配がある方もいるかも。でも、災害時にあれだけ便利なスマホがなぜ繋がりにくくなるのか、そして、なぜアナログに見えるラジオが「最後の情報生命線」や「最後の砦」と呼ばれるのか。

その理由は、ノスタルジーや精神論ではなく、「電磁波」の物理的な性質と、「情報伝達」の工学的な仕組みという、極めて「理科的」な合理性にあるんです。

この記事では、防災士の視点から、災害時にスマホが直面する「輻輳(ふくそう)とは?」といった根本的な問題点から、AMやFM、ワイドFMといった電波の仕組みまで、中学生にもわかるように、できるだけ簡単に、そして少し深く掘り下げて解説していきますね。

  • 災害時にスマホやradikoがなぜ使えなくなるのか
  • 防災ラジオが持つ「輻輳しない」圧倒的な強み
  • AM、FM、ワイドFMの電波(電磁波)の違いと役割
  • 防災ラジオが「電磁波は体に悪い」という心配とどう向き合うか
HIHそなぷー 防災ラジオ
目次

なぜ防災ラジオが必要?スマホと情報伝達の理科

防災ラジオがスマホの代わりに災害時の情報源になる理由を説明する家族のシーン
【HIH】ヒカリネット・イメージ

まずは、私たちが毎日、当たり前のように使っているスマートフォンが、なぜ災害という「非日常」において、その機能を失ってしまうのか。その理由から見ていきましょう。いつもは万能なスマホも、災害時には「3つの壁」にぶつかってしまうんです。

災害でスマホが圏外になる3つの壁

災害でスマホが圏外になる原因を示す停電・損壊・輻輳のイメージ図
【HIH】ヒカリネット・イメージ

災害が発生すると、スマートフォンやインターネットといった現代の通信インフラは、「停電(電力の枯渇)」「インフラの物理的な損壊」「輻輳(ふくそう)」という、回避困難な3つの大きな壁に直面します。

東日本大震災や近年の豪雨災害、能登半島地震などを見てもわかる通り、これらの壁は「どれか一つ」ではなく、「複合的に、かつ同時に」発生することがほとんどです。どれか一つでも起きれば、私たちのスマホはあっという間に「圏外」になってしまう可能性があるんですね。

地震で光ファイバーケーブルが切断されたり(物理的損壊)、広域停電で電気が止まったり(電力の枯渇)。これらは比較的イメージしやすいかもしれません。

でも、防災の観点から最も知っておくべきで、インフラが無事な地域でさえ発生するのが、第三の壁「輻輳」なんです。

停電(ブラックアウト)で基地局が停止

停電で携帯電話基地局が停止し通信障害が起きる様子のイメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

まず第一の壁は「電力」です。スマホが電波を掴む(=アンテナが立つ)ためには、街中にある「基地局」が動いている必要があります。そして、この基地局も当然ながら電気で動いています。

もちろん、通信事業者さんも災害に備えて、これらの基地局には停電用の非常用バッテリーや、一部では自家発電機を設置しています。しかし、その電力にも物理的な限界があります。

一般的な基地局のバッテリーが持つのは、数時間から、長くても24時間程度と言われています。それを超える長期間の停電(ブラックアウト)が発生した場合、基地局は次々と沈黙していきます。

2018年の北海道胆振東部地震で発生した「ブラックアウト(道内全域停電)」では、まさにこの基地局のバッテリー切れによって、広範囲で通信障害が発生しました。これはインフラの物理的な損傷が比較的小さかったにもかかわらず、「電力」という第一のライフラインが絶たれたことで、「通信」という第二のライフラインが連鎖的に失われた典型的な例です。

個人のモバイルバッテリーでは解決しない問題

私たちがどれだけ大容量のモバイルバッテリーを準備していても、それはあくまで「自分のスマホ」の電源でしかありません。

電波を飛ばす「おおもと」である基地局が停電で止まってしまっては、手元のスマホにどれだけ電力が残っていても、電話もネットも「圏外」となり、使うことができないんです。これが、災害時の「電力の壁」の本当の恐ろしさです。

もちろんスマホの電源確保も重要です

基地局が停止する問題とは別に、個人のスマホの電源確保ももちろん重要です。基地局が無事なエリアでは、スマホは最強の情報収集・連絡手段ですからね。

最低でもスマホを数回フル充電できる大容量のモバイルバッテリーは、非常用持ち出し袋に必ず入れておきたいアイテムです。(参考:非常持ち出し袋 経験者が考える本当に必要なもの

輻輳とは?なぜradikoもダメ?

