防災士解説!LEDの仕組みをわかりやすく中学生にも教える話

防災士解説!LEDの仕組みをわかりやすく中学生にも教える話
こんにちは。「ふくしまの防災 HIH ヒカリネット」防災士の後藤です。
学校の理科の授業や毎日のニュースで「LED(発光ダイオード)」という言葉を耳にする機会は増えましたが、その中身について詳しく考えたことはありますか。今や家のリビングの照明から道路の信号機、手元のスマートフォンの画面に至るまで、私たちの生活空間はLEDの光であふれています。「従来の白熱電球と具体的に何が違うの?」「どうしてあんなに小さなチップが強い光を出せるの?」「なぜ日本の研究者がノーベル賞を受賞できたの?」そんな素朴な疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
実は、LEDの仕組みを正しく理解することは、単なる科学の勉強だけでなく、地震や台風などの災害時に役立つ「生き抜く知恵」にも直結します。この記事では、難しい数式は一切使わず、中学生の皆さんにもイメージしやすい具体的な例えを使って、LEDの不思議な世界と防災へのメリットについて、私自身の経験も交えながらお話しします。
- 図解なしでも頭に浮かぶ「飛び込み台」を使った発光の仕組み
- なぜLEDは白熱電球よりも寿命が長く、災害に強いのか
- ノーベル賞を受賞した「青色LED」が世界を変えた理由
- 防災士が教える、避難生活で役立つLED照明の選び方
防災士が教えるLEDの仕組みをわかりやすく解説

「スイッチを入れて電気を流すと光る」。これだけ聞くと、昔ながらの電球と同じように思えますが、LEDの中で起きている物理現象は全くの別物です。ここでは、数ミリ角の小さな半導体の中で起きている「光のドラマ」を、身近な例えを使って覗いてみましょう。
図解なしでも想像できる飛び込み台の原理とは

LEDが光る仕組みを一番わかりやすくイメージするには、プールの授業で使う「飛び込み台」を想像してみてください。
LEDの中には、目に見えないほど小さな「電子(電気の粒)」たちがたくさん詰まっています。電池をつなぐと、この電子たちがエネルギーをもらって元気になり、高い「飛び込み台」の上に登ります。そして、下にある「プール(正孔という穴)」に向かって勢いよくジャンプします。
高いところから低いところへ飛び込むと、バシャン!と大きな水しぶきが上がりますよね。LEDの世界では、この「水しぶき」こそが「光」の正体なのです。物理学ではこれを「エネルギーの放出」と呼びますが、要するに「余ったエネルギーが光に変身して飛び出してくる」と考えてください。
LEDの発光原理まとめ
- 電子(ダイバー):電気エネルギーを持って高い場所にいる粒
- 正孔(プール):低い場所で電子を待ち受ける穴
- 再結合(ジャンプ):電子が正孔に向かって落ち込み、くっつく現象
- 光(水しぶき):飛び込んだ瞬間に、高さの差(エネルギー差)が光となって放出される
この仕組みの面白いところは、「飛び込み台の高さ」を変えることで「光の色」を変えられる点です。ものすごく高い飛び込み台から飛び込めば、激しいエネルギーの水しぶき、つまり波長の短い「青色」のような強い光が出ます。逆に低い飛び込み台なら、エネルギーの小さい「赤色」のような優しい光になります。これが、LEDが素材によって色を自由に操れる基本的な秘密です。
中学生でも簡単な半導体とPN接合の話

この「飛び込み台(高い場所)」と「プール(低い場所)」を作っているのが、「半導体」という特殊な素材です。名前の通り、電気を「通したり通さなかったりする」性質を持つ物質です。
[Image of PN junction diagram showing N-type and P-type semiconductors]
LEDのチップは、性質の異なる以下の2つの半導体を、サンドイッチのようにピタリと貼り合わせて作られています。
- N型半導体(Negative):電子(ダイバー)が過剰に含まれている層
- P型半導体(Positive):正孔(プール)がたくさん用意されている層
この2つが接している境界面を専門用語で「PN接合」と呼びます。スイッチが入っていない時は何も起きませんが、順方向に電気を流すと、N型の電子とP型の正孔がPN接合部に向かって一斉に移動し、そこで出会って(再結合して)次々と光を放つのです。
実はこのN型とP型を使ったPN接合の仕組み、屋根の上にある「太陽光発電(ソーラーパネル)」と非常によく似ています。ソーラーパネルは「光を受けて、電子を飛び上がらせて電気を作る」装置ですが、LEDはその逆で「電気の力で電子を飛び上がらせて、落ちる時に光を作る」装置なんですよ。兄弟のような関係と言えますね。
(参考記事:ソーラー充電の仕組みを理科で学ぶ!太陽光のエネルギー変換)
子供向けに光る理由を例えてみよう