災害時の輻輳でスマホやradikoが繋がらなくなる状態を示すイメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「輻輳(ふくそう)」とは、一斉にアクセスが集中して、ネットワーク全体が交通渋滞を起こし、パンクしてしまう状態のことです。

災害が起きると、多くの人が「大丈夫!?」と安否確認のために一斉に電話をかけたり、LINEを送ったり、SNSで情報を確認しようとしますよね。

スマートフォンやインターネットが採用している通信の仕組みは、基本的に「Aさん」と「Bさん」が個別に通信経路(セッション)を確立する「1対1(P2P: ピアツーピア)」の仕組みです。

これが平時なら、使う時間がバラけているので問題ありません。しかし、災害時には「100万人が、100万人と」同時に通信しようとします。その結果、データを中継する「交換局」や「サーバー」の処理能力(キャパシティ)を瞬時に超えてしまい、電話が繋がらない、データが送受信できない「パケ詰まり」が発生します。これが輻輳の正体です。

radiko(ラジコ)が直面する致命的なパラドックス

ここで非常に重要なのが、「radiko(ラジコ)」もこの輻輳の影響をまともに受ける、ということです。

radikoは「ラジオ」と名前がついていますが、やっていることはラジオ放送を「インターネット回線」でストリーミング配信するサービスです。つまり、その通信アーキテクチャは、私たちがLINEやウェブサイトを見るのと全く同じ「1対1」の通信なんです。

災害時に「スマホでラジオが聴けるぞ!radikoで情報を!」と思う人が増えれば増えるほど、回線が混雑し、radikoのサーバーへのアクセスも集中し、結果としてradiko自体が輻輳によって繋がりにくくなってしまうんですね。

radikoは防災ラジオの「代わり」にはならない

radikoは「インターネットサービス」であり、電波で受信する「ラジオ受信機」とは全くの別物です。平時は非常に便利ですが、災害時は停電、インフラ損壊、そして輻輳という「3つの壁」すべてに脆弱であることを前提に備える必要があります。

ワンセグは災害時に使えるの?

ワンセグは輻輳に強いが電池消費が大きい特徴を表すスマホと防災ラジオの比較イメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

「じゃあ、スマホのワンセグ(地デジ放送)ならどう?」と思いますよね。これは非常に良い着眼点です。

ワンセグは、radikoと決定的に違い、インターネット回線を使わず、「放送波」で受信します。そのため、輻輳(アクセス集中)の影響は一切受けません。これは防災ラジオと共通する、非常に大きな強みです。

ただし、ワンセグには大きな弱点があります。それは「受信機(スマホ)の消費電力」です。

ワンセグは(当然ですが)映像も映すため、スマホの部品の中で最も電力消費の大きい「ディスプレイ」をずっと点灯させ、さらに映像と音声を処理するために「CPU」も動かし続けます。

これは、音声の復調(デコード)だけを行うシンプルな防災ラジオとは比較にならない速度で、スマートフォンの貴重なバッテリーを消費することを意味します。

情報受信 vs 連絡手段

災害時、スマートフォンのバッテリーは、家族や友人との「連絡(発信・受信)」や「安否確認(入力)」のために温存しておきたい、まさに「命綱」です。

その貴重なバッテリーを、「情報収集(受信)」のために急速に消費してしまうワンセグの利用は、防災戦略として「賢明なトレードオフとは言えない」かもしれませんね。情報収集は、できれば消費電力の少ない専用機(=防災ラジオ)に任せたいところです。

災害時の情報伝達手段を比較

防災ラジオ・スマホ・ワンセグの災害時の情報伝達手段を比較した図解イメージ
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ここまでのお話を、災害時に重要となる評価軸で、簡単な比較表にまとめてみました。

比較項目防災ラジオ (AM/FM/ワイドFM)スマホ (radikoアプリ)スマホ (ワンセグ機能)
輻輳(アクセス集中)◎ 影響なし (放送波)× 致命的 (ネット回線)◎ 影響なし (放送波)
インフラ依存(停電・損壊)○ (送信局は高耐久) ※自家発電で数日〜1週間以上× (基地局・サーバーに依存) ※バッテリーは数時間〜1日程度○ (放送局インフラに依存) ※ラジオ送信局と同様に高耐久
受信側の消費電力(生存性)◎ 極小 ※乾電池・手回し可(数十〜100時間以上)× (大) ※スマホ電力に依存(数時間)△ (中〜大) ※スマホ電力に依存(数時間)
総合評価(災害時)【生命線(必須)】【代替不可】 (使用不能を想定)【補完手段】 (電力注意)

(※稼働時間はあくまで目安であり、状況や機器によって異なります。)

こうして比較すると、「なぜ防災ラジオが必要か」がはっきり見えてきますよね。ラジオは、スマホが全滅するような最悪の状況(大規模停電+輻輳)でも、情報を届けてくれる可能性が最も高い、「最後の情報生命線」なんです。

もし停電が予想以上に長引いた場合、準備していたモバイルバッテリーもやがて尽きてしまいます。そうした長期戦に備える意味では、外部電力ゼロで発電できるソーラーパネルなども、情報収集を維持するための重要な選択肢になりますね。(参考:災害時ソーラーパネルは必要か?防災士が徹底解説

防災ラジオの優位性。電磁波と情報伝達の理科

防災ラジオの電磁波の仕組みと情報伝達の強さを学ぶイメージ図
【HIH】ヒカリネット・イメージ

では、なぜラジオだけがそんなに災害に強いのでしょうか。ここからは、少し「理科」の授業のようですが、ラジオが使う「電磁波」という波の秘密に迫ってみます。中学生の理科を思い出す感じで、リラックスして読んでみてくださいね。この物理的な合理性を知ることが、防災への理解を深める一番の近道だと思います。

ラジオが輻輳しない「1対多」の強み

ラジオ放送が1対多で災害時も混雑しない様子を表す電波イメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

ラジオが災害に強い最大の理由は、その仕組みが「1対多」のブロードキャスト(放送)だからです。これは第1部で触れた「輻輳」と対極にある概念ですね。

ブロードキャストとは、テレビ局やラジオ局の非常に強力な「送信所(タワー)」から、情報を電波に乗せて、空間全体に一方的に「ばらまく」方式です。

この方式の本当にすごいところは、ラジオで聞く人が1人でも、100万人でも、1000万人でも、送信所側にかかる負荷が一切変わらないことです。

スマホ(1対1)は100万人が使うと100万人分の処理(リソース)が必要になりパンク(輻輳)しますが、ラジオ(1対多)は100万人が聞いても、送信所側は「知ったことではない」わけです。ただ、定められたエネルギーを空間に放射し続けるだけ。

これが、災害時にアクセスが集中してもラジオだけが問題なく聞こえる、情報工学的な理由なんです。

圧倒的なエネルギー効率

この「1対多」の仕組みは、エネルギー効率の観点からも非常に優れています。

「1対1」のスマホ通信は、ネットワークがユーザー一人ひとりのために個別の通信路を確保する、エネルギー的に見ると非常に「贅沢」な仕組みです。

一方、「1対多」の放送(ラジオ)は、送信所が一つの強力な電波(エネルギー)を空間に放射し、そのエネルギーの「おこぼれ」を個々の受信機が拾う(受信する)仕組み。災害時という極限の低リソース環境下においては、この放送型アーキテクチャが持つ圧倒的な情報伝達効率こそが、社会の生命線となります。

AMラジオが遠くまで届く仕組み

AMラジオの電波が地表波と電離層反射で遠距離まで届く仕組みのイメージ図
【HIH】ヒカリネット・イメージ

さて、ラジオには「AM放送」と「FM放送」がありますよね。この違いも、使う「電磁波」の性質(周波数)の違いから来ています。

AM (Amplitude Modulation = 振幅変調) は、音声信号の大小(音の強弱)に合わせて、電波の「振幅(波の高さ)」を変化させる方式です。そして、AM放送は比較的低い周波数(526.5kHz~1606.5kHz)の「中波(ちゅうは、MF: Medium Frequency)」という電波を使います。