「でも、昔の電球も電気で光るよね?何がそんなに違うの?」と思った鋭い皆さん。実は、光を出すためのプロセスが根本的に違います。
従来の白熱電球は、フィラメントという細い金属線に無理やり電気を通して、「摩擦熱」で2000度以上にカンカンに熱くして光らせています。例えるなら、「焚き火」や「焼き石」です。燃やして熱くしないと光らないので、投入した電気エネルギーの約90%が「熱」として捨てられてしまい、光になるのはほんのわずかです。
一方、LEDは先ほどお話しした通り、電子がジャンプして結合するだけです。物を燃やすわけではないので、無駄な熱を出す必要がありません。例えるなら、化学反応で冷たいまま光る「ホタル」に近いかもしれません。電気を直接「光」に変えるので、エネルギーの無駄が極めて少なく、これが「省エネ」と言われる最大の理由なのです。
意外と知らない発光ダイオードの基礎知識

LEDは英語で「Light Emitting Diode(ライト・エミッティング・ダイオード)」と書きますが、最後の「ダイオード」には電気回路における重要な意味があります。
ダイオードとは、「電気を一方通行にする整流作用を持つ部品」のことです。つまり、LEDはプラスからマイナスへの一方向にしか電気を通しません。
注意点:電池の向きに気をつけよう
LEDには明確な極性があり、プラス(アノード)とマイナス(カソード)が決まっています。乾電池を逆にセットすると、電気が流れず全く光りません。それどころか、無理に高い電圧を逆方向にかけると、内部の素子が破壊されて二度と使えなくなることもあります。学校の工作や防災ラジオの電池交換の際は、向きをしっかり確認しましょう。
ノーベル賞の青色LEDが発明された理由

2014年、赤崎勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3名の日本人研究者が、青色LEDの発明でノーベル物理学賞を受賞しました。「ただ色が青いだけで、なぜそんなにすごいの?」と不思議に思いますよね。
実は、光には「光の三原色(赤・緑・青)」というルールがあり、この3色が揃わないと、私たちが普段生活で使っている「白い光」を作ることができません。赤色と緑色のLEDは20世紀のうちに実用化されていましたが、青色だけは材料となる「窒化ガリウム」の結晶を作るのが信じられないほど難しく、「20世紀中の実現は不可能」とまで言われていました。
日本の研究者たちが、何万回もの失敗を乗り越えて青色LEDを実現させたことで、初めて「LEDで白い照明」を作れるようになりました。現在普及している白いLEDのほとんどは、この「青色LED」の光を「黄色の蛍光体」に通すことで、補色の関係を利用して白く見せています。この発明がなければ、今の省エネ社会は到来していなかったと言えるほどの大革命だったのです。
災害に強いLEDの仕組みをわかりやすく徹底解剖

ここからは防災士の視点で、これまで解説したLEDの物理的な仕組みが、どのように災害対策や避難生活に役立っているのかを具体的に見ていきましょう。過酷な環境になる避難生活では、明かりは単なる照明ではなく、家族の安心と安全を守る重要なツールになります。
メリットとデメリットから見る防災性能

LEDは防災グッズとして非常に優秀ですが、決して万能ではありません。その特徴を正しく理解して使い分けることが、賢い備えへの第一歩です。
| メリット(得意なこと) | デメリット(苦手なこと) |
|---|---|
| 超省エネ:消費電力が少なく、乾電池1本で長く使える。 耐衝撃性:プラスチック樹脂で固められており、落としても割れにくい。 長寿命:球切れの心配が少なく、備蓄に向いている。 即応性:スイッチを入れた瞬間に100%の明るさになる。 | 熱に弱い:高温になる場所や、密閉された器具内では回路が劣化しやすい。 指向性:光がレーザーのように直進するため、部屋全体をふんわり照らすのが苦手(ランタンなどは拡散カバーが必要)。 初期コスト:従来の電球より本体価格が少し高い。 |
特に「消費電力が少ない」点は、命に関わる重要な要素です。大規模な停電時、手元にある限られた乾電池やモバイルバッテリーで、少しでも長く明かりを確保しなければなりません。古い豆電球の懐中電灯とLEDライトでは、点灯時間に何倍もの差が出ることがあります。
(参考記事:経験者が語る「災害時になくて困ったもの」停電体験と明かりの重要性)
寿命が長い理由は熱を出さないから