この「中波」には、電波の伝わり方(伝播)に2つの大きな特徴があります。

地表波:障害物を回り込む力

一つ目は「地表波(ちひょうは)」です。これは、電波が地球の表面(地表や海面)の起伏に沿うように進む性質(回折)を持っています。周波数が低い波ほど、この「回り込む」性質が強くなるんですね。これにより、山やビルなどの障害物をある程度回り込んで伝播することができ、比較的広範囲に安定して届きます。

空間波:夜間に遠くまで届く理由(電離層反射)

二つ目は「空間波(くうかんは)」です。「夜、ラジオをつけたら、昼間は聞こえなかった遠くのAMラジオ局や、なんなら外国の放送が聞こえた」なんて経験はありませんか? あれがまさに空間波です。

これは、上空約100km~にある「電離層(でんりそう)」という電子の層で電波が反射し、再び地表に戻ってくる現象です。

【理科コラム】電離層とD層・E層・F層

なぜ夜だけ遠くに届くのか。それは太陽が関係しています。

  • 日中:太陽からの紫外線が強く、電離層の中でも低い位置(約60~90km)に「D層」という濃い電子層ができます。このD層は、AMの中波を「反射」せず「吸収」してしまう性質があります。そのため、昼間は地表波(と近距離の空間波)しか届きません。
  • 夜間:太陽が沈むと、D層は紫外線を浴びなくなり急速に消滅します。すると、中波はD層に邪魔されず、さらに上空にある「E層」や「F層」まで到達できます。このE層・F層は、中波を吸収せず、鏡のように効率よく「反射」します。

その結果、送信所から出た電波は、上空のE層/F層と地表の間で反射を繰り返し、見通し外の超長距離(数百km~数千km)まで到達できるんです。この性質のおかげで、AM放送は広域災害情報を全国規模で伝える基幹インフラとして活躍します。

ただし、音を「波の高さ」で記録しているため、落雷や家電製品(PC、LED照明、エアコン等)が発生させる電気的ノイズも「波の高さの乱れ」として拾ってしまい、音質が「ザーザー」「ガリガリ」と悪化しやすいのが弱点です。

FMラジオはクリアだが短距離

FMラジオのクリアな音質と短距離伝播の特徴を示す電波イメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

一方、FM (Frequency Modulation = 周波数変調) は、音声信号の大小に合わせて、電波の「周波数(波の振動の粗密)」をごくわずかに変化させる方式です。この方式では、電波の「振幅(波の高さ)」は常に一定に保たれます。

FM放送で使われるのは「超短波(ちょうたんぱ、VHF: Very High Frequency)」(日本では 76MHz~90MHz)で、AMの中波と比べてはるかに周波数が高い(=波長が短い)電波です。

直進性:光に似た性質

周波数が高くなると、電波の性質は光(可視光線)に近くなり、「直進性」が非常に強くなります。

そのため、送信アンテナから受信アンテナまで、見通せる範囲にしか伝播しません。山や高層ビルなどの障害物があると、その背後には回り込みにくく、電波が遮られて「難聴取エリア」が発生しやすいのが特徴です。また、電離層も反射せず、そのまま突き抜けて宇宙空間へ飛んでいってしまいます。

ノイズ耐性:クリアな音質の秘密

伝播距離が短いというデメリットはありますが、FMには「音質が極めてクリアで、ノイズに圧倒的に強い」という、AMにはない強力なメリットがあります。

情報は「周波数」の変化に記録されており、振幅(波の高さ)は一定です。そのため、受信機側で「振幅(波の高さ)を強制的に一定にする」回路(リミッター)を通すことができます。これにより、AMの弱点であった振幅性のノイズ(落雷や家電ノイズ)を、原理的にほぼ除去することが可能なんです。ステレオ放送が可能なのも、この情報量の多さのおかげですね。

ワイドFMとは?AMをFMで聴く

AMの放送をFM周波数で聴けるワイドFMの仕組みを説明する図イメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

ここで、「AMの広範囲性」と「FMのノイズ耐性」。この両者の「いいとこ取り」をするために開発されたのが、「ワイドFM(FM補完放送)」です。

これは、災害時に最も重要な広域情報を担う「AM放送局」が、自局の放送内容と全く同じ番組を、新たに割り当てられた「FMの周波数帯」(日本では 90.1MHz~94.9MHz)を使って同時に放送(サイマル放送)する仕組みです。(出典:総務省「FM補完等の推進」

この仕組みが導入された背景には、明確な防災上の目的があります。

都市型ノイズと難聴取対策

現代の都市部は、PC、インバーター(エアコン、LED照明)、電車のモーターなど、AM波にとって強烈なノイズ源に溢れています。また、鉄筋コンクリートの建物(ビルやマンション)は電波を遮蔽しやすく、室内ではAM放送が非常に聞き取りにくくなっています。

ワイドFMは、ノイズに強いFM波を使うことで、こうした場所でもAM局の情報をクリアに届けることができます。

災害対策(インフラの二重化)

AMの巨大な送信アンテナは、広い土地が必要なため、河川敷や沿岸部の平野に設置されていることが多いです。これは、津波や洪水被害に遭いやすいことを意味します。

一方、FMの送信アンテナは比較的小型で済むため、電波が届きやすい山の上や高層タワー(例:東京スカイツリー)に設置できます。

万が一、津波で沿岸部のAM送信所が壊滅的な被害を受けても、山の上にあるFM送信所が無事であれば、放送を継続できる。これは、情報インフラの「冗長性(リダンダンシー=予備を持たせること)」を確保する上で極めて重要です。

これにより、私たちリスナーは「AMの広域な情報コンテンツ」「FMのクリアな音質・ノイズ耐性」という、両者の利点を同時に享受できるようになったのです。今から防災ラジオを選定するのであれば、この「ワイドFM対応」は必須の機能であると断言できます。

コミュニティFMで地域の情報を

コミュニティFMが災害時に地域の避難情報を届ける様子のイメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

AMが「広域(全国・地方ブロック)」、ワイドFM対応のAM局が「中域(県域)」だとすると、もう一つ、災害時に欠かせないラジオ局があります。それが「コミュニティFM」です。

これは、FM波の「直進性が強く、遠くに飛ばない」という物理的特性を、意図的に(逆)活用し、市区町村レベルの非常に狭いエリアだけを対象とするラジオ局です。

災害時のコミュニティFMの役割:「ミクロ情報」の発信

災害時、全国ネットのAM局が「何が起きているか」という「マクロな情報」を発信するのに対し、私たちが今いちばん知りたいのは、「どこの避難所が開設されたか」「給水所はどこか」「地域の安否情報」といった、被災者の生死と生活に直結する「ミクロな情報」ですよね。

全国放送ではカバーしきれない、こうした「ご近所の情報」をきめ細かく正確に伝達してくれるのが、コミュニティFMの最大の役割なんです。

多くの自治体が住民に配布・推奨する「防災ラジオ(緊急告知ラジオ)」は、この地元のコミュニティFMの周波数にプリセットされているか、緊急放送を受信すると自動で電源が入るように設計されていることが多いんですよ。

電磁波は体に悪いの?

電磁波スペクトルの違いと非電離放射線の安全性を説明する図解イメージ
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さて、ここまで「電磁波」や「電波」という言葉を多用してきましたが、「電磁波って、なんとなく体に悪そう…」と不安に感じる方もいらっしゃるかもしれませんね。防災士として、この点についても正確な情報をお伝えしたいと思います。

確かに、「電磁波」という言葉は、病院で使うX線(レントゲン)や、原子力発電に関連するガンマ線のような「放射線」も含む、非常に広い範囲を指す言葉です。

エネルギーの違い:電離放射線と非電離放射線

健康への影響として(例えばDNAの損傷など)懸念されるのは、周波数が極めて高く、原子から電子を弾き飛ばすほどの強いエネルギーを持つ「電離放射線(X線、ガンマ線)」です。これらが健康に影響を及ぼすことは科学的に確立しており、厳しく管理されています。