「LEDは4万時間も持つ」とよく言われます。これは1日10時間点灯させても10年以上持つ計算です。
なぜこんなに長持ちするのでしょうか。それは、白熱電球のように「焼き切れるフィラメントがないから」です。発光部分である半導体そのものは石のように硬い固体で、正しく使えばほとんど劣化しません。ただし、注意が必要なのは、LEDチップ自体は生きていても、電気を送る基板や電源ユニットなどの周辺部品が先に劣化する場合があることです。
日本照明工業会のガイドラインでも、外観に異常がなくても設置から10年を適正な交換時期としています。防災用の備蓄ライトも、「LEDだから一生大丈夫」と思い込まず、年に一度は点灯確認を行うことが大切です。
虫が寄らない光の波長と避難所の衛生

夏場の避難所や夜のキャンプ場で、自動販売機や蛍光灯の周りに蛾や羽虫がたくさん集まっているのを見たことはありませんか?実はあれ、虫が光に集まっているのではなく、蛍光灯から漏れ出ている目に見えない「紫外線」に引き寄せられているのです(これを走光性といいます)。
LEDの発光スペクトル(光の波長の分布)には、虫が好む紫外線領域がほとんど含まれていません。そのため、LEDランタンには虫が寄りにくいという大きなメリットがあります。網戸が破れた自宅での在宅避難や、衛生環境が悪くなりがちな避難所生活において、不快な虫によるストレスや感染症リスクを減らせる点は、地味ですが非常に実践的な防災上の利点です。
豆知識:全ての虫が来ないわけではない
蚊やゴキブリなど、光ではなく「二酸化炭素」や「熱」に寄ってくる虫に対しては、LEDでも防ぐ効果はありません。あくまで「光に集まる習性を持つ虫」に有効だと覚えておいてください。
白熱電球との違いは頑丈な構造にある

白熱電球や蛍光灯は、内部を真空にしたりガスを封入したりする必要があるため、外側が薄い「ガラス」でできています。そのため、大きな地震の揺れで照明器具が落下すると、粉々に割れて破片が飛び散り、暗闇の中で避難する際の深刻な怪我の原因になります。
一方、LEDは「ポリカーボネート」や「エポキシ樹脂」などの硬いプラスチックで素子が埋め込まれています。物理的な構造として、真空にする必要もガラスで覆う必要もないため、非常に衝撃に強く作られています。「地震で落ちても割れにくい」という特性は、余震が続く中で生活する被災者にとって、何にも代えがたい安心材料となります。
色を変えられる構造と避難生活への応用

先ほど「青色LED+黄色蛍光体」で白い光を作っているとお話ししましたが、この蛍光体の配合や、赤色LEDを組み合わせることで、光の色味を自在に変えることが可能です。
避難所生活では、夜になっても青白い強い光(昼光色)の中に居続けると、脳が「昼間だ」と勘違いして覚醒してしまい、気が休まらず不眠の原因になることがあります。これを防ぐために、最近の防災用LEDランタンには、夕日のような温かみのある「暖色モード(電球色)」に切り替えられる機能がついているものが増えています。
食事やリラックスタイムには暖色系の光を、作業や移動の際には白色系の光を使い分ける。こうすることで、過度なストレスを軽減し、避難生活の質(QOL)を少しでも維持することができます。防災グッズを選ぶ際は、ぜひ「調色機能」がついているかどうかもチェックしてみてください。
今後のLEDの仕組みをわかりやすく総まとめ

LEDは、小さな半導体の中で電子が元気にジャンプすることで光る、熱を出さない画期的な照明です。そのミクロな仕組みそのものが、「省エネ」「長寿命」「割れにくい」「虫が寄りにくい」という、災害への備えに最適な数々の特徴を生み出しています。
「なぜ光るのか」という仕組みを知ることで、「なぜ防災リュックには白熱電球ではなくLEDライトを入れるべきなのか」が、より深く、納得感を持って理解できたのではないでしょうか。知識は荷物になりません。もしもの時にあなたと大切な家族を守る希望の光として、ぜひ信頼できるLEDライトを備えておいてくださいね。