しかし、防災ラジオが受信する「電波」(AMの中波、FMの超短波)や、スマホ、Wi-Fi、電子レンジ、太陽光(可視光線)、赤外線などは、X線よりはるかに周波数が低く、エネルギーも極めて弱い「非電離放射線」に分類されます。これらは電子を弾き飛ばすほどのエネルギーは持っていません。

科学的な知見と安全基準:「電波防護指針」

「非電離放射線」が健康に与える影響については、WHO(世界保健機関)などの国際的な専門機関が長年にわたり膨大な研究を続けています。

現在、これらの国際的な科学的知見に基づき、日本では「電波防護指針」という安全基準が総務省によって定められています。

放送局から送信される電波や、私たちが日常的に使うラジオ受信機(受信機自体は電波をほぼ出しません)、スマートフォンなどが扱う電波の強度は、この指針の基準値をはるかに下回るように、法的に厳しく設計・管理されています。

もちろん、将来的に新たな知見が出てくる可能性はゼロではありませんが、現時点での主要な公的機関の一致した科学的見解としては、「基準値以下の電波が、健康へ悪影響を及ぼすという確かな証拠はない」とされています。

不安に思うお気持ちも分かりますが、災害時に「情報が得られない」という明確なリスクと天秤にかけると、防災ラジオを活用するメリットは、科学的に見ても非常に大きいと私は考えています。

なぜ防災ラジオが必要か?情報伝達の理科(まとめ)

防災ラジオが災害時の命を守る情報源として重要であることを示す避難所のイメージ
【HIH】ヒカリネット・イメージ

最後に、この記事の結論を改めて確認しましょう。

「なぜ防災ラジオが必要なのか?」その答えは、ノスタルジーや「昔からの習慣」といった非科学的なものでは断じてありません。

それは、以下の3つの強固な「科学的合理性」に基づいています。

  1. 【情報工学的な合理性】 現代の通信(スマホ)が持つ「1対1」アーキテクチャの構造的脆弱性(=輻輳)に対し、放送が持つ「1対多」アーキテクチャは、何百万人が同時に聞いても絶対にパンクしないという、圧倒的な堅牢性を持つこと。
  2. 【物理学的な合理性】 AM(中波)とFM(超短波)という異なる周波数の電磁波が持つ、異なる伝播特性(地表波、電離層反射、直進性)が、広域情報(AM)と地域密acth情報(コミュニティFM)、そしてクリアな音質(FM/ワイドFM)という、災害時に必要な情報の「マクロ」と「ミクロ」を両輪で補完しあう設計になっていること。
  3. 【防災戦略的な合理性】 そして何より、乾電池や手回し充電で長時間動作する「圧倒的な低消費電力」により、スマホがバッテリー切れで沈黙した後も、情報を受信し続けられる「生存性」があること。

平時は「スマートフォン」という最強のデジタルツールを最大限に活用し、それが「3つの壁」(電力、損壊、輻輳)によって機能不全に陥る「最悪の事態」を科学的に想定し、そのバックアップとして、電力と通信網(IPネットワーク)に依存しない「防災ラジオ」(アナログ)を併せて備える。

このデジタルとアナログの「ベストミックス」こそが、「電磁波と情報伝達の理科」を真に理解した、最も科学的かつ合理的な防災対策だと私は思います。

ラジオは、避難生活での「音」の力、つまり不安な夜に人の声が聞こえるという、心の支えにもなってくれますよ。(参考:「非常用持ち出し袋・防災リュックはいらない」は間違い⁉︎

ぜひ、ご家庭の防災セットに、必ず「ワイドFM対応」の防災ラジオを一つ、加えてみてくださいね。

この記事を書いた人

後藤 秀和(ごとう ひでかず)|防災士・株式会社ヒカリネット 代表
福島県で東日本大震災を経験したことをきっかけに、防災士の資格を取得。
被災経験と専門知識をもとに、本当に役立つ防災用品の企画・販売を行っています。
運営するブランド「HIH」は、個人家庭だけでなく企業・団体・学校にも多数導入され、全国の防災力向上に貢献しています。
被災経験者としてのリアルな視点と防災士としての専門性を活かし、安心・安全な備えを提案しています。

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